特集 : 深町純 & The New York All Stars Live



1.アルバム発売当時の音楽状況、またその歴史的意義について

このアルバムが録音された1978年の日本にはまだフュージョンという言葉も使われておらず、クロスオーバーと呼ばれていた時代だった。(と書いたところでこのアルバムのオリジナル盤LPのライナーの中で池上比沙之氏はフュージョンという言葉を使っていることを発見。このころからフュージョンと呼び出していたようですね。)この年、渡辺貞夫がリーリトナー&ジェントル・ソウツを中心とするメンバーをバックに従えレコーディングした「カリフォルニア・シャワー」が資生堂のCMでオンエアされて爆発的な大ヒットとなった。またラリー・カールトンの「Room 335」が収録された「夜の彷徨」もこの年に発表され、リー・リトナーと並んで西海岸系クロスオーバーの2大ギター・ヒーローとしてもてはやされることになった。

そんな中でニューヨーク系一流スタジオミュージシャンを一同に集めたという触れ込みで東京・大阪でコンサートを行なったのが、深町純&The New York All Starsだった。クロスオーバーという新しいジャンルの音楽が日本中で注目を集める中、本場の一流ミュージシャンを揃えてのライブということで、かなり大々的に宣伝されていたように思う。今から振返ると、よくこれだけ集めれれたものだと思うほどの超豪華メンバーだが、当時の実際の知名度はそれほど高くなく、筆者自身もメンバーの多くはこのNew York All Starsによって初めて耳にした名前だったように記憶している。

このバンドのリーダーであった深町純はこのNew York Allstarsの日本公演の2年前の1976年7-9月に録音されたアルバム「Spiral Steps」で75年にデビューしたばかりでまだ無名に近い存在だったブレッカー・ブラザーズをホーン・セクションとして起用している。 そして翌1977年6月にはそのブレッカー・ブラザーズとトロンボーンの今は亡きバリー・ロジャース(「Return Of Brecker Brothers」収録の「Song For Barry」のバリー)を日本に招き、同じく今は亡きギタリスト、大村憲司らとともにライブを行っていて、その模様はアルバム「Triangle Session」で聞くことができる。

深町は翌1978年4月にはニューヨークにてこのNew York Allstars参加のメンバーに加えて、ウィル・リー、バリー・フィナティー、エリック・ゲイル、ジョージ・ヤング、ロニー・キューバーらが参加してアルバム「On The Move」を録音している。(来日メンバーではギターのスティーブ・カーンが唯一「On The Move」には参加していない。) そしてこの「On The Move」のレコーディング・メンバーを中心としたライブを行うためにNew Yorkからミュージシャン達が同年9月に日本に招かれることになった。このバンドは深町純&The New York All Starsと銘打たれ、東京、大阪でそれまでの日本では誰も見たことがないような圧倒的なパーフォーマンスを日本の聴衆に見せつけてくれたのである。

そしてこのライブを契機に日本でのニューヨーク系クロスオーバーへの注目度が一気に上がっていくことになる。このNew York All Starsに参加したメンバー達が参加したグループ、The Brecker Brothers Band , Stuff, Stepsが、その後の数年間の日本でのニューヨーク系クロスオーバーの人気の火付役、牽引役となっていった。
同年に発表されたブレッカー・ブラザーズのライブ盤「Heavy Metal Bebop」はこのNew York All Starsをきっかけに彼らに注目し始めた一部ファンに熱狂をもって受け入れられ、スティーブ・ガッドはこのアルバムの最後に収録された「Love Play」での演奏で日本のドラム少年達の神と崇められる存在となった。

この時点では本国アメリカでは彼らはほとんど無名に近い存在であったが、日本でのクロスオーバー人気の沸騰に伴い、日本での人気の方が圧倒的に高いという状態となった。その代表はSTEPSで、デビュー作の「Smokin' In The Pit」など最初の3枚のアルバムは今でこそアメリカでもリーダーのマイニエリ自身のレーベルから発売されているが、(近年リリースされたNYC Records盤は日本盤未収録の曲を含んでいる。)当時は日本のみでの発売であった。また日本においても、今ではマイケル・ブレッカーの写真を頻繁に表紙にのせる某大手ジャズ専門誌の評価は「あんな音楽はジャズでない」という極めて否定的なものでしかなく評価の分れる存在でもあった。
そんな状況の中で新しい音楽の流れをいち早く取り入れて日本に紹介した深町純氏の功績は大きいと思うし、それを理解してサポートした日本のリスナーの耳も誇りに思っていいものだと思う。

そういう意味で、このアルバムは70年代終わりから80年代にかけての日本でのクロスオーバー・フュージョン人気の形成に極めて重要な役割を果たしたといえるだろう。

またよく幻の名盤といった類のレコードは希少性ばかりが先行して、実際に入手して聞いてみると、音楽的には時代遅れで内容が伴っていなかったりするのだが、この「深町純 & The New York All Stars Live」には、現在のスタンダードで聴いても極めてクォリティーの高い演奏が収められているというのもこのアルバムの特筆すべきところだと思う。

(注:上記「Spiral Steps」、「Triangle Session」、「On The Move」は一旦再発されたものの、現在は廃盤になっているようです。フュージョン初期の名作だけに再発が望まれます。どうしても聴きたいという人は中古CD屋さんで捜してみてください。)


目次.特集 : 深町純 & The New York All Stars Live

2.アルバム収録曲について

3.アルバム参加メンバーについて

4.深町純が語るThe New York All Stars



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Text by Masato Hashi
Special thanks to
Jun Fukamachi