Yasu Sugiyama 「Beautiful Moments in L.A. 」インディーズ (YM-1001) 2003 - Japan   
Yasu Sugiyama(piano), Masayoshi Eguchi(g),Tetsuya "Weeping WIllows" Nakamura(harmonica), Abraham Laboriel(bass), Vinnie Calaiuta(drums), David Benoit(produce, kb)

  ○骨太いストレート系  ●明るく爽やか系  ○骨太系と爽やか系の中間 
  ○R&B                 ○ブラック系         ○歌物・NAC/AOR 系       
  ○ラテン系(□ブラジル系  □サルサ系        □カリプソ系)           
  ○ユーロ系            ○JAZZ系          ○JAZZとFUSIONの中間系   
  ○ブルース系          ○ロック系        ●スムース系

このYasu Sugiyamaのアルバムは、まさに彼の純粋な音楽への想いがそのままメロディに、ハーモニーに、リズムになったものだと言える。前作のどちらかというとNY系の曲調をご存知の方にしたら、今回の西海岸を思わせる音にちょっと驚かされるかもしれない。ここではアルバムから数曲、特に気になった曲をご紹介しておこう。

1曲目の「Bright Morning」は、ダークなイメージの出だしから、突然霧が晴れるかのように流れ出る明るいメロディが特に心に残る曲だ。抽象的な表現をすれば、まるで徐々に鮮やかさを増す水彩画に爽やかな風がゆったりと流れているような、そしてその風がそのまま音符になったかのような想像的な曲とでも言うか。文句無しに気持ちの良い曲である。Benoitのようなメロディアスな曲調だが、そこにはYasu独特の、不思議なほどリスナーの想像力をかきたてるピアノの響きがある。それは確かに優しい響きだが決して軽すぎない、言うなればYasuの想いがしっかり込められた感情豊かな響きと言える。アルバムの1曲目として充分に耳を惹きつけてくれる名曲だ。

2曲目はご存知Pat Methenyの名曲「Song For Bilbao」だ。オリジナルは、あのMetheny独特の丸みを帯びた管楽器ような響きのギターシンセがメロディを奏でているが、ここではYasuのピアノをバックにTetsuya "Weeping Willow" 仲村のハーモニカがメロディをとうとうと歌い上げる。どことなくノスタルジックなの音作りに、個人的にはMethenyのLetter from Homeをイメージしたが、みなさんはどう感じるだろうか?

3曲目の「Blue Dawn」はDavidがインタビューでも話していた曲。J−WAVEのJingleでファンの多くには既にお馴染みかもしれない。アルバムの中の曲、不思議なことにやはり作曲者Davidの曲とは何かが違う、つまり既にYasuの曲になっているのだ。Davidよりも各音がさりげなく混ざり合っているような、音と音とが微妙に溶け合っているような、Yasu独特の指運びは、この曲でも強く感じられる。途中、江口正祥のギターソロも秀逸だ。Yasuのピアノがさりげなく響く中、パワフルなドラムとベースにうまく絡んでいく。ここでの江口正祥のギターは、聴く人の胸にまっすぐ入り込んでくるような、そんな印象のメロディと音作りだ。まさにこの曲のハイライトと言ってもいいだろう。

5曲目の「Blue Bird」は個人的にはアルバムの中で最もお勧めしたい曲だ。出だしの反復するメロディ部分で微妙に変化するコード進行が憎いほど心地良い。この、Yasuらしいメロディが優しく響く中、ビートのきいたキャッチーなパートが現れ、やがて転調し、それに続く展開がさらに聴く人の耳を惹きつける。ぜひ一度はヘッドフォンを通して、各パートをじっくり聴くことをお勧めしたい(そこここでさりげなく響くAbeのベースラインも秀逸なのでお聴き逃しなく!)。そして、この曲の最も特筆すべき点は、メロディを支えるベテラン勢のリズムセクションというよりは、Yasuならではの感情豊かなメロディそれ自体とDave Grusinを思い出させるようなリズミックなピアノ、それに加えてその魅力的なYasuのピアノにしっかり絡んで最後まで美しいメロディと音色で魅了してくれる江口正祥のギターだろう。この2人のフロントが曲の間中、まさにずっと「化学反応」を起こしているのである。この「化学反応」――特に曲の終盤に現れるギターのソロの部分と転調後のラストは、フェイドアウトするには惜しいほどだ――は、ぜひ多くの方に実際に耳で確認していただきたいところだ。決して派手な曲ではないが、だからこそ、一つ一つの楽器の音がこれだけ鮮やかに響くのかもしれない。

7曲目の「T's Kitchen」はこのアルバムの中で唯一ディープなブルース調の曲だ。青空の西海岸から突然、ダウンタウン裏通りにあるような、タバコの煙の立ち込める薄暗いバーにでも迷い込んだような雰囲気とでも言うか。さらにこの曲、うまい具合に各楽器がそれぞれソロを取り合っているので、文字どおり真夜中のジャムセッションを聴いているかのような印象だ。特にTEX"ウィーピングウィロウ" 仲村の泥臭いハーモニカ、それに続く江口正祥のブルージーなギターには自然と耳が熱くなる。Abe独特の唸るベースがそれに続き、そこにYasuのファンキーなピアノが絡むのだが、加えてここはVinnieの聴き所でもあるからファンにとってはたまらない。アルバムの最初の数曲を聴いて「音が優しすぎる」と感じた方々にこの曲は必聴だろう。個人的にはYasuのピアノがもっと強く主張していてもいいように感じたが、みなさんはどう感じるだろうか?

8曲目の「P.V.Sunset」はDavidとYasuの共作。優しく流れるメロディはYasu独特のものでもあり、同時にDavidらしいとも言える。二人に共通するメロディアスな曲調がうまく溶け合った名曲だ。優しく流れるピアノは、1曲めの「Bright Morning」や「Blue Dawn」に聴こえる感情豊かな響きで、そこに江口正祥のギターがさりげなく聴かせてくれる。

9曲目の「Seville」はリズムセクションが大活躍の曲。特にここでのAbeのソロは、あの懐かしいKOINONIAを思い出させてくれる。リズム隊好きには必聴の1曲だ。

さて、アルバム全体を通して驚いたのは、名だたるVinnieやAbeに決して引けを取らない日本人ミュージシャン陣だ。リーダーのYasuはもちろんのこと、ギターの江口正祥とハーモニカのTEX"ウィーピングウィロウ" 仲村の貢献には、正直本当に驚かされた。それぞれの曲に必須のスパイス――爽やかなグルーブ感であったり、泥臭いブルージーな響きであったり――は、実はこの日本人ミュージシャン陣が器用に作り出しているもので、これには「Benoitがプロデュースした」という枕詞さえかすんでしまうようだ。

さて、NY系のContemporary Jazzをイメージさせる1枚目に続いて、Los Angeles調の2枚目。では、これからYasu Sugiyamaはどこへ向かうのか・・・興味津々のファンの方々は、ぜひアルバムを聴きながら思いをはせて欲しい。ひょっとしたら、彼のメロディアスなピアノに、予想もしなかった不思議なイマジネーションが生まれるかもしれない。 (まい)

   
Slow                     Speedy
Light                     Heavy
Mellow                     Hard
Lyrical                     Cool
Melodious                     Out of melody/code
Conservative                     Progressive/Tricky
Ensemble                     Interplay

杉山泰のLAレコーディング日記
プロデューサーDavid Benoitのインタビュー