Chick Corea Elektric Band in New York
Live Report



毎年恒例のRockefeller Centerのクリスマスツリー

Chick Corea Elektric Band
Chick Corea (p/keys)
Dave Weckl (ds)
Frank Gambale (g)
Eric Marienthal (sax)
Victor Wooten (b)

2007.12.30 Blue Note New York
Reported by Mayumi “Mai” Hoshino

年末の連休を利用して久しぶりに都会に出たい!と、急に思い立ったものの、なかなかここぞという場所が思い当たらない。どこがいいかなあ〜となんとなくインターネットをブラブラしていて、ふとChick Coreaのツアーの日程が目に入った。私のお気に入りのバンドの一つ、Elektric Bandを率いてPortland、Los Angelesと西海岸を回ったあと東海岸へ。それが、年末にかけて6日間に渡るBlue Note New Yorkでの公演だと分かった瞬間、ひらめいた。

「ここだ!久しぶりにNew Yorkに行こう!」

Chick Corea Elektric Band - 以前の自分の音楽評で「音圧を感じるパワフルなバンド」と表現した覚えがある。昭和女子大人見記念講堂か五反田ゆうぽうあたりの会場で、彼らの”King Cockroach”に鳥肌を立て”Rumble”に興奮したのは既に10年以上も前のことになるから時間が経つのは早い。今回、そのスーパーユニットの久しぶりのライブなわけで、熱心な一ファンとしては見逃せないだろう。

この再結成されたElektric Bandは、実は日本のファンにはいち早く2005年お目見えしており、ライブの模様は我がCyber Fusionでも既に詳細がレポートされている。天候不順で、ホットな演奏ながらずいぶんクール(というか真面目な話、寒い!)思いをしたファンが多かったようだが、少なくとも彼らのライブを一足先に楽しめたという点では、日本のファンはここアメリカのファンよりずいぶん恵まれていたと言える。

ブルーノートのパンフレット
私のように1980年代後半のライブでの彼らが最も印象的なファンの方々には、Chick Corea (p/keys)、 John Patitucci (b)、 Dave Weckl (ds)、 Frank Gambale (g)に Eric Marienthal (sax)の構成が最も馴染み深いと思う。今回の再結成バンドは、嬉しいことにその当時のメンツがほぼ全員揃った――唯一Johnが不参加のため、彼に代わってBela Fleck and the FlecktonesのVictor Wooten (b)が加わった形だ。

クリスマス直後に始まったそんな兵達5人の迫力ある演奏は、師走も押し迫ったManhattanの街を揺るがした。毎日2回のライブは大晦日の年末カウントダウン・スペシャルを含め合計12回に達したが、Elektric Bandは今回そのほぼ全ライブをSold Outにし、更に当日購入の立ち見席を定員オーバーにまで追い込んだのである。

ここでは、そんな会場全体をまさにラッシュ時の山手線状態にした彼らの、12月30日セカンドセットの模様をレポートしよう。

・・・しかし、なぜ一番盛り上がったであろう大晦日のライブをレポートしないのか?そんな疑問を持つ方もいらっしゃるに違いない。お答えしよう。ご存知の方も多いと思うが、New YorkのBlue NoteといったらBirdland同様ジャズの老舗として有名である。これが何を意味するかと言うと、年末のように普段以上に観光客が多い時期は、アーティストの普段の人気に上乗せして更に観客が殺到、チケットの獲得が一段と難しくなるということなのである。かく言う私も前述Sold Outの被害に打ちひしがれた1人で、29日・30日両日のセカンドセットはしっかり楽しんだものの、大晦日のライブには入れなかった。残念。

満席のテーブル席をバー席から激写。ステージは写真左手側になる。 天井には年末カウントダウン用の風船が既に準備されているのが見える
さて、ここでちょっとBlue Note New Yorkについて説明を加えておこう。実は今回が私にとって初のBlue Note New York体験だったのだが、内部の客席の窮屈さには正直驚かされた。きっちりと並べられたテーブルと椅子がなぜか日本的に感じられ懐かしくなったりもしたが、スペース的にはBlue Note Tokyoよりも窮屈で、ともすればBlue Note Osakaよりも奥行きがないように感じられたのだが・・・ご存知な方の印象はいかがだろうか。

今後の参考のために観客席について詳しく書くと、ここでは予約可能なテーブル席と予約不可能なバー席の二つに分かれている。当然テーブル席の方がステージに近く(一部ステージ向かって右奥とステージ向かって左手横に並ぶ席を除けば、大抵の席がステージの正面を見渡せる)その分若干チケット代が高い(今回のCCEBでは$50)。それに比べてバー席はチケット代は安い(今回のCCEBでは$35)が、席が予約できないため早い者勝ちで、会場時間まで外で待ち続けることになる。加えてこのバー席、口承40席と言っているものの、実際にバー席に座れる人数は8人前後、残りはすべて立ち見になるのがネックである。よって、予算は限られているが時間と体力には余裕がある人に限っておススメできるオプションといえよう。バー席は、位置的にはステージ向かって左側に離れており、一番いい席でもステージ角まで10m程度はあったのではないだろうか?ステージをほぼ左真横から望むことになるため、ステージ右側奥に座るアーティスト(今回だとDave Weckl)はFrankやEricの影になっていてほとんど見ることができない。その代わり(といってはなんだが)、Chickの背中と横顔は見たい放題である。

12月30日当日、Blue Noteの前には、10時半前のセカンドセットの会場に向けて、テーブル席では8時頃に、バー席に至っては7時半頃に観客の列ができ始めた。前者は確保されている席の中でもなるべく良い場所を、との気軽な感覚だが、後者はもはや死に者狂いである。30分後には既に20人近くが並んでいた。結局この列、ライブの直前、10時過ぎには60人以上に伸びていたようだが、全員が入れたかどうかは不明である。

10時半過ぎ、メンバーのアナウンスに満席満杯の会場が割れんばかりの歓声に包まれた。いよいよライブの始まりだ!

Ericが書いてくれたBlue Note でのライブのソングリスト。実は“Ished”が抜けてたのだが。
<曲目>
1. “CTA” from [Paint The World] (1992) by Chick Corea Elektric Band II
2. “Eternal Child” from [Eye of The Beholder] (1987) by Chick Corea Elektric Band
3. “Night Sprite” from [The Leprechaun] (1974) by Chick Corea
4. “Ished” from [Paint The World] (1992) by Chick Corea Elektric Band II
Encore:
“Got A Match?” from [The Chick Corea Elektric Band] (1985) by Chick Corea Elektric Band
* ファーストセットでは以下の2曲が演奏されたが、どの曲と交換になったのかは不明。
 “Trance Dance” from [Eye of The Beholder] (1987) by Chick Corea Elektric Band
 “Johnny’s Landing” from [To The Stars] (2004) by Chick Corea Elektric Band

Chickのソロに聴き入るメンバー達。 CTAのサビ部分、一番印象的なところだ。

この曲数を見て「おや?少ない?」と思った方、ちょっと説明を加えておこう。

今回のライブ、時間的にはアンコール曲を含めて1時間45分程度だった(実は前日29日のライブは、それよりも短かった。)それで演奏合計が5曲というのだから、単純計算すれば1曲の長さが20分以上ということになる。それもそのはず、これだけ実力派が揃うとソロも簡単には終わらない。技術と芸術が極められたインプロヴィゼーションに、会場からはメンバーのソロに呼応して歓声と口笛に加えて「Oh my God!」、そしてため息が続いた。

静かながら笑いを交えてのChickのMC。 ジョークに達する前に自分から吹き出してしまってるところが笑える。
そんな中、新顔の印象がまだ強いVictorの腕の見せ所(というか音の聴き所)は”Ished”のソロといえよう。ある時はピアニストのように弦の上に指を走らせ、またある時はファンキーなチョッパーベースを響かせる――そのバラエティに富んだサウンドに息つく暇がない。John Patitucciとは違った風味でElektric Bandのサウンドにスパイスを効かせてくれているといえよう。

個人的にいたく感動した曲をあげるとすると―おそらくファンの何人かは同意してくれると思うが―切れのいいサビ(特にEricの音が印象的)が魅力の“CTA”、Frankの素晴らしいギターソロに泣かされた“Eternal Child”、そしてアンコールでのノリのいい“Got A Match?”。アルバムを既に聴き込んでいたせいもあるが、馴染みの曲がライブでここまで完璧に、いや完璧というか予想以上に発展した形で演奏されたのには、まさに脱帽である。

特にFrankの“Eternal Child”のソロは、感情に満ちた泣かせる音とメロディで、いや実際本当に泣きそうになるくらい素晴らしかった。個人的には、どうも彼の印象は“Light Years”や“Rumble”、“Overture”あたりのElectricなスピードピッキングに偏っていたのだが、今回の“Eternal Child”でそれが一気に吹き飛んだ。流れるように切ないメロディを歌うFrankのギターは、Chickのキーボードと絡み合って心の奥底にまで響いてくる。そしてそこにEricの柔らかなソロが重なり、更に展開していく。“Elektric” Bandの名の下にありながら、アコースティックなサウンドが本当に魅力的な曲だった。

“Eternal Child”でのFrankのソロ。これには泣けた。
“Ished”の後、メンバー5人がステージ中央に集まりファンに手を振り軽く頭を下げる。もちろん観客はスタンディングオベイションでそれに応える。鳴り響く拍手と口笛に、メンバーはステージから降りる暇さえもなく、顔を見合わせてアンコールの準備に入った。

さて、ここで満を持してChickがYamaha・KX-5を持ち出し、さっそうとステージの中央へ!(この段階で既に会場は割れんばかりの拍手の嵐だ)。そして、ソロリソロリとキーボードの上に指を滑らせ始める・・・が、最初Chickの複雑なメロディに会場は「おや?」との反応。やがて、徐々にメロディがまとまり始め、突然例の印象的な出だしにつながった。会場がどっと沸き上がる。“Got A Match?”だ!

グレイのコートと帽子で、 New Yorkの街にすっかりとけこんでいたFrank。 にこやかにファンと談笑する姿がとても印象的だ。
Chick独特の隙のないソロに引き続いてメンバーが交互にソロを取る。残念だったのは素晴らしいソロを聴かせてくれたWecklの手元が見えなかったこと。しかし、さすが“Triplet King”、相変わらずの百手観音調の演奏は変わらない。息をつく暇さえないタイトなリズムに会場は大喝采だ。Eric独特のリフ、Victorのパワフルなソロ、そしてFrankならではのスピードピッキングと、ファンにはおいしいとこ取りの一曲となった。

そして・・・短かく感じたライブもついに終了。ふと時計を見ると、12時20分を少し回ったところだった。

連夜の演奏で若干疲れ気味だったが忙しい中撮影に応じてくれたDave。
今回のライブ、10数年のブランクを埋めるにふさわしい素晴らしい盛り上がりだった。各メンバーのソロは、磨きぬかれた技の連続ではあるが、それは決して自己満足のナルシストなインプロヴィゼーションの押し付けではない。それぞれのメンバーに生み出されたリズムと旋律が緊張感を持って呼応し合い、そして一体となってBlue Noteに響き渡ったのだ。ともすれば20年以上も前に作られた彼らの音楽が、いまだに新鮮に響いてくることにも驚かされつつ・・・私には10数年前の鳥肌が再び戻ってきた。

楽屋前、Ericがファンの質問にさらりと答えるのが聞こえた。「今回のリハーサルは・・・3時間位かな。」たった3時間のリハーサルで、ファンの心にこれだけの化学反応を起こさせる演奏をやり遂げるとは!そんな彼らに脱帽、敬礼。

いまや結成から既に22年目を迎えたElektric Bandだが、この兵共のパワーは変わらない。ファンとしては更なる再結成ツアーで、名曲”King Cockroach”、”Elektric City”、また”Eye of the Beholder”あたりに「耳鼓」を打ちたいところだが、こんなことを期待するのは少々わがままだろうか。






Photo and text by Mayumi “Mai” Hoshino
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