特集 : 深町純 & The New York All Stars Live
4.深町純が語るThe New York All Stars
2002年の「深町純 & The New York All Stars Live」の再発にあたり、深町純氏よりコメントをいただくことができたので紹介します。
ニューヨーク・オールスターズ・ライブ盤、再発に寄せて。
このライブはランディー・ブレッカーの電話から始まりました。この年の初めにNYで録音した僕のアルバム「On the move」のメンバーを中心に、日本でコンサートをやりたいのだけれど、なんとかならないかということでした。当時、僕は自身のアルバムを含めて、ニューヨークでの録音を度々やっていました。そしていつもインスペクターに、ランディーを頼んでいたのです。彼はそういう仕事もしていたのです。僕が契約していたアルファ・レコードに話をして、ライブ録音をするという条件なら招聘するということで、このコンサートは実現することになりました。もちろん多くの人たちの協力が必要でしたが、僕もその一員であったことに、今は誇りを感じています。
76年頃から、僕はNYのミュージシャンとの共演のアルバムを作り始めました。僕のやりたいことは日本では出来ないと思ったからです。それは個々のミュージシャンの音楽的、技術的なレベルの問題ではありません。文化レベルの違いなのです。フュージョンという音楽シーンにいても、僕はロック・ミュージシャンだと自認していました。ロックとは、僕にとって既成概念の破棄を意味します。しかし日本ではロック・ミュージシャンは、単なる不良バンドマンに過ぎませんでした。でも NYでは全く違っていました。全てのミュージシャンは、誰にとっても素晴らしい、憧れの存在だったのです。この違いは、とても大きいものでした。
故大村憲司氏が、ある時僕にこう話したことがあります。かつて、一緒にバンドをやっていた頃、深町が何をやりたかったのか、本当は良くわからなかったのだと。きっとそうだったに違いありません。彼は楽しんでいたわけではなかったのでしょう。僕の音楽に、僕自身が自信を持てるようにしてくれたのは、アンソニー・ジャクソンでした。レコーディングで、僕の曲を「面白い」と言ってくれ、楽しんでくれました。この楽譜をチック・コリアに見せたいから、持って行って良いかと言ったものでした。NYの多くのミュージシャンが、僕の曲を楽しみ喜んでくれたと、僕には思えました。そのことが、どれほど僕に力を与えてくれたでしょうか。
今でこそ、このメンバーの顔ぶれは大したものですが、現在の評論家達が言うほどには日本で有名ではなく、マイク・マイニエリなども殆ど知られていなかったと思います。彼を紹介してくれたのはスティーブ・ガッドでした。コンサートの予定も決まり、僕がNYに行きリハーサルを2,3回はやったと思います(これも当時のライナーノーツとは異なっていますが)。そして全員で日本に来たわけですが、(今では考えられないでしょうが)全員エコノミー・クラスで来日しました。来日直後の数日、スティーブが僕の家に泊りに来たことが懐かしい思い出です。
このライブ盤での僕の存在感は決して大きくはありません。それは、たぶん萎縮していたのだと思います。実際にステージの上にいて、僕は何も出来なかったことを、今でもまざまざと思いだします。現在でも日本ではそういう傾向がありますが、ソロをとる順番などを決めるとき、皆遠慮します。「どうぞお先に」というわけです。譲り合うことが調和、つまりアンサンブルだと思っているのです。けれども彼らは違ったのです。ちょっとでもソロを躊躇すると、きっと誰かが出しゃばってソロを奪っていきます。譲り合うなんて事は決してありません。皆ソロをやりたくて、うずうずしているのですから。それがアンサンブルだったのです。
当時の僕にとって、NYのミュージシャン達の生活、彼らの音楽との関わりの全てが驚きでした。音楽すること以外、何も考えずに生活をしている人たちがいる、ということ自体が驚きだったのです。同時に決して道徳的でもなく、音楽だけに刹那的に生きる。反社会的ではなくとも非社会的でした。もちろん彼らにとっては何でもないことだったかも知れませんし、NYという都市に固有で特殊なことだったのかもしれません。けれども、もう既に日本でミュージシャンとして活動していた僕には、彼らのそういう生活が日本に全くないことに、大きなショックを感じました。まあ、いわゆるカルチャーショックでしょうね。
僕はスティーブ・ガッドから多くの事を学びました(もちろん彼は、僕に何かを教えたとは思っていないでしょうが)。「Sea of Dirac」と「On The Move」、そしてこのライブの共演。プライベートな時間もNYと東京で過ごし、僕の拙い英語にも関わらず、多くの事を話しました。最初に会った時、”Jun, Do you know who is the most Clazy guy in NY? It's me” わざとクレイジーをLで発音して、ニヤッと笑っていました。このライブ盤にも収録されている彼のドラムの素晴らしさ、それをリハーサルで、そしてステージの上で直接体験、その時空を共有できたことは僕の忘れられない宝物なのです。
僕はピアノも弾きます。それでもリチャード・ティーを起用したのは、僕の作りたい音楽に、僕よりも彼の方がフィットすると思える部分があったからです。仮に僕のアルバムであっても、僕が全て弾く必要はない。僕が創りたいものは僕の演奏よりも、良い音楽(アルバム)だったのです。スティーブは、リチャードが一本の指で演奏したのを聴いたことがないと笑って話しました。彼の隣で演奏した僕は、そうだ、世界中で僕しか弾けない演奏をしなければ、演奏する意味がないと強く感じたのです。彼のグルーヴとコードワークは、まさに彼だけのものであり、彼が亡くなった今、それは世界から失われたのだと思います。彼の冥福を祈りたいと思います。
音楽シーンは常に流動しています。フュージョンというジャンルの音楽は、もはや事実上、日本では衰退したと僕は思っています。けれどもそれは単に音楽のスタイルの問題です。あるいはレコード会社の商業的思惑の姿なのです。ミュージシャンとは何の関係もありません。たとえそのスタイルがどのように変わろうとも、音楽の精神は人々の中に生き続けるでしょう。また過去の古い伝統的な音楽だけが良いはずもありません。変化し続けることこそ、音楽というものの特徴ですらあると僕は考えています。ただ、その音楽の根本的な精神は、何時の時代にも変わらず存在するでしょうし、その一端を、このライブアルバムは持っている と信じています。僕たちは売れるためでも有名になるためでもなく、極端に言えば聴衆に阿ることさえなく、お互いに啓発し触発されながら、ただ純粋にエンジョイしていたのだと思っています。
深町 純(2002年11月)
また深町氏は1976年のアルバム「Spiral Steps」にBrecker Brothersを起用したきっかけについてこうも語ってくれている。
「僕はクラシックがルーツですから、世代的にはビートルズエイジなのですが、音楽的にはブラスロックの時代です。ChicagoやBlood Sweat and Tears の時代ですね。ランディーはBS&Tにいました。そしてブレッカーブラザーズ・バンドは僕に大きな影響を与えました。ランディーの曲は決してポップなものでもメロディアスなものでもありません。精神的にはフランクザッパに近いのではないでしょうか。実は、スティーブ・ガッドの他にもう一人、ドラムの候補がいました。それはテリー・ブジーオ(注参照)でした。そしてアンソニー・ジャクソンはその流れで紹介されたのです。つまり変拍子がキーワードです。世界的に見ても変拍子を好むミュージシャンは決して多くはありません。それはもうパラノイアなのです。また、ランディーのトランペットはジャズではないと僕には思えました。新しいサウンドだったのです。そこが僕にとって何より魅力的でした。」
現在の深町氏は、既に新しい方向に向かっており、以下のように語っている。
「僕は日本の曲(音楽)というものにこだわっています。
未だに多くの日本のミュージシャンがアメリカものをコピーし、サウンドもアメリカンサウンド。
もちろんジャズやブルースを演奏する日本人がいて、それはそれで良いのですが、僕は嫌いです。
世界の誰が聞いても日本の音楽だと理解でき、同時に楽しめるものを、探し模索しています。」(編集部注 ドラマーのTerry Bozzioは76年録音のFrank Zappaの「In New York」でBrecker Brothersと共演しており、The Brecker Brothersの「Heavy Metal Bebop」にも参加している。)
具体的にはアコースティック・ピアノの即興演奏、ヴァイオリン、アコースティック・ギターとのユニットなどでライブ活動をされている。以下の日程で予定されているので、今の深町氏がどんな音楽を模索しているのか聞きに行くのも興味深いのではと思う。
12月29日(日)open18:00 start20:00 原宿 CROCODILE
neo.jp
member 石間秀機(シターラ) 深町 純(pf) 堀越彰(Dr)
\3500円 問い合わせ 03-3499-5205 http://www.music.co.jp/~croco/
新しいバンドのデビューです。ご期待下さい。
12月1日(日)open18:30 start19:30 六本木 Pit-inn
mind! (ヴァイオリン・ピアノ・ギターのアコースティック・トリオ)
member 渡辺 剛(vln) 深町 純(pf) 白土庸介(g)
前売3500円 当日4000円 チケットぴあ、六本木ピットインにてチケット発売中
問い合わせ 六本木ピットイン 03-3585-1063
11月30日(土) 7:30 ArtCafe1107
SOLO PIANO IN MELICO MOMENT at The Gallery
ミュージックチャージはありませんが、楽しめた分だけお払い下さい。1ドリンク・ミニマム
JR恵比寿駅西口、恵比寿銀座通り最初の信号左折、50m左側。松坂屋ストア向かい。
問い合わせ 03-3716-5559
目次.特集 : 深町純 & The New York All Stars Live
Copyright by 2002 Cyberfusion
Text by Masato Hashi
Special thanks to Jun Fukamachi