Spyro Gyra 2008.3.29 Blue Note New York 2nd set ライブレポートやインタビューを通してスムースジャズ界のいろいろなアーティスト達と会うたびに毎回驚かされるのが、彼らアーティスト達のホットでクールな演奏ぶりと彼らの作り出すカラフルなサウンドだ。器用な若手アーティストが新鮮な音と共に彗星のごとく現れれば、練れたベテラン達はその多芸多才さを存分に披露する。多種多様なアーティスト達が持ち寄るバラエティに富んだ音楽に、スムースジャズ界は攻防激しい戦国時代の様相だ。 そんな魅力あふれるスムースジャズにどっぷりと浸りつつ、久しぶりにフュージョン・クロスオーバー時代のアルバムを聴いてみたら、懐かしく感じつつも妙に新鮮に聴こえたりすることはないだろうか。最盛期の当時こそ随分時代の先を走っていたように感じた音楽だったが、そのサウンドが実は今でも充分に新鮮に感じられることにはただただ驚かされるばかりだ。(確かに、スムースジャズの原点はそのあたりと考えるのが現在の通説になりつつあるようである。) 当時最先端を走っていたフュージョン・クロスオーバーが時代と共に成長・変化し、1990年代に入って新たな音楽カテゴリー「スムースジャズ」として、業界内に独自の領域を持つに至った。そして今ではファンのみならずアーティストも着々と増やしつつある・・・個人的にそんな印象だ。 さて、そんなスムースジャズの成長ぶりを反映した活動を続けるミュージシャン達も少なくない。かつてフュージョン革命の中心となり、現在はスムースジャズ界の重鎮ともいえるJeff Lorberをその典型的な一人と数えれば、今回ライブレポートをお届けするこのグループもその代表的アーティスト軍団といえよう。ご存知ベテラングループ、Spyro Gyraだ。
さすが付き合いの長いメンバーによるライブ、リラックスして笑顔がこぼれる中スタートした。が、お互いの演奏には緊張感を持って敏感に呼応する。まずは才能とユーモア溢れるBonnie Bのリズムに始まる“Jam Up”。彼のトロピカルなリズム感と独特のボーカルで会場は一気に盛り上がる。続いて“Simple Pleasures”。最近のアルバムの中でもSpyro Gyraらしさが強く出た作品の一つ。さらに、出だしのメロディが印象的な、またまた彼ららしい“Get Busy”。ここではTomのキーボードのソロが光る。相変わらずのことだが、彼のさりげなく自然に流れ出る演奏が、本当に憎いくらいかっこいいソロとなって響くのには思わずうならされる。まさに魔法の指先だ。 そしてここで今回のライブのハイライト、懐かしのトロピカルな名曲メドレーへ。“Shaker Song”に“Catching the Sun”、そこに“Morning Dance”と続いたら、長年のファンは黙っていられないだろう。薄暗がりのブルーノートに、突然夏の日差しが差し込んできたかのような印象だ。もちろん観客も手拍子と口笛で応え、座ったままながらノリにのる・・・まさにSpyro Gyraの真骨頂だ。この“Morning Dance”に続くScottのベースソロがまた何とも言えずかっこいい。 そのトロピカルなノリそのままに、“Island Time”へ突入。この出だしでのBonnieのソロがまた秀逸だ。ラテンのリズム・・・ただ、決してルースになることがない、タイトに引き締まったリズムだ。恥ずかしながらBonnieのドラミングについては、ライブを見るまであまり印象になかった。しかし、そのタイトで小気味のいいドラミングに、今回、耳も目も惹きつけられた。なるほど、さすがSpyro Gyraの音楽を根底で支える内助の功だ。ここに至って、もはや観客もじっとなどしていられない。そここで手拍子と足拍子、そして歓声が響く。
ここからが、ライブのもう一つのハイライトとなったJulioの作品“Funkyard Dog”。Bonnie Bのタイトなドラムとリズミックな呼吸の音に始まるこの曲、アルバムの中でもリズム・メロディ・ソロのすべてで実に魅力的な一曲だと思うのだが、ライブでもあちこちにクールなフレーズがちりばめられていて、観客も「耳」をはずせない。Julioのカッティングの効いたギターがScottのベースラインに絡み、それに続いてJayのサックスがキャッチーなメロディを奏でていく。特にJulioのソロは、独特のブルージーなサウンドにファンキーさが加わり、まさにSpyro Gyraならではのかっこよさ――ともすれば80年代フュージョン風のキレの良さとでも言おうか――をかもし出しており天下一品、ファンに鳥肌を立たせる演奏だ。 そしてそのギターに続くのが圧巻、Jayのサックス二本立てのソロ演奏。それも単純な技の見せびらかしではなく、練れた技術と芸術がまさに一体化したJayならではの瞬間である。 アンコールでラストを飾ったのが、日本でもお馴染みの“Daddy’s Got a New Girl Now”。80年代をイメージさせる懐かしいリズムとベースライン、それに続くJay特有の底抜けに明るいサックスに、観客も大歓声だ。ここでまさかこの曲がライブで聴けるとは!・・・と、何ともいえない感動に、個人的にかなりグっときた瞬間だったことを告白しておこう。
<曲目>
今回の演奏曲目、最新作「Good to Go-Go」をフィーチャーしながらも、過去の名曲をさりげなくちりばめることも忘れない、まさにSpyro Gyra成長を早足で音に感じるライブであった。彼ら程長寿で多作なグループとなれば、演奏曲目を絞るのに苦労したであろうが、そこはさすがベテラン、各メンバーの特徴あるソロが充分に楽しめる素晴らしい選曲だった。特にメドレーは、長年のファンにはたまらない一曲だ。 十数年ぶりに楽しんだSpyro Gyraのライブは、予想以上に感動的なものであった。ただ、それは単に「しばらく見てなかったから」という理由からではない。ライブでのみで感じられる、会場の緊張感と観客の興奮、そしてアーティストの洗練された演奏技術と瞬間的なひらめきといったものが起こす化学「音楽」反応にただただ惹きこまれたからなのである。 さて、頑張るベテラン勢の代表として、また各地のスムースジャズ局の常連として、相変わらず活発な音楽活動を続けるSpyro Gyraからは目が離せない。今年はヨーロッパも含め、アメリカ全国ツアーに忙しい日々が続いているようで、その日程から推測するにまだ新しいアルバムの話までには少し時間がありそうである・・・と、実はそんなことをいい口実に、しばらくは彼らのライブに耳鼓を打ちたいのが筆者の本音。昨今彼らのライブからご無沙汰しているファンの方々、次回のライブで「しまった!こんなにいいのを聴き逃していたとは!」と後悔しないためにも、早めのライブ鑑賞をお勧めしておこう。いやはや・・・本当に十数年は長過ぎだ。(Mayumi “Mai” Hoshino)
|
Report and photos by Mayumi “Mai” Hoshino |