深町純
 ソロピアノリサイタル
 天才・深町純の直感的音楽探究の記録! 深町純がこの1年間カフェなどで繰り広げたピアノソロによる即興演奏の記録。 即興ならではのスリリングな音楽展開と、超絶技巧が堪能できます。
2004.5.15発売
深町純「即興ライヴ!」
MSCD-0014 2,625円(税込)
即興演奏

聴かなかったことにしても
いい即興的哀歌
2004.05.09 銀座
王子ホール
深町純HP ミュージックスケイプ
ライブレポート
<セットリスト>
1 即興1
2 即興2 (テーマ:母)
3 即興3 (テーマ:国民年金)
4 即興4 (テーマ:王子ホール)
−休憩−
5 組曲「聴かなかったことにしてしてもいい即興的哀歌」
アンコール1:ショパン:ノクターン第20番嬰ハ短調
アンコール2:即興

「演奏会」ではない。「事件」だ。

LIVE広告にはこう書かれていたが、あながち単なる広告文句だけでは無い気配がする。
Fusion初期から最盛期にかける、シンセサイザー奏者としての深町純を良く知るファンには、まさに事件そのものだからだ。
近年はソロ・ピアノの活動が多いそうだが、やはり「深町純」と聞けば、そこにカリスマ性を感じる。
それが生のライブで!しかも即興演奏!また世界初演の組曲!・・・と来れば、とんでもない出来事になると予感してしまった。

【演奏曲レポート】
即興演奏中心なため、今後繰り返されることはないのであろう。
果たして解説の意味があるかわからないが、それぞれの演奏を以下にレポートする。


1.即興1
果たして深町純の即興とは?・・・その疑問と期待に答えを出す1音が発せられたとき、コンサートは始まった。
ピアノのほとんど最低音の音がホールに響き、そしてアルペジオ的にゆっくりと上昇する。
まるでベートーベン「幻想ポロネーズ」の冒頭のように、荘厳なメロディ。
そこからストレートなメロディでインプロビゼーションが進んで行く。
即興の語法がクラシックに近い感じがしたが、展開が自由でかつドラマチックな演奏だ。


ここで深町自身のマイクが入る。
次の2曲を続けて演奏することをアナウンスし、その1つが母の日(5月9日)ということで母にささげたもので、後のは国民年金(!)の曲であると告げて演奏に移る。(この時、国民年金は当然Jokeだと思ったのだが・・。)

2.即興2(テーマ:母)
 この演奏もクラシック的な響きを持っている。
16世紀の古楽を思わせるような和音が続き、それを賛歌(Hymn)と呼びたくなるような曲だ。
まさに心洗われるようなピュアなメロディで、これが本当に即興なのだろうか?と疑いたくなるほど、完成度が高く感動的な演奏である。


3 即興3 (テーマ:国民年金)
 最初は冗談かと思ったが、冗談ではなかった。それどころか非常に面白く、個人的にはこのコンサートで一番に思った。

ぶっきらぼうにガンガンと短く音を鳴らすと、深町は手を下ろす。終わったようにも、もしくは一瞬の精神の統一を図ったかにも見える。
するとそこから不協和音のメロディを弾き始める・・・・が、これが不協和音に聞こえなくなるとき「あ、これはセロニアス・モンクのようじゃないか」と気づいた。
そしてメロディが変わり、今度はまるでバルトークのピアノ・ソナタのように速く、力強いタッチでパーカッシブにピアノが鳴らされる。
あまりのスリルに演奏に引き込まれていくと、いつのまにかまたピアノの表情が変わる・・・優しく、力強く、これはまさに深町純のピュアなピアノそのものになったように思う。
非常に素晴らしい演奏だ。これが国民年金?・・・いやいや、これはJazzから現代曲、そして現在とを結んだ時空を超えたソナタではなかったかと思った。


4 即興4 (テーマ:王子ホール)
 前半最後の曲はこのコンサートが行われている、王子ホールのためにと題された即興である。
これが牧歌的というか、ヒューマニックでぬくもりを感じる素敵な演奏に思う。


5 組曲「聴かなかったことにしてしてもいい即興的哀歌」
休憩を挟み、深町が1年をかけて書いたという大作の世界初演である。
前半の即興とは違い、譜面に書かれた、よく練りこまれた演奏だという違いを感じた。
初演な曲なのでレポートは難しいのだが、とてもロマンティックな演奏で、メロディがとても心地よかった。
気持ち的には、ドビュッシーのピアノ曲を堪能してるのと同じ種類の感慨を持った演奏に思った。


6 アンコール1 ショパン:ノクターン第20番嬰ハ短調
「アンコールは普段はやらない」と言った深町純が弾き出したのは、ショパンの夜想曲。
このコンサートにおいて唯一、スタンダードというか、多くの人に弾き継がれた名曲である。
演奏は原曲のままストレートなものでそのまま素直に感動してしまった。


7 アンコール2 即興
ゴスペル風でリズミックなノリの良いピアノがこのコンサートの最後に演奏された。
これを聴いたらFusionファンなら「リチャード・ティー」の名前が出てくるであろう。
そう書けばその楽しさはわかってもらえると思います。
まさか最後にコレとはなんと楽しいんだ!と驚きながら、コンサートの幕は閉じた。


【感想】
コンサートが終わった雑感ですが、「即興」という難しい印象など全く無く、むしろ即興なのになじみやすく、楽しいコンサートを堪能できました。
即興と言われた4曲は、いずれもメロディに溢れ、しかも即興にありがちな冗長な部分がほとんど無いのには驚きました。
それと世界初演のピアノ組曲ですが、とても気持ちの良い演奏であり、曲だったと思います。
ただ、ちょっと長い演奏で、細部までうまく聞き取れてなかったのですが、こちらは再演のきく譜面ですので次回に聞く機会が楽しみです。(それとCDでじっくり聴いてみたい!!)

それにしても別掲のインタビューにもあるように、JAPAN ALLSTARSやピアノ・ソロと、ますます活動が盛んな深町純。
もしかしたら過去の作品の再発の可能性も伺わせることからすごく期待を持ってしまいます。(果たして「On The Move」や「QUARK」のCDは出るのか?)
そういう意味では、現在はややFusionから離れた活動をされているようですが、Fusionファンにも深町純の周囲がまたちょっと気になる存在に浮かび上がってくる予感がします。(TKO)
  

ライブレポート :  TKO         PHOTO : アスワン

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特集 : New York Allstars Live