向谷実 Interview

ツアーを終えて

向谷.
まだツアーが終わったばかりで、NHKホールの盛り上がりで火照った状態がやっとクールダウンしたかなって感じなんですよ。あれはやってても気持ちよかったですから。
美芽.
やっぱり一週間ぐらい落ち着くのに時間がかかるんでしょうか。
向谷.
NHKホールだけじゃなくてツアーが終わったということでね。最後に花火を打ち上げて。あの櫻井くんが出てきて、ナルチョが消えて櫻井くんが残ったときのお客さんの驚き声が結構すごいなと。みんな目が飛んでたと言うか「ウワーッ!」みたいな。面白かったですよ。あっさりやろうと思ってたんですよ。あの「出発進行」もナルチョに言えっていわれて言ったんです。ステージ場で櫻井君、神保君とのこれまでの細かい話をすると長くなっちゃうんでね。あっさり呼んで、みなさんにお聴かせしようと。
美芽.
「DAZZLING」で向谷さんの歌が聴けたのが良かったです。
向谷.
ボコーダーね(笑)。全然練習しなかったですね。あれはもう外に運べないぐらいボロボロに壊れてるんですよ。ツアー中にボコーダーのことは誰も言わなくて、うちのローディーのところにあったんです。突然ローディーが「NHKホールでボコーダー使いません?東京だったら運ぶのもラクだし」っていうから「何だ、最初から言えば全部の場所でやったのに」っていったんですけどね。東京の前々日の札幌で言い出したんですよ。「鳴るの?」て聞いたら、「何かが壊れているのでエフェクターでなんとかすれば鳴るはずです」っていう。「持ってきてセッティングして、鳴らなかったらやめようね」という話で、持ってきたらちゃんと鳴ったんですよ。申し訳ないことにNHKホールだけだったんですよね。次からはもうないと思います(笑)。
美芽.
あれは、歌いながら両手が90度になってる、すごい、って思いました。
向谷.
えっ、でも鍵盤なんて普段から見てないです。キーボードプレイヤーって鍵盤を見ないですよ。音がパッと遠くに飛んだときにちゃんと手がいっているか確認したら、あとはほとんど見ないんじゃないかな。
美芽.
あの、下を向いて鍵盤に顔が近づいているときは見てないんですか?
向谷.
あれは目をつぶっています。
美芽.
えっ!!そうなんですか!?
向谷.
普段も鍵盤の方向は見ているかもしれないけど、焦点は合ってないですよね。他の人にも聞いておいてくださいよ。たぶん見てないと思うけど。あ、そうか、「DAZZLING」だとボコーダーに顔を近づけるから、片方の手が全然違う向きになっちゃうんで注目されるのかな。でも、そういうところが見られてるとは思わなかったですね。この前通信でも「90度奏法」がなんとかかんとか書いてあって、「そうやって見てたのか」なんてね(笑)。「今度は180度もできるよ」なんてね(笑)。
美芽.
ボコーダーをまた聴きたいです!!
向谷.
ボコーダーはねえ、もう作ってないんですよ。レアものを見つけるしかないんだろうな。あれは、重症の患者を無理やり病院から引っぱり出してきたようなものですからね。あれが原因でご臨終になってしまったかもしれない(笑)。
美芽.
そういえば、野呂さんが歌ってくれるという話も前にあったなって一瞬思い出したんですが。
向谷.
やろうとしたんだけど、PAが上手く行かないんだよね。だって歌バンの音量じゃないもん。野呂君の場所でマイク立てて歌ったりしたらベースとかギターとかドラムの音が「ドーン」って入ってきて、歌は全然聴こえないでしょう。
美芽.
今回の曲順ですが、1曲目で意表を突かれたなという感じがしました。30分ぶっ通しのメドレーはすごかったですね。
向谷.
ニフティのJAZZフォーラムで、T-スクェアとカシオペアの会議室がありますよね。僕だけじゃなくてみんな気にしてると思うんだけど。7月の日比谷の野音のイベントでは、結構自分でも積極的にやったし、お客さんも入ったんでもう少し反響があるかなと思ったんですけど・・・もう少し書き込みが欲しかったですね。寂しかったな。
(注:ニフティサーブには10月末にフュージョンフォーラムが開設され、カシオペア・T-スクェアの会議室が常設されている)
美芽.
このごろずいぶん業界の人が見てらっしゃるということで、あまり言いたい放題書くのもまずいんじゃないかという雰囲気はあるんですよ。
向谷.
構わないんじゃないんですか?まあ、でもどんな内容でもみなさんそれぞれ考えがあって書かれるんじゃないかと思うから、それはそれでいいと思うんですけどね。いわゆる公序良俗に反しない、誹謗中傷でない範囲でなら、疑問を持ったときには自分なりの意見っていうのを書いてもらうのはいいと思うんですよ。逆にそういうことを言われて「やってられないよ」っていうミュージシャンはやめたほうがいいですから。
美芽.
1曲目がすごく昔の曲の「Black Joke」で、かなりびっくりしましたけど・・・。あの、ニフティでやってる1曲目あてクイズの意表を突きたいというのはあるんでしょうか?
向谷.
いや、前に僕は1曲目もアンコール前の曲も当てられちゃってけど、そのへんはあんまり気にしてないんです。なんでああなったのか、僕もよくわからないなあ・・・。カシオペアの場合は野呂くんがリーダーだから、コンサートの構成をどんなふうにやろうかっていうのは彼が考えてくるんですよ。そういうときに最初からメドレーをやってみようか、っていうのがあったんですね。前半の終わりとか終盤にメドレーっていうのは今までもあったんですけど。ウォームアップしてないで30分ぶっ通しで弾きまくるというのはねえ。リハーサルではひどかったんですよ、「ダメだ、これ」とかいって(笑)。ダメっていうか、失敗しちゃうかもしれないっていう。まあ、神保くんがいるからそのへんは気楽に臨みましたけど。
美芽.
やはり、そこで神保さんがいるっていう安心感は大きいですか。
向谷.
ああ、ものすごく大きいですね。ひとつは僕と野呂くんの暗黙の了解で神保くんのいたころの曲をたくさんやったほうがいいだろう、っていうのがあったんですよ。お客さんを見てもお子さま連れの方がいらっしゃるように平均年齢が高まってきてますし、昔の曲をやったほうがいいだろうと。新生カシオペアになってからの何年間からはドラムを中心にメンバーチェンジもあったし、我々もいろいろトライはしてたんですけど結果を出せてたわけじゃないんでね。今回は新しいアルバムで神保君が叩いてる曲と、メンバーチェンジ前の神保君の曲と両方フューチャーしたということになるんです。昔の作品は「ASIAN DREAMER」っていう2枚組のアルバムでセルフカバーしてるんですけど、僕もすごく悩んだ部分があって。例えばASAYAKEを昔のアレンジでやるべきか、新しいバージョンでやるのか。(「ASAYAKE」はメンバーチェンジ後のセルカバーアルバム「ASIAN DREMER」で新しいアレンジがなされている)でも、あのラテンバージョンは鳴瀬さんが引っ張ってきたので、そこは彼の考え方を尊重したほうがいいかな、とかね。ニフティを見てるとASAYAKEの場合は昔のほうがいいっていう人もいますけどね。いやあ、みなさんよく見てらっしゃいますよ。ASIAN DREAMER以降はイントロがストリングスになってたのに、大阪ではブラスの音色だったって書いてあったけど、あれは僕のミスですからね(笑)。いやあわかっちゃったか、ハハハって感じです。
美芽.
まあ、非常に詳しく突っ込んでる方もいますよね。(苦笑)
向谷.
いや、いいんじゃないんですか。トレインシミュレータと同じですよ。でも僕らは個別の部分だけじゃなくて、全体としての音楽の評価が一番助かりますね。まあ、好きな方は重箱の隅をつつくし、僕も逆の立場だったらやると思うんでいいと思うんですけど。ただ、全体的にインストゥルメンタルミュージックの発展をいい方向で望みたいですし、そういう意味でニフティのFJAZZ14番とか、CyberFusionあたりにはぜひとも頑張ってやっていただきたいですよね。
僕は今年一番やりたかったのは、もっとアグレッシブに行動するってことだったんです。この神保くんの件と7月の野音とか。あんなにうまくいくとは思わなかったですけど。他のバンドに出稽古にいってやるっていう。自分で思い出に残ったのはT-スクェアの和泉君とやったピアノのデュオですね。彼はカザルスホールでリサイタルやったりピアノのアルバム出したりしてますけど、そういうことをやりたいって気持ちはすごくわかるんです。ああやって二人でやったのって初めてだったんで、性格の違いがもろに出たって感じで楽しかったです。
美芽.
ぜひ、これで終わりにしないでまた来年も野音でカシオペアとJIMSAKUとT-スクェアの共演はやってほしいですね。
向谷.
レコード会社が違う問題もあるんで、簡単にはいかないんですけどね。昔の駒ヶ根みたいにスポンサーが理解を示してくれるイベントがあれば、やはりこういうバンドっていうのは全員がバラバラに演奏して最後に合同演奏してっていうのではなくて、お互いのバンドに出稽古にいってリハーサルして、その上で突っ込んだセッションをやるっていうのを是非続けたいですよね。
 急に決まったし、短期間でリハーサルやるのは時間がとれなくて大変だったんです。我々はレコーディング中で、T-スクェアはツアー中でしたから。ベースとドラムのセッションは、結局当日しかリハーサルとれなかったし、僕はT-スクェアに「HARD BOILD」でセッション入りましたけど、あれはツアーの最中にリハーサルに行ったんですよ。そのときに伊東たけしさんも来たのかな。
美芽.
今回の野音のライブでは、カシオペアのステージ以外でT-スクェアと、和泉さんとのデュオを演奏なさっていましたよね。やはり、和泉さんとのデュオは強く印象に残ってますか?
向谷.
そうですね、あれは和泉君にうちに来てもらって、僕がたたき台を出して「こんな感じの曲だったらお互い目立つんじゃないの?」みたいな感じで(笑)。譜面を書いたものと、MIDIのマイナスワンデータを渡しました。彼も忙しかったですから。それでT-スクェアのツアーのリハーサルに行ってこっちのリハーサルもやったんですけどね。何が大変かっていうとですね、僕は正面向いて演奏して、彼は横を向いて演奏してるんですよ。だから正面を向き合わないと目が合わない。日比谷の野音でみなさんおわかりになったと思うんですけど、普段のカシオペアのステージでは正面を向いて演奏するんだけど、この日は僕は横(ステージの中心)を向いて演奏してたでしょ。リズムとかタイミングもかなり複雑な感じでしたから、そっちにしないと和泉君と目が合わないので90度動かしてもらったんですよ。和泉くんとやるときは良かったんだけど、カシオペアでやるときにはやりにくくてね。左側がスカスカで、横を向いて演奏するのは20年ぶりぐらいでしたから。まあなんとかできましたからね。もうちょっと暗ければよかったんですけどね。(笑)ああいうことは、今後もやっていきたいなと。
美芽.
11月に、櫻井さんのバースデーライブの一環としてオリジナルカシオペアライブというのがあるみたいですよね。
向谷.
櫻井君が40才のバースデーパーディーを企画していて、それを手伝ってくれって言われたんですよ。「あ、いいよ」って言ったら、六本木ピットイン2日間と名古屋と京都RAGと神戸チキンジョージが入ってましてね。ピットインの2日間というのが野呂くん、僕、櫻井くん、神保くんで昔のカシオペアのメンバーそのまんま。ピットインの1日目のゲストが鳴瀬さんだし。そのあとの名古屋とか京都、神戸は神保君がヨーロッパに行っちゃうんでドラムが則竹くん。全日程、僕バックミュージシャンなんですよね(笑)。
美芽.
あれは、決まった時点でどうやってチケットとろうか大騒ぎになりましたよ。10月1日がピットインの分の発売でしたけど、3・4日前からピットインに並んでる人がいたという。
向谷.
え、じゃあ昔のカシオペアの曲やらないとまずいのかな。櫻井くんは今回たくさんライブを持ってるでしょ。10月の下旬に1回しかリハがないんですよ。だから彼はカシオペアの昔の曲とか、自分の曲とかやろうっていうんだろうな。想像ではね、ベースが目立ってかっこいい曲っていったらデビューアルバムから「タイムリミット」とかあのへんやるんじゃないかな。それからあとは「RED ZONE」。桜吹雪でもやったらしいし。「SALING ALONE」とか・・・「HALLE」もやるのかなあ。と、まだわかんないですけどね。しかし、それは真剣にやらなきゃいかんなあ。リハーサル1日なんだけどなあ。(笑)僕はこういう裏話は全部書いてもらってかまわないんです。もっともっとやれることがあると思うんで、煽ってもらってかまわないし、日比谷の野音みたいなイベントを東京以外でやってほしいていうのがあれば、世論の力で動かされるわけですよ(笑)。それはそれで構わないと思うんです。
美芽.
ニフティでT-スクェアとカシオペアの会議室ができて、オットットリオもそうだし、「こんなことがあったらいいな」って言われていたことが、バンバン実現してますよね。今年の野音のライブというのはその最たるものだと思いますけど。
向谷.
野音に関しては僕は積極的にやったんです。7月20日にT-スクェアが日比谷の野音を押さえてあるっていうんで、僕が和泉くんと月刊エレクトーンの対談があったときに「あ、それカシオペアとかみんな出して。T-スクェアがトリでいいから。みんなでぐちゃぐちゃのライブやろうよ」って言い出したんです。JIMSAKUも押さえて、話はどんどん進んで。そこで僕がNHKホールで櫻井くん呼ぼうって発表した。あのときから僕自身は「HALLE」をやろうって決めてたんですよ。全員の曲ですから。今後やるとしたら神保君の名曲である「MID MANHATTAN」とか、あのへんをいつやったらいいのかなと思ってますけど。まあ、そのへんは野呂くんを説得して。
美芽.
説得、になるわけですか?
向谷.
野呂くんのほうから提案がある場合もあるから、いろいろですけどね。でもやっぱり野呂くんとか揺れてると思いますよ。と、ひとごとのように言うけど、やっぱり我々が2人2人に分かれちゃったという大きな経緯がある。そのあとお互いに苦労してるわけですよね。カシオペアはなかなかメンバーが固まらないし、JIMSAKUは大きなユニットから小さなユニットに変わったりとか。お互い苦労して茨の道を歩いてるわけですから(笑)。だからあまり簡単に一緒にするのも複雑な心境だし、でもニーズにも応えたいし。
美芽.
そういったもろもろの状況があるにもかかわらず、今年はファンとして聴きたいものがたくさん聴けたのですごく幸せです。
向谷.
今年は花盛りでしたね。
美芽.
ハービー・メイソンと共演するっていうのがすごくビックリしましたし・・・。でも、デイブ・ウェックルとやって欲しいっていう意見もありましたよね(笑)。
向谷.
神保君は、ヨーロッパのドラムセミナーではデイブ・ウェックルと一緒にやるんじゃなかったかな。
美芽.
また来年アルバムを作るときに、サポートドラマーとしてドラムに海外のミュージシャンを入れて作るってことは考えてますか?
向谷.
いや、僕の意識としてはカシオペアとしては、来年も再来年も、その次の年も神保君とやっていくんじゃないかと思うんですよ。で、レコーディングもね。彼がどうするかわからないけれど。それぞれのスケジューリングが難しいですけれどね。みんなそれぞれやってますから。神保君は別の事務所ですから。なんとか合理的な方法が見つかるとコンサートも沢山できると思うし、密な活動ができると思うんですけどね。T-スクェアとか他のバンドのセッションとやる場合に、やっぱりお互いのスケジュールを出して行かなきゃならないわけですよ。今度の25日に高崎音楽祭ではセッションみたいなことやるんです。元・オルケスタ・デ・ラ・ルスのカルロス菅野くん、渡辺真知子さんとか。割とラテン系のちょっと派手なものを。今年はすごく、そういう試みが上手く行ったかなと思いますね。
美芽.
以前はワールドツアーなど、かなり行ってらっしゃいましたが・・・
向谷.
そうですね。去年は韓国と、アルバム「FLOWERS」録音のときにオランダのNORTH SEA JAZZ FESTIVALに出演しましたから。今年のロサンゼルスではレコーディングしかできませんでしたけど。来年はちょっと気合いを入れてやりたいなと思ってます。ただ。航空運賃とカーゴ代が高いんでね・・・。やりたいって意識は強くて、名古屋かどこかの打ち上げで「来年はやるぞ!」って盛り上がってましたけど。(笑)自分たちだけじゃできないんで、スポンサーを見つけないとダメなんですよ。
アルバムのリリースは海外でも結構されてるんですけどね。この前も神保君がインドネシアで「なんでカシオペアは来ないんだ」ってさんざん言われたそうだし。
美芽.
向谷さんはメンバーチェンジ後のアルバムで、かなり変わった感じの曲・・・例えば「アジア系」とか「70年代風」といった曲がありますけど、どういった意図で作ってらっしゃるんですか?自然と・・・
向谷.
そうですねえ・・・。そうじゃなかった曲がああなっちゃった、って曲もあるんですけどね。今回のアルバムに入ってる曲も、片方は歌謡曲に近いようなメロディラインで、自分も歌いながら詞をつけちゃたりして・・・・。「探さないでちょうだい・・」とかね。(笑)「うわークサイ!!」とかね。で、そういうセリフに対して「さくらと一郎」じゃないけど、面白いんじゃないかなと。(笑)もう一つはやっぱりコンピュータとかマルチメディアをやってると、頭がどうしてもロジカルになって順列組み合わせみたいになっちゃうんですよ。あんまり知られてませんけど、トレインシミュレータのBGMには結構名曲が入ってるんですよ。特に、南部縦貫鉄道のBGMには自信があるんですけどね。ニフティの鉄道フォーラムでは結構評判がよくて、「あ、やったあ」って思ったり。音楽家がやってるんですから当たり前なんですけど(笑)。
美芽.
では、特に「全体のバランスを考えて」「野呂さんとは違うカラーで」といった意図があるわけでもないんですね。
向谷.
うん、カシオペアらしい曲っていうのは、野呂くんが一番上手いんです。僕は僕の好きな方向でやってるけど。でも、まだまだ勉強することはいっぱいありますね。



Interviewed by Mime
Photography by Wahei Onuki
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