東京JAZZ2002 Live Report



東京スタジアム 2002.8.24(土)- 2002.8.25(日)
2002.8.24
寺井 尚子 クインテット + coba
熱帯JAZZ楽団
HERBIE HANCOCK FUTURE 2 FUTURE BAND
WAYNE SHORTER QUARTET
SUPER UNIT -INVITATION to CUBA- featuring Michael Brecker
BUENA VISTA SOCIAL CLUB PRESENTS OMARA PORTUONDO
2002.8.25
NILS PETTER MOLVAER
小林 桂 + スーパークインテット
BUENA VISTA SOCIAL CLUB PRESENTS OMARA PORTUONDO
HERBIE HANCOCK FUTURE 2 FUTURE BAND
WAYNE SHORTER QUARTET
SUPER UNIT -MEET the FUTURE- featuring Michael Brecker

Herbie Hancock
久々の新しい大型ジャズフェスティバル、東京JAZZ2002が8月24日、25日の2日間に渡って行われた。NHK BSデジタルですでに生中継を含めたほぼ完全な放送がおこなわれ10月には同じくNHKのBSで放映が予定されているので、細かい演奏内容はTVを見ていただくとして、バンドごとの大まかな感想や、TVではつたわりにくい会場の雰囲気をレポートしていこうと思う。

雨男ハービー・ハンコックがプロデューサーを務め前日の天気予報でも降水確率50%と言っていただけに天気が心配されたが、結局2日目の小林圭の演奏中にほんの10分ほど雨がぱらついただけで、天気は持ちこたえた。暑さのほうも耐えられないほどではなく、まずまずのコンディションに恵まれたフェスティバルだった。
真夏の6時間に及ぶ野外のコンサートというためか観客の出足は遅く3時に最初のステージが始まった時点ではアリーナ部分にもかなりの空席が目立った。そんな中で初日のオープニングにバイオリンの寺井尚子クインテットにアコーディオンのコバが加わったユニットが登場した。最初の曲には東京フィルのピックアップメンバーによるストリングセクションも加わって大きなフェスティバルならではの編成だった。ストリング入りは1曲だけだったが、せっかくなのだから他の曲もストリング入りで聞きたかった。


続いて登場したのはカルロス菅野率いる熱帯ジャズ楽団。
ホーンを交えた大編成のにぎやかなラテン・ビッグ・バンド・サウンドで野外フェスティバル向けの音で楽しませてくれた。実は彼らがよくアルバムでカバーしているようなもっとポップな曲を期待していたのだが、選曲はわりとジャズよりだった。「ジャズフェス」というのを意識してだったのだろうか?
ただこの日の最後に登場したブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブの演奏がヴォーカルのいるいないは別とすると同じようなサルサのリズムを演奏していながら圧倒的に強烈なグルーヴを繰り出していて、終わってから振り返ると熱帯ジャズ楽団の演奏が完全にかすんでしまって、逆に本場ものとコピー文化の差が際立ってしまっていた。結果的に熱帯ジャズ楽団はブエナ・ヴィスタの引立て役になってしまい、ちょっと組み合わせが悪いようにも思った。

Herbie Hancock
そして外国勢として最初にステージに現れたのはハービー・ハンコックのFUTURE 2 FUTURE BAND。このバンド、個人的にはアルバム「FUTURE 2 FUTURE」の音はカッコいいのだが、、ライブで打ち込み系ループ音のリズムを延々聞かされるのは単調で、ステージが始まるまでは正直言ってちょっとつらいかなと思っていた。ところが実際に演奏が始まるとテリ・リン・キャリントンのドラムとマシュー・ギャリソンのベースの生のリズムセクションがバンド全体のノりを創り出していて、なかなか気持ちよく、その上にターン・テーブルを操るDJ.Discがスクラッチ音などをちりばめていくという展開だったので、いい方に予想を裏切ってくれた。ハンコックはシンセも弾くのだが、ソロは生ピアノを中心に弾いていた。ハンコックはやっぱりシンセより生ピのほうがよいですね。テリ・リンは女性だというのを忘れてしまうくらいパワフルだった。
またDJ.Discのスクラッチ音は会場を取り囲んだマルチ・チャンネルPA(6ch?)に振り分けられていたようで音があちこちから飛んできて、広い会場ならではのおもしろい効果をだしていた。
1日目、2日目とも最後はヘッドハンターズ時代のお馴染みの曲、カメレオンで締めくくった。
ちなみに会場の周りに設けられたテントでマルチチャンネルSACDのデモをしていて、そこでヘッドハンターズのカメレオンがかけられていたのですが、シンセ音が前や後ろから飛び交っていておもしろかったです。ハンコックの電気物はマルチチャンネルに向いているようです。

Danilo Perez & Wayne Shorter
次に登場したのはウェイン・ショーター・カルテット。
同じメンバーで最近ライブ盤をリリースしているが、そのCDをはるかに上回るような集中度の高い演奏を2日間とも聞かせてくれて、1時間弱というステージがあっというまに過ぎてしまった。このバンド、ショーターの集中力も凄いのだが、そのショーターのフレーズの合間にねじ込んでくるような攻撃的なドラムを叩いていたブライアン・ブライドが強烈だった。ドラムを叩く姿もタムが一つしかないドラムセットを低くセッティングしてある時はのけぞりながら、またある時は前に体を乗り出して噛み付かんばかりのプレイで独特の雰囲気をかもし出していた。
24日は2日間を通じて唯一のアンコールとなりショーター自身のスタンダード曲ともいえる「Foot Prints」が演奏され会場の盛上がりはピークに達した。
このバンドは24日、25日両日ともに本当に最高の演奏を聞かせてくれて今回の東京JAZZのハイライトともいうべきステージだった。
また8月25日はショーターの69歳の誕生日でショーター・カルテットの演奏の前にハンコックがでてきてピアノでハッピー・バースデイを弾いていた。69歳であのテンションの高い演奏は恐るべしです。

Michael Brecker
そして「INVITATION to CUBA」と銘打たれたオールスターメンバーによるスペシャル・セッションが行われた。1曲目はスペシャル・ゲストとしてマイケル・ブレッカーを迎えてハンコック、ウォレス・ルーニー、ジョン・パティトゥッチ、ブライアン・ブレイドというトランペットがロイ・ハーグローブに替ればそのまま「Direction in Music」バンドになる編成になぜかターンテーブルのDJディスクが加わって、その「Direction in Music」でも演奏されていたマイケルのオリジナル「D Trane」からセッションはスタートした。ブレッカーも登場していきなりすばらしい演奏を聞かせてくれ、このメンバーでの演奏が、たった1曲だけだったのだが惜しい。1ステージ丸ごとでも聞きたかったところだ。

2曲目は全くブレッカーのソロ演奏によるコルトレーン・ナンバー「Naima」。
この曲も「Directions in Music」に収められているが、今回の方があっさり目の演奏だったように思う。イントロの部分では広く残響の大きい会場の特性を生かしてスペースをたっぷりととった叙情的なフレーズで組立てていたのが印象的だった。

3曲目からはサックス、トランペット、ピアノ、ベース、ドラムス、パーカッションなど各パート2人づつくらいがぞろぞろと登場しての大セッション大会。
これだけ大人数でしかもリズムセクションも2人づついるというイエスもびっくりという編成でウェイン・ショーターの曲が演奏された。各人のソロは素晴らしいのだが、会場で生で聞いている限りは音が多すぎてリズムがばらけて聞こえアンサンブルとしてはちょっとつらかった。

そしてブレッカーが退場して、代りにキューバのオマーラ・ポルトゥオンドおばさんが、自分のバンドの数人を引連れて登場した。ヴォーカルをフィーチャーしたラテン風にアレンジされた「サマータイム」だった。オマーラはもう71歳とのことなのですが、はりのあるヴォーカルでした。トランペットのお兄さんは強烈なハイノートを軽々と吹いていましたが、調子に乗りすぎたのか(?)延々トランペットソロが続いて終われない状態に陥りハンコックがとめに入ってやっと終わるというスペシャルセッションらしい(?)エンディングとなった。

ところでこのセッション、「INVITATION to CUBA」というタイトルがついていたわりにはCUBAっぽいのは最後の「サマータイム」だけだった。

OMARA PORTUONDO
NILS PETTER MOLVAER
そして1日目のとりを務めたのはそのオマーラ・ポルトゥオンドを擁するブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブだった。
前のステージのラストの曲に引き続きオマーラのヴォーカルは強烈。71歳でどうやったらあんな声がでるのでしょうか?
ゲストとして途中から入ってきた黒ずくめのブルースブラザーズ系ファッションできめたピアニスト、ロベルト・フォンセカもゴンサロばりの高速かつ力強いプレイを聞かせてくれた。オマーラとのデュオとなった「ベサメムーチョ」もよかったです。 このバンドでは会場で立上って踊りだす人たちも大勢いました。
キューバって名前は知らなくても凄い人たちがいるんですね。

そして2日目となる25日のオープニングにはニルス・ポッター・モルベルのバンド。
ターンテープルに1人とその横でi-Macをずっと操作している人がいるという編成だった。彼らが創り出すノイズやリズムの上でニルスのトランペットが独特の空間を作り出していく。ギタリストもベーシストも本来は足元に置くようなコンパクトエフェクターを台の上に置いて演奏しながら仕切りにつまみをいじって効果音のような音を作っていたのが目に付いた。

ショーター・カルテット、ハンコックのFuture2Future Band, ブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブの3バンドは1日目とほぼ同じような構成のステージだった。

そしてフェスティバルのフィナーレを飾ったスペシャル・セッション「MEET the FUTURE」はニルス・ポッター・モルベルのバンドをベースにスタートする。ニルスのバンドがテクノ系(?)のノイズを出している中、いきなり予定外の寺井尚子が登場してソロをとる。 ニルスのバンドのスペイシーなサウンドと寺井のバイオリンの音がうまくマッチしていたように思う。
そしてマイケル・ブレッカー、ウェイン・ショーター、ウォレス・ルーニーなどが次々と登場してソロをとっていく。前日のセッションの後半2曲でリハーサル不足が露呈したのが気になったのかこの日はハンコックが前に出て指揮者モードで仕切っていた。 それがよかったのか、大人数でも音楽として、バンドとしてのまとまりをみせ「MEET the FUTURE」という名前にふさわしいスペシャル・ワン・タイム・パーフォーマンスとなりグランド・フィナーレを迎えた。

25日のフィナーレ
この東京JAZZは来年以降も継続して開催される予定とのことなので、最後に2日間に渡って見てちょっと気になったことを書いてみようと思う。

まず出演バンド数なのだが、6時間で6バンドではちょっとせわしなく、1バンドあたりの演奏時間が短すぎたように思う。日本のミュージシャンは他でも見る機会が多くあるのだから、海外ミュージシャンのみの4バンド程度でもっとじっくり演奏してもらってもよかったのではないかと思う。

またプログラム構成だが、せっかくの2日間にわたるイベントなのに、1日目と2日目の内容が重複しすぎていたと思う。一部S席は2日間通し券という形で販売されていたのだから、2日間を完全に違う内容にした方がより多くの人が楽しめ、もっと多くの人が会場に足を運んだのではと思う。
同じような出演ミュージシャンでも例えばハービーハンコックは1日はFuture2Future Band, もう一日は24日のスペシャルセッションの1曲目で見せたようなアコースティック・ジャズのバンドにしたり、ウェイン・ショーターのバンドを1日はマイケル・ブレッカーのバンドにするとか組合せを替えるなどして、もっと幅のあるプログラムにしてくれればより楽しめたと思う。

全体としては久々の都市型の大型ジャズ・イベントとして海外からの大物アーティストを揃えて、現代トップクラスの上質のジャズのライブを各日2万人弱の会場に集まった観客とTVの中継を通して全国のジャズファンに届けたという企画は素晴らしかったと思う。
来年以降もよりパワーアップして長く続いてくれることを是非、是非、期待したい。 (橋 雅人)

Wayne Shorter & Brian Blade ハッピーバースデイを弾くHerbie HancockとWayne Shorter
Brecker/Roney/Shorter 誕生日ケーキを切るWayne Shorter



Special Thanks to 「東京JAZZ 2002」実行委員会
Text and Photography by Masato Hashi
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