そのいち


 がミーハーなのは今日に始まったことではない。小学生の頃はまんがを見てため息をつき、アニメを見てテレビの前でキャーーーーーー!!!!と叫んでいた。ミーハーでいることって、すごくエネルギーが出てくる。その「好きで、好きで、たまらないのーーーーーーーー!!!!!!!!」というエネルギーをもってすれば、なんでもできそうな気がする。しかし、普通は大人になったらミーハーは直るものだと思っていたが、私の場合は直らなかった。あるお方にはまってしまったのだった。きっかけはその人のおじぎを見たときだった。 だいたい高校時代ミーハーしていたバンドはロック系だったせいもあるのだが、ドラムってうるさくていつも同じようなことをやっていて、体力だけあればできそうだと私は思っていた。大学に入ってスクェアを初めて聴いたが、ドラムが細かいなとは思ったけど、そのメロディーライン、全体的な雰囲気が目新しく感じたということであって、ドラムについてはなんにも思わなかった。

 20才のときに初めてT-スクェアのコンサートに行った。FUSIONを生で聴いたのはそれが初めてだった。それまでもみんなすっごく上手い人達だと思ってたけど、実際に目の前で演奏されるとまたすごいものがあった。そしてベースソロ、ドラムソロをいうものを聴き、「はーーーーーーーーーー・・・・すごいんだわ・・・・」と感心した。幼稚園からその年までピアノを毎日勉強してきて、指が思うような速さで動かない、思うようなスピードで連打ができない、どうにかして上手くならないものかと苦しんでいたから、彼らがすごいというのは本当にすぐピンときた。「いやーーークラシックでない人も、すごい人がいるのねえ・・・」と思いながら私は聴いていた。 

演奏が終わって、メンバーが前に出てきた。遠くてよく見えなかったドラムの人はわりとやせていて、あれっと思った。ドラマーというのは、筋肉もりもりの男臭いタイプの人だという固定観念があったのだが、それとはなんだかその人は違っていた。彼は汗をびっしょりかいているようで、タオルで汗をふいていた。私の思っていたドラマーのイメージと彼のギャップの激しさは、彼がせっせとふいている汗の量ぐらいあるように感じた。メンバーが一列に並んでお辞儀をし、拍手の中退場する。ドラマーの彼は、小走りに走りながら、舞台の袖でくるりと素速く客席側を向き、ぴょこんとお辞儀をした。素速い動作に、持っている大きなタオルがひらりとひるがえった。そのお辞儀は、とても心がこもっていて、90度に下げられた頭が「ありがとう」と言っているかのようだった。とても短い一瞬のお辞儀をして、ドラマーはすぐに袖に引っ込んだ。何か、この一瞬のお辞儀がとてもかわいらしくて、私は思わず「きゃーーーーーーーーーーーーかわいいーーーーーーーーーー!!!!!!」と衝撃を受けてしまった。そしてなんだかほのぼのとした気持ちになった。超・テクニシャンで、大音量で千手観音みたいなドラムソロもやる人なのに、なにかそのギャップがとてもいい感じで心に残った。 そのとき、私はそのドラマーの名前はきいたことはあったけど、よく覚えていなかった。

 家に帰って、その年のニューアルバム「NEW-S」のブックレットをを見て、ああこういう人なんだ、と確認した。写真では、彼、則竹裕之はとても繊細で神経質そうに見えた。あの演奏とあのお辞儀とこの写真。この複雑さが私の心にひっかかった。 今思うと、あのお辞儀を見たときに、カチリと音がしてひとつ新しい世界の扉が開いたような気がする。則竹さんのお辞儀というのは、彼自身の音楽性とやはり切っても切り離せないものだろう。乙女座ときいてますます納得。今では律儀にお辞儀をする彼、ドラムソロの時の千手観音の彼、はにかみながら話す彼、カウントを出すときのしっかりした声、タァーンというスネアの力強い音、キラキラした水のようなシンバルの音、全部が則竹さんなんだなと理解できるようになった。

 フュージョンを聴きはじめて2年、それなりにいろいろ好きだと思って聴いていたつもりだったが、あの日を境にほんとうのフュージョンの世界に足を踏み入れ始めたのだと思う。それまで聴いていながら感じ取っていなかったフュージョンの世界の感性に触れた衝撃は、くさびのように深々と打ち込まれたのだった。 おじぎ。それが則竹さんにミーハーしはじめたきっかけだった。(美芽)




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