Dave Koz Interview

Dave Koz@J-Wave
今年の夏、Paul Taylorのインタビュー記事をまとめたが、その際「競争の激しいサックス界」などと前置きした覚えがある。そういえば、Eric Dariusのインタビューでも似たような表現を使っていたかもしれない。ふと思い返してみれば、今年のNewport Beach Jazz Festivalでも、中堅どころを含めて少なくとも10人がラインナップに入っていたわけで・・・確かに戦国時代だ。そんな中でサックス奏者は誰もがドングリの背比べなのか、というと、実は意外にそうでもない。スムースジャズ戦国時代の中でもとりわけ光る武将はいるもので・・・そこにこの人を含めないわけにはいかないだろう。その演奏技術や曲作りはもとより、時にはコミカルだが常にポジティブなエネルギーに満ちたライブにも定評があるDave Kozだ。

いつの頃からだったか、飛びぬけてMCのうまいサックス奏者がいて、ライブも底抜けに楽しい・・・そんな口コミの噂がファンの間に廻り始めた。今から10年以上も前のことだろうか。その後Playboy Jazz FestivalにもMCとして登場したり、ラジオ番組のパーソナリティを務めたりと、とにかくその才能の幅広さに驚かされる。しかも、本業である自身の音楽活動といえば、1990年のデビュー以来アルバムは既に10作品を数え、その中でも2003年発売の「Saxophonic」の1曲‘Honey-Dipped’がグラミー賞にノミネートされたことはファンの間でも記憶に新しいだろう。ライブの方に目を移せば、「Smooth Jazz Christmas」と銘打ち、クリスマス時期に合わせて他のスムースジャズアーティストと行う共同ライブがファンの間で既に「恒例行事」となっているし、ここ最近では、彼と気の会うスムースジャズ・アーティスト達とが乗り込んだクルーズがまさに人気急上昇中。クルーズで過ごすリゾート的な楽しみに加え、船上で思う存分スムースジャズに舌鼓――ならぬ耳鼓――を打つ・・・彼の魅力を満喫するのにまさに絶好のイベントと言えるだろう。

そんなDaveにインタビューしたのは、彼の最新版「Greatest Hits」発売直後の10月初め。ジョン・川平氏の生番組出演途中の彼を、六本木のJ-Wave控え室でキャッチした。今回はCyberFusion初登場ということもあり、彼のサックスとの出会いから数々のアーティストとの共演、そして最新作「Greatest Hits」のレコーディングなどなど、これ一粒で何度もおいしくなるように質問を進めてみた。さあ、いよいよスムースジャズ界のマルチタレントDave Kozの登場だ。


Greatest Hits
―まずは日本にようこそいらっしゃいましたといっても今回が初めてなわけではないですよね。 これまで何回くらいいらっしゃったことがあるんでしたっけ?

デイヴ・コーズ (以下DK):  実は日本には結構来てるんだ、今までに7、8回かな。初めての来日が1986か1987年だったと思うから、それから既に20年経ってるわけだ。Jeff Lorberとも来てるしRichard Marxとも来てるんだよ。

―Bobby Caldwellとも来日しましたっけ?

DK: いや、実はBobbyとは来てないんだ。ずいぶん前に一緒に演奏して回ったことはあったけど、Bobbyとは一緒には来日してないんだよ。その後、数年前からかな、僕自身のバンドで来るようになったんだ。

―さて、今回の来日なんですが、まさにグッドタイミングですよね。ちょうど「Greatest Hits」が発売されたばかりですし。その話題のアルバム「Greatest Hits」なんですが、今までのヒット曲に加えて新曲4曲が加わってるのにとても感動しました。アーティストのコレクションアルバムとなると、えてして過去にリリースされた曲を単に集め直しただけといった印象がありますが、あなたのアルバムは格段に新鮮さがあって驚かされました。

DK: そういうのが、とっても重要なことだと思うんだ。特に今時、ファンがアルバムを買う時って、いくら昔懐かしい曲に惹かれたとしても、やっぱり何か新鮮なものを聴くことができるっていうのが重要だと思うんだ。しかも、日本盤だと1曲余分にボーナストラックの新曲が入ってるから、実際日本のファンは4曲じゃなくて5曲新曲が聴けることになってるんだよ。つまり、今回の「Greatest Hits」は、アルバムの3分の1が新曲ってわけなんだ。
嬉しいことに、最初のシングル‘Life in the Fast Lane’は、ヒットチャートでデビューNO.1になったし。

―R&R(ラジオ&レコーズ)のスムースジャズ・チャートですよね。もちろんちゃんとそのあたりの情報もちゃんとチェックしてましたよ(笑)。おめでとうございます。

DK: ありがとう!つまりは・・・昔のヒット曲に加えて最新のヒット曲が入ったアルバムってことだね。(笑)

―さて、ここであなたの経歴に話を移してみましょうか。サックスを手に取るようになったきっかけは何だったんですか?

DK: サックスを始めたのは僕が13歳の時だったんだ。それ以前にピアノとドラムとか他の楽器にもチャレンジしてたんだけど、どれもいまひとつだったなあ。でも13歳で中学に入ったときに、どうしてもサックスをやりたかったんだ・・・というのは、僕の兄がバンドをやってて、パーティとか結婚式とかで演奏してたんだけど、当時バンドにはサックス奏者いなかったんだよね。それで、サックスを演奏さえすればバンドに入れると思ったんだ。サックスをやり始めたまさにその瞬間から、手の中に楽器がとしっくりと馴染んでるのが感じられたんだ。なんていうか、楽器自体と強いつながりを感じたんだ。それから32年間、ずっとその楽器を演奏し続けてるわけだから・・・本当に長い時間が過ぎたと思う。この金属の一片が、僕を世界中に連れまわしてくれて、そして思いもよらないすばらしい経験−例えばアメリカ大統領の前で演奏することになったり―また予想もしなかったものすごい場所にいくことになったり。その中でも日本に来るのは本当に楽しみにしてるんだ。日本のファンは音楽のことをよく知ってるし、音楽そのものとその演奏家をすごく尊敬してくれるでしょう。

―(そう言って頂けると嬉しいですね!)あなたが子供の頃の、あこがれのサックス奏者といったら誰になりますか?

DK: 何人かいるんだけど、いろいろなジャズの分野にまたがってるんだ。まずはなんといってもDavid Sanborn。多分僕に影響を与えてくれたアーティストとして抜きん出た存在っていえる。それからStan GetzとCharlie Parker。そしてSonny Stitt、Sonny Rollins、それにGerald Albrightも、だね。必ずしも一つの分野だけに限ってるわけじゃなくて、本当にいろいろな分野にまたがってるんだ。自分でなるべく幅広い分野のサックスに触れるようにしてるんだ。ほら、たとえばGerry Mulliganのバリトンは好きだし、本当に異なった分野の影響を感じるようにしてるんだ。

―あなたの音楽の印象から、コンテンポラリージャズのアーティストを中心に聴いてらっしゃるのでは、と思ったのですが、やっぱりいろいろと幅広く音楽を掘り下げているんですね。

DK: 僕は、基本的にはメロディーが大事だと思うんだ。ほら、例えばStan Getzにしてもとにかくソロのアドリブがすばらしい演奏家だよね。で、その彼がソロを演奏してるときって、たとえアドリブで演奏してるにしても、ちゃんとメロディになってるでしょう?そこが僕にとって一番大切なキーだと思うんだ。何か、自分がしっかりと掴んでいられるものっていうか。

実は昨晩のライブでは、偶然居合わせたJoe Sampleと一緒に演奏したんだけど・・・

Dave Koz
at Blue Note Tokyo

(photo by Takuo Sato)
―え〜!私の尊敬するピアニストです!東京にいらっしゃったんですか?

DK: そうなんだよ。ほんと、偶然ってわからないものでしょう?とにかく、僕が彼をステージに呼んで、そこで本当にその場のデュエット・セッションになったんだ。で、その演奏の後に彼に話したんだけど、たくさんのジャズアーティストが、考えながら演奏してるでしょう。脳みそを使って、すごく複雑に考えて、どんな技術を使って、どうやって演奏しようかって・・・。だけど、僕がJoeの演奏がすきな理由は、彼の演奏はいつも彼の心から生み出されてるからなんだよ。気持ちがこもってて、思いがあふれてて・・・ある意味、感情と叙情にまみれてるって感じでしょう?そこが僕の大好きなところなんだ。楽器にかかわらず、そういう風に心から演奏できる演奏家がすごく好きだ。わざわざ脳みそを使う、なんてことしないでね。

―過去において、貴方は本当にいろいろなアーティストと演奏してきてますが、特にぜひ共演してみたいと思うアーティストはいらっしゃいますか?今年の3月にJeff Lorberともインタビューしたんですが、あなたの名前が出てきてましたよ。

DK: 本当に自分でも信じられないくらいだよ。ポップス界の大御所達、Stevie WonderにLuther Vandrous、Ray CharlesにBarry Manilow、これほど才能あふれた人と共演できたことに感謝してる。本当に感動と興奮の連続って感じだ。一緒に演奏したいアーティストとしては、ちょうどJeffの名前が出たけど、彼は僕の音楽家人生の中でもすごく大きな存在なんだ。彼はね、僕に向かって「君は絶対アルバムを発売できるアーティストになると思うよ。」って言ってくれた一番最初の人なんだ。それまでの人生で、そんなこと言われたことなんてなかったし、考えたこともなかったんだ。だから僕らはずいぶん一緒にレコーディングをやったよ・・・彼のアルバムやら僕のアルバムやら。何か一緒にプロジェクトができるなら、それは本当に楽しみだ。それに加えて僕はRick Braunの大ファンでね。一緒にプロジェクトをやったことがあるから、また彼とできたら楽しいと思う。それから、Ramsey Lewisも好きだな。僕が敬愛するアーティストの一人だ。それとChris Bottiもお気に入りのアーティストの一人だね。

ぶっちゃけた話、ある程度のレベルのアーティストになると、共演するアーティストも洗練された才能溢れるアーティスト達だよね。だから、その中から誰を選ぶのかってことは、結局「誰と一緒に楽しい時間を過ごしたいか」、「誰が友達なんだろう?」ってことになるんだと思うんだ。だから僕に言わせれば、すばらしいプロジェクトっていったら、自分のお気に入りの友達を捕まえてスタジオに集めて、さて、何が起こるんだろう!って感じだね。まずは、楽しい時間を過ごそうって。そして、その楽しい時間をテープに捉えることができるかってこと。そこに捉えられた音楽に溶け込んだ楽しみと喜び、友情と音楽家魂・・・そんな音楽だったら、ファンのみんなも絶対に惚れ込むと思うよ。

―今年に入ってJeff Lorberともインタビューをしたのですが、貴方のことを知り合った当時からも本当に才能あふれるアーティストだったって絶賛してました。

DK: 僕の最初のアルバムのプロデューサーでもあるけど、僕のアルバムの少なくとも6、7枚はプロデューしてるkからね。本当によく一緒に仕事をしたし、しかもものすごくたくさんの曲を一緒に書いたんだ。Jeffは本当に特別な人だよ。

―そんな彼との作品もふんだんに入った今回のアルバムに話を戻しましょう。アルバムを既に楽しんだファンの方々は分かると思いますが、「Greatest Hits」はまさに一粒で数十度おいしい!というアルバムになっています。‘Can’t Let You Go (The Sha La Song)’や‘You Make Me Smile’などあなたの過去のヒット曲が盛りだくさんなのですが、あなたほどヒット曲が多いとその選曲にも迷われたと思います。どのようにして今回は選曲したのですか?

DK: その通り。今回のプロジェクトで一番難しかったのはそのことだと思う。そこで、最初に「Greatest Hits」を作ろうって決めた時、僕のウェブサイトにメッセージを載せたんだ。そのメッセージは、僕のウェブサイトに登録してくれてる人にもメールで送られたんだけど、そこで僕は「ファンのみんなに、好きな曲3曲を選んで欲しい」ってお願いしたんだよ。その投票結果のトップ8曲をアルバムに入れることにして、残りの3曲は、僕自身として、8曲との組み合わせとかも考えて、「この曲は入っているべきだ」って曲を注意深く選んだんだ。そこに、もちろん新曲も混ぜてるからね。

―その「Greatest Hits」の中の新曲のレコーディングについて、伺えますか?

DK: ‘Life in the Fast Lane’は、サックス奏者のDarren Rahnと一緒に書いたんだ。若い才能溢れるプロデューサーでね、今ものすごく売れてる人物なんだ。彼がコロラド州デンバーに住んでるので、僕は飛んでいって1、2泊泊まって一緒に数曲新曲を書いたんだ――その内の1曲が‘Life in the Fast Lane’なんだ。‘Bada Bing’はRick Braunとの共作でね、ギターのJeff Golubをフィーチャーしてる。素晴らしいアーティストだよね。彼は、今年のSmooth Jazz Christmas Tourに参加するんだ。

―Jeffには今年のNewport Beach Jazz Festivalで会って、久しぶりに演奏も見ました。本当に素晴らしいアーティストですね。

DK: そうそう、Smooth Jazz Christmas Tourには、もう一人有名な日本人アーティストも出るんだ――Keiko Matsui。

それからRob Cavalloと書いた曲が2曲。Rob Cavalloはアメリカではすごく有名な音楽プロデューサーでね。Green DayやDave Matthews Band、それにFleetwood Mac、Alanis Moresette、The Goo Goo Dollsといったポップ・ロックをプロデュースしてるんだ。彼とは、子供の頃からの35年来の友人なんだけど、僕とは全く違ったマインドセットをしててね。一緒に2曲―‘Neverland’(注:日本盤のみのボーナストラック)と‘Then I Knew’―を書き上げたんだ。それと、1曲、‘I Can’っていうGospel VocalistのBB Wiansをフィーチャーした唯一のヴォーカル曲。この曲は、苦境に立った時の、自分の力について歌っているんだ。世界中のどこに住んでいようと、いろいろと人生において難しい時ってあるでしょう。そういう難しい時に一番大切なのは、大丈夫、何とかできるよっていうメッセージだと思うんだ。自分のお腹にぐっと力を入れて、底から湧き上がってくる勇気を感じて、また前進して行こうっていう、エネルギーと希望―そんなことを歌ってる曲なんだ。

―ところで次のプロジェクトについて、何かアイディアはありますか?

DK: もちろん!予定では来年の今ぐらいの時期に発売できればって思ってるんだ。多分、インスツルメンタル中心で、バラエティに富んだアーティストをゲストに迎えて共同のレコーディングをしてみたいと思ってる。今、ぜひ一緒にやりたいって夢に描いてるのがJake Shimabukuro。「シマブクロさん」(と、流暢な日本語で答えるDave。)

―彼とは以前ローカルな音楽祭でお会いしたことがあります。才能溢れるウクレレアーティストですよね。(2005年のJake Shimabukuro Live Report)

DK: 実はね、今日これからお昼ご飯を一緒に食べるんだよ。彼はそのままハワイに帰っちゃうんだけど、その前にどうしても話がしたくてね。しかも、彼はジョン・川平さんの親友の一人だから、みんなでご飯を食べようってことになったんだ。

とにかく、僕は彼の大ファンなんだ。特に、楽器によって、歌声以上に個性を主張させられるアーティストって僕にとっては本当に魅力的なんだ。ほら、僕らって本当にヴォーカルの文化に生きてるでしょう。だから、楽器によって、人々をあっと驚かせるってすごいと思う。Jakeの場合、何十年も誰も話題にさえしていなかった楽器を一夜にして注目の的に変えちゃったわけでしょう。彼みたいなアーティストが、僕が尊敬する人々なんだ。だから今度のアルバムではそういった人たちをフィーチャーしたいと思ってるんだ。今まで忘れ去られてた楽器の息吹を吹き返させようって思ってるんだ。

―では最後にちょっとこんな質問を。今、あなたのIpodにはどんな音楽が入ってますか?どんな曲を聴いてらっしゃるんですか?

DK: 僕は本当に幅広くいろんな曲を聴いてるよ。シンフォニー系の音楽も好きだし―オペラとかもね。それからもちろんStan Getz―彼は僕のお気に入りだ―それからFrank Sinatra、Dean Martin。僕は昔懐かしいスタンダードが好きなんだ。だからどちらかというと、今時の音楽よりはそういった昔懐かしい音楽に惹かれるかな。でも、もちろん最近のアーティストの音楽も幅広く聴いてる。例えばKeith Jarret、それにk.d. LangやNora Jones。僕はヴォーカリストも好きだからね。特にNora Jonesにはイチコロさ。ポップやロックもごくたまに聴くけど、基本的には昔の音楽が好きなんだ―いわゆるスタンダードって言われるのだね。あとはクラシック音楽。どうも、僕は昔懐かしい魂を持ってるみたいだ。つい最近、オペラ「カルメン」をイタリアで観たんだ・・・感動してそればかり聴いてたりした。あと、ロマンス系の音楽をよく聴いてる―ラフマニノフとか。

つい最近、僕は映画音楽のアルバム「At the Movies」を出したんだけど、現代の映画音楽ってまさにあの時代のクラシック音楽からいろいろと音楽的アイディアを借りてきてるんだよね。流れるように奏でられる弦楽器に、響き渡るハーモニーの音質・・・オーケストラは本当に感情を豊かに表現してると思う。80〜100人の音楽家達が一緒に演奏してるっていうことで、また僕はイチコロだね。僕は、音楽で心を裂かれるのが好きだね!(笑)溢れる叙情っていうのかな、分かるでしょう?

なんとなく感じるのが、若いアーティストの中にで、才能溢れる人っていうのはいっぱいいるけど、僕が聴きたいくらい感情を溢れさせてるヴォーカリストって少ないと思うんだ。ほら、例えば、現代のスタジオのレコーディング・テクノロジーってすごいでしょう?ちょっとくらいのブレはすぐ直せちゃうし、ひどいシンガーだとしても簡単に修正できちゃう。(僕らが普通にアルバムを聴いてるヴォーカリストだって、もしかしたらものすごくひどい音痴かもしれないでしょう?)でも、そこで僕が訊きたいのは、「じゃあ、感情はどこにあるのか?」ってことなんだ。本当にシンガーの心を伝えるものだね。実は、そこが、最近の音楽業界で僕が心配してることなんだ。今の状態だと、単に音楽を消費してるだけ、って感じがするんだ――「はい、じゃこの曲をパッパと食べてしまって、じゃ、次食べるのは何?」といった風な。それは、アーティストに惚れ込んで――言うなれば、すごく長い時間をかけてゆったりと食事を楽しむような・・・少しずつ少しずつアルバム毎に味わいながら食べていって、次の食事(アルバム)を心待ちにするっていうのとは、全く異なると思うんだ。こういう感じの音楽の楽しみ方っていうのが、最近はあんまり見られないと思うんだよ。それは、アーティストの立場からすると、ちょっと怖いことだよね。

―同時にアーティスト側にもプレッシャーがありますよね。例えば、アルバムを出す時はスムースジャズ局にかかりやすいような曲を作らないと、最も大切な宣伝のチャンスであるオンエアーからはずされてしまう可能性がありますし。あるアーティストから、ラジオ局でかかりやすいように、シングルはリスナーが集中できる短い曲を作るようにしなきゃいけないこともある、なんて話を聞いたことがあります。

DK: 結局そういう状態っていうのは、スムースジャズ界のためにならないと思うんだ・・・スムースジャズという音楽があってこそのスムースジャズ界なんだから。これはどの分野の音楽に関してもいえることだよね。

ただ、スムースジャズはラジオ局っていうたった一つの窓口しかファンに向けて開かれてないでしょう?・・・少なくともアメリカではそうだよね。日本の状況は詳しく分からないけど、J-Waveのジョン・川平さんの番組に出られるなんて、本当に素晴らしいことなんだ。これ(ポップ・ロック・ジャズなどのジャンルにこだわらず、幅広くオンエアーしてくれること)は、アメリカでは残念ながら決してあり得ないことなんだ。だからスムースジャズのアーティストとしては、ラジオ局でオンエアーされる以外、ファンに音楽を知ってもらうことはできないだよ。だから、アルバムを出す時はオンエアーされるようにって、頭で考えて、曲を作らざるを得ない。でも、そうして出来上がった曲に、人に感動を与える力があるんだろうか。難しいよね。だからアメリカのスムースジャズアーティストは本当に難しい立場にいると思うんだ。僕自身も答は出せないよ。

―難しいですね。心のこもった音楽、それとラジオ局でかかりやすい音楽―その二つの要素のバランスを、いかにして取るか、ってことになるんでしょうか。

DK: でもね、今のスムースジャズ界にはいろいろと本当にたくさんの変化が起こってきてると思うんだ。そして、それはすごくいいことなんだけど、ただ、アーティストに限っていえば、ちょっと居心地が悪いのも確かだと思う。だって、今のスムースジャズ界がこれからどうなっていくのか、全く先が見えないわけだから。だけど、結局のところ、僕らが向かってるのは、(ラジオ局でのオンエアーといった非音楽的要素が音楽作りに反映されるのではなくて)音楽自体が主体の時代だと思うんだ。そうなるべくして、ね!

―そういった時代に、ぜひスムースジャズをサポートしていきたいと思います。今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。


こちらからの質問を熱心に聞き、一つ一つ分かりやすく丁寧に答えてくれたDave。途中、笑いあり、冗談あり、身振り手振りで生き生きと語るDaveは、全米でも屈指の人気ジャズアーティストとは思えないほど親しみやすい人柄だった。後半、話題が将来のスムースジャズ界に移ると、さらに熱のこもった意見を真剣に語ってくれ、まさにその音楽界をリードするサックス奏者としての貫禄充分だ。

さて、次なるプロジェクトに向けて密かに動き始めたDave。教えてくれたヒントからも、次回の作品がフレッシュな音に溢れること間違いなしだが、Daveが語ったようにJake Shimabukuroの参加なるか?それとも、別の新たなアーティストの登場なるか?

・・・と、そんな風に次のアルバムのことあれこれ想像する前に、まずは最新作「Greatest Hits」を熟聴してみてはいかがだろうか。Dave本人も語っていたように、そのアルバムは、単なる「ベスト盤」の一言では片付けられない程パワフルな新作とスムースジャズを代表する名曲が惜しげもなく揃っている。今回初めて彼の音楽に触れるファンの方々も含め、彼の音楽に対する情熱と常にポジティブなエネルギーを、ぜひ感じ取っていただきたいものだ。(Mayumi“Mai”Hoshino)

デイヴ・コーズ公式サイト







Interview by Mayumi“Mai”Hoshino
Photo by Ryo Shinoda & Masato Hashi
取材協力 : EMI Music
ライブ写真提供 : Blue Note Tokyo

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