Jimsaku 100% Live Report



JIMSAKU 100%
神保彰(Dr,Trigger) 櫻井哲夫(B)
1997年5月31日 六本木ピットイン


ドラムとベースの2人で一体何を2時間もやるんだろう・・・。2月にJIMSAKU100%のライブを聴くまではこう思っていました。しかし、行ってびっくり。決して飽きずに2時間が過ぎていくのです。では、何をやっているの?という疑問にお答えすべく、ライブレポートをしてみたいと思います。この日は土曜日だったこともあり、立ち見も出てかなり沢山のお客さんがピットインに入っていました。

1.GURUGURU LABYRINTH (「NAVEL」より)
2.FIRE WATER (「JADE」より)
3.FUNKY PUNCH (「Wind Loves Us」より)

生ドラムとベースのDUOばかり3曲。これをJIMSAKU100%の基本形Aと呼ぶことにしましょう。当然2人だけですから、音数も多くベース・ドラムともに普通のパターンとはかなり違ってきます。よくライブである「ベースソロ」の進化した新しい形、とでもいいましょうか。ベースパターンがそのままテーマでもあり、それにぴったりとドラムがユニゾンし、その後それぞれ交代でソロを演奏。最後にテーマに戻って終わりとする形が基本的です。1曲目はタイトル通り、いきなり複雑なフレーズを猛スピードでユニゾンしていきます!! 初めてこのライブに来た人は、あまりの迫力に「ボーゼン」としてしまうかも・・・。2曲目ではラテン系のちょっと哀愁の漂うメロディ。テーマが終わると、2ー3クラーベとカウベルを叩くドラムの上で自由自在にベースが唄います。そして今度はベースがキメを刻む合間に驚くほどの手数の多さのドラムソロが炸裂!! もう一度テーマに戻って終わります。3曲目もラテン系ですがこちらは16ビートでかなり明るい雰囲気。今度はまずドラムソロから始まり、4本の手足で演奏しているとは信じがたいほどの太鼓やシンバルの音が一気に叩き出されます。途中、ベースの綺麗なアルペジオと繊細なシンバルワークの静かな部分にうっとりしていたのもつかの間、ベースソロへ突入。スラップを多用したベキベキしたフレーズが続き、弦がはじける音が冴えます。どんどん怪しい雰囲気に変わっていったところでもう一度テーマに戻り、オープニングの怒濤の3曲が終わりました。いきなりこの3曲を聴かせられると、ものすごい迫力であっけにとられます。二人とも余裕の表情でとっても楽しそうに演奏していました。このウルトラプレイを演奏者と観客、みんなで楽しむ・・・それがJIMSAKU100%の醍醐味のひとつなのでしょう。

4.KIM−PAKU (教則ビデオ「METAMORPHOSIS」より)

緊迫というタイトルがぴったりな、緊張感あふれるナンバー。シンプルでテンションを抑えたテーマから始まるのですが、徐々に音数が増えて緊張感が高まっていきます。ドラムのキーンキーンキーンというライドシンバルの音が印象的でした。

5.TRIGGER No.8

この曲からトリガーシステムが使用され、イントロではドラムから不思議な音色が次々と出てきます。(トリガーシステムは簡単にいうと太鼓・シンバル・パッドにセンサーを付け、叩くとそのセンサーが振動を感知しシンセの音が出る装置。パッドを叩くとシンセの音だけが出るのですが、太鼓やシンバルを叩いた場合は楽器に取り付けられたセンサーによるシンセの音と楽器本体の音が同時に出ます。)櫻井氏はベースシンセで演奏。Aメロではギターの音色とベースがユニゾンしており誰が何を弾いているのか、かなりややこしくなってきます。かと思うといきなり人の声や鳥の鳴き声などのサンプリングが沢山入ったり、ファンクっぽい音になったり、盛りだくさんの音色が使われていました。

6.TRIGGER&BASS

トリガーとベースでのDUO。神保氏が小節の頭で「パシーン」とシンバルを叩くと同時に和音が鳴り響き、ベースが駆けめぐります。その間神保氏は普通のドラムパターンで伴奏し・・・といった調子で、トリガーと生ドラムとベースがうまく使われた構成でした。このへんでだんだんドラムからシンセの音も出てくるのに目と耳が慣れてきます。

ここでMC。櫻井氏のピッコロベースの説明のあと、神保氏がギターを取り出します。そう、神保氏は100%ではギターを弾いてしまうのです。「今日はいいギター持ってるじゃないですが。あのお子さまギターはどうしたんですか?」確かに2月にはもう少し小さいギターを使っていました。「今日はいいギターを持ってきました(爆笑)。お子さまギターを気に入って使ってたんですが、ヤマハの方が見かねていいギターを貸してくださいまして。」そして「イパネマの娘」や「ONE NOTE SANBA」を1コーラスほど披露。これがなかなかいい雰囲気でした。そしてJIMSAKU100%の基本形B、櫻井氏がメロディを弾き、神保氏がギターで伴奏するしっとりしたのコーナーに移ります。JIMSAKUのアルバムを聴く以前には、超絶技巧が炸裂しているイメージが強かったのです。もちろんそういった側面も楽しいのですが、実際にアルバムを聴いてみるとびっくりするほど綺麗なメロディ、そして暖かくてさわやかな世界を持っていることに驚いたものでした。100%のライブでも、その世界はしっかりと味わえる仕組みです。

7.蜃気楼 (「NAVEL」より)

アコースティックバージョンとのことで、アルバムとは違ったアレンジ。ギターのような音色が出る櫻井氏のピッコロベースと、神保氏のアコースティックギターのDUOです。櫻井氏のピッコロベースがとってもいい音・・・思わず聴き入ってしまいます。ちょっとロマンチックで、切ない雰囲気。心を込めてベースでメロディを歌う櫻井氏の表情がとても素敵でした。

8.DAWN VOYAGE (「NAVEL」より)

「バリの朝焼け」のイメージの曲だそうで、ライブでは初演とのこと。ゆったりとしたテンポの曲です。ギターを弾きながら神保氏がハイハットで2拍目と4拍目に刻みをいれます。お客さんもうっとりと聴き入っていました。

9. CASCADE (「NAVEL」より)

いきなり神保氏が手でバシッとトリガーパッドを叩くとパーカッションのパターンが出てきて、一気に開放的なサンバの世界!! 神保氏がギターを弾きながら右足でサンバキック、左足でハイハットという一度見たら忘れられない必殺ワザを披露。2コーラス目のサビでは櫻井氏がボーカルで一緒に歌います。楽しくほのぼのとした気持ちになれる曲です。

そしてここで、神保氏ならではのドラム奏法を櫻井氏が解説するコーナーになります。「左足のつま先でハイハットを踏みながらかかとでウッドブロックを踏む。右足はバスドラを鳴らしながらカウベルを鳴らす・・・」「いえ、右足はまだそこまでいってないんですよ」「じゃ、鳴らそうとしている。この前、PerfecTVでやってるMINT CLUBのときに、うちのボーヤと何か変なことやってましたね。スティックの先でハイハット、おしりでスネアを叩くっていう」「新しい奏法を発見したんですよ。実にたわいもない、限りなく大道芸人の世界なんですけど。」といってその「新奏法」を始めます。「あの、よくわからなかったんだけど、それを普通にやるとどうなるの?」ということで神保氏が2通り演奏。「なるほどね。そうやってくれないと、わかんない!」と櫻井氏が締め(爆笑)。確かに、神保氏が具体的にどんな凄いことをやっているのか、解説があってはじめてわかる部分があります。特につま先とかかとで違うことをやっているという話を聞いたあと神保氏の左足に注目し、実際に確認した時には「えっ!? 」と叫びそうになった記憶が・・・。神保氏の2作目の教則ビデオ「PULSE」は今回演奏された曲も櫻井氏も登場していくつか収められており、このワザも見られるのでオススメです。

10.BIG MAN (「NAVEL」より)

ゆったりとしたテンポで細かく6連符が動くマイナーの曲。トリガーはなしで、生ドラムとベースの基本形Aに戻ります。ドラムとベースがかわるがわる6連の細かいフレーズを嵐のように展開していくのには息を飲みました。

11.TRIGGER No.10 (新作教則ビデオ「INDEPENDENCE」に収録予定)

海の中に光がさし込むような、キラキラした音色ではじまるトリガーソロ。神保氏一人で演奏されました。中盤は生ドラムのみ。3ー2クラーベに乗って手数・足数が雪崩のように増えていき、途中カウベルをキンキンキンッと鳴らしたり、嵐のような音数に比例した大音量がピットインいっぱいに響きわたります。全部のシンバルを雷のように鳴らした後、タムでだんだんとテンポを落とし、生ドラムの部分は終了。終盤はもう一度はじめのテーマに戻り、ゆったりと終わりました。

MCではトリガーシステムの解説が始まります。神保氏がパッドを叩いて「これがジョン・パティトゥッチさんでしょ。」とアコースティックベースの音、「で、これがエイブラハム・ラボリエルさん」とベキベキのエレキベースの音を出してくれます。これらがサンプリングされていて、ドラムを叩くと出るしかけになっているわけですね。トリガーソロなどでは1曲で20回くらいプログラム(音色配列)チェンジをしているとか・・・。「人間じゃないよね」とは櫻井氏の弁。

最後は、7曲メドレーです。

12.THEME OF MINT CLUB (「THE MINT CLUB」のテーマ曲)

ロックのリフ的なベースパターンがテーマになっている、ポップな8ビート。ミントというと、こんなちょっぴりの辛さが気分でしょうか? 

13.SUPER JINGLE IV・I・II・III・V (「DISPENSATION」より)

すべてジングルの名の通り短い5曲。生ドラムとベースによるシーケンサー関係なしのすべて「生」の演奏です。曲の長さに反比例しているのか、演奏の密度の濃さはひときわ強烈!! 二人とも目も合わせずに高速で突っ走ります。ベースの指弾きによる高速の3連符が「うねる」のが印象的な「IV」。短距離走スタートのピストルのようにスネアが高らかに鳴って、いきなりベースとドラムが全力疾走をはじめるかのような「I」。超・高速ユニゾン自体はJIMSAKUでは珍しくありませんが、この曲はベースが広い音域をあっという間に何周もしているような印象と、それに一部のスキもなく一体化したドラムがひときわ鮮烈です。糸を張りつめたかのような緊張感が冴えわたります。「II」ではホッと一息リラックスした雰囲気で、ラテン系のフレーズが心地よく感じました。(といっても冷静にアルバムで聴き直すとけっこう複雑な曲でもあるんですが。)「III」では拍子がどうなっているのかよくわかりませんが、普通の拍子感とは別世界になっているようです。その中で展開されるキメの嵐を、ほとんど目も合わせないでどうやって決めているのでしょう・・・・。最後の「V」では、櫻井氏のスラップが存分に味わえます。歌える曲なんですがこれも拍子は難しい! アルバム「DISPENSATION」では、これらのSUPER JINGLEの後に「ふう・・・」「世界一だなこりゃ」などの呟きが入っています。(プロデュースした角松敏生氏の茶目っ気によるものだと思うのですが)聴き終えた後、うっかりこういったセリフを言ってしまいそうになりました。

一度は生で見て・聴いておきたい演奏です。

14.CATASTROPHE OF THE RHYTHM (「100%」より)

この曲では櫻井氏が大熱演。ベースソロになるとすぐさま最前列の机の上に乗って、口をへの字にしてすごい勢いで弾きまくります。ドラムもライドシンバルをキンキンに叩いて応酬。途中、天井にベースをこすりつけようとして一瞬天井を見ましたが、距離があり断念するやいなや机から飛び降ります。そしてベースをマイクスタンドにこすりつけて出される「ぐいーーーーーーーん」「ぎゅいーーーーーん」という轟音を聴いていると目が回りそうな錯覚を起こします・・・。他にも両手でバタバタとネックを叩いたり、とにかくぷっつん切れた演奏で盛り上げてくれました。

そして、アンコールでは・・・

15.夏はすぐそこ (仮)

アルバム未収録の新曲。アコースティックギターとピッコロベースによるスタイルBです。さきほどまでのハードな世界から一転、もう一度櫻井氏の奏でる優しいメロディが聴けます。さわやかでちょっと切ない、程良くスウィートな世界。最後はしっとりと締めくくられました。

ハードな曲からアコースティックな曲まで、バラエティに富んだ構成で本当に楽しめた2時間でした。4人程度の編成とは演奏スタイルが明確に違っており、プレイヤーとしての限界に挑戦している緊張感にあふれています。通常はベースとドラムは後ろの方にいて見えにくいけれど、このライブではどの席からでも演奏してる様子がよく見えます。MCと演奏のバランスも絶妙ですし、二人のプレイの超人的な様子とプレイをしていない時の普通さのギャップはなんだか微笑ましいくらい。二人の人柄まで伝わってくる、とても雰囲気の良いライブでした。ドラマー・ベーシストには絶対ライブで見て聴いていただきたいし、そうでない方もちょっとでも興味があったら、出かける価値あり! 神保・櫻井氏はT-スクェアの則竹・須藤氏が大変影響を受けているプレイヤーですから、T-スクェアファンにもおすすめです。次回のJIMSAKU100%は、渡辺香津美氏をゲストに迎えて7月24日に六本木ピットインで行われる予定。JIMSAKUのホームページにはかなり先までのライブスケジュール、そして楽器の写真や詳細なセッティング表が掲載されており、興味のある方は是非ご覧になることをおすすめします。(美芽)


神保彰インタビューも合わせてご覧ください。


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