「T-スクェア」安藤まさひろインタビュー
4月1日発売のT-スクェアのニューアルバムは、なんとバンド名=アルバム名という展開になりました。
さらに、今回はT-スクェアにしては珍しく録音前にコンセプトを決めたり、新しくメンバーとなった松本さん(Key)のカラーも大きく反映された内容になっています。・・・ということで、そのあたりの詳細をリーダーの安藤さんにお聞きしてきました。
安藤まさひろメッセージ 28.8kbps ISDN ●安藤まさひろの曲が3曲なのは・・・
−これまでのアルバムは安藤さんの曲が半分以上ということも多かったのに、今回は安藤さんの曲が3曲ですよね。こういうことは、はじめてなんでしょうか?
安藤:一度だけ、あるんですよ。
−えっ!?
安藤:「スターズ・アンド・ムーン」のときは3曲でした。そのときは和泉くんとか久米大ちゃんとかの曲が多かったかな。
−そうでしたか。でも、ここ10年ぐらいは、安藤さんの曲の割合はもう少し高めでしたよね。
安藤:3曲になった理由・・・っていうか、とにかく正直いって(曲が)書けなかったんですよ。
−えっ!? 安藤さんでもそんなことがあるんですか。
安藤:いや、そうですよ、いつも。一生懸命書いてますから、ちょっと気を抜くと書けなくなっちゃういます。あとは、テーマを事前にちゃんと考えてやったのが,すごく珍しいことなんです。
以前は「リゾート」「夏の惑星」でテーマを決めたぐらいで。その頃っていうのはテーマっていっても、「夏」「リゾート」っていう感じだから、すごくシンプルだったんですね。マイナーではなくメジャーの曲、ギターがメロディーをとろうものなら高中正義さんみたいな(笑)、当時はわりとそういった単純な発想だったんです。
僕はあまり劇伴とかテーマをやったことがなかったんですが、近年いくつかゲームの仕事をやっていて、「こういう場面で」「こういうキャラクターに対するテーマソング」っていうのをいくつかやったんです。そのうえで「こういうテーマをやったときには、こういうふうにしないとな」っていう、ノウハウじゃないですけど、自分なりのやり方みたいなものができてきたんですよ。そこで今回はじめて「少年の夢」っていうテーマを持ってやることになった。
けっこう僕なりにテーマを生かすにはどうしたらいいかを考えて曲を作ったんです。そういうこともあって、次から次へと曲ができるというわけにはいかなかった。−何も制約がない状態で作る、というのとは、違ってくるわけですね。
安藤:やっぱり違いますよね。いつもは元気のいい曲ができたら、次はムードのホワッとした曲をつくろうとか、似たような曲を書いていると自分でも飽きちゃうんで。気持ちをあっちこっちに振って、自分が飽きないようにしてつくるんです。
でも、今回はテーマに忠実に考えていったら、あまり勝手にああだこうだ行けなくなっちゃって。そういうこともあったんです。−そして、作曲なさったのがアルバムに入っている3曲だったんでしょうか。
安藤:いちおう4曲あったんですけど、・・・テーマが決まってから作ったのは3曲だったので、アルバムにはそれが入ってます。
−では、安藤さんの曲が20曲ぐらいあったのに、そこから3曲しか採用されなかったとか、そういうわけではないんですね。
安藤:ええ、そうではないんです(笑)。
●テーマ「少年の夢」が決まるまで
−「少年の夢」というテーマについては、いつごろから考えはじめたんですか。
安藤:去年の夏ぐらい。8月の駒ヶ根ジャズフェスに出演する前日のリハーサルの日だったかな。メンバーも全員いたし、青木(プロデューサー)もいたし。いいだ
しっぺは、青木なのかな?−そういう話って何時頃にするんでしょう。
安藤:晩メシを食べながらだから、7時か8時ごろかな?
松井(マネージャー):確か、飛行機の話になったんですよ。その次に「少年の夢」っていう話になって、安藤さんが「少年の夢っていうのもあるよね。ワクワクする感じ」って言って。
安藤:なんで飛行機の話から少年の夢になったのかよく覚えていないんですけど。飛行機の機内誌みたいなのを見ていて、青木が言ったような。なんか、昔の飛行機
で銀色のアルミでできているものが・・・忘れました(笑)。とにかく、飛行機の話からはじまったんですよ。−で、その場でいきなり「来年のアルバムは『少年の夢』しかない!」っていうぐらい、盛り上がったんでしょうか?
安藤:いや、結論は出なかったと思うんですけど、「いいんじゃない?」っていう感じにはなりました。
松井:その後、秋になって「今回のレコーディングはどうしましょう」って、事務所でミーティングしたんですよ。そこでコンセプトを決めるかどうかについて話し合ったりしたんですね。
●完成度にこだわった曲づくり
−それから安藤さんは、1ヶ月とか2ヶ月とかのあいだ、家にこもって曲を書いていたわけですか?
安藤:そうですねぇ・・・他の曲をかく仕事もやっていたので、けっこうぎりぎりまで手をつけなかったじゃないかな。
−安藤さんの曲は、ヴォイスが入っていたりしますけれど、デモテープのときもそういったものが入っているんですか?
安藤:だいたい入っていますね。
−そしたら、デモテープを作るのにかなり手間がかかるのでは、と思うんですが?
安藤:そうですね、けっこう凝ってます。レコーディングのときって、僕は状況によっては、なかなか自分の意思を素直に出せないタイプなんですよ。
−気を遣っちゃうんでしょうか。
安藤:そうですうね、気を遣う・・・気が弱いんでしょうね(笑)。その場が平和に終わることを望んでしまうので、誰かが何かを言うと「それいいね、そうしよう」とか言っちゃったりする。その時は確かにそう思っていて、その気持ちにウソはないんです。でもそうしていくことによって自分らしさっていうものがどんどん減っていく。
これは誰でもそうなんですけど、デモテープがその人の音楽をいちばんよく出しているんですよ。で、結局デモテープを作っているときもいろいろな判断をしているわけで。ここはこうしよう、ああしようと、いくつかの選択肢の中から「これ」「これ」「これ」って選んでいってデモテープや曲を作っていくわけです。
その中でも本当に数限りない自己満足がある。だからなるべくひとりの状態で自己判断をしたものを作っておいて、デモテープのままがいちばん自分らしいとは思うんだけど、T-スクェアはバンドなんで、なるべく自分が作ったものを提示して、そこにみんなの意見を入れてもらえればいいな・・・最近はそんなふうに思ってます。だからなるべくデモテープは完成に近い形で作ってますね。
−安藤さんが気合いをいれて作っているときって、どんな感じなんでしょう。
安藤:やっている時って、すごく楽しいんですよ。曲のきっかけをつかむまでは大変なんですけど。何をやろう? って、手探り状態のときは。でも、ある程度「これ、いいな」っていうきっかけができると、あとはすごく楽しい作業ですね。子どもがプラモデルを作るときに夢中になっているのと似ています。
−「きっかけ」はリズムとか、サンプリングの素材みたいなものとかに移ってきたという話もありますが、どうなんでしょう。
安藤:いろいろですね。そういった素材に触発されて作ることもありますし。T-スクェアは最近そういうのが多いですね。でも、サンプリングの素材なんかはを使えない仕事もありますから。ゲームだったらデータしか使えないし。まあ、「きっかけ」になる選択肢は増えています。
−T-スクェアだったら、いろいろなものを使って自由に作れるわけですか。
安藤:そうですね。
−今回、ヴォーカルが入っているものって、先に歌のフレーズがあって、それに安藤さんが曲をつけた、ってことになるんでしょうか?
安藤:そうですね。今回、僕はとにかくアフリカっていうテーマだったんです。「少年ケニヤ」のイメージで。そこで、まずアフリカ物の素材をいっぱい持ってくるんです。そして何百っていういろんな音をガーッて聴いていく。すると「あ、カッコいいな」と思う音があると、それをチェックする。
とにかくいっぱい聴いて「まずはこれから何かやってみようかな」と。たとえば「Ale-leyah-yah」だったら、サンプリングの「アレレヤヤ」ってフレーズをコンピュータに入れるんです。それを「どう使おうか?」って考える。「これに何かメロディーをのっけてみようか」ってギターで一緒に合わせて弾いてみて「あっ、こういうふうにできるな」
と、サビが決まるわけです。そこが決まると、Aの部分、Bの部分って枝が伸びていくんですね。−他の曲も、そういう作り方なんですか。
安藤:今回の3曲は全部そうです。
−2曲目の「MAN ON THE MOON」なんかは、機械がしゃべっている声が効果音的に入っていますが。
安藤:あの声は最初から入れたいなと思っていたんですけど、それに曲をつけたわけではないですね、あれは音楽ではないので(笑)。
−アフリカ関係のCDをいっぱい買いに行ったりなさったんですか。
安藤:うん、買いに・・・。
−じゃあ、何十枚とか。
安藤:いや、そんなには。4〜5枚ですね。でも、1枚買うのにもすっごい(値段が)高いんですよ。
−いくらぐらいなんでしょう。
安藤:2〜3万ぐらいかな?
−えっ!? CD1枚で、ですか。
安藤:ただのオーディオCDはそれほどでもない・・・それでも1万円ちょっとぐらいしちゃうんですけど。サンプリング用のCDで、AKAIのサンプラーのフォーマットになってると3万円とかしちゃうんですよ。
−はあ・・・。そうなんですか・・・。じゃ、そういったCDを聴きながら、頭の中にアフリカのイメージを描いていくんでしょうか。
安藤:ちょうど、ターザンのテーマソングをフィル・コリンズがやっていた頃なんです。「やっぱりアフリカだ! これしかない!」と思って。
−「ドンツクドンツク」なんですよね。(「ジャズライフ」誌のインタビューで安藤さんは、こう話していた)。
安藤:うん、「ドンツクドンツク」ですね。
−あの、「ドンツクドンツク」というのは、サンバキックのことなんでしょうか。
安藤:いや、ラテンとは違います。僕はそういうの、よくわかんないんですけど。(メンバーの)みんなからは「Are-reyah-yah」を聴いて「これ、ラテンぽいですね」っていう声もあったんだけど、のりちゃん(則竹裕之)は「でもリズムはアフリカですね」っていってました。
●デモテープには個性がにじみ出る
−そうして安藤さんをはじめとしてメンバーのみなさんの曲ができあがって。事務所に集まって、デモテープの曲をダアーっと一気に聴くわけですよね。
安藤:でも、今回はそんなにダアーっと聴くほどなかったですよ。本田君がいたころはすごかったんですけれど。彼はひとりで20曲とか作ってきたし、しかも(デモテープの時点で)イントロからエンディングまで全部ありましたから。
−その頃にくらべれば、量的には少ないわけですね。でも、アルバムに収録されたのが11曲で、それよりは少し多い曲が集まったわけですか。
安藤:そうですね。でも、そんなになかったですよ。のりちゃんは書いてこなかったし、宮崎君にいたっては、持ってきたのがイントロだけで終わっちゃったりして。
−えっ。デモテープではイントロで終わっていても、あんなふうにバッチリ曲になっちゃうんですか。
安藤:そうですね(笑)。
松井:まあ、イントロというかモチーフみたいなものですね。
−じゃ、「これをもとに、続きはみんなで」みたいな感じなんでしょうか。
安藤:うーん、宮崎君の曲は、デモテープを聴いても、仕上がりがどうなるかまったく想像がつかないんですよ。
−安藤さんのデモテープづくりの様子とは、対照的ですね。
安藤:そうですね、でも、ぼくもT-スクェアはじめた頃は、宮崎君みたいな感じでしたよ。
−安藤さんも、そうだったんですか。
安藤:うん。だいたいデモテープなんて当時そんな、作れなかったですから。コンピューターもなかったですし。
自分の中にはイメージがあるんだけど、持っていくのは譜面で、それもパート譜(全部の楽器がどう演奏するか音符が書かれた楽譜)ではなくて、メロ譜(メロディーを書いた楽譜)とコード譜(コードネームを書いた楽譜)だけだったりとか。「ドラムはさあ、こんな感じ」とか口で言って、で、やるんですよ(笑)。ほんとに適当でしたね。
でも逆に、他のミュージシャンにとってはそれがやりがいがある場合もあります。自分の好きなようにできますからね。−いまの宮崎さんは、そういうスタイルなんですね。
安藤:うん。彼はそういう「好きにやってください」って感じです。
−須藤さん、松本さんはどうなんですか。
安藤:松本君は、けっこうきっちり作ってきますね。すとちゃん(須藤満)は、まあまあ、そこそこですね。ドラムの打ち込みとかは、めちゃ凝ってるんですけど。
「そんなにていねいに『チキチキチー』(注:ものすごい早口)とかやらなくてもいいじゃん・・・っていうぐらい、ドラムは細かく作ってあるんです。でも全パートがそこまでやってるわけじゃない。−人によって、ものすごく個性が違うんですね。
安藤:うん、だからデモテープは、みんなの特性がいちばん出ますね。
●レコーディングのスタイルは人それぞれ
−できあがった曲のなかから、どれをアルバムに入れるのかは、どうやって決めたんですか。
以前は投票をしたりとか、プロデューサーに決めてもらったりとか、いろいろな方法をとっていたことがあったと聞きましたが。安藤:今回は、適当・・・(笑)?
−メンバーのみなさんで相談をしながら決めたとか?
安藤:あまり相談もしてないね(笑)。
松井:最初にやる曲を決めて、レコーディングに入ったんですよ。何曲か、「じゃ、これやろう」って。
安藤:できればね、レコーディング中に、誰かが「こういうのができました」って持ってきたら、それを入れちゃおうと思っていたので。とりあえず聴いたなかではまとまっていた、伝わりやすかった曲を先に。宮崎君の曲みたいに、どうなるのかわからない曲は、そのあとに。
−では、レコーディングに入った時点では、まだアルバム全曲が固まっていなかったんですね。決めながらやっていった、という感じで。
安藤:そうですね。自分たちのスタジオ・・・というか、かなり自由に使えるスタジオができたので、そのへんがすごく大きいですね。
昔はスタジオに入ってレコーディングするっていうと、すごく・・・なんだろうな、ぼくらにとって重要なことっていうか、お金もかかるし、ちょっと延びたら締切に間に合わないとか。今の若い人はどうかわからないけれど、僕ぐらいの世代の人間にとっては、スタジオに入って音楽をつくるっていうと、すごくそういう制約の中で「一生懸命やらなきゃいけない」みたいなイメージがあったんですけど。まあ、最近は家でも音は録れますし。スタジオができたっていうのは、そういったことも、フレキシブルに考えていけるレコーディングになった要因のひとつですね。
−なるほど・・・。そしてレコーディングじたいも、すごくスムーズだったというお話ですよね。何がスムーズだったんでしょう?
安藤:則竹が変わったのかな・・・。伊東さん・本田君時代ののりちゃんというのは、なかなかOKが出なかったんです。リズム録りでみんなで「せーの」で録る。
けっこうすぐに「今の良かった」ってOKになることもあったんだけど、どちらかというと「もう1回」っていうことも多くて、順調に曲がレコーディングされるということがなかなかなかったんです。それはのりちゃんの意識だけでもないし、けっこう一発録りみたいな部分も大事にしていたし、今でもそうなんですけどね。−もちろん、たくさんの要因が重なり合った結果だとは思うんですけれども。
安藤:とにかく、昔は「いまの良かったよね」っていうことが、なかなかなかったんです。だから1曲を録るのに何度も何度も録り直して。1曲に対して何テイクもやっていくと、気持ち的にも「ああ、なかなかできない」「タイヘンだ」っていうイメージになる。
でも最近はあまりそういうことがなくて、2回か3回やれば「今のよかったよね」っていうふうになる。そうするとまあ、もしかして時間はいっぱいかかっていたとしても、イメージとしては「もうできた」っていう感じがするんです。
それと、伊東さんもそうでしたけれど、本田君が自分のソロを録って「あ、いまのでOK」っていうことはあまりなかったんです。すごく時間をかけて録って、みんながそれを聴いている。「いまのすごく良かったのに、なんでダメなの?」と言いながらずっと待っていると大変だなっていうことになる。
宮崎君なんかは、「はいOK」って、すぐにOKになっちゃう。それは全然適当にやってるわけじゃなくて、意識のちがいだと思うんですけどね。たとえば本田君なんかは、すごくハプニングを待つんですよ。たとえばソロを入れてる。すごく完璧なソロをやっているのに、「もう1回お願いします」「もう1回お願いします」ってどんどん消していっ
ちゃう。−えっ、消しちゃうんですか? とっておかないんですか?
安藤:とっておかないんですよ。聴いていても「なんでいけないんだろう?」って、わからない。でも、やっていくと、確かにときどき普通じゃない何かが、一瞬出たりするんです。そうすると彼は「今の良かった」って言う。そういうのが出るまで、何度も何度もやる。 そして自分で「おっ」と思うのが出る。すると、それをキープする。
今度はそのハプニングしたものを、いかにもハプニングしたかのように聴かせながら、自分で自分をなぞっていくんです。だからハプニングしながら完成度の高いものを作っていく。たとえば、サックスだったらどこかで「ブヒッ」っていっちゃうことがある。音が裏がえったりとか、そういうのを直して。それができあがると、今度はちょっとリズムがズレたとか、ここはこうなったらもっといいだろうなっていうところを探して、直していく。
ほんとうに気が遠くなるような作業なんですよ。彼が考えていることは、ジャズと、計算しつくしたポップス・・・そういうものを融合しているんです。−そういうとき、「待っていてもらっても大変だから、先に帰ってもらっていいです」ってことにならなかったんですか?
安藤:僕は帰ります(笑)。「じゃあねー」って。でも、わりとのりちゃんなんかは、待ってましたね。まじめだから。過程を見届けようと。
それで、たまに「今のすごく良かった」ということがあると、いろいろ知り尽くした上で「今のすごく良かったね」って言うらしいんです。そこで本田君が「もう1回お願いします」って本田君が言ったりすると、もう、ガクッ・・・となって、「胃が痛くなる」とか言いながら、のりちゃんは見ている、と。
すとちゃんもわりと律儀に見てるんですけど、すとちゃんは寝てたりして(笑)。−サックスのソロなんて、アルバム1枚あったら何カ所もありますよね。それをそんなふうに・・・
安藤:本田君はそういう人だったんです。だから、レコーディングは大変だなっていうイメージが当時はありました。
●ぼくらはジャズでもない、純粋なポップスでもない
−安藤さんも、細かいところが気になるタイプのような気がするんですが。
安藤:僕もそういうタイプなんだけど、本田君ほどねばり強くはできないですよ。みんながいると気になっちゃう。「待っててくれてるのに悪いなあ。今のちょっと気に入らないけど、まあいいや。いいことにしよう。『いいと思いま〜す』」って言っちゃう。気が弱い。ホントは食い下がりたいんですけどね。
−じゃ、不本意なまま世に出ちゃった録音とか、あるんでしょうか。
安藤:あります(笑)。
−そのへんは、音楽的につきつめたい気持ちと、現実の作業の進行と、板挟みになるところなんですね。
安藤:それは微妙なところですね。どこに価値を置くか、の差。状況が許せばとことん納得行くまで仕上げて世に出したいとは思うんですけどね。
絵描きさんが絵を描いている場合、絵って終わりがないじゃないですか。でも、どこかで完成、自分で納得がいった、っていって、終わる。でも、そうじゃない絵もありますよね。
僕はピカソの絵がすごく好きなんです。デッサンして色をつけていくんですが、色をつける途中で「これでいい」って、終わっているのがあるんです。はっきり知っているわけじゃないけれど、絵描きさんも締切があって、そこで「先生、展覧会はいついつですよ。どうなってるんですか」って弟子の人に言われたりするかもしれない。でも、新聞に出ていたところによると、ピカソは、途中でやめたことで絵に奥行きが出たみたいなんです。
音楽にもいろいろあると思うんですよ。完全に納得いくまでやるっていう方法もあるし。昔よく言われたのは、「レコードだから、その時点の自分の全力を出しきってそれが記録されて、それをみんなに聴いてもらうことに意義がある」。考え方しだいなんです。−時間をかけたからこそ、いいものができることもある。でも、時間をかけたからといって、いいものができるという保証もないわけですよね。
安藤:5年たったら自分はもっと上手になっているから、5年たったらいまの自分をダメと思うかもしれないし。本田君のようなやり方はやり方だし、宮崎君のように、今の自分に納得してそれを出すっていう方法もあると思うし。特にジャズだったら旬をこわさない、その時その人がバーッと吹いたものを録っておくのがジャズの醍醐味みたいな言われ方をしますよね。でも、ぼくらはジャズでもないし、純粋なポップスでもない。
単純に本田君がいた頃にくらべると、はいOK、はいOKって、作業は進んでいくんですね。それをスムーズっていってるわけです。−レコーディングで演奏する時点では、何をやりたいのかはかなり見えていて、あとは演奏するだけ・・・っていう感じが強かったんでしょうか。
宮崎さんの曲はまた違うと思いますが。その点は、安藤さんの曲に関してはどうですか。安藤:僕の曲に関しては自宅でプリプロダクションじゃないですけど、こうしようああしようって作りこんでいるので、現場にいってどうしようかなって悩んだりしたのはないですね。
以前、「B.C.A.D」ってアルバムで「サンシャイン・シャワー」って曲を作ったときに、ドラムでループを使っちゃったことがあって、そのムードを出すにはどうしたらいいかって、のりちゃんと悩んだことがあって。プリプロのときにドラムは2回ダビングしましょうってことになって、そのときすごくいい感じで録れて「これでいきましょう」ってことになった。
本番はイタリアでレコーディングすることになって、プリプロと同じようにやったんですが、同じムードにならなくて、けっこう「どうしよう」って悩んだりしたこともありましたね。でも、今回はそういうのはなかったですね。−それは、他のメンバーの方の曲についてもそうだったんでしょうか?
安藤:あんまり揉めたりってことはなかったですね。
松井:そうですね。
安藤:あとね、松本君。あの人はすごく潔い。ものすごくはっきりものを言うんです。僕の曲で、僕がアコースティックピアノをイメージしていたところがあったんです。僕は「アコピでやってくれる?」って言ったら、彼は「いや、エレピのほうがいいです」ってきっぱり言うんです。「そう?」「いや、絶対エレピです」・・・・彼も理由はうまく説明できないんだけど、「エレピです」って言うので、「じゃ、エレピでやってみて」ってことになった。でも僕がアコピをイメージしていたのを気にしたのか、彼はアコピをダビングしてみたりとかしたんですけど。でも、やってみたらなんとなく、僕もエレピの方がいいなと実感できたので、「ああ、やっぱりエレピのほうがいいね」ってことになったんです。松本君は、直観を大事にしているのかな。
松井:彼は「絶対こうだ」って断定するタイプですね。
安藤:彼はソロの部分もね、すごく録るのが速いんですよ。もちろん、うまい・・・でも、うまくても、本田君みたいに何時間もかける人もいる。でも松本君は、直観ですね。ダメなときはやり直ししますけど、2〜3回やると「あ、これでお願いします」って。多分、聴いていて「ここは悩んでいるんじゃないかな」と思う箇所もあるんだけども、さっき言っていた宮崎君方式というか、「今の自分の精いっぱいが弾けた」と思ったらOKなんですね。だから、松本君みたいな人間が増えたっていうのも、スムーズさに拍車をかけている原因かもしれない。
松本君とはゲームの仕事で、LAでレコーディングにも行ったんですよ。彼は英語が得意ではないんだけど、違うと思ったらもう「こう、こうやって」みたいなことをドラマーにどんどん伝える。ものおじしないっていうんですか。多分、自分に音楽家として自信があるから「これがいいんだ」って自信をもって言えるんだと思うんですね。
●メンバーが感じていることを斬ったときに見える「模様」
−安藤さんは、できあがったデモテープをお聴きになって曲調がバラバラだと感じられたというお話ですよね。
実は、私はそれほどバラバラだとは感じなかったんです。そういう感じ方は人それぞれだとは思うんですけど。安藤:うーん、前作の「スイート・アンド・ジェントル」を録っているときにそのきざしはあって。いい意味でT-スクェアっていろんなことをやるから、「トゥルース」みたいなロックもあれば、メロウなバラードもあれば、ジャズもあれば・・・いろんな曲調があるのがT-スクェア。そういう気持ちは持っていたんですよ。
それでも、ここにきてみんな曲をかく力を持って、それぞれの世代のちがい、個性のちがいが明確になってきた。なんか、いくらT-スクェアといえど、あまりにいろんな曲がありすぎるんじゃないか・・・ってなんとなく思っちゃったんですね。ものが音楽だけに、数字が出るわけじゃない。「バラバラ計」があったときに、「250までいってます!」っていうふうに出るもんじゃないから(笑)、わからないけど。わからないけど、なんとなくそういうふうに思ったんです。だからプロデューサーをたてるとか、テーマをもって作るとか、そういうことをやってみてもいいんじゃないの、と。
そこでテーマを決めることになって、僕はすごく「テーマ、テーマ」ってなってたんです。他のメンバーも「少年の夢」っていうぐらいだから、フワーッとした曲で、夢の中・・・っていう感じの曲ができてくるかな、と想像していたんです。でも、みんなのデモテープを聴いてみたら、「いつも通りじゃないか」ってね(笑)。−バラバラな度合いという観点から考えると、安藤さんがデモテープを聴いたときと、アルバムになったときでは、また若干違うんじゃないでしょうか?
私は、ちょっと聴くとバラバラのように思えても、全体をじっくり聴くと「少年の夢」ってテーマが流れているようにも感じましたが。安藤:そういう意見を聞くと、「ああ、別に心配することはないな」と思うんですけど(笑)。その時点ではそう思ったんですね。でもレコーディングは迫っていた。
そのとき思い出したのがビートルズのホワイトアルバム。これはメンバーが勝手にそれぞれやっているアルバムなんです。僕がそれを聴いてどう思ったかというと、バラバラとかそういうんじゃなくて、それがビートルズだって聴いていたので、ヘンだとは感じていなかった。ただ、自分がいろいろ年齢を経ていって、ビートルズがどういうバンドだったのかという知識を得てくると、「ああ、確かにバラバラだったんだ」と思ったんですね。だからといってそのとき感動したことにかわりはない。そういうことを考えて、バラバラでもいいかなと自分なりに納得したんです。もともとT-スクェアってバラバラでしたから、それをさらにおし進めたっていうか。
ただ、最初の意図はそうじゃなかったんですよ。もうちょっと(曲どうしが)似た感じ。でも、松本君とやりはじめた短い期間の中に、みんなが感じたことがあって、それをパッと斬ったときに見える模様っていうか、そういうところが届けばいいな、と。
−松本さんは昨年のアルバム「スイート・アンド・ジェントル」にも参加なさってましたが、正式メンバーになったのは昨年の野音からですね。
それまでは様子を見ていたということなんでしょうか。安藤:まえに難波くんが入ったときに、すごく盛り上がって「一緒にやろう!」っていってたのに退団することになって、その直後だったんですよね。しかも松本君はオーディションで来た人なんで、入ってすぐに「やっぱりやめます」って言われちゃったら残念だなと思ったんで。
−発表は夏になってからですが、その前にツアーで全国をまわっているときに、「松本さんにメンバーになってほしい」というのは固まりつつあったんですか。
安藤:そうですね、松本君もいっしょにやっていきたいって言っていたんで。大丈夫かなと。
−ますますメンバーの平均年齢が下がりましたね。
安藤:そうですね。ただ、年齢がいっている人って、それぞれのフィールドができちゃってるじゃないですか。だからバンドに入ってもらうっていうふうに、なかなかならないですよね。難波君も自分の仕事があったりしたわけだし。どうしても、まだ色がついていないっていうと、若い人になるんですよね。でも、僕にとっては、すごく勉強になるんですよ。若い人だからっていうだけでもない、実力があるから勉強になるんですけど。うまいですし。年いってるひとがヘタかというと、そうじゃないんですけど(笑)。でも、ミュージシャンのレベルは、どんどんあがってると思うんですよね。
−それは、安藤さんをはじめとする方々が時代をつくってきたのもあるんじゃないですか。
安藤:そうですね、わかんないんですけど、とりあえず、そういう音楽に触れる年齢が下がっている。小さい頃からレベルの高いものを聴いているんじゃないかな。
松本君は、僕が「えーっ」と思っちゃうぐらい、面白いと思っていることが違うし、これまでのT-スクェアにいた人たちにない、特殊なものを持っているんです。すっごく音楽を自由に考えているというか、自分たちのフィールドっていう枠にとらわれていないっていうか。−そうした個性を持った人と一緒に演奏していくなかで、安藤さんも新しい何かが見えてきたりすることは、あるんでしょうか。
安藤:そうですね。松本君の年齢でこういうのがカッコいいとかカッコわるいとか、感じるのもわかりますし。でも僕は結構頑固なんで(笑)、それにいくかというと、そうでもないんです。でも、すごく間口が広がるっていうかのな・・・。
●ツアースケジュール・・・そしてその後は!?
−今年はホールのツアーが6本という形になりましたね。
昨年はライブハウスでの公演も多めでしたが、今年はホールを中心にしたいということなんでしょうか。松井:すわってみてもらいたい、というのがあったんです。
安藤:去年渋谷のクラブクアトロでライヴをやったときに、いつもと全然違う人たちが来ている気がして、すごく面白い、こういうところでやるのって楽しいと思ったんです。でも逆に、ホールとかでやって、座って観るときに来る人たちが来ていないって聞いたんです。やっぱり年輩の方なんかは、スタンディングで2時間半は・・・。そういう方は来にくいですよね。
−両方の人に来てもらうっていうのが、なかなか難しいんですね。
ただ、安藤さんとしては、機会があれば、もっともっといろんな場所に行って演奏したいっていうのはあるんでしょうか。安藤:そうですね・・・(しばし黙って考える)。何か、違ったことをやりたいですね。わかんないですけど。・・・・ヨーロッパツアー・・・、アジアツアー・・・・。
−ヨーロッパツアーですか!(絶句) でも去年は韓国のライヴがありましたよね。すごく楽しかったですか?
安藤:うん、すごくあったかく迎えてくれて。
−ものすごい盛り上がりだったと聞きましたが。
安藤:ものすごかったですよ。演奏中も、なにか「ウワアアー」って言っているから、「あれ? アンプが壊れたのかな? ノイズ出てるぞ」と思ったら、お客さんの「ウワアア」って声と自分の音が混ざって「ビャアアア」とか、なって(笑)。
−そんなにお客さんの歓声がすごかったんですか。
安藤:うん。日本だとそういうのはないですよね。
−トリオ・ザ・スクェアの企画(松本・則竹・須藤でライブハウスをまわるツアー)というのは、ホールツアーが6本というのが決まってから出たんですか?
安藤:ぼくも詳しくは知らないんですけど、出不精のぼくに対して、ライヴ好きな連中が・・・(笑)「ちょっと行ってきます」って感じですか。
−安藤さんは「ライヴ好き」ではないんでしょうか?
安藤:好きか嫌いにすると「嫌い」になっちゃうんですけど(笑)、嫌いなわけじゃないんですよ。音楽をやると、みんなに聴いてもらいたいっていうのがある。
人に聴かせたい。でも、人前に出ると緊張するので、それが苦手だと思うんです。緊張しないで平常心で出られるんだったらいいんだけど、ドキドキして苦しい。それですね。−でも、安藤さんも、ステージに出てしまって、お客さんがウワーッと盛り上がっていて、ガンガン演奏しているときは、それまでの緊張した気持ちは忘れているわけですか。
安藤:楽しくなってますね。
−でも、出るまでが苦しいんですね。
安藤:そう、あと、うまくいかなかったときも落ち込みます。「今日はダメだった・・・」ってがっかりする。もう終わったことだから、やり直しはできない。
−確かにそうですよね。いつも、ミュージシャンの方々って、ステージに出るのはこわくないんだろうか? と不思議なんですけど。
安藤:人によりますよね。もう、出たくてしょうがないっていう人もいるし。誰とはいいませんが(笑)。
−今年はそうすると、安藤さんの出るライヴの本数が少し減ることになりますね。
安藤:いま、みくりや君とデュオをやっているんですけど、そういうのも、いろいろ・・・ぼちぼち。
−あ、みくりやさんとアルバムを作るっていうのは、今後の展開として視野に入ってるんでしょうか。
安藤:やりたいんですけど、タイミングとか、いろいろありますからね。
−そうすると、安藤さんは今後ツアーがあって、夏はジャズフェスがあって、その合間に作曲の仕事や、みくりやさんとのデュオ・・・忙しいですね。
安藤:どうなんでしょう。ここ数年、すごく忙しかった気がするんですよ。昔はね、T-スクェアがオフになると、平気で3ヶ月、4ヶ月ぐらいはヒマになったんです。最近そういうのを忘れてしまっているけれど、いま思うと、その休みのときにすごくリフレッシュして、曲を作っていた気がするんです。今年もそうやってリフレッシュして、曲作りができたらいいかなと思ってます。
Interview & Text by Mime
Photography by Village-A
Copyright by 2000 Cyberfusion