マイク・マイニエリ・ライブ・レポート
(速報版)

1998.1.24 ブルーノート東京 1st set

 マイク・マイニエリのクインテットによるライブは、初期STEPSと同編成であり、僕の期待した音はまさにそのSTEPS・・・しかし、今回は色々と期待半分不安半分で臨んだ。と言うのも未知数不安要素が数点あり、マイク・マイニエリの近作である「アメリカン・ダイアリー」はJAZZ色が強いと言う点、ベーシストがエレクトリック物では共演があるもののSTEPS関係ではプレイしていないアンソニー・ジャクソンであると言う点、SAXのボブ・バーグがマイニエリの下でどんなプレイをするか未知数という点があったからだ。

先に結果を言うと、これらの不安は演奏が始まったと同時に吹き飛んでしまった。まさに期待したSTEPSライクな演奏であるが上に、アンソニーには不安を感じたのが恥ずかしくなるほどNO PROBLEMだったし、ボブ・バーグもこのグループには馴染んだかのようなプレイであった。 開演時間になりメンバーが揃った所で、マイニエリのアンプの電源が入らないというアクシデントがあった。これで数分開始時間が遅れたのだが、どうも電源タップ類のアクシデントのようである。それでちょっと気をはぐらかされたような気持ちになったのだが、演奏が始まるとそんな事はすぐに忘れるくらい熱い演奏だった。

最初の3曲は「アメリカン・ダイアリー」からの曲で、これがCDよりもずっと凄みがあり、かつ楽しい演奏であった。その差は何か?・・SAX奏者の違いやピアノが入った等の相違点を考えついたのだが、特にどちらにも参加しているドラムのピーター・アースキンが原因であると思った。アースキンのドラムは、ダイナミクスの幅があり、単調に陥る事は全く無く、どこで何を仕掛けてくるのか油断できない楽しさがあり、そのワザは文句のつけようのない凄みを覚える。いつもライブでは居眠りする友人も一緒に見たのだが、アースキンのドラムはそんな友人を一睡もさせず、「アースキンが凄くて、居眠り所じゃなかったよ。」とその友人は語った。このピーター・アースキンは今の評価では少し過小では無いかと思える・・・このライブではその考えを強くしたのだが、このライブでのような凄みは彼の参加したCDからは出てきていない気がする。(WRの「8:30」なんかは出ているけど。) 

マイニエリのプレイも、手を出せば叩かれてしまうような距離でマジマジと見たのだが、非常にダイナミックかつ繊細だ。マレットを片手に1本ずつ持った時のすばやさ、片手に2本の時の複音はミスなど無く音をヒットし、微弱な音を叩く時のデリケートなさばきは見ていて見事だ。それとマイニエリはアドリブがノッてくると、まるでキース・ジャレットのように声に出して唄っている事も近くで見てわかった。マレットはピンクのカバーをした少し小振りな先をした物を使っていたが、このステージでは一度だけピーター・アースキン作曲のリズミカルな曲の時に、紺のカバーで少し大きめの先のマレットにチェンジした。これはどう使い分けているのだろうか? 

ステージも佳境に入り、ボブ・バーグ作曲の「スネーク」・・・これがこのステージのクライマックスになった。それまでのボブ・バーグは、良いのだけどなにか抑制されていたような気がしたのだが、この曲でそれが一気にはじけ飛んだ。ここでのボブはまさに鬼気迫るモノを感じ、バンド全体が熱気に包まれて、ここで何かが起こっているというのが伝わってきた。この曲で一応の終わりとなった。 

そしてアンコール・・・ウォーレン・バーンハートのジェントリーなソロ・ピアノから始まり、それが聞き覚えのある”あの曲”のフレーズに変化すると、その「サラズ・タッチ」が始まった。まさに名曲であり、このステージで心待ちにしていた。一緒に来ていた友人達も少し目を潤ませていたようだ。 ステージは本当に素晴らしい物だった。この秋にもSTEPSは再結成するような噂もある事だし、マイニエリにはますます期待してしまう。 

ところでこのステージはミュージシャンの希望もあり、珍しく演奏中は禁煙になった。この措置には個人的には大歓迎・・・ライブハウス三悪である「狭い、煙い、高い」のうちの1つが解消された訳なので随分と楽にライブが楽しめた。愛煙家にはお気の毒だが、今後もこういう形式が増えれば、嫌煙のためライブに二の足を踏む人には朗報ではないだろうか?(TKO)




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