向谷実 Interview

向谷実のルーツとフュージョン

美芽.
一番影響を受けたミュージシャン、アイドルミュージシャンについて伺いたいんですが。
向谷.
僕はモンキーズとか聴いてました。みんなビートルズ聴いてるんで、僕はモンキーズだ、ってね(笑)。でもあとでよく聞いたらモンキーズって自分たちで演奏してなかった曲があったらしいです。まあ、それはいいとして、エレクトーンプレイヤーだったから映画音楽をよく聴いてましたね。バート・バカラック、フランシス・レイ、カーペンターズ、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ、シカゴ。それからタワー・オブ・パワーは今でも好きです。アース・ウインド・アンド・ファイアーはその後でした。結構ブラス系の派手なものが好きでしたね。だけどあんまりロックとか、ジャズはあんまり聴いてなかったですね。レッド・ツェッペリンの全盛の頃とかもよく聴いてなかったし。僕が大きくなってカシオペアに入るころになって、チック・コリア、ハービー・ハンコック、ビル・エバンス、カウント・ベイシーなんかを勉強の過程で聴いてました。その中でもチック・コリアとハービー・ハンコックはすごいなと思いましたね。
美芽.
いわゆる、熱狂的にコピーしまくる・・・というのとはちょっと違ってたんですか?
向谷.
タワー・オブ・パワーが一番好きでしたね。僕はエレクトーンプレイヤーだったからチェスター・トンプソンってオルガニストが、ハモンドオルガンの使い方がすごく上手くて好きでした。それから忘れちゃいけないのが、エマーソン・レイク・アンドパーマーとかイエスですね。このへんはシンセサイザーの初期のサウンドなんですが、最後にピアノに斧を立てるとか(笑)、いわゆるプログレシッブ・ロックの原型でしょう。このへんは難波(弘之)君とか詳しいと思いますけど。
僕らのデビューした頃は、フュージョンって言葉はなかったんですよ。T-スクェアもそうだと思うけど。えっと、あとからできた言葉なんです。僕らがバンドとして長生きできたのは、言葉としてフュージョンが出る前からはじめたものなので、オリジナリティが強いからじゃないかな。だけど一時、いろんな人がフュージョンをやりはじめてブームがまっただ中のときには、フュージョンなんて作った覚えもないのになんでそう言われるんだ、なんてね。今は全然問題ないですけど。フュージョンという言葉のない頃にデビューしたわれわれは、フュージョンブームのかやの外だったんですよ。みんなその「フュージョンがやりたい」っていうひとは、おいしいところだけもっていってキメが「タッタッタッタッ」と入って、なんでここにあるんだっていう速いフレーズがあったり、このコード進行はやめたほうがいいんじゃないかっていうのがいっぱいあったり。それが粗製濫造を産んで、今だから言っちゃっていいと思いますけど、市場はそんなに大きくないのに共食い状態になっちゃたわけですよ。ジャズフェスに出れば最初から最後までフュージョンのバンドばっかりで、トリはカシオペアかT-スクェアで。80年代の中盤・・・今から10年ぐらい前のことかな。ほとんどがジャズミュージシャンでした。名前まで言えませんけど、ジャズミュージシャンがバンドの名前をつけてやるわけですよ。4ビートとか弾かせたらもう凄い人が、16ビートとかやってるわけですよ。それは違うんじゃないの?ってことになるんですよね。

僕らが一番辛かったのは、それでブームが去って「向谷さん、フュージョンブームは終わったと思うんですが、いかがですか」って言われるんだけど。始まったのも終わったのも僕のせいじゃない。それ以前の1970年代からやっていたわけですから。だけど、レコード会社のフュージョンっていう枠に入れておけば売れやすいという思惑もあったりしたんでしょうけどね。だけど今考えると、大量にバンドが出てブームが去って、ブームが終わって、と言われ続けて今日まで来ているわけです。僕は人ごとのように見てましたね。なんだこれは?って。
美芽.
フュージョンを聴く人って、30代に特に多いですよね。
向谷.
あのころ良かったのは、フュージョンやりたいって楽器を練習したりとか、予備軍というか若い人もカシオペアのコピーやってくれたりとか、そういう人が沢山いたってことですね。僕らもブームの恩恵は若干受けたかもしれないです。今は、楽器をやるっていうこと自体メジャーじゃなくなっちゃった。我々のような音楽には、必要最低限の技術と音楽知識がいるじゃないですか。それを習得して、自分のオリジナルの表現と、バンドとしてのオリジナルのカラーを出して、なおかつインストゥルメンタルでやっていくことは手間も暇もかかりすぎる。一方で世の中はこんなに便利になっているのに、そんな苦難の道で、うまくいくかどうかわからない世界にどの程度の人が興味を持ってくれるかっていうのは・・・以前と今では状況が変わってるんじゃないかなあ。ブームってそういう人たちが支えますからね。目標となるバンドや状況があれば、またいい意味でのブームってできると思うんです。前のブームは「こうやったらフュージョンって儲かるんじゃないの?」っていう部分が多すぎたから終わってしまったわけで、実態が伴ってればもう少し長続きしたんじゃないかなと思う。
 要は、カシオペアとかT-スクェアのメンバーがプール付きの豪邸に自家用飛行機でも持っていればみんなやるんですよ。そういう世界が約束されてれば目標になるわけです。でも、ミュージシャンレベルでバンド活動やっても日本の場合はそういう生活できない。我々はそこそこのレベルの生活ですから、なかなか目標になりにくいわけですよね。楽器を弾く人の絶対数が減ってますから、カシオペアなんかぶちのめしたいみたいなバンドがなかなか出てこなんじゃないかなあ。そういう存在が出てこないと、我々も怠けちゃうんですよ。「うわあ、こいつらすごい、寝首をかかれるぞ」みたいなのがね。そういう下克上の世界が一番望ましいわけですから。「なにいってんだ、この老人は」みたいに言われてもいいわけですよね。「なにくそ!お前らにこんなことできるか!」っていうのが最良のケースなんだけど。
美芽.
若手ではディメンションとかが出てきてますけど、聴かれますか?
向谷.
たまに。結構人気あるみたいですよね。ニフティの書き込みとかでも結構ありますしね。
美芽.
そういった形で、もっと出てきて欲しいかなって感じですか?
向谷.
そうですね。
美芽.
世界中のミュージシャンと誰でも共演していい、と言われたら誰がいいですか?全パートお願いします。
向谷.
ハービー・ハンコックとテレビでインターネットを使って共演したことがあるんで、彼とはまた共演したいですね。ギタリストは・・・リーリトナーはよく知ってしるなあ。面白かったのは香港のギタリストでユージン・パオっていう人。。香港でアーニー・ワッツと交えてセッションしたことがあるんです。パットメセニーをパットメセニーより上手く弾くっていうギタリストですよ。ベースだったらマーカス・ミラー。ドラムはモントルーで元気な姿を見せたスティーブ・ガッドとかいいですね。この面子は面白いかもしれないな。
美芽.
最近よく聴くアルバム、注目してるアルバムは何ですか?
向谷.
SMAPの曲をインストゥルメンタルでカバーした、スマッピーズ。あれの1曲目ですね。オマー・ハキムが叩いてたり。でも、あんまりいろいろなアルバムを聴かないんですよ。僕は不勉強ミュージシャンだから。普通の人よりは聴いてると思うけど、あんまり影響されたくない、っていうのもあるし。

リハーサルと本番

美芽.
向谷さんは、あまり誰かのコピーっていうことはなさらないように感じますが・・・
向谷.
そうですね、僕は苦労して音を出すタイプのミュージシャンなんですよ。見てわかるように、顔がのけぞってるでしょ。あれはやっぱり、スンナリ出ないから。自分としてはどうなっちゃうかわかんない、っていうリスキーな演奏が好きなんですよね。お客さんに聴いてもらえる最低のラインは超すとしても、日によって全然違う演奏になりますね。苦難の道を歩むほうが面白いですから。
美芽.
では、アドリブを練習してそれを弾く、というのとは対極的ですね。
向谷.
もう全然違いますね。リハーサルで真剣に演奏してる人を見ると、もったいないなあって思いますよ。その演奏と本番の演奏が同じだったとしたら、それはちょっと残念だなと思う。カシオペアもリハーサルはソロとかはやらないで、すごく流しますし。
美芽.
本番のためにそれはとってあるわけですね。
向谷.
それはもう当然ですよ。知り合いでリハーサル見せて下さいっていう人がいるんだけど、物理的には可能でも見せたくない。そこでカシオペアを評価されたくないんでね。キメとかは完全にあわせるけど、ソロのところはドラムもベースもあっというまに終わって先にいっちゃいますから。誰も見ていないところでかっこいいフレーズが出ちゃったら、もったいないじゃないですか。そうなると、本番に「あれをもう一度やりたい」って亡霊のように残っちゃう。それで邪念が入る。「さっき練習で出たあのフレーズを弾こう」と思った瞬間に鮮度ゼロになってしまう。しらけちゃうんですよ。
美芽.
そういう積極的な意味で、リハーサルではあまりテンションを上げないということですか?
向谷.
いや、カシオペアはライブの前のリハーサルも日数をとりますし、本番前もソロバートをやらないだけで本番と同じぐらいの時間はやるんです。突然本番が始まっちゃうイベントやジャスフェスを除いて、手のうごきや身体は充分にウォームアップはできてると思いますね。この歳になると、アドリブって練習しても上手くならないんです。だからやるとしたら新しい理論的なバックボーンをつけるとか、いろんなスケールを勉強するとか方法はありますけれど。それは専門にやっている人に任せればいいことで、カシオペアのスタイルじゃない。だから、自分を白紙の状態にしておくことが一番大切なんです。
美芽.
本番までの気持ちの持っていきかたということに、すごく気を使っているわけですね。
向谷.
プロのミュージシャンはみんなそうじゃないんですか?そうじゃなきゃおかしいと思いますよ。練習してそのまま演奏するだけだったら、アドリブとかインプロビゼーションってなんだってことになる。段取りが面白かったり曲がいいっていうのも大切なファクターだけど、名古屋で、大阪で、東京で見て全部同じ演奏してたら面白くない。「今日はあんな顔してこんなフレーズ始まっちゃった」「長さがこんなに長かった、短かった」「止まらなかった」・・・それが人間の演奏だと思います。演奏の全部が日によって変わってたらなったら、すごくアバンギャルドなバンドになっちゃうんで、カシオペアの場合それは一部です。でも、その部分は大事にしていきたいですね。
美芽.
今回のアルバムとツアーでは、ループ物を使用してますよね。今まではあまりなかったように思うんですが。
向谷.
ええ、シーケンサーは絶対使わないバンドだったんです。DATを流してやったことは結構あるんですけど。今回、神保くんはトリガーソロのスペシャリストですから、いろんなパターンを流しながら、クリックなしで演奏できるんです。クリック聴きながらヘッドホンつけてやるのって、抵抗があるんですよ。ヘッドホンつけてもつけなくても同じことかもしれないんですけど、野呂くんは絶対許さないタイプなんです。レコーディングでもそれでやってますしね。ただ、僕は今回のアルバムでかいた「RIDDLE」って曲をライブでは長くソロを弾いちゃったりして、演奏のたびにサイズがバラバラなわけです。シーケンサーとかクリックでやると、曲の長さが決まっちゃう。ループでやる場合は、決まったパターンを繰り返し流しているので曲の長さは自由に変えられますから。だから絶対的なリズムは決まっているっていう点は同じだけど、その上に乗ってどう遊んでもいいっていうのがある。サイズも曲によっては自由だ、ということで。やってても楽しいですよ。



Interviewed by Mime
Photography by Wahei Onuki
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