Larry Carlton(g),
James Gates(sax), Gregg Karukas(key), Mike Manson(b), Billy Kilson(ds) 1999.11.20 BlueNote東京 1st Set |
■カールトンのライブの前に・・・。
実はカールトンにはあまり期待してなかった。これまでカールトンの出演するライブを見たのが4回。1度目は東京ドームの中央にステージを作り、周囲に人は入れずに球場観客席から見ると言う空前絶後の最低ジャズ・フェスティバル。2度目はリー・リトナーとの共演。3度目はオールスターでの野外。それとFOURPLAY・・である。 これらで”これぞカールトン”という意味で満足した事が無く、いつも昔聴いた名盤のイメージとのギャップに悩んだ。CDでなら今でも良い演奏はあるが、ライブではもうダメなのか?ただ単に巡り合わせが悪いのか? そして降って沸いたようなとある憤慨(後述)・・・これでカールトンを楽しめるのだろうか? 開演前のビールとワインも今回は効果が無いようである。 しかし、当然それはカールトンに問題があるわけでは無い。 ■演奏
1曲目は真新しいメロディで新曲だろうと思う。カールトンのソロは最初は小さい音で、次第にバックと一緒に盛り上がりクライマックス!! 「あぁ、全然駄目だ」と僕は声にだしてつぶやいて頭を垂れた。クライマックスで弾ききる部分で指がついていって無いのだ。ここで「夜の彷徨」「ストライクス・トワイス」のあの頃のカールトンは既に存在しないのだと実感した。しかし、それとは対称的に周囲はこの曲で早くも沸いていた。 2曲目も多分新曲であろう。しかし、聞き慣れなくともカールトンの演奏が聴かせてしまうので問題は無い。1曲目のショックはあるが、もう過去のものを追っても仕方ない。頭を切り換えて”現在のカールトン”を聴こうとしている。 やはりカールトンのプレイは全盛のバリバリに力強く弾ききるスタイルとは変わっている。言うなれば渋いという事にはなるが、それは比較の問題であって、今でも音数は多いし、むしろ様々にプレイを変化させる事によって幅を持たせている。それとただいっぱい弾くだけでは見えて来ない、内面の充実を思い起こすようなプレイ。かのバド・パウエルが若い頃の超絶テクニックから晩年枯れたプレイで、その晩年の円熟さに心惹かれるのを連想する。(パウエルはちょっと違うかな?) 特にカールトンのプレイはときたまセンスの良さで唸らせる。ハーモニクスなどは自然にメロディにとけ込んでいる。他のギタリストは「さぁハーモニクスです」と構えてしまい、いくら自然に響かせようとしても浮いてダメな事が多い。カールトンの場合は耳に入っていても「今のはハーモニクスなんだ」という事を意識に上らせないほどに自然なのだ。今回は目の前でやってたからね・・・。(笑) また近年のカールトンは弱音の使い方が絶妙だ。このステージでも特に弱音での息の長い早いパッセージなどは思わず引き込まれてしまう。そうかと思えば次にはあれもこれもと・・ちょっと説明できないほどフレーズを繰り出し、ギターの心得のあるものとしては感嘆してしまう。 数曲済んでから、ギターを細めのアコースティック・ギター(マーチンの000シリーズに似ているが他社製?)に持ち替えると「Minit By Minit」を演奏する。このアコースティック路線もカールトンの魅力の1つであり、全盛の時代とは違った系統だ。そして続いて同じギターのまま「Smiles and Smile to Go」が演奏される。ここらはみんなノリノリ。 再びギブソンES-335に持ち替えたカールトンは”ブルース”を演奏し始める。この曲は不幸にもステージ脇の全然角度の無い見にくい場所に座ったカップルにでも見せるかのように、そのスグそばに腰掛けて弾いた。そしてギターにディストーションをかけると、今度は反対側のやはり見にくい角度の客席に向かってクライマックスのソロをバリバリに弾く・・こんどは大丈夫、指もしっかりついて行っている。
そして最後の曲として新曲を披露するが、ここではドラム・ソロがフューチャーされる。この若いドラマーBilly Kilsonは凄かった。ソロでの早い連打は目にも止まらないし、出てくる音もタイトで激しい。非常に盛り上がった。 実はこのドラマーは最初の1曲目からビックリしていたのだ。別に超絶テクニックを見せると言うのでは無いのだが、その音の太さ、強さ、立ち上がりの早さを尋常ではない。見ているともうエネルギーが余って余ってしょうがないという力強いプレイだ。
ステージはこれでいったん終了。拍手でアンコールになる。 アンコールで再び戻ったカールトンは一番知られたフレーズを弾いてみせる。
しかし、今回の「Room335」はノッていた。カールトンのソロには手抜きは無く、慣れ親しんで毎ステージ演奏されるであろう曲ではあるが、非常にアグレッシブに、そしてまるでフレーズがわき出るかのように素晴らしいプレイだったのだ。残念ながらギター・ソロが終わると、keyソロなどカットされ、そのままエンディングになるショート・バージョンの「Room335」ではあるけど、ギターソロなら「夜の彷徨」のバージョンに遜色ない。 そしてアンコールにもう1曲「Sleep Walk」が演奏される。これもカールトン・ファンならたまらないほどの色っぽいプレイだ。こんなプレイはまさにカールトンにしかできない。 演奏が全て終了すると拍手喝采。僕はスタンディング・オベーションをしてしまった。これぞギター音楽だ!というほどに円熟でスケールの増したカールトンに感動してしまったのだ。ただし、他にスタンディングした人も数名いたようだが、あまりスタンディングした人は居なかった。そして良い席を陣取って見ていた中で、スタンディングした人は一人さえもいなかった。
■ステージが終わって。
今、バリバリにギター・ソロを弾ききるギタリストはたくさん居ると思うが、ここまでのセンスで観客を引き込める人はそうは居ない。特に小さい音になれば観客は耳をそばだてる・・・と、すればそこには自然に緊張感が生まれる。それを逃さずカールトンは魅せてくれるのだ。この演出は見事だ。これこそプロ中のプロのギタリストの極意だ。 それと新曲の出来も非常に良い。来年発売とのことだが、いまから新作が楽しみになった。 (後日談)
■おいおい、かんべんしてくれよ。BLUNOTE東京!!
でも、これは一つの教訓かな?今言える事は、Bluenote東京で「楽器クリニック」のある日は少なくとも良い席は取れない事を覚悟しなければならないでしょう。(自衛策として僕なら行かないかもね。)
1999.11.23 TKO |