<2004年5月15日: The Day One> 5月14日(金)から5月16日(日)の3日間に行われた今回、ラインナップはベテラン勢というよりは割合にフレッシュな面々が頑張った印象だ。メインステージとサブステージの2箇所で合計28アーティストが演奏するというかなり贅沢な構成は、金曜夜に行われた前夜祭のMindi Abair(ミンディ・)とJoyce Cooling(ジョイス・クーリング)に始まった。残念ながら今回この金曜日のライブだけは取材することができなかったので、まずはその翌日、Jazz Festival初日の様子からお伝えしよう。 15日のメインステージは最近のSmooth Jazzのベテラン勢がそろった印象だ。まずお昼前に登場したのがFunkyなTrumpetがトレードマークのGreg Adams(グレッグ・アダムス)。Fusionファンの方々には、Tower of Powerでの活躍が一番印象に残ってるかもしれない。ご存知の通り、Gregの押しの強いリズミックな音は、翌日登場予定のChris Botti(クリス・ボッティ)のメローな曲調と比べると、Hipなリズムが耳に新鮮なSmooth Jazzだ。(ちなみに彼のウェブサイトではインタビューも交えて彼の音楽が紹介されている映像があるので、初めて興味を持った方はぜひ覗いてみて欲しい。) 続いて1時にはHiroshimaが観客を沸かせる。このグループもベテランの域に入って長いグループだが、個人的にはきちんとライブを見る機会を逃し続けているバンドの一つだ。琴を大胆に使った演奏は、私には「Yutaka(横倉豊)」を彷彿とさせるちょっと懐かしい演奏だったのだが、実は今回も次々とステージ裏に到着するアーティストを取材する間にライブを逃してしまった。 3時前にBrenda Russel(ブレンダ・ラッセル)がステージに登る。一昨年Dave Koz(デイヴ・コズ)のクリスマスLiveに参加していた彼女は、「Piano in the Dark」でグラミーを受賞したベテランだ。実際彼女の場合、Smooth Jazz局でのオンエアは今でもこの曲が中心のような印象がある。同じくSmooth Jazz局の常連、Anita BakerやDiana Krallと一味も二味も違うBrendaのライブは、バラード調の曲ばかりではなく、ノリのいいR&Bの曲もそこここにちりばめられているので、観客はどちらかというと立ち上がって踊っている状態。この時の拍手と歓声が、観客の反応を心配していた次のアーティストの不安をすっかり吹き飛ばすことになる。 Brenda Russelの演奏中に、次に登場予定のRippingtonsの面々がステージ裏に到着。各メンバーはこの日に会うのが久しぶりのようで、お互いに挨拶しつつ楽器の準備を始める。 多少観客の盛り上がり具合を気にするRussだったが、ステージに上がった後はそんな不安は微塵も感じさせないパワフルな演奏で会場は大盛り上がりだ。
曲目リストからも分かるように、ステージでの演奏曲は前回見た時とはそれほど変わらない構成だ。昔懐かしいアルバムから最新作まで含めた、長年のファンだけでなく最近のファンも楽しめる曲構成になっている: こちらのファンには馴染みのセットリスト、Welcome to the St. James Club、South Beach Mambo、Drive、Stingray、High Life、Mr.3・・・Tourist In Paradise最後はお決まりのJimi Hendrix。大歓声のままステージは幕を閉じた。その後メインメンバーはファンの長蛇の列が待ち受けるサインブースへ移動、いつも通りのファンとの交流が続いた。
さて、ここでちょっとサブステージに目を移してみよう。Newport Beach Jazz Festivalではこれらかなり密度の高いメインステージに加え、サブステージ(メインステージとは、客席を挟んで反対側――後部側のちょっと小ぶりなステージ)で今各レーベルが売り出し中の話題の新人が総出演となる。
1. Bob Baldwin (p/keys)
話をメインステージに戻して、Rippingtonsの後に続いて登場したのが、ジャズフェスティバル初日のトリを取った「Groovin' For Grover」。Gerald Albright(ジェラルド・アルブライト)を中心にRichard Elliot(リチャード・エリオット)とPaul Taylor(ポール・テイラー)という名だたるサックスプレーヤー陣、そこにベテランキーボードプレーヤーJeff Lorber(ジェフ・ローバー)が加わるという、強力なメンバー構成のユニットだ。タイトルからして想像できるように、このユニットは惜しまれながら急逝したGrover Washington Jr.(グローバー・ワシントン・ジュニア)へのトリビュートのために出来たものだが、ユニット結成の理由はそれだけではなく、ツアーの利益の一部はThe Grover Washington Jr. Protect the Dream Foundationを通じて子供達の音楽教育を豊かにするために役立てられることになっている。 さて、参加メンバーを見ていただければある程度音が想像できるかもしれない。3人揃ったサックスプレーヤー達はソロアーティストとして活躍する実力派、しかも面白いことに十人十色の音色と雰囲気を持っている。 リーダー的存在のGeraldはもちろんソウルフルなノリが売りのアーティスト。2000年に出された「Groovology」を聴けば、その独特の音とリズムに唸らされる。(もちろんその直前に発売になった「Best Of Gerald Albright」―私のお気に入りの曲"G & Lee"を含めて聴き応えのある曲が多い―もお薦めだ。)かなり以前にBobby Lyle(keys)やPaul Jackson Jr.(g)と一緒に「Atlantic All Stars」の名前で来日したことがあったが、日本のファンの中にはその時のライブの興奮をまだ覚えている人がいるかもしれない。 続いてRichard Elliotは、いわずもがな、元Tower Of Powerの人気サックスプレーヤーだ。ファンキーなフュージョンバンドの元看板メンバーとしての実力は、ソロになってさらに磨きがかかったといえよう。2002年に発売された最新作「Ricochet」ではJeff Lorberをプロデューサーに迎え、相変わらずのファンキーな「かっこよさ」を堪能させてくれる。お聴きになった方はご存知かもしれないが、タイトル曲などはまさにRichardらしさをJeffが最高にうまく引き出していると言えよう。Tower Of Power時代のアンサンブルの音とは一味も二味も違うソロ・・・Richardの強みは彼らしさを充分に表現できるツヤのある音とリフと言えるのではないだろうか。 次に登場するのが、Newport Beach Jazz Festivalの常連となりつつあるPaul Taylor。アルバム「Topaz」や「Life In the Tropics」当時、Rippingtonsのメンバーとして活躍したことはもう周知の事実だが、その後のソロアルバム「Undercover」や「Steppin' Out」がRippingtonsのファンのみならず幅広いSmooth Jazzファンの間でもかなり話題になったことは記憶に新しい。Rippingtons参加当初はあの柔らかな音に賛否両論だったが、ソロアルバムではそれが彼らしいトレードマークとなっている。その好評判から徐々にソロアーティストとしてのパフォーマンスが増え、今では夏のSmooth Jazz Festivalに欠かせないアーティストに成長した。思い返してみれば、Paulが出演した2003年のNewport Jazz Festivalの前夜祭では、彼の独特のノリのライブに会場は大盛り上がりだった。体全体でゆったりとリズムを取るように踊るPaulに観客は熱狂、そしてその勢いで座席通路を振り返り見れば妙なステップで踊り狂う中年男性も出現、周りの観客からはやんややんやの大喝采だった。心と体両方で自然にリズムを楽しめるようになるというのが、Paulのライブの醍醐味かもしれない。 サックスプレーヤー3人が揃ったところに重鎮として並ぶのが、フュージョンの生みの親、元祖ファンキー・キーボードプレーヤーのJeff Lorber。このCyber Fusionでも独占インタビューを行ったことがあるが、「ベテラン・キーボードプレーヤー」に加え、Smooth Jazzに限らずあらゆる分野の音楽に常にアンテナを張り巡らしているという敏腕プロデューサーという肩書きも持つ、Smooth Jazz局常連のアーティストだ。2002年に久しぶりのソロアルバム「Philly Style」発売をしたが、その直後からDave Kozのスペシャルユニットでのツアーに加わり、Chris Botti、Marc Antoine(マーク・アントワーン)と共に自作の懐かしの名曲を演奏して会場を沸かせていた。最近の話題のアルバムのクレジットには決まって顔を出す、ひっぱりだこのアーティストである。 さて、この4人が中心のユニットだが、構成としてはGrover Washington Jr.の曲を中心に、各アーティストのソロ曲も含めた贅沢なリストとなっている。
今は亡きGroverの数々の名曲を、今時のSmooth Jazz Artist達が彼らなりのアレンジで――但しGroverならではの美しいメロディはそのままに――演奏していくのを見ると、Groverの残した音楽が着実に次の世代に引き継がれていくのがわかる。しかも、そうしたGroverの名曲の合間合間に演奏されるのは今のSmooth Jazz 局のHeavy hitterな訳で、世代を超えて人を魅了する音楽の素晴らしさにただただ唸らされる。このライブ、どの曲もかなり感動的なのだが、特に心動かされた1曲あげるとすると(Grover Washington Jr.のファンの方がセットリストをご覧いただければ想像できると思うが)やはり11曲目の"Winelight"だろう。あのGroverらしい感情豊かなメロディと泣かせるコード進行に、本当に涙が出るくらい感動してしまった。(ちなみにこの"Winelight"、Groveが学生時代に課題として作成した曲とのことだが、そのメロディといいハーモニーといい、学生の課題として作られたとは思えないほどの出来具合だ。)最後の1曲は4人の名手が勢揃いの演奏となった。会場のSmooth Jazzファンは心地よいリズムに乗りながらも、あらためてGrover の偉大さをかみ締めたステージとなったといえよう。
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Photos and texts by Mai |