プリズム 再発プロジェクト インサイド・ストーリー
このPrismの4枚のアルバムの再発で画期的なのは、多くの他の邦楽の再発物が以前にリリースされていたマスターをそのまま使用するだけか、よくてもそれをリマスタリングするだけでリリースされていたのに対して、単なるリマスタリングに終わらず、当時録音されたミックス・ダウン前のマルチトラック・テープから発掘された貴重な未発表音源が加えられ、最新の技術であるDSDでリマスタリングされて、それが次世代高音質仕様であるSuper Audio CDと従来のCDのハイブリッド盤としてリリースされることだ。
しかもパッケージは紙ジャケ、価格設定は1枚もので2300円、2枚組で3200円と極めてリーソナブルで、リスナーにとっては嬉しいかぎりだ。
某大手レーベルが通常のCDプレイヤーでは再生できないSuper Audio CDの単独盤の再発物を1枚3000 - 3500円でリリースしているのと比較するといかにリーソナブルかがわかる。今回はこの再発プロジェクトをプロデュースしたユニバーサル・ミュージックの小澤 芳一氏が、再発の経緯を手記として綴ってくれることになった。日ごろなかなかリスナーに伝わってこない部分の話だけに興味深く読んでいただけると思います。
第1回 始まり
小澤 芳一氏
プロフィール1962年東京生まれ 19歳からアルバイトでディスクユニオンに勤務、その後タワーレコードに14年間勤務し本格的に音楽制作を開始。そこで深町純 & The New York All Stars Liveの初CD化を手がける。
2001年よりユニバーサルミュージック/ユニバーサル-ポリドールにて邦楽制作を担当。プリズムの再発話は突然やってきた。知り合いの事務所社長が現在のプリズムのマネージメントをしている人を紹介してくれたのだ。来年新録音のベストアルバムを2枚と新譜をレコーディングする予定という話をしてくれました。
プリズムのデビューアルバムは私が高校生のとき部活の先輩がいいアルバムがあるよと紹介してくれてリアルタイムで聞いていましたし、勿論その後も殆どのアルバムを聞いていますし、和田さんと言うことで松岡直也バンドとしてKEEPとして深町純氏などなど。そしてたまたま7つ下の弟の同級生バンド仲間が和田アキラさんに弟子入りししたこともプリズムとの縁を感じずにはおれません。最初に私が和田さんにお会いしたのは今から14年前の1989年でした。その時私は某外資系輸入盤店(この時点で外資系と言えば一つしかないけど)の店長をしており、確かジョン・ゾーンのアルバムを薦めた記憶があります。そして2002年和田さんと言うよりプリズムとお仕事させて頂く事になるわけです。
まずプリズムのユニバーサル ミュージックでの現況からお伝えすると88年にカタログ4種類が初CD化されており(ベストも2種類CD化されています)、その後94年にQ盤という廉価版シリーズに形を替え4種類ともリリースされました。現在ではこのQ盤の中でファーストアルバムだけがカタログとして生きている状態です(今回の再発によりこの商品は生産中止になります)
今回の再発ではまず紙ジャケットで再発しようと思ったのは言うまでもありません。 そして当社の保存盤を倉庫から取り寄せる手配をするために調べていくとなんと倉庫から引っ張り出されているではないですか!
探っていくと当社輸入盤部門IMSからリリースが行われている、ハガクレレコードからリリースの予定が立っていました。新録音等のリリース状況を話しプリズムに関しては手を引いてもらうよう交渉したわけです。ということでまず紙ジャケットにするのは決まりましたが、次にどんなデジタル リマスタリングにするかを考えたわけです。過去にリリースされたCDは88年の初CD化の際にマスタリングされた音源が使用されています。まだマスタリングの技術的な進歩が無い時代でマスタリングエンジニアの表記さえない今と比べればお粗末なCD化の時代でした。現在のレベル戦争の微塵も無かったわけです。まぁそれを現在の技術をもってして普通にリマスタリングしても劇的に音質が上がることは明白です。私は昨年ディレクションしたアルバムの中でソニーのSuper Audio CDと言う新しいフォーマットでのリリースを手掛けていました。このDSDマスタリングと言うのは特にアナログで録音されたものの音質がデジタルで録音されたものより、音質が向上する(よりアナログに近づく)事を聞いていましたので今回はこれで再発しようと決めたのでした。
さて、ただリマスタリングして再発するのでは芸がないのでボーナストラックを入れようと思い、何か無いか探してみるとシングル盤のカップリングがCD化されて無い事が判明しました。リリースされたシングルは2枚でしたので、これでは2曲しかありません、4枚の再発ですから最低でも4曲は欲しいところです。そこでマルチテープがあるかもしれないから調べてみようと言うことのなったのです。まず、レーベル原稿を調べることから始めます、これがあればマルチテープの存在が一目瞭然で分かるのです。基本的にレーベル原稿は2ch(ステレオ)のマスタリング済みのマスターテープを当社録音課に納品するときに必要なものなのです。ジャスラックに登録するときにもこのシートを使います。そしてこのシートにはマルチチャンネルの保存用番号も載っているのです。すでにファーストアルバムはリリースから25年も経っていますし何度も引越を重ねているので保存用の番号は有っても本当に有るかどうか不安でしたが、奇跡的にも全アルバムのマルチテープが保管されていました。全部で25本、各30分収録ですから750分です。
とにかく全部取り寄せて中に入っているはずのCUE SHEETを確認すれば色々と分かるはずです。いよいよマルチテープが私の手元にやってきました。全25本!!重いし、かさ張るしとは言え、この中にどんなお宝音源が詰まっているのだろうと思うとワクワクしましたよ。
まず番号順に並べて1本ずつ中に有るはずのCUE SHEETをコピーしたのでした。
しかし全てに有るわけでは有りませんでした、7本は影も形もないただマルチテープが入っているのみでした。そんな訳でコピーを終えたCUE SHEETをまとめる作業をすることに、かなり適当なのでタイトルも決まってない曲、いいかげんなタイトルが付いている曲、仮タイトルの曲等、結局全部聞かなきゃ分からないものが膨大に有りました。
例えば「Ken slow」「コーキチャン」「ケンちゃんPart1」「佐藤イメージ1」などなど、何となく予想が付くのは「my little love」=「My Little Trick」「I Love You」=「LOVE ME」「Soft as a Morning Light」=「Morning Light」と言う表記もありました。
今回の再発にあたり多少の予算は貰っていたのでとにかく全部を聞こう、そしてPro Toolsに取り込んで今後のマルチの保存も含めて作業をすることにしました。by 小澤 芳一
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