Keiko Matsui
Live Report




松居慶子(kb) 他

2006.5.21 Yoshi's, Oakland, California 1st set

 サンフランシスコの対岸、オークランド港すぐそばに"Yoshi’s"というジャズクラブがある。6月にはメセニーとゲイリー・バートンもやってくる、西海岸でも指折りの名門ジャズ・スポットだ。ここで松居慶子の公演が4日間行われ、最終日の1stを観ることができた。

 ステージ中央にキーボード2段重ね、舞台袖近くのグランドピアノが置かれている。曲によって両方を使い分けるステージ構成はいつもどおり。Keikoの隣にスティーヴ・リードが大小あわせて60〜70ほどのパーカッションをセッティングしているのが目立つ。

 やがて白地に紫の刺繍をしたシフォンのドレスに身を包んだKeikoが登場した。中央のキーボードの前に座り、ショーが始まる。トレードマークだったポニーテールではなく、髪をおろしていて新鮮な印象だ。

 1曲目は。キラキラとまぶしい光を思わせる、さわやかなナンバーである。聴いているうちに、乗り物に乗ってきれいな景色を見ているような、自由で伸びやかな気持ちになってくる。世界各国でものすごい本数のツアーをしているのだから当然とはいえ、全員の息がぴったりと合った見事なバンドサウンドだ。はずっと以前から演奏され続けている曲だ。「河童は日本の妖精(妖怪?)で・・・」というMCのあとにはじまった優しいメロディを聴くと、日本の山や川が目に浮かぶようだった。途中雰囲気をがらりと変えて、嵐のように疾走する部分では、Keikoバンドそのものが風、海、嵐、川といった大自然の化身のように感じられた。

 中盤ではKeikoがグランドピアノに移動してをソロで演奏。バンドリーダーとして5人のメンバーを引っ張っていく様子も見事だが、こうしてひとりのピアニストとして聴くと、彼女の音に対する繊細で豊かなセンスをまざまざと感じる。特にタッチの美しさとペダルの使い方が素晴らしく、高い音域から低い音域まで残響を複雑に混ぜ合わせ、オーケストラにも似た無限の広がりを感じさせる。

 後半〜アンコールには、ややファンキーで盛り上がるナンバーが続く。インプロビゼーション部分での白熱あり、ステージ上でプレイヤーが目と目を合わせてにやりとする場面あり。Keikoも楽しそうに笑顔でリズムに合わせて体を揺らしながら演奏したかと思えば、"気"を発しながらソロを繰り広げる。ショルダーキーボードを肩にかけ、サックス奏者の隣で立って演奏するなど、恒例のファンサービスも抜かりない。

 彼女の作品には大自然をイメージしたものが多く、ナチュラルなもの、本質的なもの、美しいものを求める人間の欲求を満たしてくれる。この日の演奏をたとえるならば、ドラムとベースは大地、ギターは炎、サックスは風、パーカッションは水や動物、植物。そしてKeikoは真ん中で光り輝く太陽または月、といったところか。なかでも特筆すべきはKeikoの演奏とパーカッションのスティーヴのシンクロ具合である。スティーヴはアドリブ部分であってもKeikoが弾くクライマックスの音にピタリと合わせてクレッシェンドしたり、静寂があればすかさずそれを引き立てるかすかな音を入れたり、本物の雨音、波音、虫の声のような音を重ねながら、彼女の音楽が持つナチュラルな感触を引き立てていた。

 当然ながらアンコールでは、会場総立ちのスタンディングオベーション。日本人だけでなく、アメリカ人もKeikoの音楽を深く愛しているのだと実感する。Yoshi'sのようなステージと客席が至近距離のジャズクラブで聴くと、楽曲やバンドのよさが手にとるようにわかった。ダイナミックな面はもちろん、緻密さ、美しさを存分に堪能することができたのはジャズクラブならではといえるだろう。
(山本美芽 http://homepage1.nifty.com/mimetty




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