ギタリストの是方博邦さんについて語り始めると長くなってしまうけれど、今回は「HEART OF EARTH」の話。是方さんを聴きはじめたのはこれは単に則竹さんがライブに出るから、という理由で是方セッションに行って、うわーこの人・・・かっこいい!!!と驚いてしまったのが出会いである。でもその日はやっぱり頭は「則竹さーん・・・ぐるぐるぐる」になっていて、ほんとに是方さんのことをまじめに聴いていたかと言えばそうではなくて、「あっこの人の音、好きなタイプ!!!」みたいな感じだった。 今でもアルバム「KOREKATA」の1曲目、「HEART OF EARTH」を聴いたときのことは忘れられない。ジャングルの中の水音や動物達の鳴き声のような音が幻想的にきこえてきて、そこから6連のハイハットの刻みが細かく湧き出てくる。そしてギターがせつないメロディーを歌いはじめる。それを聴いているうちに、胸がぎゅーっと締め付けられて、せつなくて、せつなくて・・・痛くなってしまった。手の届かないもの、それを見て必死にがまんして、でもあきらめられなくて、ぽろぽろ涙を流す私。でもいくら泣いても、手は届かない。人生ってそんなことの繰り返しだと思うけど・・・。是方さんのギターは、そんな私を背中からぎゅって抱きしめてくれるかのようだった。生きていると切なくて切なくてどうしようもないときがある。そんなときに何もかも忘れて、思いっきり泣いてもよしよしって優しく甘えさせてくれるような包容力があった。そしてアレックス・アクーニャのドラム・・・特にずっと刻まれるハイハットを聴いていると、どんなに切なくても時が絶え間なく流れていくような時の流れの中にいる自分を意識して、意識が遠くなるような気がした。1曲目が終わるまで、鳥肌がたって目をぎゅっとつぶって、自分の腕で必死に自分を抱いていた。今でも聴く度に、胸が締め付けられるようにせつなくなる。 この曲はライブだとこのジャングルふうアレンジとはまた別で、ちょっときくと別の曲のようにきこえる。かっこいいアレンジなんだけど、私はジャングル風アレンジが一番好き。でも、それってアレンジよりも、あのアルバムのあのドラムの存在が大きいのかなと最近思ったりもする。 この曲はライブでは良く演奏されるのだけど、元カシオペアの熊谷さんがドラムだった日にライブで聴いたことがあった。この日は私は友人とふたりでライブに行ったのだが、私が勝手につけた彼女の別名は、年の離れた男性にはなぜか必ず気に入られてしまうことから「おやじキラー」。だいたい40代から、60代が主要な守備範囲と私がまた勝手に定義している。とても落ち着いた、かわいい姉のような友人である。 彼女も本当に是方さんの音が好きで、もうひさびさのライブで顔が自然と笑ってしまう状態だったらしい。ちょっと私と別行動していた隙に、「わーい是方さんだー」と思って嬉しくてにこにこしていたら、ご本人から「うれしそうやねー」と、これまた嬉しそうにお声をかけられてしまったという。おやじキラーの笑顔というのは・・・、まったく強力である。彼女と私は客席でひとりチャーハンを召し上がっている是方さんの隣にちゃっかり座り、彼女は臆せず是方さんと嬉しそうに話し始めた。「是方さんの曲を聴くとね、ここがきゅーんってなるんです」と彼女はそっと胸に手を当てた。「そうか??」と是方さんの目が嬉しそうに光った気がした。 ライブが終わって、是方さんが楽屋から出てきた。彼女を見るなり、「きゅーんときたか?」彼女は「きた!きましたっ!」と答え、是方さんはよしよしとにっこり。「打ち上げ来る?」「えっ!いっていいんですか!?」「いいよ」(ほんとに!!??と思いつつ絶句)、「じゃあ、まっとってな」・・・ということで、あとにも先にも1度きりなのだが、ミュージシャンの打ち上げに乱入してしまうことになった。 是方さんは私たちが是方さんを聴き始めた動機が則竹さんであることをしっかり見抜いておられ、「どーせ則竹めあてでライブに来はじめたんやろー」と言われ、苦笑しつつ「そんな!!!是方さんもめあてだったんです」と必死にフォローしたが笑っておられた。 1年ぐらいたってまたライブの後に是方さんとお話しする機会があった。もうとっくに私たちのことは忘れているだろうと思ってそのつもりで、野獣王国のCDが出ることがパソコン通信で話題になっていることなど、いろいろとお話した。「HEART OF EARTH」の次に是方さんの曲で好きなのが「KOREKATA」に入っている「PURPLE SAULUS」なのだが・・・その日この曲のの演奏がとってもエキサイティングで、うわああスカッとしたーーーー!!!!!!という感じで、とても気持ちよく聴けた。それで「『PURPLE SAULUS』」やってくれて嬉しかったです!!!」と話したら、是方さんはフフッと笑い、「『HEARTOF EARTH』もな」と言った。「えーーーーーーーーーーーー!?????覚えてるんですか!?」と驚いて叫ぶと、是方さんはニコッとして「覚えとるよ」と言い残して行ってしまわれた。 疲れ切った夜、胸が痛くて眠れない夜に、是方さんのギターに優しく包まれると、安心して眠ってしまう。だから私にとっては是方さんの音は、特別なのかもしれない。(美芽)
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