Eric Marienthal(sax) Kim Stone(b) Dave Karasony(drums) Bill Heller(kb) Scott Breadman(perc) Scullers, Boston, MA 2003.05.23 |
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「来年はかなり大々的なツアーをやると思うよ。Rippingtonsの新作も出るしね。」 昨年夏のインタビューでリーダーのRuss Freemanが嬉しそうに語っていたRippingtonsの新たなツアーが始まった。新作「Let It Ripp」が5月6日に発売されたのを受けて、5月21日のボストンのジャズクラブ"Scullers"での3日間連続ライブをかわきりに、まずは東海岸の主要都市を巡る。2週間弱のオフの後6月後半からは中部、南西部を巡り、7月はいよいよ西海岸へ。7月後半のオフをはさんで8月にさらに中西部から南部まで大陸を大横断、9月のオフの後10月には再び西海岸へ。期間を見ると大した長さではないが、その間に巡る都市数を見ると確かにかなりのハイピッチで全米を周っていることが分かる。加えて、翌日の公演先が300マイル(約480キロ) 以内の場合は、宿泊せずにツアーバスで移動するという状況。このハードなスケジュールを難なくこなすメンバーの体力と精神力もすごいが、さらに日々行われる公演において、観客を熱狂させるにあり余るエネルギーを惜しみなく放出する「音楽家魂」といったものにも感心せざるをえない。 今回は、ツアーが始まって3日目の5月23日(金)、ボストンのジャズクラブScullersで行われた1回目のライブの模様をレポートしよう。 さて、ジャズクラブScullersがあるのは、アメリカ北東部の歴史的な街ボストンのダウンタウン近く、ハーバード大学があるケンブリッジからチャールズ川を挟んで対岸側にあるホテルDoubletree Guest Suitesの2階。保守的なボストンの中で唯一Smooth/Contemporary Jazzのアーティストを積極的に紹介しているクラブだ。ホテルはジムやプールを備えたなかなかの造りだが、Scullers自体はそれほど広くない。カウンターも含めて総客席数200前後といったところではないだろうか。テーブル席がステージ正面に広がり、狭いカウンターはステージ脇に位置するが、このカウンターはまさしくステージ真横になるため、演奏を楽しもうとするにはかなり見辛い位置だしサウンドも偏っている。座席は予約順に割り振られるため、当日長時間並んで良い席を"奪取"する必要はないが、電話予約のタイミングがより重要となる。食事のメニューは、前菜に始まりサラダ、メインディッシュまできちんと揃っていて、価格はやや高めだが(隣の人のテーブルを盗み見た印象では)ボリュームはわりとありそうだ。飲み物はビールを中心にカクテル類もあるが、一番お手頃だったのはDiet Cokeで2ドル弱、ペリエ(1本)は4ドル弱といったところだった。 ところで、RippingtonsはこのScullersとは相性がいいらしい。昨年の夏にも一度公演をしており、ボストンっ子からすればRippingtonsを見るのに馴染みの場所といった感がある。新作発売を受けてのツアーの、初日から連続3日間の公演には、そうした馴染みのクラブがもっとも適した場所だったのかもしれない。夜8時と10時(週末は8時と10時半)にスタートする公演は、初日を除いて2日間両公演共ほぼSold Outだった。午後8時過ぎ、割り当てられた席にしきりに文句を言う4人組みを横目で見つつ、15分遅れでライブが始まった。 ライブはまず、懐かしの"Welcome To The St. James Club"で幕を開けた。いきなりの馴染みの曲に早くも観客は足やら頭でリズムを取り始める。この曲はずいぶん長くライブで演奏されている曲で、少なくとも3シーズン前の「Brave New World」ツアーでも演奏されていた記憶がある。まさにRussらしい曲調の名作だ。そして、この聴き慣れた曲からRussのソロアルバム"Drive"のタイトル曲"Drive"へ。Russのオクターブ奏法がこれまた気持ちよく響く。ここから次の曲へ移る部分が、実は直前のリハーサルで議論になっていた個所。Russに言わせればどうやら「自然な感じで次の曲に移れない」とのこと。結局悩んだ末の奥の手は、Russの軽いMCでフォローアップということらしい。「次の曲は、みんながものすごくライブで聴きたがる曲、そう、"South Beach Mambo"だよ。」 "South Beach Mambo"はここ最近のライブではほぼ定番化している曲だが、ライブの後半に演奏されることが多い。ライブが始まってまもないクラブに南国の色っぽいイメージのメロディが響き渡り、客席は早くも熱気を帯びてくる。このラテン調の曲に続いては、Russのアコースティックサウンドのハイライトとなった"Bellagio"――Russ自身もお気に入りという、ソロアルバムからの1曲だ。この曲の出だしが、Russのギターソロを最もじっくりと楽しめた部分である。この静かな出だしがやがて「Let It Ripp」からの1曲、"Bella Luna"へと続いていく。実はこの2曲のメドレーもRuss自身がちょっと気にしていた個所だ。曲調があまりに静かなので「ファンのみんなが本当に気に入ってくれているか心配なんだ。」。観客からすれば、この曲ほど彼のギターを素の音で楽しめた曲も他になかったと思うのだが、迷いながら曲を選択しているとちょっとしたことで不安になることもあるようだ。もちろん、演奏後はそんな不安を吹き飛ばすような大きな歓声が客席から響いたことは言うまでもない。 切ない"Bellagio"と"Bella Luna"のアコースティック調のサウンドは、ファンキーな"Mr. 3"で一変する。アップテンポのこの曲は何と言ってもRussのギターとEricのサックスによるユニゾンが魅力の1曲だ。アルバムに比べると、RussのギターもEricのサックスもよりパワフルで熱い。ここで観客は踊りだしそうな勢いでノってくる。そしていよいよ満を持してタイトル曲の"Let It Ripp"が登場。強烈な2ビートのメロディは途中で転調、さらにそれに続く壮大なハーモニーが、過去の何曲ものRippingtonsらしいサウンドを思い出させる名曲だ。 熱くなった会場に続いて響いたのが"Avenida Del Mar"。ここでの恒例は、メンバーがさりげなく降りたステージ上での、パーカッションのScottと ドラムのDaveによるソロ合戦。このタンバリンとドラムのソロ合戦は、ライブ時間が全体で75分ということで通常よりは若干短めだったものの、そのおかげかまさに双方のテクがぎっしり詰まったものになった。ソロ合戦後、一瞬の沈黙を破る割れんばかりの拍手喝采にScottとDaveは笑顔で答え、再びメンバーをステージへ迎える。そこから、新作の中でもファンの間で好感度が高い"Stingray"へ。タイトルが示す通り(Stingray=アカエイ/魚)海をイメージさせるカリプソ調の曲だ。ここでもRussのギターとEricのサックスが冴えている。曲のイメージだけで語るとすると「メンバーは海から山へ移動」(!)とでも言うか、ここで懐かしの"Aspen"が登場する。この曲のハイライトはなんといってもRussのギターとKimのベースの呼応合戦。昨今、入手困難になっている彼らのライブビデオ「Live In L.A.」にも収録されている名曲だ。 そしてショーの終わりは、新作でも際立ってノリのいい"17 Mile Drive"と"High Life"。アルバムをお聴きになった方はもうご存知かもしれないが、この2曲が今回のアルバムの中でRippingtonsの真骨頂を音楽的に最も披露している曲と言っても過言ではないだろう。同語反復を避けたいところだが、やはり「かっこいい」(Cool)という単語で表現したくなる演奏だ。"17 Mile Drive"での、キーボードのBillのソロは、アルバムでもライブでも一番盛り上がる部分だ。初日に、楽器のトラブルで、なんとプログラミングを1からやり直さなければならなくなったBillは、2日目のライブもかなり疲れた様子だったが、3日目に入ってようやく演奏途中に笑顔を見せるようになった。そのせいか、ソロも2日目に比べて3日目がぐんと魅力的だった印象だ。ライブの間、徐々に上がりつつあった会場のヴォルテージがここで一気に高まった。 "17 Mile Drive" が終り、観客のスタンディングオーベーションを受けながら、メンバーを一人ずつ紹介するRuss。「ボストンのみんな、本当にありがとう!」。笑顔でステージを降り、他のメンバーもそれに続く。しかしここでおとなしく引き下がるファンではない。当然のことながら拍手喝采に口笛が加わってクラブ中が大騒ぎだ。ほどなくメンバーがステージに現れ、期待のアンコールとなる。曲目はもちろん、"Tourist In Paradise"。この曲が始まると、会場中に手拍子が響く。途中、さびの部分直前に入る独特の掛け声は、マイクに向かったベースのKim Stoneのものがかき消されるくらい、会場の観客から大きく響く。Russのソロに続き、最後はいつも通りのギターのラインが終るか終らないかのタイミングで"Purple Haze"、そして"Fire"へ。ここで観客が大興奮、そのうちKimのボーカルが聴こえなくなるほどの大合唱となり、やがて大喝采のうちにライブは幕を閉じる。結局演奏時間は予定していた75分を越えていた。クラブもやはりファンの熱気には勝てなかったらしい。 ライブの後の恒例のサイン会でもその興奮は覚めやらない。列に並んだファン同士がライブの感想をにこやかに語り合い、メンバーの前では興奮して握手やら記念撮影をしていく姿は何度見ても微笑ましい。ライブの直後で疲れているであろうメンバーも、そういったファンの姿を見て思わず笑顔を浮かべずにはいられないようだ。 実は、3日間合計6回のライブに対して、Russは毎日2時間以上リハーサルを行っていた。服装だけはカジュアルな現場で、各人の表情は真剣そのもの。ソロの調整、出だしのタイミングなど、Russを中心にEricやDaveが時々口を挟みながら、念入りにチェックが行われた。ライブの時間は2回のショーの間の休憩時間等を考慮して75分、その間にどれだけの曲を演奏できるか、どうやったらファンを納得させられるショーになるか、食事の間も議論に余念がなかった(彼らを一番悩ませていたのは、どうやら曲順だったようだが。)初日のライブでは、Billのキーボードのトラブルに加え、予定していた曲を演奏し終って見たらなんとまだ20分以上時間が余っており、本人たちもやや冷や汗ものだったらしい。それを受けて、前準備も万全に臨んだ2日目、3日目のライブでは、観客のスタンディングオベーションが止まないエキサイティングなショーとなったわけである。 さて、順調に「Let It Ripp」ツアーに走り出した彼らだが、残念ながら今のところアメリカ国外でのライブの予定はなさそうだ。それでも、7月中旬に行われるロサンジェルス、サラトガ(サンノゼ郊外)、そしてサンディエゴでのライブは、比較的日本からも見に来やすいのではないだろうか。ちょっとした小旅行を計画中の人、偶然出張などに出かける予定のある人は、ぜひ彼らのホットなライブを覗いてみて欲しい。 ライブの後に雑談した際、「演奏曲とその曲順が思うようにスムーズになっていないみたいだ」と不安げな表情を見せたRuss。しかし、これはツアーが進むうちに自然と解決していくはずだ。とすると、ツアー後半、彼らの演奏がさらに円熟味を増した頃が、ライブを楽しむ絶好の狙い目になるに違いない。さっそく彼らのウェブサイトにあるツアーの日程表を見ながら、曜日と自分のスケジュールをチェックしているのは・・・私だけではないはずだ。(まい)
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「Let It Ripp」CD評
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