Dave Koz and Friends
Live Report
 


Dave Koz & Chris Botti
Dave Koz - saxophone
Marc Antoine - guitar
Chris Botti - trumpet
Jeff Lorber - keyboard
Tony Maiden - guitar
Stevo Theard - drums
Andre Berry - bass
Brian Simpson - keyboard

2003.10.19 Murat Theatre, Indianapolis, U.S.A.

Dave Koz(デイヴ・コズ)の多芸多才さは、米国ではかなり以前から知られていたように思う。西海岸では、Smooth Jazz局主催のサマージャズフェスティバルなどに、演奏者としてだけではなくMCとして登場していたし、今でも続いているSmooth Jazz局の彼の番組には、毎回若手・注目株のアーティストが立て続けに出演している。彼のウェブサイトを覗いた方はご存知かもしれないが、Dave Kozはずいぶんしっかりしたファンクラブを持っているのだ。ほとんどすべての彼のコンサートにはファンクラブ専用席が設けられていて、その席のチケット購入はファンクラブのメンバーに限られているし、ウェブサイト自体にもファンクラブのメンバー限定のコンテンツが用意されている。自分専用のウェブサイトで、コンテンツの更新連絡のためのメーリングリストを備えているアーティストは多いが、ここまでファンクラブがファンクラブらしい活動をしているジャズアーティストも珍しいのではないだろうか?

近年のDaveと言えば、とりわけ11月末のThanksgivingの休日以降にツアーがスタートするコンサートシリーズ、「Smooth Jazz Christmas」が話題になることが多い。2002年の参加メンバーは、Dave Kozに加えてDavid Benoit (デヴィッド・ベノワ)(p)にPeter White (ピーター・ホワイト)(g)、Rick Braun (リック・ブラウン)(tp)にBrenda Russell (ブレンダ・ラッセル)(vo)と、ちょうど2002年に発売されたクリスマスアルバム「Smooth Jazz Christmas」のレコーディングメンバー勢揃いの、まさに「おいしいところ取りユニット」といっても過言ではなかったが、2003年のユニットもそれに優るとも劣らない面々だ。最近人気急上昇中でステージ上のパフォーマンス満点のBrian Culbertson (ブライアン・カルバートソン)(keys&tb)、フラメンコ調のサウンドがトレードマークのMarc Antoine (マーク・アントワーヌ)(g)、最近伸び盛りでミュージシャンの間でもレコーディングに引っ張りだこのChris Botti (クリス・ボッティ)(tp)、そしてご存知日本でも人気者、昔の「Parliament」のコマーシャルが印象的だったBobby Caldwell (ボビー・コールドウェル)(vo)――がDaveをサポートという豪華さ。12月21日にハリウッドのコダックシアターで行われたこの「Smooth Jazz Christmas」のオーケストラ席のチケットは、インターネット上のオークションで、一時は定価の4倍以上、$300以上で売りに出されていたりしたものだ。

Saxophonic
Check CD  
毎年何かと話題の尽きないDave Kozの2003年のもう一つの話題は、なんといっても彼のソロアルバム「Saxophonic」だっただろう。2000年の「Smooth Jazz Christmas」、2002年の「Golden Slumber」というテーマ性の強い2枚のアルバムを除くと、 1999年の「The Dance」に続く4年ぶりのファン待望の最新作だ。彼のホームページでは、かなり早くから一押しの曲「Honey-Dipped」が通しで聴けるようになっていた。独特の気持ち良いメロディにさりげなく響くビート、それに彼らしいスムーズな中にも感情のこもった音が印象的なこの曲が、つい最近Grammy AwardのBest Pop Instrumental Performanceにノミネートされたことは、記憶に新しい。

Smooth Jazz Christmas
Check CD  
2003年10月にIndianapolisで行われた「Saxophonic Tour」のライブは、まさにそのノッているDaveを、これまたノッてるミュージシャン達――Marc Antoine、Chris Botti、Jeff Lorber(ジェフ・ローバー)(keys)――が強力にサポートした贅沢なものだった。Dave自身のバックバンド、ドラムス、ベース、キーボードに、さらにソロで活動するミュージシャン陣が加わる訳で、その音の豪華さは鳥肌が立つほどだ。ステージ向かって左側はJeffが陣取り、右側にはChris、そしてMarcはステージ中央寄りでDaveの脇を固める。ファンとしては、彼らのソロを見逃さないために、視線を忙しく動かすといった状況だ。

よくよく比べてみれば、この編成、キーボードのJeffをBrian Culbertsonに替えてヴォーカルのBobby Caldwellを加えると2003年度版の「Smooth Jazz Christmas」になるわけで、Dave自身としては、レコーディングメンバーそのままのバンドで演奏という意味合いと同時に、「Smooth Jazz Christmas」の前哨戦としてチームワークを調整するといった意味合いもあったのかもしれない。

さて、ライブはまずDaveの過去のアルバムの代表曲のオンパレードで始まった。もちろん「Lucky Man」からの"You Make Me Smile"(余談だが、この曲はDave Kozの作品の中で特に私のお薦めの1曲だ)や"All Together"を含めたSmooth Jazz Stationの常連曲が次から次へといった感じだ。Jeffがファンキーなソロを奏でれば、Daveが弾けるようにリフで応える。Marcが異国調のサウンドを響かせれば、Chrisが力強くも哀愁を帯びた音で後に続く。それぞれのメンバーがSmooth Jazz界で人気のソロアーティストという事実は、ここでの演奏で簡単に証明できることだったようだ。ただ、この最初のセッションでは、Daveは過去のアルバムからの名曲が中心だった。最新作「Saxophonic」からの新曲は後半にお預けといったところだろうか。

そして、この豪華な演奏は、Daveの軽快なMCを挟んで主役を交代、Daveがステージから下りると今度はChrisの独壇場だ。

最近伸び盛りのChris Botti、アルバムジャケットをご覧になった方はご存知かと思うが、一般的に言ってかなり見栄えのするミュージシャンだ。ジャケットには必ず彼自身が登場しているし、何と言っても演奏時のファッションやポーズにもかなり気を使っている感じが見て取れる。つい最近、アメリカのハリウッド系情報番組で、彼がインタビューを受けていたが、これも多分ファッションなどでも注目された結果だろう。その彼だが、見栄えだけではなく実力にも目を見張るものがある。特に、近年はかなり頻繁にアルバムを出していて、2001年の「Night Sessions」、2002年の「December」に続いて最新作の「A Thousand Kisses Deep」がつい最近出たばかりだ。どれもSmooth Jazz局でかなりエアプレイされており、伸び盛りの彼の勢いを感じさせられる。

Dave Koz/Stevo Theard/Andre Berry/Marc Antoine
このChrisのステージでの見所は、もちろん彼のソロ満載の演奏だが、Daveと向かい合ってのImprovisationが一番印象的だった。ステージの雰囲気作りがうまかったこともあるが、向かい合ってストゥールに座った彼らの表情、お互いの目線でのやりとり、呼応するソロが、ものすごくセクシーだったと記憶している。こんなステージであのしっとりとした"My Funny Valentine"を演奏されたわけで、ファンの女性はみんなメロメロになっていたのではないだろうか(実際この演奏は素晴らしかった)。特に彼のファンという訳ではなかったが、彼の高い演奏技術――特に安定して伸びのある音には本当に感心させられた。

続いての登場は、フラメンコ調のアコースティックな響きがトレードマークのMarc Antoine。彼のステージは前作「Crusin'」からの1曲"Mas Que Nada"で始まった。ここからつながるメドレーは、Marcを聴きなれていないファンでも、充分に楽しめる演奏だ。 最新アルバム「Mediterraneo」からの選曲の魅力もあいまって、ついつい「Smooth Jazzってやっぱりいいなあ〜」などとしみじみ思ってしまった。

ここで前半の休憩。この休憩の後、再びDaveのステージから始まった。

今度は期待通り「Saxophonic」からの新曲の嵐だ。Brian McKnightをフィーチャーした"Love Changes Everything"では、ベースの渋いヴォーカルを従えての演奏、それにChrisをフィーチャーした"Sound Of the Underground"では、ちょっとSmooth Jazzよりも尖がったイメージのジャズを聴かせる。"View from Above"ではMarcのソロが印象的だし、"All I See Is You"でのDaveのファンキーな響きもまた魅力的だ。ただし、ここでも"Honey-Dipped"はお預け。これは多分最後の最後に持ってくる、「締めの曲」というところだろうか。

Jeff Lorber
後半の次の主役はJeff Lorber。他のバンドメンバーに比べると、Smooth Jazz界でのキャリアが格段に長いJeffだが、このハイライトの順番だけを見ても、DaveのJeffへの気遣いが感じられたように思う。加えて、この時のJeffの紹介には、Daveの素直なJeffへの感謝の気持ちがこめられていたようだ。Daveがマイクを取って語り始める。

「Jeff Lorberといったら、誰もが知ってる名作曲者、名演奏者、名プロデューサーだよね。そして、Jeff Lorber Fusion Bandっていったら、当時一番かっこいいフュージョンバンドだった。だけど、僕にとってのJeffはもっと特別な意味があるんだ。彼は、1990年に発売された僕の最初のアルバム「Dave Koz」のプロデューサーなんだ。Jeffは、あのデビューアルバムで、僕の音楽的な強みを本当にうまく引き出してくれたと思う。つまり、僕がここにあるのはJeffのおかげと言っても過言ではないんだ。だからまず、その感謝の気持ちを込めて、デビューアルバムからの1曲をJeffと一緒に演奏したいと思う。」

長い説明の後Daveが演り始めたのはアルバム「Dave Koz」からの"Castle Of Dreams"――アルバムの中では"Emily"と並んでヒットした、Dave自身の手によるバラードだ。Daveのかなり熱い紹介の間は、Jeffはなんだか照れくさそうな感じだった。途中、Daveが「あ、でもこういう話はJeffは嫌がるんだよね。というのは、彼がかなり年上っていうことがばれちゃうから。」と軽く冗談を言うと、Jeffは楽しそうにウケていた。

この、Daveの特別なイントロから始まったJeffのステージも、またまた面白いものだった。もちろんDaveの思いのこもった1曲の後は、Jeff自身の曲だ。とはいっても、最新作の「Philly-Style」からは"Gigabyte"の1曲だけ。あとは以前の懐かしい「Water Sign」から"Rain Dance"、それに「Kickin' It」から"Ain't Nobody"。途中、キーボードから離れて、お気に入りのギターを持ってステージ真ん中に現れるJeffは、キーボードとの組み合わせを見慣れているファンにとっては、ちょっと不思議な印象だったかもしれない。でも、そこはさすが熟練ミュージシャン、キーボードからギターに持ち替えても、しっかりブルージーなソロをとり観客以上に演奏を楽しんでいる様子がうかがえた。

そして最後は全員揃っての大演奏会。ここでは、新作からの数曲に加えて、前作からの名曲"Can't Let You Go (The Sha La Song)"や"Love Is On The Way"も演奏されていたと思う。繰り返しになるが、こういう「一億総名ミュージシャン」(かなり数字は大袈裟だが)状態になると、あまりの贅沢な組み合わせに、演奏中誰を注視しようか迷うほどだ。贅沢な悩みの中、満を持して"Honey-Dipped"が登場。ここでのDaveのかなり気合の入ったソロとパフォーマンスで、会場の観客は大歓声、ライブは最高潮に達した。

Daveのちょっと派手なパフォーマンスにChrisのセクシーな演奏スタイル、そしてMarcのリズムの効いたギターにJeffのファンキーなキーボード――これらを見ていると、Dave Koz自身の素晴らしい演奏に加えて、ライブ編成のうまさ・メンバー選びの秀逸さ・そして最終的にそれを1つのShowにまとめあげる彼の音楽的力量と人間性の魅力に本当に感心させられた。このライブのチケットをTicketmaster.comでオーダーした時、発売後1週間以内だったにも関わらず、いい席がまったく残っていなかったことをふと思い出し、ようやく納得できた。長年のファンは、この"うまみ"を知っているのだ。

ライブの後、少しだけDave、Jeff、Chrisと話をすることができた。ChrisとJeffに比べて小柄なDaveは、なんだか目の前にして話を始めると「近所の人気者のお兄ちゃん」といった印象だ。きさくで笑顔を絶やさない、本当に魅力的なミュージシャンだった。

そんなDaveと話をしていて思い出したのが、2003年の「Smooth Jazz Christmas」を見る機会が、ここIndianaに全くなかったということ。思わず本人に向かって「Smooth Jazz ChristmasのツアースケジュールからIndianapolisが抜けてます〜。」とつぶやいてしまった。

Dave Koz
「う〜ん、去年来ちゃったから、2年続けてっていうのは難しいんだよね。でも来年(2004年)には必ず戻って来るよ。」

Daveからは、最大限に気を使った返事を恐縮しつつもらっただけだったのだが、彼の演奏スタイルやファンとのふれあい場面を見て、何とも言えず嬉しくなってしまった。いや、こうなったらIndianapolisと言わず、どこでもいいから彼のライブをもう一度見なければ!なぜか急に、Daveの熱狂的なファン状態に・・・(と、これは少々大袈裟だが)。

しかし、冷静に考えてみてもこの思いは変わらない。Daveを中心とした面々の、ツボを押さえた気持ちのいい演奏とステージ上の熱いパフォーマンス、それに笑顔を絶やさず嬉しそうにファンと交流する様子を見ていると、次回のコンサートへの期待が膨らむばかりだ。

結局、最終的にはこの一言に尽きるのかもしれない。

「これだからSmooth Jazzはやめられませんな!」

2004年の今年も、ぜひ新しいライブに期待しよう。 (まい)


Photos and text by Mai
All rights reserved by Cyber Fusion - jazzfusion.com 2004