和泉宏隆


美芽.
なんか、和泉さんおやせになってませんか?
和泉.
いや、やつれたんでしょうね。昨日まで1ヶ月ぐらい、アニメの「白鯨伝説」の音楽のほうで、カンヅメになって1ヶ月で50曲ぐらい書いてましたから。
美芽.
まず、ニューアルバムのお話から順番に伺いますね。今回は何曲ぐらいお書きになったんですか?
和泉.
5・6曲かな。われわれ自身は年をとって成長していくのに、コアなファンの年齢層というのがあるわけで、「T-スクェア卒業です」みたいなのってあるんですよ。 大人が聴けるもの、としてとらえたときに・・・作った曲と、それとは別に、コアなファンの年齢層を考えたらこういう曲かなと思って作った曲と、両方あるわけなんですよね。今回の「ANCHOR’S SHUFFLE」は後者かな。女子高生の運動会の入場行進にはぴったりだけど、30代の男性が週末に彼女とドライブに聴くには、ちょっと若すぎる曲かもしれない、みたいな・・・ね。バンドのカラーを出すという意味では、5人でつくるっていうのは難しいですよね。「TRUTH」で僕らにある意味のラベリングが行われたと思うんですよ。まあ、それも逆に、ポップな曲が何曲か入ってればマニアックなことやっても大丈夫かな?っていうのもありますけどね。昔は選曲は、投票制で会議してたんですけど、それもちょっと自分の曲は客観的に見れないんですね。今はレコード会社とプロデューサーに選んでもらってます。今回アルバム用に書いて使われなかった曲はアニメのほうにも使いました。
美芽.
今回はソロはピアノの音色が多かったと思うんですが?
和泉.
基本点にはEWI奏者がいるから、キーボードでやらなくてもっていうのも昔からあるんですが。やっぱり、ピアノ、っていう意識が強いんですね。左手のコードがあって右手が成り立っていて。っていうのが。ピッチベンドが入るとなくなってしまうでしょう。ベースとの間に埋めるハーモニーがないと、気持ち悪いんですね。
美芽.
両手で歌う、わけですね。
和泉.
例えばミシェル・カミロの名前がありましたけど、(CYBER FUSIONのフロントページを見ながら)彼なんかハーモニーをリズミックに繰り出す天才だと思うんですよ。そういうアプローチもあるし、単音のメロディーをいかに歌っていくか、っていうのもあると思うし。
美芽.
たとえば、前回のアルバムにあった「TERRA DI VERDE」のようなピアノソロの形もあるわけですよね。
和泉.
うん、でもね、ほとんどの曲はああやって作ってるんですよ。
美芽.
じゃ、和泉さんの曲はほとんど「もとの曲」はああいう形でできちゃうんですか。
和泉.
そう、それはそれでアルバムを出すんです。(美芽・ひさえが拍手!!!)今までT-スクェアのアルバムに入ってる曲を、ピアノソロにして。それでね、譜面を一緒に出したいんです。(さらに拍手が止まらない!!!!)難易度をね、心を込めやすい・・・全音の青い帯(上級者むけ)まで絶対いかない、せいぜい黄色(中級者向け)ぐらいのつもりで。
美芽.
それ、いいですよぉ!!!(嬉しくて、切れている)す、すみません、嬉しくて・・・
和泉.
ここ10年ぐらい、母体としてのT-スクェアっていうバンドがあって、みんなソロでそれぞれやって、そこで刺激があってまた戻ってきて・・・っていうのは、スケジュールさえ調整すれば何の問題もないんです。1枚目の自分のソロアルバムが88年に出て、すでに9年もたってしまってるんです。やりたいことが、あれもやりたい。これもやりたい、ってどんどん出てきてしまって。それを交通整理するのが大変なんです。一応、2枚目のソロっていうのは予定していて、それを作っていく中で「ソロピアノ」っていうのが出てきたんですよ。ピアノを弾く友達がうちに遊びに来てくれて弾いている・・・そういう絵がCDをかけたら出てくる、みたいな。そんなに超絶技巧である必要はないし、メロディーが音楽していればね。今までのT-スクェアの曲のなかから10曲の予定で考えてるんですけど。秋ぐらいまでになんとかしたいとは思ってるんです。最初のきっかけは、NHKのドラマの音楽を全曲ピアノで担当したのがきっかけだったんです。在日朝鮮人の方が原爆にあってしまうというドラマだったんですけど、テーマに「FORGOTTEN SAGA」っていう曲を使ったんです。それがね、だんだん一人歩きして大きくなって。ちょっと発想を変えると、ピアノソロで弾けるな、って思ったんです。ついこの間、「OMENS OF LOVE」はピアノソロにはちょっと・・・ってことでボツにしたんですけどね。あとは「WHITE MANE」「LEAVE ME ALONE」、「MIRAGE」・・・これはお皿になってないですね。あとは「遠雷」。アレンジさえ決まって練習できれば、自分のうちで録っちゃおうかなとも思ってるんですけど。でも録ってると隣の犬が鳴くんですよ。(笑)窓が2重になってるだけだから。いいピアノのおいてある小さめのスタジオを夜借りてね、2・3曲づつ作りたいんですけどね。(インタビュー後に和泉宏隆ピアノソロアルバム「FORGOTTEN SAGA」が8月1日にT-スクェアの事務所のVillage Recordというインディーズレーベルでの発売が決定。6月30日までの予約されたぶんをプレスする予定。是非予約をしてほしいとのこと。)
美芽.
「ソロアルバム」と、「楽譜ありのピアノソロアルバム」が、今和泉さんの頭のなかにはあるわけですね。
和泉.
そうなんです。ニューヨークにスタジオやってる友達がいて、そこで録ってきたいんですけどね。でも、ソロアルバムのほうはレコード会社も何も決まってないんですよ。4月にニューヨークには行って来たいなあと思ってるんですが。バーチャルサウンド・トラックというか、聴き終わった人が何か「映画を見たなあ」と思うようなアルバムにしたいと思ってます。そのニューヨークの友人の知り合いで、南アフリカの出身のシンガーにも英語で歌ってもらう予定なんです。そっちの方はデモテープの段階まで仕上がってるんですけど。
美芽.
で、このあとは合宿(ミュージックセミナー)ですよね。
和泉.
うん、合宿はね・・・技術的には僕より上手い人いっぱいいますから。「檄を飛ばす」みたいな感じですか。7割がエレクトーンの方ですね。もちろん音大ピアノ科の方もいらっしゃるし。
美芽.
キーボードをいっぱい並べて、やってるんでしょうか?
和泉.
提示した課題を確かめるみたいな・・・、去年河口湖でセミナーやって、電子ピアノは12台買ったんですけど、今回はレンタルしても全員分は並ばないんですよね。ここのスタジオのピアノも持っていきます。ピアノがないとはじまらないので。
美芽.
うわ・・・グランドピアノ一台動かすだけでもけっこうな費用が・・・
和泉.
だからピアノに関していえば、15人ぐらい来ていただいて、やっとトントンですよね。いくらプリンスホテルだからって12万で強気の価格設定と思われるかもしれないけど。・・・20人が「何かをつかもう」と思って前にいるでしょ。「うっ!」ていう気合いを入れてピアノの音を弾くんですよ。
美芽.
コンサートで弾くのなんかとは、また全然違うんでしょうか。
和泉.
コンサートは、電気ピアノでしょう。もう、全然話が別ですよ。これは(奥行きが)短いピアノだけど、なかなかいい音がするんです。・・・ヤマハのC3です。調律もしなきゃいけないんだけど・・・頼まれもしないのにピアノを弾く和泉。(笑)(ここでいきなりピアノを弾き始める和泉さん。)これが「FORGOTTEN SAGA」でしょ。・・・・で、これが「宝島」。(といって出だしのところを演奏してくれました。和泉さんの隣で聴く生ピアノの音はまた格別。)
美芽.
・・・和泉さんって、毎日アコピで練習なさってるんですねえ・・・。(感動)(同時に鳴っている音に全部ひとつひとつに表情があるのだった・・。)
和泉.
電気ピアノはもう、別物ですからねえ。倍音は鳴らないし。ペダルを踏んでも踏まなくても音が同じっていうのがね・・・。ホームページでも始めたらいろいろやりたいなと思ってるんですけどね。ニューヨークにムービーキャメラマンの友人とかいろいろいるんで、手伝ってもらって作りたいんです。
美芽.
まあ!!できた暁には、CYBER FUSIONのキーボーディストのところにリンクはらせてくださいね。
和泉.
季節の料理に季節のカクテルの写真とレシピと合わせて、クリックすると季節のピアノが30秒流れる・・・みたいな。
美芽.
すごーーーーーーーーい!!!!!!!
和泉.
いいでしょ?(笑)そんなホームページを、立ち上げてみたいなと。思っているんですが、まだインターネットにもつないでないんです。(笑)
フュージョンは今、ある意味で冬の時代だと僕は思ってるんです。ニューヨークにいる友人が言ってるんですけどね、おうちで一生懸命難しい曲を練習してそれを弾くっていうことはもう時代遅れなんじゃないかってね。もちろんそれを全面的に肯定してしまったら、自分の人生は何だったんだろうなということになってしまうんですけど、ただでさえ東京は忙しい街なんだから、もう少しのんびりしてもいいんじゃないかな、っていうのが僕のがんばってるところなんです。音楽にもいろいろな楽しみかたがあって、フィジカルな「ちゃっちゃっちゃっ、ばばっばっ」みたいなのが「決まる」面白さもとってもよくわかるんです。若い頃はそういうのがすごく面白かった。でもね、さすがに30代後半になるとそうやって決まって、だからそれがどうした?みたいな自分もいるんです。それはもう、否定できないんです。でも、その世界のすごく研ぎ澄まされたものを持ち込んでくれた本田雅人くんには本当に感謝してますけどね。彼が入ってから覚えたことってずいぶんあるし。自分がゲーム音楽やっていて、そういう「引き出し」から出して来ることだってあるわけですからね。「戦いの音楽」とかね。
友達のスタジオにはピアノがないんです。ニューヨークに行ったらまず、57丁目のスタインウェイに行って・・・。
美芽.
スタインウェイがお好きなんですか?
和泉.
則竹くんの曲と須藤くんのバラードで使ってますね。自宅のピアノはヤマハですけど。ヤマハの持つ日本的な親近感というのも捨てがたいんですけど、自宅にスタインウェイを入れるまで、もうちょっとの貧乏です。
美芽.ひさえ
えええええっ!!!!!!?????(ちなみにスタインウェイは則竹さんのソナーのフルセットよりもだいぶ高い。)
和泉.
いや、(笑)「もうちょっとの貧乏だ」ってよくいうんですよ。「もうちょっとの辛抱だ」を手本にして、「もうちょっとの貧乏だ」ってね。僕、インテリアの雑誌が好きで、素敵な家の写真とか好きなんです。そういう本をパッと開いて、天井が直径10メートルのドームで、半分はガラスになっているっていう居間があるとね、アシスタントに「俺はここにピアノを置きたいんだ。わかるか。それまでもうちょっとの貧乏だ」って、そういう風に使うんですよ。今、うちの音楽室は14畳ぐらいあるんですけど、天井は・・・。円形の部屋じゃなくてもいいけど、天井は3メートル50は欲しいですね。
美芽.
やはり、ピアニストの夢って自宅のスタジオに、スタインウェイっていうのありますよね。
和泉.
そうですね。そういう夢の実現のためにも、ソロアルバムもがんばりたいですね。僕の前回のソロアルバムの「AMSHOE」は若気の至りというか、(笑)ジャズ・フュージョンの棚にある作品ですけど、次作は映画じゃないけどサウンドトラックの棚にあるような作品にしたいです。
美芽.
では、曲によってはオケも出てくるような感じで・・・
和泉.
ありますね。それをホンモノでできるまで待つか、機械で究極までやってしまうかなんですよ。ひとつひとつ手弾きで入れていって細かく修正していくと、かなりのものはできるし、アシスタントなんかそれをやってみたいっていうんですけどね。でも・・・それも迷うんですよね。オケといえば、「TERRA DI VERDE」なんか今度やるとしたらオーケストラだなあ。「もうちょっとの貧乏」のあとになるんだろうけど。オーケストラっていうか・・・ピアノコンチェルトかな。
美芽.
和泉さんは、例えばベートーベンが交響曲を作るのに便宜的にピアノで作曲していた、みたいな、ピアノよりもさらにオーケストラへの思いっていうのがあるんですか。
和泉.
うん、オケはピアノ弾いてても頭の中でいつも鳴ってますからね。「ぐわああぁぁぁあああっ」っていうダイナミズムを表現しようとしたときに、それは10人のチェロ奏者だったり・・・。音って、「くうううううっ」って弓で弾いたり、「ぷうううっ」て吹いたりするものだと思うんですけど、ピアノは鍵盤を押したらそれで終わりじゃないですか。だからその押す瞬間に「ぐっ」と気持ちをこめないと。たとえば高いところの音を弾いても、これはフルート、これはクラリネット、とかいって鳴ってますよね。だから将来・・・、ずっとまだ10年ぐらい先の話ですけど、映画の仕事なんかやってみたいですね。今回アニメの曲で50曲書きました、映像があってそれに音楽をつけるのはやっぱり独特の魅力がありますから。映画は総合芸術ですしね。友達に1週間ぐらいある映画のサントラを借りて聴いて、それからビデオを借りて見たんですよ。1曲目がチャイコフスキーの曲で、2曲目が歌なんですけど。なんでチャイコフスキーなんだ?って思うんだけど、でも映像を見るとそのもって行き方が納得なんですよ。その映画ではパットメセニーがギター弾いていたり、ピーターガブリエルが歌っていたり。映画もいいですよ。
美芽.
サントラに注目なさるようになったのは、いつ頃からなんですか?
和泉.
20年前ぐらいかな。ミシェル・ルグランにヘンリー・マンシーニに・・・・。「ONCE IN AMERICA」あたりかな?「渋いなあ」と思ったのは。「ニューシネマパラダイス」とか・・「MISSION」とか、最近じゃ「LOVE AFFAIR」とか。なんかね、純愛もので、不慮の事故で奥さんが車椅子になっちゃうんです。そのただでさえうるうる来てるときにね、最愛の妻が車椅子に乗るようになってしまうって・・ってときに、うつくしーーーーーーーい曲が流れるんですよ。・・・そういえば、パットメセニーも売れないイタリア映画のサントラやってますよね・・・。
美芽.
あ、あれは聴きました。きれいですよねぇ・・・・。
和泉.
映画の方もご覧になりました?
美芽.
いいえ。まだ・・・
和泉.
パットメセニーぐらいですよね、職業的に成功してるのは。ブレッカーブラザーズだって西海岸じゃライブならできるけど、ホールでのコンサートは無理だっていう話です。難しいことし過ぎてると思うなあ、みんな。・・・話は尽きませんね・・・。
美芽.
最後に一つお訊きしますけど、和泉さんはクラシックから音楽に入って、今はこういった音楽をなさってますよね。その二つの音楽の壁というのはけっこう大きいと思うんですが、どうやって乗り越えたのですか?
和泉.
僕はクラシックからジャズに行く間に、加山雄三があったり、アメリカのカレッジフォークがあったり、ロックがあったり・・・ポピュラー音楽とのつながりは、かなり昔からあったんです。小学校の2年ぐらいから6・7年、歌謡曲とかを手当たり次第に弾くみたいなのをやってましたし。だから、昔から両方やってたんですよね。・・・話は飛びますけど、古内東子の4枚目はオススメですよ。ボブ・ジェームズとか出てますしね、メンバーがすごいんですよ。いやあ!いい仕事してますね、って感じでした。
美芽.
では今後の予定などを。
和泉.
うーん・・・やりたいことがいっぱいあって、困ってるんですよ。月刊エレクトーンっていう雑誌のエッセイももう5年目で、本にすればできる量がたまってるし。それからソロアルバムで出すジャケットは写真を自分で撮って、自分でコンピューターで版下を作りたいですし。あと日本の童謡・・・唱歌シリーズ。「夏の思い出」「椰子の実」とか、ピアノで。そこに自分の作った唱歌も3曲ぐらいいれてね。・・・最後にニューアルバムの話に戻りますけど、ああいうのってね、ジャケットが出来上がってお皿になって聴くとまた印象が違うんですよ。でね、お皿になっても1年は聴かないですよ。お皿になった瞬間に、絶対「ああ、あそこはこうすればよかった」っていうのがありますから。客観的な耳まで下がれないんですよね。僕はすごく近く・狭い位置にいてお皿を作ってるわけだから、聴く人の位置までさがるのに時間がかかるんですよ。どんなに短くても半年ぐらいかかりますね。ある日突然「ああ聴いてみよう」っていう日がやってくるんです。この空気の中で、あの則竹くんの曲を聴いたらどうかな、って。7月なのに、いやに肌寒い日があったら・・・。
美芽.
和泉さんの頭の中って実に多彩ですね・・。T-スクェアのアルバムに、ツアーでしょ。それからソロピアノ、ソロアルバム、アニメのサントラ・・・ホームページに、本と、唱歌シリーズ・・。
和泉.
いや、まだ頭の中でやりたいっていうだけで、具体的になってるのはT-スクェアのアルバムだけなんですけどね。まあ、出来たときにはよろしくお願いします。(笑)

インタビューを終えて.
和泉さん=ピアノという漠然としつつもかなり固まったイメージがあったのですが、それをはるかに大きく飛び越した夢のスケールの大きさに圧倒されます。和泉さんにとってのピアノというのが直接オケにつながっているというのは非常に大きな発見でした。和泉さんには、まず「和泉ワールド」があって、そこの非常に重要な位置を音楽が占めている・・・ような印象を受けました。できあがった写真を見てひさえが一言。「和泉さんって、こう・・・プロデューサー的な顔してるね。」とても気さくにお話なさっていながらも、ミュージシャンらしさを色濃く漂わせていたのが和泉さんだったような気がします。コンサートでのお茶目なトークも好きだけど、そういう和泉さんも素敵ですね。静かなVillage−Aのスタジオでひさえと二人で聴かせてもらった、「FORGOTTEN SAGA」の美しかったこと・・・!今でも思い出すとあのメロディーが胸に優しく語りかけてきます。


Special thanks to Village-A
Interviewed by Mime
Photograph by Hisae
Copyright 1997 CyberFusion