プリズム 再発プロジェクト インサイド・ストーリー



第5回 ジャケット制作・ボーナストラック選定

小澤 芳一氏
プロフィール
1962年東京生まれ 19歳からアルバイトでディスクユニオンに勤務、その後タワーレコードに14年間勤務し本格的に音楽制作を開始。そこで深町純 & The New York All Stars Liveの初CD化を手がける。
2001年よりユニバーサルミュージック/ユニバーサル-ポリドールにて邦楽制作を担当。

ここからは全てのアーカイヴを元にいかに商品化されていくかの顛末をお話します。
まず整理しますと

1. ジャケット形態
2. ボーナストラック
3. CDの制作(4作品まとめて紹介)
4. ブックレット
5. マスタリング
6. その他もろもろの話
この6点を順を追いながら説明していきます。

1. ジャケット形態

再発売で当時アナログであった事を考えると、最初から紙ジャケットでの発売しか考えませんでした。短絡的ではありますがとにかく紙ジャケ!それも巻帯で!まぁハガクレのラインアップにあったわけですから、私がこのような作業をしなくても紙ジャケット化はされていた訳です、だから最低でも巻帯にするのは重要だったのです。

当時のアナログを忠実に再現したのは言うまでもありません。

「PRISM」
A式(ダンボールに印刷した紙を貼り付けるタイプ、AMERICAのAです、ちなみにE式もあります、これは直接厚紙に印刷するタイプ、ENGLANDのEです)
SINGLEジャケット(4C+マットビニール)
巻帯(金+スミ+ニス)

「SECOND THOUGHTS / SECOND MOVE」
A式、SINGLEジャケット(4C+プレスコート)
4つ折封入カード(2C+ハイグロスニス)

「PRISM III」
A式、SINGLEジャケット(4C+ニス)

「LIVE」
A式、Wジャケット(表1、4C+ニス、表2、銀+スミ+ニス)

と特殊なものだけを書いてみました。オリジナル通りに作ると特色が使われたりするのでコストが高いんですよ!特に「PRISM」の帯、「LIVE」の内側の写真は銀を引いた上に写真が印刷されてたりと、それなりにコストが掛かるんですが、気合を入れて忠実に再現してみました。帯表記に関しても可能な限りオリジナルに近い状態です。SACDだったりユニバーサルのロゴだったりと最低限の表記にしています。特に「LIVE」はWジャケットなので帯裏にあるバーコードが見えなくなってしまい、ジャケットにバーコードを印刷してくれと言われましたが、拒否!シール対応にして貰いました(シールにすると剥がれた場合に問題があるので通常は認可されません)ここまで来るともう意地です。中のブックレットで当時のシングル盤のジャケットを「PRISM」「PRISM III」に使用しましたが、これもオリジナルのレコード番号が表記されていて、本当は削除しなければならないルールがあるのですがこれも拒否!そのままの状態で表記されています(新しい番号が表4に小さく入ってしまってますが・・・)とにかく、だいぶわがまま言わせていただきました(感謝)

また、DVDを始めとしたこのSACDハイブリッドのような2層になっているディスクが紙ジャケット化されるのも実は初めてなのです(紙だと2層式ディスクの保護が保証されていない)そしてさすがにシュリンク(輸入盤のようなピタッとしたビニール)での処理は出来ないので(紙ジャケットと同じ理由と熱処理が加わる為)OPPと言われる透明のノリ付き袋に入っています。

2. ボーナストラック
再編集にあたってボーナストラックの扱いをどうするか?どこに何を入れるか?でした。シングル盤のカップリングについては、リリース時期に合わせて収録する事にしましたので「PRISM」“OUT OF BLUE”「PRISM III」“LOST IN THE SPACE”と言うのは順当に決まりました。そこでマルチテープの掘り起こしになったわけです。単純にライブの未収録を各アルバムに散りばめてお茶を濁すくらいなら、アウトテイクを入れようと言う事にしました。本当はもっとデモっぽいものがあれば良かったのですが、アウトテイクの全てが、ダビングのされてない各メンバーが1回づつ録音したものか全員参加の1発で録音されているものしかなかったので、どこが違うか分かりづらいところですが、そのテイクをありのままTDしなおして収録する形態を取りました。フェードアウトの処理がされてないものもそのままの形で収録しました。またいづれか1枚はマルチチャンネル化をしたいと思っていたので、やはり順当に「PRISM」しかないだろうと結論を出したのです。

最終的な判断として各アルバムのオリジナル収録曲との脈絡も無くむやみに収録時間を増やすのも限られた収録時間ですので出来る限り関連性がある形で編集したつもりです。
CDの収録時間はレッドブック(CDの基準規則集のようなもの)によると現在では79分57秒が定められた最長の記録時間です。(クラシックのリリースで80分2秒と言うのがありますが・・・)これを基準に構築する事にしました。しかしソニーのCDプレス工場では78分13秒までしか再生を保証していませんでした。なぜなら80年代初期のCDプレーヤーでは再生できない機種が存在するからです。お買い上げのお客さまでその当時のプレーヤーをお持ちの方は買い替えをお勧め致します。

「PRISM」
まずマルチチャンネルにすると言うことで制限が出てしまいました。
CD / SACD /MULTIの3つの音源をハイブリッドに収録すると各60分の収録しか出来ないのです。そこで2曲のアウトテイク、シングルのカップリングの3曲に決めました。
また、マルチチャンネル化はボーナストラックを対象外にしました。なぜなら他のきちんとした音源をマルチチャンネルにしないのにアウトテイクやシングルのC/Wなどをやれないだろうと言う判断からです。それからボーナストラックの順番なのですが、どうしても“LOVE ME”で終わらせたかったので最後にしました。「PRISM III」はシングルのC/Wよりも先にアウトテイクが収録されています。(順番として本当は先にアウトテイクを入れたかった)
ではマルチチャンネルの制作を簡単に説明します。今回これを制作するにあたってSSLの9000K(最新の卓で簡単にサラウンドが作れる代物)と言うコンソールをどうしても使用したかったのですが、まだ日本には3台しかなく1台はNHKがハイヴィジョンのサラウンド用に使用しているので借りられずあと2台も日程的に無理だったので通常のコンソールを使用し、スタジオに5.1chのシステムを持ち込んでの作業になりました。前述した通り96K/24bitで取りこんだ音源を5つのトラックと1つの低音用トラックにミックス。ダウンしていくのです。9000Kを使用できないのでほぼ全ての作業を手作業で行います。例えばフロント左のスピーカーからリア右のスピーカーに音を移動させる作業は2個のパン(左右に振るつまみ)をお互い逆方向同時に両手で回すわけです(説明しずらい)逆も同じです。左右、上下等各楽器のバランスを楽しんでください。とにかく効果的な音場を作ると言うのが5.1chの作業だと私は思っています。しかしSSL9000Kなら上記の作業をタブレット上で行い記憶させる事が出来るのです。ですからいろんな事を試そうとすると録音しながらエンジニアがライブで卓を演奏しているような感じです。録音はジェネックスという機器を通してハードディスクに直接録音されます。簡単ですけどこんな感じです。
さて5.1chに否定的な方も沢山いると思います。私はこの企画を進める中でSACDのあらゆる事をしたかったし、ここ1年くらいで数々の5.1chを聴いてきて意味が無いとは思えないと判断したからです。やはりリアのスピーカーから音が鳴るのは不自然ですからね。しかし5つのスピーカーに分かれる事により、1音1音がはっきり聞こえて、今までにない楽しみ方が出来るであろうと確信しています。特に1度経験してしまいますと離れられなくなるのも事実です。ちなみにマルチチャンネルのニューミックスは収録曲によってオリジナルとは多少の時間差が生じております、長いのもあれば、なぜか短くなってしまったものも(数秒単位ですが)ありますのでご了承下さい。収録時間はSACD / CD が59分55秒(オリジナルの7曲では44分1秒)MULTIは44分16秒(オリジナルの全7曲)

「SECOND THOUGHTS / SECOND MOVE」
このタイトルが最後まで悩んだのです。アウトテイクが1曲しかなかったのです。未収録ライブも1曲。収録時間を考えると15分くらい余ってしまう・・・。そこで未収録ライブの“DESPERATION PART 1〜”はアルバム未収録曲の上、演奏時間も長いので収録する事に。収録時間はSACD / CD共に77分31秒。

「PRISM III」
まずアウトテイクの2曲はすぐに決まり、ちなみに表記上は“SUNSET CRUISE”になっていますが(マルチテープのCUE SHEETの表記がそう書かれていた)実際は“SUNRISE CRUISE”です。とシングルのC/W、それからこのアルバムに収録されている曲の未収録ライブと言う事で“NIGHT PICNIC”にしました。アルバム収録曲繋がりで考えると“風 神”の未収録ライブも入れたかったんですが演奏時間が長いので「LIVE」に収録した次第です。 収録時間はSACD / CD共に78分17秒。

「LIVE」
アナログの1面に収録出来る時間と言う事で曲順を変更していたので、折角CDになったのですから元の通りに変えようと思いました。それによりボーナストラックの収録時間も稼げるかなぁなんて思ったのですが・・・。ちなみにDISC1の収録時間は66分1秒ですから約14分ほど残りがあります。これはDISC2のM-1,2,3の3曲をどうしても離す訳にはいかなかったからです。そしてDISC2にはオリジナルの曲間にMCの追加をし、ボーナストラックには特に演奏の出来が良かった“風 神”を軸に未収録の“TURTLE’S DREAM”(これはこのライブでしか聞けないので2回目の登場をさせたのです)そして最後は“LOVE ME”で終わらせるのが美しいと思いこの選曲になりました。特に“LOVE ME”は付け足したMCが名古屋ヴァージョンにもあるのですが、Pro Tools上で頭のエレピから上手く編集しカットしました(収録時間の問題もありましたので)そして“LOVE ME”の曲終わりは最後の拍手が無くなるまで、アンコールを諦める雰囲気を表現したかったので拍手がかなり長く収録されています。
DISC2の収録時間は79分43秒です(限界ギリギリ残り14秒!そこまでするのを実はちょっと怖かったので拍手を少しだけ編集してしまいした)

次に続く

by 小澤 芳一
ユニバーサル ミュージック


第1回第2回第3回第4回
Prism Index Page



Copyright  by 2003 Cyberfusion
Special thanks to
Universal Music Japan