則竹裕之


美芽.
ニューアルバムの完成おめでとうございます!では、まず則竹さんといえばソナーのドラムセットですが・・・先日私が行ったライブの「則竹セッション」では前回のインタビューで撮らせていただいたものとは、またドラムセットの様子が変わってましたね。そのことについてお話してくださいますか?
則竹.
あのときと、使ってるタイコは同じなんですけどね。・・・レコーディングが終わると、何かこう、変えたくなるんですね。今回のレコーディングは12月だったんですけど、それが終わって年末ライブまでの間に変えたんです。「KNIGHTS’SONG」は最近になって録ったので、今のセットなんですね。だからぜんぜん音は違うと思います。
美芽.
客席からお顔がよく見えるセットですよね?今までよりは高さがあまりなくて、低いかんじというか。
則竹.
ホントは顔がよく見えるのはイヤなんですけど。(笑)なんていうのかな、セットを下の方にしたっていうのは、見渡したい、セットに負けないように・・・、ってことなんですね。例えばシンバルにしても、斜めにしておくのと床に水平にしておくのでは、・・・今回のセットでは水平になってるんですが、音が消えるまでの時間が長いんです。音響学的には、点数を減らした方が鳴りがいいんですよね。太鼓の数を減らした方が。それで、同じ楽器を使っていろいろな音色を出すっていうのが今面白いなって思ってます。そういう意味で、シンプルにする方向へ向かってるかな。
美芽.
ドラムセットを変えるときというのは、どうやって考えるんですか?
則竹.
それはですね。僕、建築家になりたかったって話しましたっけ?あの、設計図を書くんです。(といって手帳を取り出して方眼紙のページに緻密に書かれた設計図を見せてくれる。)こうやって、考えて書くんですよ。それで、「じゃあやってみよう」という感じでやってみるんです。今のセットは・・これですね。僕の場合は、タムを2センチ動かしただけで、もう別世界なんですよね。だから、もう、全部フレーズから何から変わっちゃうんです。だから、今、叩きたいイメージとセットっていうのは全部すごく密接につながってるし、ドラムセットを変えることで何か新しいものをつくりだそうとする、そのきっかけにしようとしてるところはありますね。
美芽.
今回、2月の「則竹セッション」で演奏された曲がアルバムに入ってましたね。「TOOI TAIKO」これは、「遠い太鼓」・・・ってことですか?
則竹.
そうなんです。村上春樹さんのエッセイのタイトルからとったんですけど。去年カプリ島に行くときに大幅に飛行機が遅れたので、そのとき買って読んだものなんですけど。村上春樹さんがギリシャとかローマなんかに住んでいて「ノルウェイの森」を書いてるときに、煮つまってしまってその合間に書いていたエッセイなんです。僕にとって、太鼓って・・・遠いんですよ。何年やっててもね。思い通りにいかないことが多くて。それでこのタイトルなんです。
美芽.
実は、はじめてセッションで聞いたときに教則ビデオに入ってるメロディー!!と思って、アレンジしなおしたのかしら??と勘違いしてしまったんですけど。
則竹.
ああ、あの教則ビデオに入ってる曲ですよね。(則竹裕之氏の教則ビデオ「「ドラム・ユニバース」にて16ビートの曲として演奏されている)あれもT-スクェアに出してボツになった曲なんですけど、あの曲とはサビが同じです。あれも違う形にしてまとめたいってずっと思ってたんですよ。
美芽.
別の曲に生まれ変わったわけですね。
則竹.
そうなんです。いつもは曲作りの時期にはそれだけに集中できるんだけど、今年ドラムをソナーに変えたこともあって、太鼓のことがいろいろ頭にあって、曲作りだけに集中できなくて。難産でしたね。ビデオの時から数えると、完成までに何年か・・・かかってますし。
美芽.
基本パターンに、トライアングルの音が入ってますよね?セッションでは、トライアングルも叩いてましたっけ?ヘッドホンしてなかったような気が・・・
則竹.
あのときは、小さいモニターのスピーカーから音を出して、それを聞きながらやりました。ヘッドホンをしちゃうと、全部電気を通した音になっちゃって、自分の生音がきこえないんですよね。だから、あの程度ならヘッドホンなしで。曲の途中からシーケンサーが入ったりする時は、やっぱりしますけど。あんまり大きくないウォークマンのみたいな、耳に埋め込むタイプのヘッドホンだと生音もきこえるんですけど、メトロノームの音ってすごい無機的で・・・あれを大きい音で耳の中に埋め込むみたいにしてきくのって拷問に近いものがあるんで、なるべくやりたくないんです。
美芽.
今回のアルバムで、シーケンサーと一緒にやったのは、どの曲ですか?
則竹.
「カスバの少年」と「BAD BOYS & GOOD GIRLS」と、「TOOI TAIKO」ですね。ぼくの曲はね、タムがドラマー的にいうと変な位置で、いやらしいパターンなんです。(笑)安藤さんの曲の「カスバの少年」はね、僕は途中まで叩いてなくて、シーケンサーだけがやってるんです。お休みなんですよ。
美芽.
あっ、そういえば途中からドラムパターンがすごく変わってる感じしましたね。
則竹.
そう、そこから僕が入ってるんだと思うんです。シーケンサーと二人羽織みたいな、ね。
美芽.
シーケンサーと、二人羽織っていう感覚なんですか?全然抵抗はない?
則竹.
そう、抵抗は・・・全然ないですね。もうひとりと一緒にやってるって感じで。
美芽.
他の曲でのドラミングというと、私は本田さんの「SAMURAI METROPOLIS」が印象に残ってるんですが・・・
則竹.
あの、変なドラムパターンから入るやつでしょ。(笑)あれもね、六連の5つ割っていうわけのわかんない・・・(笑)本田君がそういうのやってくれっていうもんだから。
美芽.
あの曲は、最後に本田さんがサックスに持ち替えてジャズっぽく変化してますけど、面白いですね!!ライドシンバルの4つうちにかわって、また別の雰囲気で、大好きです。
則竹.
ああ、あれは・・・本田君がテナーにもちかえてね。たぶんね、美芽さんがジャズっぽく変化した・・・って感じたのはね、マイクの位置をそれまでと変えてるんですよ。それまでは、ドラムのそばに1本1本こまかくマイクを置いて録っていたのが、そこでドラムセットからちょっと離れた位置から録る、みたいにしたんですよね。あれもCDだからあんまり長くできないんですけど、CDにはいってるぶんよりも、ずいぶん長くやってたんですよ。「もうこのへんは、入ってないから好きにやっちゃおう」みたいな。叩きまくっちゃいました。そこは入ってませんけど。CDって時間の制約があるから、そういう遊びみたいな部分は長く入れられないのが残念なんですけどね。
美芽.
録音のしかたでも、いろいろ印象が変わっちゃうんですね。
則竹.
そうですね。今回のスタジオは天井が高くて音が良く響いて、とっても気持ちよかったんです。そういうすごく響くIRC2っていうベイエリアのスタジオなんですけど、毛布とかいっぱい床に敷き詰めて、すごくデッドな音にして録りました。安藤さんの曲を聴いて、今回はメロディーを生かしてシンプルに叩きたい、って思ったんです。シンプルに叩くのって、難しいんですよ。手数をいっぱい増やす方が、よほどやさしいくらいで。
美芽.
話は変わりますけど、そろそろ、お子さんもお箸を持ってパタパタとやりはじめる頃なのでは?
則竹.
それがですね。彼はギターが好きなんですよ。親バカなんですけど、僕のアコースティックギターを持ってね、自分より大きいギターを。こう・・・ピッキングが、親バカなんですけど、もう、違うっていうか。(笑)それでね、彼のすごいところは、ギターの弦を張るネックの先っぽのほうって、ちゃんと音がしないんですけど、「きゃりきゃりきゃりん」ていうでしょ。彼はね、右手で普通に弾きながらそれにあわせて左手で「きゃりきゃりっ」とやるんですよ。それがね、・・・合ってるんですよ。
美芽.
おもちゃとかではなくて、大人用のギターを弾いちゃうんですか?
則竹.
そう、彼はね、おもちゃはダメなんです。本物でないと。
美芽.
家では、音楽は何をかけてきかせてるんですか?先日の則竹セッションでは、プログレもなさってましたけど、プログレもおうちでかけてるとか・・?
則竹. ああ、あのときはメンバーがプログレだったから・・・。プログレって、聴かないですね。家で一番かけるのはイエロージャケッツかな。・・・・ってギター入ってないですけど。(笑)T-スクェアもかけるんですけどね、うちの子はお父さんの曲をかけると踊るんです。それがお父さんの曲って、わかるんですよ。「勇者」とか「HEAVEN KNOWS」とかかけると、もう大変。「HEAVEN KNOWS」なんてあんな暗い曲なのにね。(笑)曲によっては、「とばせ」っていうのもありますけど。「いや!!」っていうんです。どの曲とはいえませんけど。(笑)
美芽.
お父さんの曲に合わせて踊る裕介くん・・・かわいすぎる・・・見たーーーーい!!!ホントに将来が楽しみですねえ・・・。
則竹.
僕ね、普通のお父さんにはなりたくないんです。日常やっていることも、非日常でありたい。子供と遊んでいるときでも、「いいパパ」として遊ぶのではなく、楽しいから遊ぶ・・・。
美芽.
やりたいことで、時間を、生活を埋め尽くしたいってことですか?
則竹.
そうですね。最近熱海に引っ越しして、自宅にスタジオをつくってるんです。そこで、お皿にできるぐらいのクオリティのものも作れるようにしたいな、と思ってますね。
美芽.
熱海ですか!!!うわあ・・おうちから海が見えたりとかします?温泉ひいちゃおうかな、とか。(笑)
則竹.
うん、海も見えますよ。温泉も・・・いいですね。(笑)お風呂はもう、朝も晩も1日2回は必ず入ってますから。
美芽.
イエロージャケッツでは、何を最近よくかけてますか?
則竹.
「ブルー・ハッツ」ですね。もう・・・、ウイリアム・ケネディとは是非一度お茶したいですね。(笑)あと、別格なのはパット・メセニーで、彼とも一度、・・・ドライブしたいです。(笑)あとは、最近ソロが出てないんだけど、ニック・カーショウ って人が大好きなんですよ。ブリティッシュ・ポップの人で・・・声もいいんですよ。
美芽.
前回のインタビューで、私、ひとつショックだったのが「ドラムを習ったことはない」というお言葉だったんですよ。習う、っていうのは、1対1で師匠対弟子、個人レッスンみたいな意味で言われたんだと思うんです。則竹さんにとって一番の先生というか・・・ドラムを演奏するための知識の源となったのって、何ですか?レコードですか?
則竹.
うーん・・・そういう意味では、親父かな、やっぱり・・・。あの人抜きでは、今の自分は・・・。いなかったらもっとうまくなってたかもしれないですけど。(笑)環境をつくってくれたっていう意味でね。例えばね、僕の好きなミュージシャンとか知ってるじゃないんですか。で、日本に来るというとお袋に「チケットとってやれよ」みたいな感じで。それで、学校から帰るとチケット持って電車に乗って、フェスティバルホールとか行くんですよね。ああいうのがやっぱり大きかったですね。
美芽.
練習なさるときはCDかけながら・・・っていうのは小さい頃からなさってたそうですけど、今でもやっぱりそうですか?
則竹.
そうですね、やってますね。
美芽.
そういう場合、何回ぐらい聴いてから一緒に叩くんですか?
則竹.
初めてでも一緒に叩いちゃいますね。CDを買ってきてお皿をのせて、「ジーッ」っていってるのをドラムセットに座ってスティック持って、待ってるっていうのは、やりますね。それで一緒に叩きはじめて、終わりがピタッと合ったりすると、「やったぁ!」みたいな。(笑)
美芽.
そこまでなさってるとは・・・(笑)
それとね、耳コピーでずっと小さいときから勉強なさってたっていうじゃないですか。私なんかは譜面で育っちゃってるから、耳コピーって・・・なかなかできないんですよね・・・。
則竹.
あのね、みんな聴こえてはいるんですよね。音が鳴ってるのは。それをドラムをやってないと、構造化できないからコピーできないんだと思うんです。
美芽.
則竹さんでも、昔はわからなかったものが今は構造化できるというものってありますか?
則竹.
ありますね。今でもわからないものはあるし。でもね、そういうものもあっていいと思うんですよ。
美芽.
耳コピーするときは、歌えるようになってるんですよね?
則竹.
うん、ただ、シンバルとバスドラと同時に叩くのって、言えないでしょ。「ドシャーン」とか言ったりするんだけど。口で言える速度の限界っていうのがあるから、それを超えちゃうと歌いきれない部分もあるんですけど。・・・歌うのって、手足を動かすのといっしょですよね。だから、レコーディングの時とか、顔の前方にマイクがあると声が入っちゃうことがあるんですよ。口ドラムでうたっちゃってるのが入ってたり、「うわあぁぁ」(絞り出すようなすごい声で)とか・・・なんか、すごいこと言ってるときがありますね。(笑)
美芽.
なるほど・・・。では最後に・・・以前にくらべて、最近セッションに数多く出演なされてますね。ファンとしては、嬉しい限りですが。何か心境の変化とかあるんでしょうか?
則竹.
この前仙波さんのライブで、ポンタさんと共演させていただいたんです。ポンタさんってものすごく波がある人なんですけど、その3日間はすごくその波の一番高い、最高潮の時で、ホントに素晴らしかったんですよ。でね、ポンタさんがその時言ってたんですよ、「俺は場数王だ」って。やっぱり、家にこもって練習してるのもいいけど、場数って大事ですよね。場数をふめば、きちんとやりたいからやっぱり準備もするし。力もつくのかなと。
美芽.
4月は3回もあって、スゴイですね。
則竹.
でも、3回あるから1回でいいや、っていって聴きにきてもらえないんじゃないかって心配なんですけどね。セッションって、かなりいっぱいお客さんが入っても下手すると赤字になっちゃうんですけど、やっぱり楽しいんです。この前なんか、六本木アルフィーっていうお店で出たんですけど、演奏してるほうが6人、お客さんが7人で。「何やろうか?」みたいな。今年はそういう意味で、場数をいっぱいふんでいきたいです。
インタビューを終えて・・・
前回のインタビューの時とはまた違ったサラサラヘアであらわれてくれた則竹さん。(ひさえと私は、るんるんになってしまいました)「則竹セッション」のときの、衣装に着替える前のお洋服で現れたのですが、ホントに青、白が似合います。カメラマンのひさえが撮影を終えて話したことなんですが、「やっぱり一番嬉しそうだったのは、親バカなんですけど、親バカなんですけど、っていいながら、お子さんの話をしたとき。すごくいい笑顔してた。」則竹さんにとっては、ドラムに熱中できる土台として、ご家庭がとっても大切なんだろうな・・・それが、近年増してきた安定感につながっているのかな?など・・・ふと感じてしまいました。今回は、CYBER FUSIONのリンク集を印刷してお渡ししたのですが、ドラムのページを見て、「スティーブ・ガッド、デイブ・ウェックル、ヴィニー・カリウタ、アレックス・アクーニャ、みんなあるんだ・・・。」と熱心に見ていたのが印象的でした。それにしても道下和彦トリオや、是方・難波・須藤・則竹の「KORENANOS」、大橋勇さん・・・今年の則竹さんはセッションに本当に多く出演していて、しかも須藤さんと2人で出てる割合が高めです。で、行ってみると既にこのインタビューのときとはドラムセットが変わっていたりして、目が離せません。(笑)セッションでも毎回いろいろな雰囲気のドラミングを聴かせてくれます。コンサートツアーはもちろん、セッションも要チェックです。


Special thanks to Village-A
Interviewed by Mime
Photograph by Hisae
Copyright 1997 CyberFusion