Eric Darius Interview

気軽にポーズを決めるEric。
演奏中に黄色い声援が飛んでいたのにも納得がいく。



Bonny James, Dave Koz, Gerald Albright, Richard Elliot, Jeff Kashiwa, Kim Waters, Steve Cole, Mindi Abair, Paul Taylor, Marion Medows, Everette Harp, Pamela Williams, Michael Lington…スムースジャズ界で大混雑の部門といったらなんと言ってもSax部門だろう。夏のジャズフェスティバルを覗けば、片手では足りないほどのサックス奏者をぞろぞろと見ることができる。そんな中でも一際光っているのが伸び盛りの若手、フロリダ、タンパ出身のEric Darius(エリック・ダリアス)だろう。

昨年秋あたりからだろうか、何気なく聴き入っていたインターネットラジオのスムースジャズ局で、何ともリズミックで印象的なメロディのサックスに気が付いた。演奏者と曲目をメモってみたものの、聞きなれない名前のアーティストにちょっと小首をかしげた。しかし、これが何度も続くとやはり気になる。Googleに名前をタイプしてみて、すぐに本人のウェブに行き着いてみてなんとビックリ、随分若手のアーティストではないか!「Crusin’」(Smooth Breeze Productions: 2001)では高校生アーティストとして華やかなデビューを飾り、「Night on the Town」(Higher Octave: 2004)、そして「Just Getting Started」(Narada: 2006)と順調にアルバムをリリースしてきている。あのノリ、あのメロディ、すっかり練れてるベテラン勢を想像していた私は、「これこそ、探りを入れて見なければ!」と居ても立っても居られなくなった。

そんな折の今年3月、当の本人がJeff Lorberのバンドのメンバーの一員として来日することが分かった。ライブ会場のBlue Noteで話をしてみればなかなかの好青年。しかも、突然のインタビューの申し出にも、快く承知してくれたのだ!

・・・というわけで、この先は日本初登場、Eric DariusのCyberFusion単独インタビューだ。


“まい”真由美(以下M):  まずは、ご自身のことを話していただけますか?

Eric Darius(以下E):  僕は10歳の時にサックスを吹き始めたんだけど、それまでにも両親が随分ジャズを聴かせてくれててね。5歳になった頃にはすっかりジャズのとりこになってたと思うな。でも、僕が本当にサックスに興味を持ち始めたのは、9歳になった頃だったんだ。僕が毎週日曜日に通ってた教会にサックス奏者がいてね、なんだかはっきりとは説明できないけれど、サックスという楽器にすごく魅かれたんだ。それは、楽器自体の見た目の美しさっていうことだけじゃなくて、サックスという楽器が、感情とかスピリットとかいうものを表現できるっていうところに魅力を感じたんだ。で、僕の両親が僕の10歳の誕生日にサックスを買ってくれたんだよ。

M: どこのブランドのサックスですか?

E: ヤマハだよ。

M: それは・・・最初から随分いいブランドを使ってましたね。

E: (笑)それは随分長い間使ってて、何年かきちんとレッスンも受けたんだ。それからしばらくして、Sonny LaRosa & America’s Youngest Jazz Bandっていう僕みたいな子が集まったビッグバンドに入ったんだ。そこは、5歳から12歳くらいの子供達25〜26人が演奏しててね。Duke EllingtonだったりCount Basieっていったお馴染みのスウィングやジャズを演奏して世界各地を飛び回ってたんだ。僕が11歳の時には、スイスのモントルージャズフェスティバルでも演奏したし。あの頃は、本当にすごい経験をいっぱいしてたなって思う。
実際ね、あの頃の経験がきっかけで、僕は、一生この楽器を演奏していきたいって思ったんだ。世界中を飛び回りながら人々に感動を与えられるし、僕の音楽を楽しんでもらえる―そんなことから、これからの人生、サックス奏者として頑張っていこうって思ったんだよ。それから13歳の時、初めて自分のバンドで演奏したんだ。

M: 13歳で?それはすご過ぎます!

E: (笑)それから地元のタンパ・ベイあたりを回りながら演奏活動するようになったんだ。それからBlake音楽高等学校へ行って音楽を勉強したんだけど、そこでは、ジャズバンドにジャズアンサンブル、それにジャズコンボ、マーチングバンドといろいろと参加してた。当時としては、僕らはかなりレベルの高いバンドでね、ニューヨークでWinton Marsalisや、秋吉敏子っていった本当にすごい人達と演奏する機会もあったんだ。そうそう、しかも、僕らは日本にも行ってるんだよ。2000年なんだけど、ある種の文化交流ってことで和歌山県を訪れたんだ。それが僕の初めての訪日でね、それはすごい経験だった。

M: どうやらあなたは多種多様なジャズを演奏してきてますよね――例えばすごく伝統的なスィングだったり、ビッグバンドなんかもお話に登場してたし。それで、今現在は(ファンの方ならご存知の)スムースジャズを演奏しているわけですが、あなたの音楽的な焦点が、伝統的なジャズからどんな風にスムースジャズに移行していったのですか?また、どのあたりにあなたのスムースジャズのアーティストとしての強みがあるのか、そのあたりに興味があるのですが。

E: そうだね。まあ、僕がスムースジャズに移行していったってことは、僕が子供の頃から両親が本当にいろいろな音楽を聴かせてくれてたってことに関係あると思うんだ。だって、ジャズにブルース、ロックにポップス、それにR&Bにヒップホップって感じで、何でも聴いて育ったからね。それに、僕はカリブ系の音楽も大好きだし。僕の父がハイチ出身で母はジャマイカ出身だから、レゲエとカリブ系の要素が僕の演奏には入り込んでるって感じがする。こんな感じで、いろいろな音楽に触れることが出来て、しかもそれを自分の演奏に取り込めるようになったってことが一番の僕の強みとも言えると思う。

Just Getting Started(2006)
Night on the Town(2004)

M: ところで、このインタビューの前にJeff Lorberともインタビューしたのですが、彼はあなたのことを「まだまだ若手なのに、既にものすごく磨かれた音楽家だ」ってベタ褒めしてましたよ!

E: (笑)Jeffに関して言えば、ステージに彼と一緒にいるってことだけで、僕にとっては本当にすごい経験なんだ。だって、彼はスムースジャズの生みの親の一人だし、数え切れない程の演奏者達をどんどん育ててくれたでしょう?Kenny GやDave Kozなんかがそうだよね。しかも、彼自身が、素晴らしい音楽家ってだけじゃなくて、人間としても本当に素晴らしい人なんだ。だから彼のバンドで一緒に演奏できるってことは、本当に愉しい経験なんだ。こういう機会が与えられたことに興奮してるよ!

M: あなたは以前はBrian Culbertsonと随分一緒にツアーしてましたよね。で、現在はJeffと一緒に周ってる・・・この二人、どちらも優れたキーボード奏者だと思うんですけれと、一緒に演奏していて音楽やスタイルにどんな違いが感じられますか?

E: 音楽的なスタイルのことを言えば、JeffとBrianには大きな違いがあると思う。Jeffの方はどちらかというと伝統的なジャズ・フュージョンをうまく取り入れていて、インプロビゼーションに重きが置かれてるけど、Brianの場合はファンク・スムースジャズっていう感じだよね。どちらも素晴らしい音楽家だと思うし、一緒に演奏できて本当に嬉しいよ。
僕としては、誰と演奏しようと変わらずに自分のスタイルで演奏しようって思ってるんだ。いろいろな音楽の要素は取り入れてるけど、結局は自分自身の「声」で表現してると思う。自分自身を自然に音楽を使って表現してるって感じかな。

M: あなたは、自分の音楽を通して、ファンに自分に関するどんなことを感じてもらいたいって思いますか?

E: 僕はすごく情熱的な人間なんだ――それはジャズに対しても、それに自分の音楽に対してもね。だから、いつどこで演奏しようと、みんなには僕の情熱や音楽に対する熱い思いを感じて欲しいなって思ってる。それと僕はかなりエネルギッシュな人間だからね、だからみんなには、僕がサックスを演奏してる時に感じるエキサイティングなエネルギーを感じて欲しいと思う。

M: いろいろなジャズに加えて本当にバラエティに富んだ音楽を幅広く聴いているみたいですが、どのようにして自分流の音楽を作り上げていったのですか?

E: 僕はみんなが知ってる偉大なサックス奏者はほとんどすべて勉強したんだ――例えばJohn Coltrane、Cannonball Adderley、Charlier Parker、Grover Washington Jr.、David Sanborn、Kirk WhalumそれにGerald Albright――こういった人達はほんの一例なんだけど、バラエティに富んだ音楽家達の演奏を聴きながら、彼らがやってるいろいろな音楽的アイディアなんかを拝借してみたりして、自分の音楽を作ろうとしてみたんだ。今から思い返してみると、子供の時なんかは有名なサックス奏者みたいに演奏してみたりってよくやってたんだ――ほら、例えばある時はDavid Sanbornみたいに、またある時はDave Koz、Kirk Whalumみたいに、なんて感じでね。そういった経験が僕自身のスタイルと音を作り出していったんだと思う。

M: 今回のJeffとのライブでは、Jeffのアルバムの中から、どちらかというとノスタルジックな昔っぽい感じのジャズ「BC Bop」を演奏していますが、伝統的なジャズに関してはどんな印象ですか?

E: 実はね、ああいうジャズも大好きなんだよ。だからああいった懐かしい感じのジャズを演奏することも出来たと思うんだけど、最終的にはスムースジャズが僕の音楽なんだ。ただ、僕が通った南フロリダ大学では、僕はジャズ・アンサンブルを演奏してたし、伝統的なジャズを演奏するにはもってこいの場所だったから、僕自身はどっちのジャズも大好きなんだ。もし機会があれば、もっと演奏すると思うよ。

M: ところで、スムースジャズっていうカテゴリーの中で、自分の音楽はどんな位置付けだと思いますか?

E: 僕の演奏する音楽は確かにスムースジャズだけれど、一般的にイメージされてるスムースジャズよりもずっとファンキーでエネルギーに溢れてて、いろいろな音楽要素が混ざり合ってるって言えると思う。スムースジャズを演ってるってことで、ジャズミュージシャンの中には僕のことをちょっと違った目で見る人もいるけど、全然気にしてない。僕は自分の演りたい音楽を演ってるし、こういう音楽を演奏できること自体にすごく感謝してるから、あとは演奏を思い切り楽しむだけ!
サックスと一体となったリズミックでダンサブルな演奏が、本当に気持ちいい。まさにこれからのスムースジャズ界を引っ張る期待の新人アーティストの一人だ。

M: 最近になって、ようやくスムースジャズをめぐる状況が少しずつとはいえ好転してきたような気がしますね。グラミー賞だってスムースジャズ系のアーティストがずいぶんノミネートされるようになってきているし、徐々に認められてきてるのは嬉しいところです。

さて、じゃあ、あなたの新しいプロジェクトについて伺いましょうか!

E: 今ね、ちょうど新しいアルバムを仕上げるところなんだ。実際あと1週間くらいで出来上がるんじゃないかな(3月中旬現在)。まだはっきりとした発売日は決まってないけど、多分6月の下旬あたりじゃないかな。(編集部注:6/24にBlue Note Recordsより「Goin All Out」としてリリース予定)でね、今回のアルバムに関しては、本当に熱が入ってて、ちょっと違った感じの新作を出せるってことにすごくドキドキしてるんだ。今僕は25歳なんだけど、僕くらいの年齢やそれより若い年代の人達ってたいていR&BやHip Hopを聴いていて、スムースジャズには入り込むってことがないんだよね。だから、彼らが親しんでる音楽をスムースジャズに取り入れて、もっと若い世代が親しめるアルバムを作ってみようって思ったんだ。

今回のアルバムのリリースはその意味ではすごく楽しみだね。典型的なスムースジャズのアルバムとは一味も二味も違うから、ファンがどういった反応を見せてくれるかなって。僕は、アーティストとして、常に新しいものを取り入れながら自分の音楽を成長させていきたいと思ってるんだ。

M: 今回のレコーディングにはどういったアーティストが参加したのですか?

E: 前回のアルバムでは、Brian CulbertsonにPaul Brown、Paul Jackson Jr.にJeff Lorber、そしてEuge Grroveと盛り沢山だったんだけど、今回はまさに僕自身のアルバムって感じで、僕が自分の音楽でファンに伝えたいメッセージに集中したんだ。だから僕の友人でもあるNorman Brownがゲストとして参加してるだけであとは僕だけなんだ。

M: では・・・99%Eric Dariusで1%Norman Brownって感じでしょうか。楽しみですね!

では、最後に、これからプロのミュージシャンを目指そうとしている若者達に何かアドバイスがありましたらお願いします。

E: 音楽はどの分野でも成功するのは本当に難しいと思う。そういう中で成功している人達をみると、みんな自分の音楽にすごく情熱的だし、それにある意味頑固とも言える。とにかく努力と献身を惜しまず、そして多少の犠牲を払わなきゃいけないこともある。例えば、僕なんかは、友達がみんな遊び歩いてパーティを楽しんでる時に自分の部屋でずっと練習してなきゃいけなかったからね。

それと、音楽で成功するためには何といってもみんなに自分の名前と音楽を知ってもらうことが一番の鍵だと思う。だから、できるだけ演奏して周って、観客に自分の演奏を見てもらうことが大切。それと、ネットワーク作りだね。こういうのって、運もあると思うんだ。ちょうどいいタイミングで、ちょうどいい場所にいるってことが重要だから、そういうチャンスをより多く掴むためにも、幅広く演奏して周ることが重要だと思う。

M: では、2008年の予定を教えてください。

E: 今年の夏は、僕の新しいアルバムがリリースされるから、それに合わせて自分のバンドでUSツアーをする予定なんだ。その後も続けて各地を回る予定なんだけど、できれば日本にも行けたらって思ってる。去年、僕のバンドでCotton Clubで演奏して、ものすごく楽しかったしね。

M: それも楽しみですね!頑張ってください。では今回はありがとうございました!

インタビューの後、「ちょっと新しいアルバムの曲を聴かせてあげるよ。でもこれは発売日まで内緒ね。」と笑いながら気軽に数曲新曲を披露してくれたEric。ライブの途中には、黄色い声援も受けていた彼は、今まさにHotな新人の一人だ。その音楽は、確かにいろいろな要素がうまい具合に絡み合っている――Hip HopにR&B、Caribbean風な音も顔を出し、そこに彼らしいはつらつとしたエネルギッシュなメロディが加わる――まさに、新鮮採れたての音楽といえよう。

さて、毎年毎年新人勢とベテラン勢の激しい競争が続くスムースジャズ界のサックス部門。いろいろな顔があり過ぎてどれも同じに聴こえちゃうよ・・・という方々、「これぞ!」と思ったアーティストをピックアップして、そのアーティストのアルバム数枚をじっくり聴いてみることをお勧めする。聴いてるうちに、似たり寄ったりに聴こえていたかもしれない音やメロディに、実はそのアーティストならではのサウンドがぎっしり詰まっていたことに初めて気が付くこと間違いなしだ。そして、そんなアドバイスに合わせてお勧めなのがもちろん、Eric Darius――ここ最近のアーティストの中では一押しだ!

Eric Darius公式サイト




Interview and photos by Mayumi“Mai”Hoshino

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