ボブ・バーグを初めて見たのは1984年6月22日ニューヨークのアヴェリー・フィッシャー・ホールだった。クール・ジャズ・フェスティバルに出演したマイルス・デイビス・バンドで前年までサックスを吹いていたビル・エヴァンスが退団して、その後釜で登場したのがボブだった。前任のビル・エヴァンスはマイルス・バンドではソプラノ・サックスを多用してかなり内に篭もるような演奏をしていたのに比べ、ボブのサックスはより力強く吹きまくっていて、自己主張の強い音を出していたのが印象的だった。
この84年のマイルス・デイビス・バンドでのボブの演奏はその約1ヶ月後にスイスのモントルー・ジャズフェスティバルに出演した様子を収めたマイルス・デイビスのモントルーのコンプリートライブ盤ボックスセット20枚組の中の4枚で聴くことができる。 1986年には同じく元マイルス・バンドのギタリスト(ボブとは入れ違いだが)マイク・スターンのアルバム「Upside Downside」に参加し、ここから数年にわたってお互いのアルバムに参加し合って共通の世界を作っていくというコラボレーションが発展していく。 そしてマイルス・バンドを離れた後に1987年にリリースしたリーダー・アルバムが「Short Stories」だった。私はこのアルバムの1曲目の「Friday Night in Cadillac Club」を聞いてボブにぞっこんになってしまい、その後10数年間にわたってボブのサックスを聴き続けることになった。ちょっとトリッキーなメロディーラインのテーマ、スピーディーで切れ味のいいリズム、力強くて勢いのあるソロと80年代のニューヨーク・フュージョンの良さを集約したようなサウンドだった。ボブ自身もこの曲はお気に入りだったのかその後もCTIのプロジェクト「Rhythmstick」、Steps Aheadのライブ盤「Holding Together」でもこの曲を演奏している。 その後の数年間はDENONレーベルから硬派なニューヨーク系フュージョンの香りのするアルバムを次々とリリースしてくれた。この時代のアルバムは今聞いても輝いていると思う。
また90年代半ばあたりからの、マーク・コープランド・カルテットやチック・コリアのバンドに加入しストレートなジャズ色が強いバンドで力強いサックスで我々を楽しませてくれた。
近年は再結成されたマイク・マイニエリ率いるSteps Aheadに加入し、その1999年のヨーロッパツアーの模様を収めたライブ盤「Holding Together」が先月手元に届いたばかりで、今度はSteps Aheadでの来日が待たれるばかりだと思っていた矢先の事故だけに本当に残念でならない。 橋 雅人 |