パルテノン多摩サマーライブ'99 ライブ・レポート  

木住野佳子Group
(木住野佳子(p,elp)、吉野光昭(b)、市原康(ds)、新澤健一郎(key))

George Benson
(George Benson(g,vo),Michael O'Neil(g),David Witham(key),Dio Saucedi(perc),
Stanley Banks(b),Michael White(ds),Thom Hall(key))
 

1999.7.31  多摩中央公園特設水上ステージ

 
 野外コンサートの裏の面白さに、客にどういう感じの人があつまるかというのがある。ジョージ・ベンソンならば、きっとjazz/fusionファンが多く集まるのだろうと思ったが、実はそうでは無いようだった。

■1部:木住野佳子Group(木住野佳子(p,elp)、吉野光昭(b)、市原康(ds)、新澤健一郎(key))
 近作「You Are So Beautiful」は木住野佳子のかなりJAZZに近づいた作品でした。また、その作品でビル・エバンス(p)の愛奏曲をカバーしているので、このステージではJAZZスタンダードを予想をしましたが、どちらかと言うとその前作「ランデブー」をメインにした爽やかなfusionっぽいステージになったようです。それとサポートにWYIGSIGの新澤健一郎が加わっていたのも驚きでした。

 1〜3曲目はその「ランデブー」から「Manhattan Daylight」,「Rendez-vouz」,「Vera Cruz」と続きました。綺麗なピアノ・タッチはそのままに非常に良い演奏に思います。特にCDではsaxの入ったVera Cruzをピアノ・トリオ(正確にはシンセも入るけど)での演奏が素敵で熱も入ってたのが好感が持てました。ただ、その曲でピアノの脇に置いたエレピ(フェンダー・ローズ)でもソロを取るのですが、どうも僕が思っていたのとは違う感じがしました。というのは僕の印象では彼女はチック・コリアとビル・エバンスの影響が大きく、エレピはチックの影響があるだろうなと予想したのですが、どうもそれとは違ったからです。むしろ、マイルス・デイビス「live evil」でのキース・ジャレットに近いのでは無いだろうかと直感したんです。
 しかし、その直感が確信に変わるのは、その次の曲「You Are So Beautiful」の演奏です。CDではあまり大きく展開はしないバラード演奏でしたが、このLIVEではソロが進むとリズムが8ビートに変わって行き、ピアノもなにかゴツゴツと・・・そう、キース・ジャレット「Somewhere Before」My Back Pagesやスタンダーズをイメージして下さい・・・になったんです。しかもベースのフレージングもMy Back Pagesみたいにそのまんまで・・・。
 今まで木住野佳子からはキース・ジャレットの影響などは全然感じませんでしたが、このLIVEで初めてそういう部分を見せたような気がします。そのせいもあるかもしれませんがドラムン・ベースを使った「星に願いを」では、木住野のエレピと新澤のシンセとがスリリングな掛け合いになるのですが、その混沌とした雰囲気がMiles Davis「At Fillmore」でのキースとチックの掛け合いを彷彿してるように感じました。(これもオリジナルCDでは聴けなかった面の出た演奏です。)
 そういう意味では木住野佳子は即興といった面ではかなりJAZZの方に近い演奏家で、LIVEではCDとは全然違う演奏をする人なのか、または今どんどん変わりつつある人なのかのどちらかかもしれません。

 それにしても木住野佳子は写真で見るよりずっとキレイでした。しかし、あれだけ良い演奏なのに、観客の受けがあまり良くなかったのは可哀想。でも、何でだろうと疑問だったです・・・それは後で判ることになったのですが。

■2部:George Benson (George Benson(g,vo),Michael O'Neil(g),David Witham(key),Dio Saucedi(perc),Stanley Banks(b),Michael White(ds),Thom Hall(key))

 最近発売された雑誌で、ベンソンに「歌では無くて、もっとギターを弾いて欲しい」という内容のインタビュー記事がありました。僕はこれを読んで驚きました・・・「そうか。ベンソンって歌だけでなくて、ギターも弾くのか」・・・もちろんこれは冗談ですが、「雑誌というのはずいぶん古いネタをいつまでも使うんだなぁ」という事には冗談抜きで驚きました。ベンソンのギター云々なんてもう10年、それ以上も前のネタですよ。最近は全然ギター・アルバムは作って無いし、AOR、ブラック系としても紹介されるベンソンですから、もういい加減に歌手と認めたらどうなんでしょうかね? ・・・と、言うことで、このLIVEでは「歌手ジョージ・ベンソン」を認識しに行くのが、秘かな目的でもありました。
 
 ベンソンのコンサートは予定よりも少し遅れて始まり、途中休憩を入れた前半後半に分かれる形で行われました。
 黒ずくめの衣装で登場したベンソンには何か大スターだという、ちょっと他のJAZZ系では見られない風格があります。アイバニーズの小さめのギターを持って、コンサートの最初2曲はギターを中心にしたインストゥルメンタルで幕を上げました。
 「さすがベンソン!」ギターのテクニックは、完璧なんて生やさしいものではなく、まさに超絶です。「うますぎる」・・・これならもっとベンソンにギターを弾いて欲しいという人の気持ちが分かります。今まで上手いギタリストは多数見てきましたが、やはりベンソンの上手さは別格なんだと感心してしまいます。
 非常にインパクトのあるオープニングの後には、意表をつくBEATLESのナンバー「The Long And Winding Load」、そして軽快なギター・フレーズからおなじみの「Love x Love」でボーカルを披露しますが、歌の方も凄く上手い・・・いや、上手いというのは失礼で、もう完全に歌手がメインのスターですよね。また「Kisses  In The Moonlight」などの熱唱は何か胸に来る物があります。
 コンサート前半はJAZZ中心のインストがボーカル物よりやや多く、「Take5」「Collaboration」など本当に素晴らしいギターを披露してくれました。それなのに、どうも観客はインスト・・・というか、JAZZ曲では次第にテンションが落ちているようでした。僕なんかはその凄いギターに狂喜していたのですが、周囲はそれに反して・・。

 それにしてもベンソン・ファンの声援は本当に凄かったですが、どうもこの声援の種類というのが、いつものJAZZ/FUSIONとは違う雰囲気なんです。それとあれだけ素晴らしいギターを聞かせながら、インスト曲やJAZZでは受けがあまり良くない・・・そこからベンソン・ファンは必ずしもJAZZ/FUSIONファンと言うわけでは無くて、むしろベンソンというポップスを聞きに来るポップス・ファンの方が多いのに気付きました。

 コンサートの前半は黒ONLYの衣装でしたが、後半に出てきたベンソンはそれに白のジャケットをまとい、それを観客にアピールするところがニクイ演出ですね。
 そして後半はベンソンのヒット曲中心になります。まずは軽くインスト物を流し、続いて「Turn Your Love Around」で、観客から大きな歓声がわきます。(余談ですが、この曲の演奏中に、ステージ左側の空に流れ星が見えました。これも野外ならでは!!)
 また、後半は「This Masquerade」「Breezin'」など、ポピュラーな曲がつづき、一気に頂点に導きます。クライマックスは「Give Me The Night」で観客総立ちの大ノリのるつぼになりました。アンコールはこれも大ノリの「On Broadway」・・・・あの「メロウなロスの週末」のジャケット写真でお馴染みのギターを片手に両手を広げるポーズで幕を閉じ、1999年7の月の最後を締めくくりました。

 
 前半は意外とJAZZをふんだんに盛り込んだ演奏でしたが、後半は完全にヒット曲でたたみこむポップ・コンサートになった感じです。僕はどちらかと言うと前半に後ろ髪引かれながらも、正直言って後半に大満足しました。
 この稿の最初「ベンソンにもっとギターを弾いてもらいたい」・・・に対するベンソンの解答は「ギターだけでは食べていけない」というものでしたが、言い換えて極論すれば「JAZZファンだけでなく、もっと広いマーケットであるポピュラーの世界で売っていかなければやってられない」と言うことなのでしょう。このライブに集まった観客を見れば、それはわかる気がしました。そういう意味では長年の「もっとギターを・・」という質問はもういいんじゃない・・・って気がしてきますが。(いや、待てよ。うーん?)

■総評
 木住野佳子は予想以上に良かったです。特にCDでは聞かれなかった部分、それを発展させたところなど、聞き所は多かったです。ただし、ここにつめかけたファンは、彼女の演奏は完全に”前座”という認識でしか無いようで、その認識自体は間違いでは無いにしても、JAZZ/FUSION的ノリであればもう少し違った聞き方、沸き方をしたはずです。そういう意味ではポップス・ファンの多いこのコンサートでオープニング・アクトを勤めてしまったのと、知名度がベンソンと比べたら少ないという事とで致し方ないのでしょうけど・・。
 とは言え、CDではキレイな演奏だけなので、こんなLIVEをやる人なのかと驚きました。また次回見るときはどんな演奏になってるのか、機会があれば見てみたい気がします。

 ジョージ・ベンソンはまさに世界的・・ですね。非の打ち所がありません。
それと、彼のギターを聞きたいというのは、歌手と認めた現在でも根強い理由もわかりました。ベンソンのギター・・・これは今後もずっと引きずっていくテーマなのかもしれません。ただし、やはり大成功した宿命なのか、このステージはかなりショウ化されていて、次回の公演で来日した時に今回とどう違ったものを見せてくれるかというのがベンソンの課題でしょう。しかし、こんな盛り上がるステージで観客を魅せますし、ギターの凄さでも唸らせてしまう訳ですから、ジョージ・ベンソンと言う人は本当に大したもので、敬服してしまいました。

■その他 パルテノン多摩サマーライブについて。
  ちょっとこの野外コンサートについて・・。
 数年前から毎年この催しに来ているのですが、出演者によって客層が変わるのがここのサマーライブの特徴らしく、今年は一人の泥酔客の振る舞いに辟易しました。(変なタイミングでの大声、また暴れたらしい。それにステージに物を投げ込んだ輩も。)
 でも、最初の年ははかなりスタッフなど稚拙に思えたのが、年を追うごとに良くなってまして、今年もスタッフ、主催者は素晴らしいと思いました。トイレ等施設、入場時の誘導なども工夫されて更にまた良くなってました。毎年やっていて、これだけ目にわかるくらい進歩があるのは、主催者側のやる気、努力を感じます。来年も期待してます。(99.8.2 TKO)
 

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