Jeff Lorber Interview
あれから早5年、2005年の「Flipside」に引き続いて2007年にリリースされたアルバムは、彼お馴染みのファンキーな曲調だけではなく、流れるような切ないメロディ、ノスタルジックなジャジーなリズム、と「Philly Style」や「Flipside」に比べても音楽的に格段に幅広くなったのが分かる。グラミー賞にノミネートされたのにも納得しつつ、ふと気になってくる:これが今後の彼の音になるのか?元祖フュージョンの看板にジャズ色を加えることにしたのか? そんなJeffには、興味深々でインタビューをお願いしたのが、来日直前の3月。快く承諾してくれたJeffに、今回はグラミー賞にノミネートされた最新作「He Had A Hat」のことに加え、最近のライブ事情、そして今後のアルバムなど、バラエティに富んだ質問をぶつけてみた。さて、Jeffからはどんな答が返ってくるのか?常に話題に事欠かないベテランJeff Lorberの、5年ぶりのCyberFusion独占インタビューだ!
“まい”真由美(以下M):
まずはグラミー賞ノミネート、おめでとうございます。かって知ったる方々もみんな揃ってノミネートされてましたね。
M:
そのノミネート作品「He Had A Hat」の方にちょっと目を向けたいのですが、随分バラエティに富んだ作風になってますね。前作「Flipside」や前々作「Philly Style」とは確実に一線を画しているように感じました。(個人的には、特に“BC Bop”に耳を惹かれましたよ!)
例えば、ちょうどレコーディングの最中に、スタジオの壁にかかってるBlues Hornsbyのゴールドレコードを見て、「Blues Hornsbyっぽい音をやってみないか?」ってことになったところから曲が生まれたり。“BC Bop”っていうのは、Bobby Colomby(彼の頭文字)Bopって意味なんだけど、ネタを明かすと僕の好きなCharlie Parkerの“Confirmation”に新しいメロディを乗せてみたんだ。 あと、例えば、“Almost Blues”の出来上がった状況は・・・最初ブルースのキーとメロディーのキーを合わせてみたんだけど、あんまりうまいかなくてね。でも何となくそうやってプレイしてるうちに“Almost Blues”が出来上がったんだ。あとは僕自身のアイディアから生まれた“Hudson”とか“Surreptitious”。作ってる途中には、John Coltraneっぽいものを思いついたりしてね。Bobbyはずいぶん手伝ってくれたんだ。あと面白かったのが“Grandma’s Hands”。この曲のコードは、新しい曲を作ろうと思って僕が書いたんだけれど、Bobbyが「それ、(Bill Withersの)“Grandma’s Hands”みたいだね」、なんて言ってね。でも確かにそうなんだよ。Bill Withersの“Grandma’s Hands”みたいだったんだ(笑)。 ある意味、Bobbyは、僕のアイディアだけで決まりが着かないときに、すごく助けになってくれたって感じなんだ。
M:
“Grandma’s Hands”は最初からVocal付きだったのですか?
M:
確かに、レコーディングメンバーもなかなか面白いですよね。Abe Laboriel Jr.(ベーシストとして有名なAbe Laborielの息子)がドラマーとして入ってますし。
M:
そういえば「He Had A Hat」の中の“Super Fusion Unit”をみて、「お、これはもしや次のプロジェクトでは!?」と思わされました。Brian BrombergにEric Marienthalと豪華な面々でしたし。
M:
日本でのライブの直前にロシアで演奏したようでしたが・・・。
ロシアでのちょっとしたエピソードを話すと、実は僕の祖父母はロシア(現在のウクライナ)からアメリカに移民してきたんだ。今回のロシアのツアーでは、ウクライナの3都市でもライブをやってね。そこで「僕の祖父母はあなた方の国からアメリカに渡ったたんです。」って話をしたら、大盛り上がり。地元では僕を「地元民」にしたがって大変だったんだ(笑)。
M:
さて、そろそろ新作に話を移してみましょうか。前作はNaradaからの発売でしたが、新作はPeak Recordsからですよね。このあたりの事情を伺えますか?
「He Had A Hat」は、作品としては自分ではすごく満足してるけど、残念ながら売り上げ的にはあまり満足できるものじゃなかった。特に、アメリカの僕のファンの多くは、僕の音楽のファンキーな部分を気に入ってくれてるし。その意味では、僕自身もファンキーな音楽は好きだから、新しいアルバムでは、ちょっとそっちの方向に舵を戻そうか、って考えてる。 ちょうど最近は、作曲家のRex Rideoutと共作しててね。ちなみに彼は、Gerald Albrightなんかのアルバムを作ったりしてるんだ。だから一緒にやっててすごく楽しいよ。初期のJeff Lorberの雰囲気を持った音楽って感じだね。ある意味、ファンキーなグルーブとか、昔のアイディアを取り入れつつ、最終的にはそれを今風に発展させたんだ。参加してくれたのが、Dave Weckl (ds)にJohn Roberts (ds)、Alex Al(b)、それからDarrell Crooks(g)。僕のお気に入りのメンツを迎えて、僕ならではの音楽が存分に楽しめる内容になってると思う。 まだレコーディングは完全に終わってないけど、ほとんどの曲は書きあがってるし、基本的なところはまとまってるんだ。サックスにはGerald Albrightを迎えたいなって思ってて、ヴォーカルなんかもちょっと入れてみたいと思ってる。
M:
いろいろなアーティストのことを伺ってて思い出したのですが、今回の来日に同行している若手サックス奏者のEric Dariusとの出会いについて教えていただけますか?
そんなときに、最初のEricのアルバムに参加してたDarren Rahnから連絡があってね。Ericのアルバムに参加してみないかって話だったんだ。それがEricの3作目「Just Getting Started」の中の“Steppin’ Up”だったんだ。それから、フロリダのライブに参加してくれないかって話につながって、そこではお互いの曲を演奏し合ったんだ。それから、Dave KozのSmooth Jazz Cruiseでも一緒に演って、結構楽しんだんだ。そのあたりから「ちょっと一緒に演ってみようか」って話がちらほら出始めて、ちょうどそのときに出てきたジャカルタでのライブで、一緒に演奏しようってことになったんだ。その直後に東京のライブの話が来たんだ。 Ericは(若い)年齢の割りにジャズのビーバップのフレーズもいいし、ストレート・アヘッドのアイディアもあるし、しかもステージでの演奏がカリスマ的なのに驚かされるよ。ぜひ、長く頑張って欲しいと思う。
M:
最後に2008年の予定を教えてください。
それから、今年は国際的にも飛び回る予定で楽しみなんだ。ロシアにも戻る予定だし、スカンジナビアにも行く予定が入ってる。それに、ほら、今回は日本にも来られたし、本当に良かった。特にBlue Note Tokyoは気持ちよく演奏できる場所だから。 その他のプロジェクトとしては、Dave KozやRick Braunのアルバムに顔を出す話があるんだ。レコード業界は売り上げ的にもいろいろと大変そうなんだけど、僕個人としては忙しい年になりそうで、その意味ではすごくよかったと思ってる。 とにかく・・・今は僕自身の新しいアルバムが楽しみなんだ!「He Had A Hat」とは全く違うアルバムになりそうだし。昔懐かしいFusion初期の感じを残してるし、Patrice RushenやEddie Henderson、Weather ReportにHerbie Hancockといったアーティストの影響が感じられるかもしれない。ぜひ楽しみにしてて欲しいな。
M:
また、新しいアルバムの曲をライブで見るのが楽しみですね。今回は、ありがとうございました!
5年前の印象と微塵も変わらぬ情熱的な話し振りに、ついつい聞き入ってしまった感のある今回のインタビュー。予想以上に長引いてしまったにもかかわらず、最後まで一つ一つの質問に本当に丁寧に答えてくれたJeffは、相変わらず快活で音楽に対する好奇心に満ちていた。変化の激しい音楽業界にもしっかりとアンテナを張り巡らせているその様子に、所々の荒波にもまけずに順調に船を進める経験豊富な船頭といったようなイメージさえ浮かぶ。しかし、そこには、困惑感などは全くない――ただ、マイペースに自分の音楽を作り上げようとする、ひた向きな音楽家の姿が見えるだけだ。
グラミー賞ノミネート作品に続くJeffの今度の新作「Heard That」(仮題)は今年の話題の一作になること間違いない。彼らしいリズムがどう発展しているのか、そしてどんな新しい音を加えてくれているのか・・・そう思いをめぐらせつつ、発売日の発表が待ちきれずについついAmazon.comにJeffの名前を打ち込んでいるのは・・・私だけではないはずだ。ぜひ期待しよう!
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Interview and photos by Mayumi“Mai”Hoshino
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