安藤まさひろ


美芽.
今回のアルバムは4月21日発売の予定が、AKAIがF1のスポンサーになった関係等で「ANDY’S」に入っている曲を1曲入れたため、発売が1ヶ月遅れたというお話なんですが?
安藤.
そうなんです。「ANDY’S」とは同じ曲ですけど、趣向が違うっていうか・・・。
美芽.
タイトルは、「ANDY’S」だと「MOON LIGHT CASTLE」でしたが、「NIGHT’S SONG」に変わるのですか?調も「ANDY’S」とは変わってますよね。
安藤.
そうですね。あれはEWI用に。
美芽.
では、ニューアルバムの話に入っていきますけども。「BAD BOYS & GOOD GIRLS」、聴かせていただいたんですが、「えっ!?この笑い声は何!?」って驚いてしまいましたけど。面白いですね。
安藤.
うん・・・同じことやるのイヤじゃないですか。自分じゃ必ず、前にはないような曲、ないような曲って思いながら作るんですけど。それでもなんか、一般の人には、どうせやるなら・・・ってことで、思い切って。ドラムのキックを「ボン」って入れる、とかっていうんじゃなくて、グルーブしている物をとってきたり、ループとか、サンプリングとか、それだけで表現が・・・単なる素材だけじゃなくて、素材自体が 面白かったですよ。作曲が単独の作業じゃなくて、すごく大勢の人が助けてくれてる感じで。何人かと共作してる感じで。まあ今回ループ物を使ったっていうのは、たまたまなんですよ。また次回使うとも限らないし。今回その路線は僕だけでしたしね。
美芽.
「カスバの少年」のカスバっていうのは、北アフリカの城壁、要塞という意味・・・なんですか?
安藤.
カスバっていうのは、「城壁の都市」っていう意味で、たまたま去年モロッコへ行ったんです。半日の観光で、スペインから行ったんですけど。カルチャーショック受けましたね。いまだにこういう生活をしてる人がいるんだなって。それを曲にしたわけです。
美芽.
MAZEっていうのは、どんな意味ですか?
安藤.
迷路っていう意味ですね。
美芽.
そういうタイトルというのは、曲ができてからつけるのでしょうか?
安藤.
ええとね、今回は・・打ち込みで、セーブしておくときに名前つけるじゃないですか。そのときに、NO1、とかにしておくと後で訳がわからなくなるんで、「MAZE」とか「カスバの少年」とかいうふうにとりあえず名前を付けるんですよ。そうすると、曲とそのタイトルがリンクするっていうか、お互いに影響し合うという感じですね。「カスバの少年」というタイトルを入れた瞬間から、その曲は「カスバの少年」というタイトルに支配されるんですよ。で、アレンジしていくときも「モロッコ風」(笑)みたいな。
美芽.
今回のアルバムで、特にいつもと変わったことをしたというのは、どんな点でしょうか。
安藤.
本田君とふたりで、ここ(T-スクェアの事務所のスタジオ)でレコーディングしたんですよ。こういうのは初めてですね。妙な感じでしたけど。・・・レコーディングの時って、リズム録りなんかでは一緒に演奏するんですけど、あとでギターだけ録るときに、バッキング入れたり、ソロ入れたりしてるのをみんなが聴いてるんですよ。人が聴いてるのがプレッシャーになって、盛り上げなきゃ、受けないとまずいな、と。終わって出ていったときに「わーー!!」って拍手が起きないとまずいな、みたいな。(笑)それにくらべると、ここで一人でやるっていうのは家でやってるみたいなリラックスした感じで出来ますね。
美芽.
日本でやる場合と外国でやる場合は、どう違いますか?
安藤.
全然違いますよ。いろんなレコーディングの仕方があるんです。まずキックから、次スネア、みたいなのも昔はあったんです。バンド物の良さっていうのは、「せーの!」みたいなところがあると思うんですよ。で、T-スクェアの場合はレコーディングは一種イベントみたいなところがあるんですね。ただ、レコード作るっていうより、その作業に入ってみんなで喜んだり苦しんだりするっていうか。特に、外国行ったりすると、外人のエンジニアが来たりとかすると、例えば言葉の問題だけでも大変なんですよね。そういうストレスっていうか、緊張感から生まれるいいものってあると思うんです。前回のカプリ島のことも、ロンドンのことも、すごくよく覚えているし、僕の人生のとても大事な瞬間になってるし。だから、今回日本でやって、エンジニアとのコミュニケーションも楽だし、機材もしっかりしてるしいろいろ快適なんだけど、あとでどのぐらい思い出せるのかなっていう気はします。海外レコーディングっていうのはひとつの手段ですね。
美芽.
安藤さんって、作曲をどのようになさっているかというのが非常に興味があるんですけど、やはり打ち込みでなさってるんですか?
安藤.
いろいろですね。ギターを弾いていてできることもあるし、キーボードを弾いていてできることもあるし。
美芽.
結構日常的に作曲をなさってるんでしょうか。
安藤.
そうですね。でも、「作るぞ」っていうときもあるし。ボーっとしてる時が結構いいんですね。子供と遊んでいたりテレビ見てたり・・・、まわりに人がいるとできないですけど、ひとりでいる時にテレビ見ていたり、散歩したりすると浮かぶ、と。
美芽.
今回のアルバムには何曲作曲なさったのですか?
安藤.
うーん・・・今回は5・6曲ぐらいですね。僕はバンバン作るほうじゃないんで。一曲入魂って感じで、数はあまり作らないんです。時間も、長いと1週間ぐらいかけるかな。
美芽.
一番気に入っている曲は何ですか?
安藤.
みんな気に入ってます。
美芽.
今回すばらしかったフレーズとか、気に入っているフレーズとか・・・
安藤.
うーーーん・・・・(悩む)ものすごく下手だったら、「あっ今の良かったね!!」とか印象に残るんですけど、みんな上手いから・・・(悩む)「上手いなあ!!」で終わっちゃうんです。(笑)
美芽.
では、ギターについて伺いたいんですが、本田さんのボサノバのギターの音がすごく綺麗で・・・なんていうギターなんですか?
安藤.
オベーションっていうギターなんです。ナイロン弦のクラシックギターなんですけど、普通のクラシックギターに比べると、薄くて・・・、ボディの裏がグラスファイバーで固い音がするんです。普通のクラシックギターもすごくいいんだけど、バンドが相手の場合はやっぱりこっちになるんですよね。
美芽.
あの・・・「ANDY’S」でも使ってらっしゃいました?5曲目の音がちょっと似ていて、とても綺麗だったんですけど。
安藤.
ああ、これはね、全然違うんです。でもね、ジャズの「ポーン」ていう箱鳴りのする音なんです。そういう意味では近いかな。かたやこっち(T-スクェアの曲)ではナイロン弦で、こっち(ANDY’S)ではスチールの弦で・・・
ひさえ.
安藤さんは歌ものもかなり書かれますけど、インストと歌物では作曲するときからしてもう違うんでしょうか?
安藤.
全然違いますね。よくスクエアって歌にしたらいいじゃないって言われるんですけど。・・・歌えないですよ。音の跳び方とか。歌って音域もありますし、音の跳び方も難しいですよ。歌を作るときは自分で歌って作るんです。昔郷ひろみとか松田聖子とか書いてましたね。
美芽.
ビートルズとか、安藤さんのルーツにはやっぱり歌は欠かせない・・・?
安藤.
うん、本当にルーツを探ると小学校の「器楽クラブ」とかの「ボギー大佐」とか「双頭の鷲の下に」とかそのへんになるんですよね。それから加山雄三とかに・・(笑)、中学に入ってモンキーズっていうバンドにはまって、それでもう・・ギターに。で、その後にビートルズ。ビートルズはリアルタイムじゃないんです。来日したころは小学生で、楽器は小学校6年生ではじめたんです。単音で「バラが咲いた」とか・・そんなもんでしたよ。コードって何?みたいなかんじで、よくわかんないし。で高校1年ぐらいから、本格的に始めたのかな。最初はビートルズをコピーしてました。聴いてたのはクリームとか。今こういう仕事をするきっかけになったのは高校3年生のときのマイルス・デイビスの、「ジャック・ジョンソン」っていうアルバム。ジョン・マクラフリンとか出てますけど。それで「よーし、僕もギターを練習しよう!」ってね。僕はそういう新しいマイルスを聴いてたわけですけど。だから基本としてはロックがあって、その上でこういうのも知らなきゃいけないなってジャズが出てきたんですよね。マイルスは「マイフレンズ」っていうあたりのアルバムから・・・はまりましたね。「ビッチェズ・ブリュー」っていうアルバムも・・・あまりメジャーじゃないんですけど。当時はフュージョンってまだいわなくて、クロスオーバーとかジャズロックとか言ってましたね。あんまり僕、フュージョンって聴かないんですよ。一応チェックということで聴きますけど。ロック系インストとかのほうが好きですね。どちらかというと最近はまってるのは、エアロスミスとか。毎回はっとさせられるのはパットメセニーかな。昔は曲を作ろうって考えた時に、お手本がいっぱいいたんですけどね。
美芽.
T-スクェアのアルバムでダイレクトカッティングをしたものがあったそうですけど、うちの編集長の橋にきいたところ同じ頃リトナーがダイレクトカッティングをやっていて、影響があるのではといってましたが。
.安藤
そうですね、音がいいっていうんで僕らだけじゃなくて当時流行ってたんですよ。僕らは実験台みたいなものだったんじゃないかな。二度とやりたくないですね。(笑)いきなりマスターで溝を片面掘っていくんですよ。片面ぶっ通しで演奏で、間違えたり何かトラブルがあったら終わり・・・みたいな。その後ですたれましたけどね。
美芽.
今回のアルバムでは、どういうギターを使ったのかお訊きしたいんですが・・・なんでも、安藤さんモデルというのがモリダイラという会社から出てるとか・・・
安藤.
今回安藤モデルをツアーで販売してるんですよ。
美芽.
今回は、ギターは何種類ぐらい使ってるんですか?
安藤.
うーん・・・僕の理想っていうのは、自分の「愛器」っていうのがひとつあって、これだけあればいいやというのなんですよ。例えばね、バイオリニストが「ストラディバリ」とか持ってるでしょう。ところが・・・僕って、いろいろな曲調がでてきてしまうんですね。そこが難しくて・・・。
美芽.
例えばいろいろ使い分けると思うんですけど・・・
安藤.
そうですね、EWIとサックスではもう合わせる音も違いますしね。スタジオミュージシャンの人なんかそういうのすごくこだわりますよね。でもね、サックスなんか、1本でしょう。「今日はこっちだ!!」とかやらないし、ベースもそんなに使わないでしょ。
美芽.
そうですね。だからどういう観点で持ち替えてるのかなと思うんですけど・・・。
安藤.
ピックアップでも同じエレキでも全然違うんですよ。
美芽.
こちらの「ANDY’S」では「あっ安藤さんがずっとメロディー弾いてる!!」って感じでしたが・・・
安藤.
メロディーってやっぱり一番難しいですね。
美芽.
「ANDY’S」の1曲目と今回のアルバムの「KNIGHT’S SONG」では同じメロディーをそれぞれギターとEWIでやってますけど、まったく印象が違いますよね。
安藤.
こっち(ANDY’S)は不良、こっち(BLUE IN RED)はおりこうさん、きちっとしてるって感じでしょ。(笑)
美芽.
そ、そうですね・・・不良・・・(爆笑)。両方聴き比べましたけど、とにかく「ANDY’S」の方はドラムの音がすっごく大きいですよね。そういうのも全部計算されてるんですか?
安藤.
うん、これやったエンジニアの人はヴァン・ヘイレンとかの人で、ロック録りの上手な人なんですよ。で、生の楽器の音が少ないんです。この1曲目は、ギターとドラムだけが生であとはシンセ。難波くんがハモンドオルガン弾いてるかな。だから・・・「ドラム・ギター!!」って感じでしょ。(笑)T-スクェアは5人が演奏してますから、5人を均等に出していくわけですね。
美芽.
でも、「BLUE IN RED」のほうも、5人でマイルドな感じでやってところにギターソロになったら、「あれ???」って感じで、いきなり不良になってましたね。「ここだけは思いっきりやるぞぉ」みたいな・・・
安藤.
あ、そうですね・・・(笑)すみません。(笑)
美芽.
そんな、それがいいんじゃないですか!!・・・あの部分に凝縮されてますよね・・・。
安藤.
最近不良って好きなんですよ。不良になりたい願望があって・・・基本が真面目な人なんで。そういう憧れがね。音楽に出てるんですよ。最近の僕のトレンドは・・・不良です。(笑)
美芽.
「BAD BOYS &GOOD GIRLS」とかも、そういう意味では不良入ってますよね。(笑)
安藤.
そうですね。うつろいやすいというか・・・芯がないというか・・・軽いんですよ。 それに自分で理論的な裏付けがあるかというと・・・ないんですよ。そんなもんです。
美芽.
さっき、則竹さんが「今回はシンプルに叩くことを心がけた」っておっしゃってましたが・・・
安藤.
ノリちゃんのトレンドはそれなんですよね。
美芽.
安藤さんのトレンドは、「不良になりたい」。
安藤.
不良になりたい、不良になれない・・・(笑)
美芽.
でも、お子さんが不良になったら困りますよね。話は変わりますが、去年相模大野のコンサートで「パパーーー!」と叫んだのは、安藤さんのお子さんだったとか・・・ (当日は、メンバーも須藤さんのお嬢さん「唯ちゃん」が叫んだものと勘違いしていた。)
安藤.
そうなんですよ。僕来てるって知らなくて。しばらく旅に出てたと思うんですよ。相模大野でようやく家に帰ってきて。すごい子供が喜んで。「うわーおとうさん!!」って。でもすぐに出かけちゃったので、すごい悲しかったらしいんですよ。今5才なんですけど。すとちゃんのところがお子さん来てるのは知ってたんで、ああいう話になったんですけど。終わってみて「パパ、わかんなかったでしょう。」っていわれて。・・・あの、フュージョン聴かれるんでしょ?
美芽.
え!?あ、はい。(質問されて焦る美芽であった・・・)はじめはT-スクェアから入りまして。そのうちだんだん海外のものにも手をだすようになって、現在に至ってますが。
安藤.
今のお気に入りは?
美芽.
アラン・ホールズワースとフランク・ギャンバレが、ブレッカーやチックコリアの曲をカバーしてる企画ものがあって・・・もう何年か前に出たものなんですけど。最近はそれにはまってます。
安藤.
そんなのがあるんですか。知らないなあ・・・。聴いてみたいな。
美芽.
安藤さんオススメのスティーブ・ヴァイも最近ちょこちょこ聴いてますけど。安藤さんは、ロック系インストがやはり中心なんですよね?
安藤.
うーん・・・・。最近のフュージョンって、例えばバトルものとかいうのは・・・音楽自体ではなくて、誰が何をやってるとか、どういうすごいことをやってるとか。・・・そんなものは音楽ではない。と僕は思うんですよ。やたら、何か日本の若いミュージシャンたちも・・・手数王とか・・・音楽は戦いだ!!とか・・・そういうジャンルはジャンルでいいけど、・・・それはそれでいいけど。何か、フュージョンがどんだけ上手いか、どんだけすごいか、っていう方向へ行ってるような気がして。さっき、そのバトルアルバムを聴いてみたいなっていったけど、それは興味本位ですよね。残っていかないんじゃないかなあ、そういうのは。
美芽.
では、安藤さんの理想の方向というのは・・・
安藤.
やっぱり、人を感動させる音楽。後に残る音楽ですね。ビートルズもそうだけど。でもね、自分でやるとなかなか思うようにいかないんですよね。悩みますし。あとでお皿になって聴いてみると・・・「あっこうすれば良かった・・」って。お皿になって聴いてみるとまた印象が違うんですよ。
美芽.
安藤さんはライブハウスのセッションなんかにはあまり出演なさらないんですけど、何かポリシーとかおありなんですか?
安藤.
いや、ないです。でも、呼ばれても「ごめん、予定入ってる」って断っちゃうことが多いし、基本は誘われないのかな。
美芽.
ニフティーサーブのT-スクェアの会議室をのぞかれてるとのお話・・・実は、神戸のMCでも話題になってたという噂もお聞きしましたが。
安藤.
ああ、そうそう。「秘密の花園。」あれ、僕、番地を知らないんですよ。どこにあるんですか。
美芽.
(苦笑)いえ、あの会議室で女の子だけでミーハーして盛り上がるのをそう呼んでるんですよ。
安藤.
あれを読んでるといろいろ言いたくなってしまうんで、あまり見ないようにしてます。(笑)

インタビューを終えて
T-スクェアのリーダーの安藤さんよ!!どうしましょ!!と、緊張してお会いしたのですが、なんかほのぼのとゆったりした口調を聞いているうちに緊張もほぐれました。安藤さんは楽器屋さんでT-スクェアの曲がかかっていると逃げてしまうんだそうです。大物ミュージシャンであっても、初心を忘れていないところがすばらしいですよね。今後はスティーブ・ヴァイのソロアルバムだけじゃなくてTOTOも聞いてみようかな。


Special thanks to Village-A
Interviewed by Mime
Photograph by Hisae
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