Q1.
レコーディング中にインタビューの機会をくださってありがとうございます。お疲れじゃないですか?
David Benoit(以下DB):
いや、大丈夫だよ!
Q2.
ミュージシャンとしてスタジオに入るのと、プロデューサーとしてスタジオに入るのとどちらが好きですか?
DB:
どっちも好きだな。もちろんミュージシャンとしてプレイするのも好きだし、時折こうしてプロデューサーとしてスタジオに入るのも好きだよ。特に、Yasuのような、いろいろな提案に対してもすごくオープンで協力的な、才能あふれるミュージシャンと一緒に仕事をするのは楽しいんだ。それに僕自身もプロデューサーとしていろいろと勉強できるしね。
Q3.
ミュージシャンとしてアルバムを作るのと、誰かのアルバムをプロデュースするのとでは、何か違いはありますか?
DB:
僕は自分のアルバムを何枚かプロデュースをしてるからね、かなり類似点が多いと思うよ。実際、レコーディングでは、僕自身が自分のアルバムがどんなサウンドになるかを決めているし。相違点をあげるとしたら、プロデューサーとして動く場合の方が、より客観的な耳を持てるってことかな。ミュージシャンとしてレコーディングしている時は、僕は自分の音により感情的に反応してしまうし、もっと自分の演奏のことを考えると思うんだ。プロデューサーとして動く場合は、違ったスタンスでプロジェクト全体を考えるからね、例えばうまく進んでるかとか、みんなが気持ちよく演奏しているか、とかね。だからプロデューサーとしての立場は、ミュージシャンに比べてもっと中立的だと思うんだ。うまくレコーディングが進んでるかを気遣うってことだね。それが大きな違いだと思うよ。
Q4.
これまでに22枚のソロアルバムをリリースされていますが、それぞれ聴いてみると、時にはストレートアヘッドのジャズであり時にはスムースジャズであり、まさにあなたはこの2つのジャズの境界を行き来するミュージシャンだと思うのですが、ご自身では自分のスタイルについてどのように考えていますか。ストレートアヘッドのジャズとスムースジャズとどちらのジャズの演奏をより楽しんでいらっしゃいますか?
DB:
僕のコンサートを見てくれた人はわかると思うんだけど、僕はどっちのジャズも演るよね・・・ファンキーなスムースジャズのグルーブもあるし、Dave Brubeck調のストレートアヘッドのジャズも演ることもある、それにいい感じのバラードも演る。要は、僕は全部好きなんだよ(笑)。いろいろな理由で、いろいろな場合に、本当にバラエティに富んだ音楽を演るのが楽しいんだ。だから・・・どれが一番楽しいかっていうのに答えるのは難しいなあ。僕は、自分自身を「ピアニスト」って感じてるから、たまにはディープなストレートアヘッドのジャズが弾きたくなる。というのも、その方が演奏家としてより伸び伸びと演奏を楽しめるからなんだ。作曲家としては、時々はスムースジャズを演るのが好きだな・・・というのは、いい感じのメロディがあるし、グルーブがあって演っていて楽しいからね。つまり、それぞれのジャズが違う意味を持ってるんだ。だから本当に僕の気分とその場の雰囲気次第ってことかもしれないな。
Q5.
昨今のスムースジャズについて、「何曲かスムースジャズを演るのはいいと思うけど、アルバムの全曲でスムースジャズを演るのは、あまりにも一辺倒でつまらないのでは?」という意見もあります。あなたは、昨今のスムースジャズの隆盛についてどう思いますか?
DB:
確かにスムースジャズはかなり限られてる印象だね。スムースジャズの問題点は――難しいな、何て表現したらいいか――ややもすれば、結局バックグラウンドミュージックになりかねないってことだと思う。あまりにも音楽がソフトになり過ぎるってことなんじゃないかな。一度ドラムループやシンセサイザーに加えて2度や3度のコード変化に基づいたハーモニックコードを使い出したら、その音楽は聴く人を惹きつける面白い内容ではなくなるよね。結局のところ、特徴のない同じような雰囲気の音楽になる。だから思うに、スムースジャズの問題点っていうのは、「似たり寄ったり」って点だと思うんだ。例えば、このプロデューサーだったらいつもこんな感じのサウンドっていうような、決まりきった音作りのようなね。Yasuのプロジェクトでは、僕は全部ライブでやりたいと思ってるんだ、すごくかっこいいドラマーにベース・プレイヤーと一緒にね。ドラムループは使いたくなかったんだ。というのは、僕にとっては、それらはもう古臭く感じてしまうから。そして、そうやってライブでやることは、スムースジャズを面白い音楽として保つために大切だと思う。
僕がトラディショナルなジャズやクラシカルなジャズとの境界を行ったり来たりする理由は、こういうふうにスムースジャズのこれからを気にしているからでもあるんだ。スムースジャズが「一辺倒でつまらない」かどうかは――僕はその「一辺倒」っていう表現が適切かどうかも――わからないけど、バックグラウンドミュージック風に聴こえてきてるっていうのは確かだと思うからね。
Q6.
あるミュージシャンは「ミューザック」(スーパーマーケットなどでかかっている典型的バックグラウンドミュージック)みたいだ、とも言っています。
DB:
確かに、そこにあるべき満ち溢れるような創造性や音楽的な面白さがないよね。徐々にそういった状況はかわりつつあると思うけど、いまだに多くのミュージシャンが同じようなプロデューサーの同じような音作りに頼り切ってるところもあるし、レコード会社も同じような雰囲気の音楽を揃えようとしてる。それは、僕の懸念でもあるんだけどね。だから僕は、常に新しい新鮮な音を作って行こうって思ってるんだ。
Q7.
では、自分のアルバムをより新鮮な音にしていくポイントは何だと思いますか?
DB:
僕の最新のアルバム「Fuzzy Logic」みたいに、いつもと違ったヨーロッパのプロデューサー――あんまり他のジャズミュージシャンのアルバムに参加してないようなDown To The Boneなんだけど――にお願いしたり、例えば以前のスムースジャズ風のアルバムでは使わなかったオーボエやフレンチホーンといった管楽器を大胆に取り入れてみたり。こういったことは、もちろんスムースジャズという音楽の形式には関係ないんだけど、これに加えていつもと違った感じの作曲方法に挑戦してみたり、いつもよりもアップビートな曲を書いてみたり。ほら、スムースジャズの曲って、似たような感じのゆったりしたテンポでしょう?だから、ちょっとテンポに勢いをつけてみたり。スムースジャズの「似たり寄ったり」にならないように、僕がやれることはいろいろとあるんだ。
そしてこれはYasuのプロジェクトにも共通して言えることなんだよ。つまり、常に新鮮な音を作るよう心がけるってことだね。例えばラテン調の曲でVinnie Caliuta(ヴィニー・カリウダ)の気合の入ったソロなんかだね・・・Vinnieは全くスムースジャズのアルバムに参加したことがなかったし。他にもすごく熱いハーモニカ、ギターとピアノのかけあいみたいに、いろいろな楽器を持ってきたりしてね。だから、たとえ僕らの音楽がスムースジャズとかコンテンポラリージャズと呼ばれるカテゴリーにあるとしても、いくらでも他とは違った音楽にする、新鮮な音作りの方法があるんだ。
Q8.
ところでYasuのアルバムでは、あなたも曲を提供しているのですか?
DB:
うん。あ、でもそれはもともとは、J−WAVEのために書いた曲だったんだ。ただ、日本のファンも多いから、Yasuがその曲をレコーディングしたら面白いと思ってね。
|
Beautiful Moment in LA Yasu Sugiyama |
CD Review |
それは面白いですね。
DB:
演ってて楽しかったよ。それから、Yasuと一緒に曲を書いたりもしたしね、「P. V. Sunset」っていう曲なんだけど。あれはなかなかいい曲だよ。いろいろと違ったことにトライするのは楽しいんだ。Yasuがアルバムカバーの写真を持ってたんだけど、これもすごくいいんだよ。
Q9.
話をあなた自身の作品に戻しますが、あなたが今迄に書いた曲の中で、特別な曲というとどの曲になりますか?以前はライブの時によく「Kei's Song」を演奏されていたのは思い出されるのですが・・・。
DB:
そうだね。それと、僕が父に書いた曲「Dad's Room」(American Landscape)もあげられると思うよ。僕のピアノのと弦楽器のオーケストラと一緒に演奏していて、グラミー賞の中の作曲賞にもノミネートされたんだ。僕にとっては特別な曲だね。それから一番新しいアルバムで僕が娘のJuneに書いた曲、「One Dream At A Time」(Fuzzy Logic)だね。その2曲が僕にとっては特別な曲だな。
個人的にはあなたの「Oceana」が大好きなんですよ。
DB:
え?「Oceana」?? ああ・・・あれはずいぶん昔の曲だよね。
でも、残念ながら、あなたの今迄に発売された楽譜には入ってないんですよね。
DB:
ああ、そうだね、あれは一度も出版してなかったなあ。確かに、ちょっと古い曲を出版するっていうのもいいアイディアだね。いやあ、提案ありがとう!(笑)
Q10.
では最後に、もし無人島に持っていくとしたら、どんなアルバムを選びますか?
DB:
そうだなあ。Miles Davis QuartetのRelaxing に、Stan Getz&Joan Girberto with Astrad Girberto、それとDave BrubeckのTime Outかな。
Time Outっていうと、あの有名な「Take Five」が入ってるのですよね。
DB:
: そうだね。それに加えて4枚目は、Bill Evansが作ったアルバムならどれでも、かな(笑)。なんたって彼は偉大なアーティストだから。
Q11. 今後のプロジェクトや来日の予定などを教えてください。
DB:
今なんとなく考えてるのは、Claude Bolling(訳注)の音楽のアルバムを作りたいってことかな・・・フルートとピアノのための組曲なんだ。まだはっきり言える段階ではないんだけど、今考えてるのはそんな感じのことかな。来日については、いろいろと友人達と話してはいるんだ、あるジャズクラブなんだけどね。希望としては2003年の春、3月とか4月あたりに日本に行ければって思ってるんだ。
(訳注)Claude Bolling: 1930年4月30日フランスに生まれる。ピアニストとしてのみならず、作曲家、編曲家、指揮者としても有名。464週にわたってアメリカのビルボードチャートを賑わした「フルートとジャズピアノのための組曲」という大胆な作品で、文字どおりジャズとクラシックの融合という概念を生み出した。
次はライブでお会いできるのを楽しみにしています。ぜひ中西部にも足を運んでください。ありがとうございました。
DB:
去年はしっかり夏のジャズフェスティバルで行ってたんだよ!(笑)
時折、軽い冗談を交えては楽しそうに笑うDavidは、アルバムカバーの写真から感じるちょっと気難しい印象の音楽家というよりは、親しみやすい陽気なミュージシャンといった感じだ。スムースジャズとストレートアヘッドのジャズを自在に操るこの気さくなピアニストは、常に新鮮な音を作り出そうとする創造力と、その新しい音作りに挑戦する際の微妙な緊張感に満ち溢れているとも言えるだろう。そして、もちろんそうして作り出された新しい音楽には、彼独特のグルーヴと流れるようなメロディがあるのだが、それについてはファンの皆さんも周知の事実、ここで語るのも野暮というものだろう。
さて、ファンキー、リズミック、グルーヴィー、メロディアスといろいろな言葉で表現できるDavidのジャズは、また別の方向へ向かうようだ。ここ最近でクロスオーバーの実験的なアルバムとしては、Dave GrusinとLee Ritenourの共作Two Worldが思い浮かぶが、そのアルバムがかなりクラシック寄りだったことに、一部のファンからはちょっとがっかりした声を聞いた覚えがある。果たしてDavidは、どの音楽にどんなアプローチをするのだろうか?冬の休日の午後、答を探すつもりで彼のソロアルバムをあらためて聴き直してみるのも悪くない。
(まい)
|