Jeff Lorber (kb) 2008.3.14 Blue Note Tokyo 2nd set つい3ヶ月前、2007年度に発売されたアルバムを対象に、毎年恒例のGrammy賞が発表され、そこに今やお馴染みのスムースジャズアーティスト達が名前を連ねていたことはまだ皆さんの記憶に新しいと思う。Dave KozにSpyro Gyra、Chris BottiにKirk Whalumと、賞の名前には依然として“Smooth”は含まれていないものの、やや保守的と言われるGrammy賞選考委員の間でも、ここにきてスムースジャズという音楽ジャンルそのものが徐々に認められてきたような感がある。ご存知のとおり、最終的には残念ながらここに名前を挙げた面々はその受賞を逃してしまったものの、スムースジャズファンとしては密かに「いやいや、よくやった!」とのガッツポーズといったところではなかっただろうか。 そんな中、一際光っていたのが、他のベテラン勢と若手ミュージシャンに混ざって堂々ノミネートされた「Mr. Fusion」、キーボード奏者のJeff Lorberだ。 ベストアルバムを含めると通算20枚目になる今回のノミネート作品、「He Had a Hat」は、前作「Flipside」や前々作「Philly Style」に比べるとグンと音楽の幅が広がり、驚くほどバラエティに富んだ曲作りになっている。言うなれば、聴き込めば聴き込むほどに、「Mr. Fusion」以外にも新たなニックネームが思いつきそうな、まさに新鮮な作品なのだ。 そんな彼が、Grammyノミネート作品を引っさげて、久々の自身のバンドで来日を果たしたのが3月中旬。場所はBlue Note Tokyo。薄暗がりの会場後方からJeffを筆頭に現れたのは、ベテランRicky Lawson (dr)にNate Phillips (b)、それに 今や若手Sax奏者の中では注目度抜群のEric Darius (sax)だ。さあ、ここではそんな彼らの、3月14日のライブを総括してみよう。 まずはJeffが「実は初めて公の場で演奏する新曲なんだ!」と興奮した様子で紹介した新曲先取りの1曲“Night Sky”。Jeffらしいファンキーなノリが印象的で、まさに次作への期待を高めてくれる1曲だ。そして続いたのがノミネート作品「He Had A Hat」からの“Surreptitious”。これもアルバムの中で特にJeff色が強い一曲だ。続いては、Jeffの気軽な紹介に合わせてステージ中央でファンの声援に答えたEric Darius。フロリダのタンパ出身のEricは、大混雑のスムースジャズ・サックス奏者間の競争の中で一際光る若手ミュージシャンだ。その彼が2004年にリリースしたデビュー作品、「Night on the Town」からのタイトル曲。聴いていただけると分かると思うが、独特のノリとキャッチーなメロディに「これがデビュー作?!」と驚かされると思う。もちろん、曲風だけではなく思わず惹きこまれる見事なソロにも大満足だ。 さて、再びJeffのオンステージに戻って懐かしの“Rain Dance”。Jeffの名盤の一つ、「Water Sign」(1979)からの1曲で、Jeffのソロが印象的だ。そして、ぐっと雰囲気を変えて“BC Bop”。「He Had A Hat」の中でも最もジャジーで、Jeff Lorber Fusion Bandの曲に慣れ親しんだファンは、そのアップテンポでノスタルジックなリズムに一瞬「おや?」と思わされたに違いない。ここでも、Jeffの軽やかに舞うピアノのソロに加えてEricのサックスが何とも心地良いが、それに加えてRicky Lawsonの冴えたドラム――そのタイトなリズムが、流れ続けるメロディの根っこの部分をしっかりと支えているといった感じだ。さて、このノリに乗ったままEricが愉しそうにステージ中央に立てば、JeffのさりげないMCが続き曲目が紹介される。Ericのアルバム「Just Getting Started」から“Steppin’ Up”だ!“Night on the Town”に負けずとも劣らない、思わず踊り出したくなるようなノリと気持ちのいいメロディがブルーノートいっぱいに響き渡る。サックスがまるで体の一部になったかのように、演奏しながら全身でリズムを取るEricの姿に、こちらも思わず手拍子だ。 大声援の観客に軽く会釈をして応えるEricを横で楽しそうに見ながら、ここで満を持してJeffの“He Had A Hat”。受賞は逃したものの、その印象的な曲調は堂々とノミネートに値する作品のタイトル曲といえよう。そして続いたのがなんとあの“Water Sign”!“Rain Dance”が登場したあたりで「これはもしや?」と思ったファンもいたせいか、特徴のある出だしが響くと同時に歓声が起こった。そこにファンキーなEricのサックスが伸び伸びと響き始める。これぞ、Jeffの真骨頂とでもいおうか、そろそろ20歳に近いこの曲が力強くそして新鮮に会場の観客達を沸かせる。 そこで一気にアップテンポの“The Underground”へ突入。切れのいいRicky LawsonのドラムにNate Philipsのベースが心地良くついて来る。そしてさらに「嬉しい」追い討ちをかけてくれる“Toad’s Place”。ここまでくると、長年のファンとしては、大満足のお腹満腹状態だ。
さて、もう一度ここで曲目リストをあげておこう。
Live at Blue Note Tokyo on March 14th 2008 (2nd show) 最後に特記しておくと・・・今回のライブでJeffは、その軽やかなギターのお手並みも披露していた。前回のインタビューで確か「最近はギターも演奏してるんだよ」と言っていたのが記憶にあるが、まさにそれを実践中。
感心しながら思った・・・天はニ物どころか三物も四物も与えることがあるようだ。
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Report and photos by Mayumi “Mai” Hoshino |