完全版
2005年5月8日(日) 日比谷野外音楽堂
Chick Corea(key pf) Dave Weckl(drs) Ric Fierabracci(b)Frank Gambale(g)Eric Marienthal(sax)
1.CHECK BLAST
2.MINISTRESS LUCK
3.Johnny’s LANDing
4.ALAN CORDY
5.The Long Passage
6.TRANCE DANCE
7.Eternal Child
8.CTA

En1 SPAIN
En2 BLUE MILES
(クリックすると拡大写真が見れます。)

「ライブは何が起きるか分からない。」
それは使い古されたコンサートへの枕詞なのだが、まさにそれが起きた時の喜びは大きい。
今回はまさにそのようなライブになった。しかし、それを説明するには少々内幕を暴露しなくてはならない。

この日、日比谷野外音楽堂は曇りということもあり、5月にしては非常に寒かった。
一応、上に羽織るものを着ていたが、それでも体を丸めないとガタガタ震えが止まらなくなるほどだ。
なので、正直ライブは結構厳しかったし、観客も体を縮めてじっくりライブを見ていた感じだ。

実は今回、取材向けに前もって本日行う曲順のセットリストをもらっていた。
ステージは無事進行し、セットリストでは最後のアンコール「Got A Match」で終わる予定になっていた。
やれやれ、やっと最後の曲か、長かったなぁ、寒かったなぁ・・・というのが正直な感想だった。

チック・コリアがスローなテンポでエレクトリック・ピアノを奏でる。
なるほど、こういう叙情的なイントロから、突然「Got A Match」の爆発的なスタートにつなげるのだなと予想した。
しかし、叙情的なイントロはいっこうに止まらない、それどころか「ある耳慣れた旋律」を奏でる。

「アランフェス」・・・そう、あのアランフェス協奏曲の有名なテーマが流れ出したのだ。
チック・コリアのファンであれば、このメロディの意味は誰でも知っている。
Return To Forever「Light As A Feather」に収録された、チック・コリアの、いや全Fusionを含めてもの代表曲「SPAIN」につながる有名なイントロである。

当然、耳の早いファンは「おおぉ・・」と沸き立つ。
自分は内心、こんなところでアランフェス出して「Got A Match」じゃ、がっかりしちゃうんじゃないかい?と考えた。
それどころかエリック・マリエンサルまでがアランフェスのメロデイを重ねる。

そしてイントロは静かにフェイドアウト・・・一瞬の静寂。
その静寂を破ったメロディ・・・間違いなくあの「SPAIN」が始まったのだ。

当然、観客は歓喜の渦、さっきまで寒くて縮こまっていたのが大ノリ大会になってしまった。
多分、観客の誰もが予想もしない「SPAIN」に驚いただろう。
でも、人知れず更に驚いたのはセットリストをもらっていた一部かもしれない。

今日はこの曲「SPAIN」はやらないはずだった。
しかし、現に今、目の前で「SPAIN」が演奏されているのだ。
それもChick Corea Electric Band最強布陣による「SPAIN」だ。
これは凄いぞ。

もう観客はテーマに合わせた手拍子。テーマはチックからギャンバレにリレーし、各ソロに突入。
最後には、チックのコンサートではおなじみチックのメロディに追うように観客が歌う。
それで「SPAIN」や色々なフレーズを歌い、大盛り上がりを見せて演奏は終わった。

驚きはそれだけでは終わらない。さっきまでの寒さは何処かに行ってしまったかのように、オールスタンディングでのアンコール。
アンコールは1曲だけの予定が、再びチック・コリア達はステージに集まった。
そして最後のアンコール「Blue Miles」・・これもオール・スタンディングでの手拍子でノリノリである。
まさに、「本当」のアンコールとなったのだ。

さて、アンコールばかりを書いてしまったが、改めて今回のライブ全体を述べる。
今回のライブは前半が昨年久しぶりに出た新作「To The Star」からの曲で固められた。
いずれも各メンバーの高度なテクニックが堪能できる、まさにエレクトリック・バンドでしかできない曲であろう。
ただ、これらの曲は、盛り上がるというより、じっくり聴くタイプで、あまりライブ向きでは無い気がする。
そう考えてしまうのは寒空の下で聞いたからに他ならないのだが、演奏の質は非常に高いと思う。

後半は「Eys Of Beholder」からの2曲と、「Painted The World」の1曲、それと「CTA」。
これらもどちらかというと聞かせるタイプの曲。このあたりの曲が聴けたのは個人的に満足した。
「CTA」は元々Jazz Sax奏者ジミー・ヒース作曲で、その弟パーシー・ヒース(元MJQ)が亡くなったということで追悼の意味であるとチックは語った。それもメンバーチェンジされたErectric Band IIのレパートリーなのだが、それを今回のメンツで聴けるのも嬉しかった。マリエンサルが意図的にJazz調を強く吹いたのが印象的だ。

このライブで興味を引いたのは、チック・コリアのエレクトリック・ピアノにかけるリング・モジュレーターである。
これはマイルス・デイビスのバンドに参加時代によく使っていた装置で、音がぐちゃぐちゃに変化する、不思議な効果をもたらす。
これは近年のライブでは使われてなかったので、ライブで使うのは久々であろう。
チック・コリアは、マイルス・トリビュートDVDに出演して、このリングモジュレーターについて説明してたので、もしかしたらその時に思い出して再度使い始めたのかも?・・・と想像してしまった。

また、ベーシストはジョン・パティトゥーチではなく、リック・フィエラブラッチ。
初めて聴くベーシストで、プレイ・スタイルはスラップを多用するテクニシャン・タイプだ。
また、ベース・ソロではスラップだけにとどまらず、両手でネック上の弦を叩くいわゆるタッピングでのソロも披露してくれた。

そしてフランク・ギャンバレも神業的なギター・ワークで、スィープで信じられないソロを連発した。
エリック・マリエンサルもここ数年数多くのバンドで大忙しだが、他とでは一味違い、一番ハードなプレイを聞かせてくれた。
ディブ・ウエックルのドラミングも心地良いほどのスピードで、凄いフィルを決めてくれる。

結局、本編の方はそこそこであったが、アンコールの方は最初に述べた通りの凄い盛り上がりを見せた。
このアンコールを体験できただけでも、このコンサートに来た甲斐があったという感じだ。

それにしても今回の寒い野外で、雨が降らなかったものの、かなり厳しいコンサートの環境・・・にも関わらず、最後の最後であれだけの盛り上がりを演出するチック・コリアは、やはり凄い何か特別の力を持っているのだなと感心した。(TKO)


2005年5月12日(木)大阪ブルーノート 2nd set
Chick Corea(key pf) Dave Weckl(drs) Ric Fierabracci(b)Frank Gambale(g)Eric Marienthal(sax)



東京は野外の寒い中でのコンサートだったようだが、大阪はブルーノートでのライブということで条件的にはかなり恵まれていたといえるだろう。350人程度のキャパの狭い会場でエレクトリック・バンドをベストに近いメンバーで見れるということ自体が驚きだった。そもそも80年代に来日したときに見にいったときの記憶ではチックの機材が山のように積まれていてとてもじゃないけど、ライブハウスの小さなステージで演奏するのは無理だろうと思っていた。

開演前にステージの機材を見回すとチックの機材は鍵盤は生ピアノ、ローズにヤマハのMOTIF8だけとかなりシンプル。あとはラック音源だけというこの20年でのデジタル楽器の進歩を感じさせるようなセッティングだった。 一方ウェックルは2バス、2スネアにパーカッション付きという3人分くらいある巨大なドラムセットだったのが目を引いた。

ステージの前半は新作「To The Stars」の中の曲を中心に進んでいった。随所で見せるウェックルのテクニカルなドラム、たっぷりとフィーチャーされたギャンバレの高速ソロに耳を奪われる。新作からのメドレーを締めた「Check Blast」の高速ユニゾンはまさにエレクトリック・バンドの本領発揮ともいえるものだった。

またフラメンコのファンダンゴのリズムを題材にしたという新曲では全員の無伴奏ソロが披露された。この曲ではチックはアコピ、ギャンバレはナイロン弦のエレアコ(というかヤマハのサイレント・ギター)でエレクトリック・バンドによるアコースティック演奏となった。ギャンバレがナイロン弦をピック弾きするのはアタック音が強すぎていまひとつに感じたが、ナイロン弦でスウィ-プ奏法をやっていたのには驚かされた。

そしてマイルス・デイビスに捧げたというシャッフル・ナンバーの「Blue Miles」では、全員のソロをたっぷりとフィーチャーして一旦ステージは幕を閉じた。
この時点ですでに1時間40分くらいたっていたのでアンコールはないかなと思っていたが、鳴り止まない拍手に応えて「Spain」を演奏してくれた。この曲でのウェックルのソロはテクニック、発想、パワーとも完璧とも言えるもので圧巻だった。以前はウェックルはテクニックはあるがパワー不足という印象だったが、この日のウェックルはかなりパワーアップしているように感じられた。
個人的には数回目のチック・コリアのライブだったが、初めて生「Spain」を体験することができたのも嬉しかった。

終わってみるとたっぷり2時間の演奏で、格闘技のようなテクニックのぶつかり合いに圧倒されるステージだった。終わってからあわてて店をでて最寄駅から乗れた電車が12時ちょうどだったので、この日は「Spain」のおかげで終電に乗り遅れてしまった人もかなりいたのではないだろうか。(橋 雅人)


Chick Corea Elektric Band Discography
Live from Elario's
1985
Buy CD
The Elektric Band
1986
Buy CD
Light Years
1987
Buy CD
Eye of the Beholder
1988
Buy CD
Inside Out
1990
Buy CD
Beneath the Mask
1991
Buy CD
Paint the World
1993
Buy CD
To the Stars
2004
Buy CD


Report by TKO/M.Hashi
Photo by aswan