Ernie Watts (Saxophone) Abraham Labriel (Bass) Patrice Ruchen (Keyboards) Alex Acuna (Drums) ブルーノート東京 2005.06.24 1st set |
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あれだけ混雑したライブを東京ブルーノートで見たのは久しぶり・・・といったら失礼だろうか?いや、でも正直毎日毎回満員御礼といった状態は、クラブ側の予想を超えていたと思う。当日Ritenourのマネージャーと話をしたところ、このラッシュアワー並みの混雑は実はほぼ連日連夜続いたそうで、まさに今回のユニットの根強い人気を思い知らされた感じだ。 私が楽しんだ6月24日(金)のライブは、1stステージ開演時間前に既に超満席状態で、果てはステージ左横上方のバルコニー席やバー・カウンターのストゥールまでがRitenourのファンで埋め尽くされていた。目を凝らしてファンを観察すると、やはりジャズ・フュージョンにはありがちな男性ファンが多いが、意外に女性ファンも頑張っている。年齢層ではGentle Thoughts やFriendshipをリアルタイムで楽しんだであろう30代後半から40代、50代のファンが多いように感じられたが、そこここに意外に若い人達も見られたのが何とも嬉しい。 5時半から始まった開場、ようやく人の流れが落ち着いたのは本当に開演直前だった。気が付くと辺りのざわめきが一段と高まっている。まさにクラブのどこを見渡しても人、人、人の満員状態だ。そしてこのざわめきが期待と興奮、いよいよかといった緊張でなんとなく静まった7時過ぎ、突然観客席後方からどっと拍手と歓声が沸き上がった。いよいよ今夜の主役達の登場だ! さて、まずはバンドのメンツ――言わずと知れたGentle Thoughtsの面々――を紹介しておこう。リーダーのLee Ritenourはデビューアルバムの「First Course」以来常にジャズ・フュージョン界をリードしてきたベテランギタリストだ。当時のファンにとっては、Dave&Don のGrusin兄弟とのコラボレーションが一番印象的かもしれない。70年代クロスオーバー時代からさまざまな音楽を取り入れることに成功してきた彼は、途中「Harlequin」や「Rio」、「Festival」や「Color Rit」といったブラジル系アルバムをリリース、その後「Stolen Moments」、「Wes Bound」、また「Rit's House」でかなりジャズ色の強い音楽に流れ、さらには「Two Worlds」でクラシック音楽との融合にもチャレンジしている。もちろんFourplayの初代ギタリストであり、またLarry Carltonとの共演等でも素晴らしいアルバムを作成していることは皆さん周知の事実だろう。 サックスのErnie Wattsは前に挙げた数々の作品に頻繁に顔を出している盟友だ。特に日本で大ヒットした"Captain Caribe"や"Captain Fingers"など、初期の印象的な作品でRitenourのギターとユニゾンはファンにはお馴染みと言える。ブラジル系のアルバムがお気に入りの私には、あの"Night Rhythms"でのメロディアスなサックスが特に記憶に残っているが、ファンの方々がお気に入りの曲を挙げていったらまさに切りがないだろう。70年代当時から不思議なほどまったく変わらぬ風貌も手伝って、彼の演奏姿は、音楽と共にまさに時間を越えているような妙な錯覚さえ起こさせる。 同様のことがいえるのがキーボードのPatrice Rushen。相変わらず可愛らしい笑顔の彼女だが、Ritenourの紹介によれば既に2人のお子さんのお母さんとのこと。風貌は変わらずとも時間が確実に経っていることを思い知らされる。彼女のキーボードの醍醐味を語るのに、個人的には"Sugar Loaf Express (from 「Sugar Loaf Express」)での、Ritenourの明るいギターのバックにさりげなく響く演奏を例に挙げたくなるが、それ以外でも名演奏は数知れないことは、ファンの誰もが認めるところだろう。 さて、リズムセクションとして登場するのが、ご存知Abraham LaborielとAlex Acuna。どちらもGentle Thoughts、Friendshipではまさにバンドの顔とも言えたメンバーだ。Abeの方は髪がすっかり白くなり多少時間の流れを感じるが、音楽的には全く衰えを感じさせない。彼の場合、渋いところでKOINONIAあたりの演奏などもまたまた魅力的だが、Ritenourとの共演では、なんといってもEtudeでの弾むようなAbe Dance(と名づけてしまおう)がファンにはお馴染みなのではないだろうか。90年代初めに武道館で行われたEarth Voice Concertのステージでパワフルに披露されたあのDanceは、初めて見た方にはかなり印象的だったはずだ。ちなみにそんな彼もミュージシャンと同時に頼れる父親となっている。その息子が、奨学金付きでバークレー音楽院に入学し、その後Stingのツアーメンバーとしても大活躍する若手ドラマーであることは、意外に知られていないかもしれない。あのリズム感は、息子に着実に受け継がれたわけだ。 Alexの方はペルー出身、骨の髄までラテンのリズムが染み込んだベテランだ。ドラマーというよりはパーカッショニストとしての印象が強いと思われるファンの方々もいるかもしれない。リトナーの数々の名演奏のバックで、彼がさりげなくリズムを取っていることは、数少なくない。Harvey Masonと同時に、Ritenourにとっては縁の下の力持ち的存在と言える。 ライブは、Ritenourの好みとファンの期待を合わせたような選曲だ。まずはRit’s Houseから "13"。出だしのベースのラインが印象的な1曲だ。しかもRitenourの渋いギターラインとErnieのサックスのユニゾンがまたなんともいえずかっこよい。続いてRitenourのオクターブ奏法が光る"Wes Bound"。メインのメロディが始まったところで、Ritenourがいつも通り体全体でリズムを取り始めると、会場には待ってましたと云わんばかりの雰囲気が広がる。さびの部分の泣きのギターがまたたまらなくいい。そしてErnieやPatriceのソロがさらに会場を盛り上げる。そして強いベースのラインとシャッフル風のリズムとRitenourのオクターブ奏法がさらに歯切れ良く響く"Boss City"。あちらこちらでファンが体でリズムを取って楽しんでいるのが分かる。ここでRit’s Houseに戻って"Party Time"。Ritenourのソロに加えてこの曲ではPatriceのソロも光る。ここで新しいアルバム「Overtime」からの"P.A.L.S."。この曲、なんといってもベースとギターのユニゾンで奏でられるテンポの速いメイン・メロディが印象的なのだが、なんとなく初期のRitenourのアルバムを思い出される。きっと、最近Ritenourの音楽としては聴きなれた4ビートでもなくブラジル系でもない、どことなく尖がったイメージのフュージョンのような響きを持っていたからかもしれない。とにかく、まさに今回のメンツならではの1曲といった感じだ。そしてそれに続くのが、お待たせしました"Etude"。Ritenourのギターによる出だしのゆったりとした美しいメロディに続いてあの小気味の良い聴きなれたリズムが始まると、会場は拍手に包まれた。私も含めて例のAbe Danceを期待したファンは多かったと思うが、Abeのパワフルなパフォーマンスにとってはブルーノートのステージはやや狭かったようだ。それでもはじけるようなチョッパーでしっかりとソロを決めるあたり、Abeの才能に衰えはない。 ・・・とここまで説明してきたところで曲数は6曲。通常のRitenourのライブからすると、若干少ないと思われるかもしれないが、その理由は各曲の長さ。それぞれのメンバーがしっかりソロを取っているため、1曲1曲がいつもよりも数段長くなっている 。このメンバーだからこそのライブ構成ともいえるだろう。 さて、いよいよというところでついに登場、"Captain Fingers"だ。この曲は最新アルバム「Overtime」にも収められた名曲で、この曲が初めてRitenourのアルバムに登場した頃にRitenourの音楽にはまった(もちろんそのままはまり続けている)人達が実は多いのではないだろうか。 Ritenourの切れのいいカッティングが静かに始まり、やがてそこにAlexのドラムとAbeの印象的なベースラインが加わる。いつ聴いても一言「かっこいい!」と言いたくなる出だしである。ところでこの曲、過去のRitenourのアルバムにはいくつか微妙に異なるバージョンが収録されているが、今回のライブでは、もちろん最新作「Overtime」バージョン、つまりは「Captain Fingers」よりは「Gentle Thoughts」のバージョンに近いサウンドだったと感じたが・・・その場で演奏を楽しんだ皆さんはどう感じただろうか。 この曲、なんといってもRitenourの流れるようなフィンガリングに一番魅了されると思うが、そこはなんといってもベテランの揃ったバンド。その流れるようなギターに絡む各人のサウンドにも興奮させられた。 ・・・と、たっぷりとRitenourらしさを楽しんだところでライブは終了!会場に「え〜、まだ終わりじゃないでしょう?」といった、焦りにも似た吐息が一気に広がる。それを聞きつつ、通路際のファンとのハイファイブを楽しみつつ、メンバーは全員楽屋へ直行。 だが、もちろんこれで終われる訳がない。延々と続く割れんばかりの拍手と口笛に、メンバーはようやく再登場。そしていよいよアンコール曲だ。ここにきて、日本人には特に馴染み深い、ラテン風のピアノのフレーズが始まる。"Captain Caribe"だ! いわずと知れたこの曲、実はアメリカではほとんどヒットしなかったというのは、関係者の間では興味深く語られることが多い。以前、マネージャーやオーディオ・エンジニアとRitenourの過去のヒット曲の話をした際、私の"Captain Caribe"に対して、彼らの反応は「?」だった。もうRitenourとは数十年の付き合いになる彼らだが、その彼らにしても"Captain Caribe"はほとんど記憶に残っていないらしい。それもそのはず、実はあの曲、日本では飛びぬけてヒットしたものの、アメリカ本国ではあまり目立った曲ではなかったのだ。似非民族音楽研究家的に考えると、あのDマイナーと盆踊り的なほどよいリズムが、日本人の心に馴染みやすかったのでは・・・などと勝手に想像するが、実際のところその理由は定かではない。いずれにせよ、Ritenourが今回のこのアンコール曲を、特に日本のファンのためを思って選んでくれたことはまず間違いない。彼のギタリストとしての長いキャリアと素晴らしい成功を考え合わせつつ、それでもなお日本のファンに対する特別な気持ちを持ち続けていてくれていることに、ファンの一人として感謝・・・と言うべきだろう。 曲数から考えると多少心残りのあるライブだったが、長年のファンには満足のいくものだったのではないだろうか。ライブの間は、過去のアルバムから選ばれた曲がジャズ系に偏っていたように感じたが、ライブの最後に演奏された名曲2曲でそんな不満も吹き飛んでしまった。まさに、Ritenourの長いキャリアにちりばめられた印象的な演奏の数々を垣間見れた素晴らしいライブだったと言える。 さて、ライブのあと自宅に戻って、「あのころはよかったなぁ」などとつぶやきながらさっそく昔のアルバムをひっぱり出してしまった自分だが、そうしながらも「でも、できれば"Sea Dance"も欲しかったなあ。あ、"Sugar Loaf Express"はなんで抜けてるんだ?」などと考えてしまうあたり、どうも彼のファンとしてどこまでもずうずうしくなってしまえるようだ。そういえばあの曲も、いやこの曲も、と、考えれば考えるほど次々にリクエストしたい曲が頭に浮かんできてしまうわけで・・・・・あらためてRitenourとその面々の偉大さに敬服!といったところだ。(まい) |
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