1986年にギターリストのRuss Freemanによって結成されたThe Rippingtonsは、絶え間なく変わるContemporary Jazz界の荒波を20年間乗り越え続け――いや、乗り越えるというよりは、新たな波を作りつつ前進を続けたと言ったほうがいいのかもしれないが――何度かのメンバー交代を経て、2006年ようやくここまでたどり着いた。振り返って見ると、Russ本人にとっては長いようであっという間の20年だったようだ。
2005年の「Wild Card」に続くグループ通算17枚目の今回の新作は、Rippingtons結成20周年を記念しての特別アルバムで、10曲の新作(日本&ヨーロッパ盤はボーナストラック「Rendezvous」が入って11曲)に加えてファンには嬉しい過去のヒットメドレー入り。しかも、Rippingtonsの20年を振り返る特別DVDがおまけで付いてくるとなればファンには涙もの。このDVD、メインはグループのリーダーRuss Freemanが20年の音楽活動を語る思い出インタビューだが、ところどころに懐かしのライブ――Live in L.A.からのクリップに加え、ツアー先でのホームビデオのクリップなど――が差し込まれており、彼らの成長振りを見守ってきた長年のファンには嬉しいボーナスとなっている。
さて、アルバムそのものだが、聴いていただければ分かるように「なるほど、なるほど」と長年のファンでもうなずける作品に仕上がったといえよう。もちろん彼らの新しい音に「納得」という意味なのだが、それだけではなく、昔からの彼ららしい音――長年のファンの方だったら間違いなく過去の彼らの名曲を想像して郷愁的になってしまうような曲作り――に思わず「懐かしの涙」ということでもあるのだ。ところで、ここで肝心なのは、郷愁を誘いつつも1曲1曲が実に新鮮に響くということ。「記念盤ってことで、前の曲をちょいとアレンジし直しただけなんじゃないの?」なんて思われてる方、Russ独特の気持ちのいい転調とメロディ、それにベテランの面々を交えた秀逸な演奏をぜひ耳で確認していただきたい。
さて、そんな今回のレコーディングは、昔馴染みのメンツが揃いも揃った豪華なセッティングで行われた。例を挙げれば・・・1989年初来日時のドラマーで、今現在はコンピューター技師として活躍中のTony Moralesが久しぶりにスティックを握れば、奇抜なパフォーマンスと「楽器さばき」がいまだに印象強いSteve Reidも元気に復活、そしてピアノとキーボードにはおなじみDavid BenoitにGregg Karukasが参加している。サックスには、甘い音でソロアルバムを順調に出し続けるPaul Taylorに1作目のレコーディングに参加し独特のハスキーなサウンドで泣かせるBrandon Fields、そして今やサックス界の貴公子、今月には自身のグループとしては初の来日を果たしたDave Kozなどなど・・・今をときめくスムースジャズ界のベテラン勢が顔を揃えたところを見ると、あらためてグループの変遷に思いをはせたくなる。
さて、ここでお勧めの曲だが・・・正直なかなか絞りづらい。そこを無理して選んでみるとすれば・・・
1曲目の「City of Angeles」は今回のツアーでもトップの曲。出だしからのアップテンポな展開がいかにもRippingtonsらしい。ライブではEric Marienthalのソロがかなり効いたアレンジだ。続く「Celebrate」は昔懐かしい「Aspen」をほうふつとさせる作品だが、途中の展開が今時の彼ららしさを出している。アルバムではKirk WhalumとPaul Taylorというスムースジャズ界きってのホットな若手二人が競演だが、ライブではこれまたEricのソロが際立っていた。個人的には、3曲目の「Costa Del Sol」がなかなかのおすすめ。この曲、「Benoit/Freeman Project」が好きな方だったらじ〜んと胸に響く1曲だと思う。Davidの流れるメロディにRussのやさしいギター、いかにも二人「らしい」音作りになっている。続く「Bingo Jingo」は最近になってようやくライブに追加された曲だが、一聴していただければ分かるように「これこそライブの曲だろう!」と叫びたくなるような作り。心地よいリズムとメロディの転調にRippingtonsらしさが詰まった1曲といえる。7曲目の「Rainbow」はちょっとJeff Lorberの「Philly Style」風な出だしだが、聴きこめば聴きこむほど「Rippingtonsらしさ」がにじみ出てくる、Russのソロがかっこいい1曲だ。
そして最後のメドレーは・・・いや、これはもう説明するのも野暮。じっくりと味わっていただきたい。
今年7月から9月にかけて20周年ツアーの第一弾を終了したRippingtonsだが、ツアーのメンツは以下の通り。
Russ Freeman (g)
Kim Stone (b)
Bill Heller (keys)
Dave Karasony (d)
Steve Reid (per)
Eric Marienthal / Jeff Kashiwa (sax)
ちなみに、パーカッションのSteve Reidは、Scott Bredmanに代わって今回の20周年記念ツアーには固定メンバーとして参加している。サックスについてはスケジュールの関係上Jeff KashiwaとEric Marienthalが交互に参加しているようだ。私が見たボストンでのライブではEricが出演、持ち前の柔らかな音作りに独特のリフで会場を沸かせていたが、他の日程を楽しんだファンの間ではJeffの熱演もなかなかの評判となっている。
少々アジアから遠ざかっているRippingtonsだが、どうやら今年の11月にはインドネシアでのライブが実現しそうだ。現在このライブ・ツアーに日本が加わるかどうかはかなり微妙な状況だが、過去のヒットメドレーを含むカラフルなライブの曲目リストを見れば、今回のライブが日本の長年のファンを満足させること間違いなし。ぜひとも久しぶりの来日を期待したい。
(まい)
ギタリストのラス・フリーマン率いるリッピントンズの20周年記念アルバム。
歴代のリッピントンズのメンバーをゲストに迎えた豪華メンバーでレコーディングされている。
メンバーを見ると、デイブ・コズ、D.べノア、G.カルーカス、K.ウェイラムなど現在のスムースジャズシーンで重要な役割を果たしているミュージシャン達がリッピントンズで活躍してきたことがわかる。
またこのアルバムには参加していないが、リッピントンズの初代サックス奏者はケニーGだったとボーナスDVDで紹介されている。
最後に収録されているリッピントンズのヒット・メドレー以外はこのアルバムのための書き下ろしだが、キャッチーでわかりやすいメロディーをラス・フリーマンのギターで奏でるリッピントンズ・サウンドは健在で、全く期待を裏切らない音が楽しめる。
またゲスト・ミュージシャンのソロも随所で楽しめ、アルバムに彩りを添えている。
ボーナス・ディスクのDVDにはインタビューを交えたリッピントンズの歴史(何故かナレーションが英会話の教材みたいな口調なのが気になるが)と過去の作品のプロモーション・ビデオが収録されている。
アメリカ盤についているDVDはリージョン1で、日本仕様のDVDプレイヤーでみるには日本盤のリージョン2ディスクがいるので注意が必要だ。
(橋 雅人)
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Heavy |
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Lyrical |
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Cool |
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Out of melody/code |
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Progressive/Tricky |
Ensemble |
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Interplay |
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