神戸チキンジョージのテイクを使用 美芽. 須藤さんはここ数年、T-スクェアの活動とは別に続けてきた「須藤満のみなさんのおかげです」セッションをなさってきた。今回はそのライブアルバムということで、レコーディングは2月だったんですよね。東京の六本木ピットイン、名古屋ボトムライン、神戸チキンジョージの3カ所で公演をなさったわけですけど、全部の場所で録音なさったんですか? 須藤. 予定では機材の関係でピットインとチキンジョージだけで録ることになっていたんです。AKAIのDR−16っていうハードディスクレコーダーで。ハードディスクレコーダーっていうのはハードディスクが満杯になるとそれ以上録るにはバックアップを取らなきゃならない。容量が足りなくて外付けでもハードディスクは足したんですけど。オーディオ用のDATにバックアップをとるのに何のトラブルもなければですけど8時間ぐらいかかる。今回、東京・名古屋・神戸が3日続いてたんですよ。東京の六本木ピットインで録音したものを翌日名古屋に持っていって、搬入が終わった時点からバックアップをとり、3日目の神戸では録音できる予定でした。だけどバックアップの最中でバックアップが止まってたりして、全部のバックアップが終わらないままに神戸に行かなければなって。結局、ピットインで録ったものの上に上塗りする形で神戸で録ったんです。ピットインの分は前半だけが残っていたんですが、音なんかも変わるだろうし、「じゃあ、3日目チキンジョージの分にしようか」ということで。たとえばA−DATであればテープなのでどんどん入れ替えていけば済むことですが、2月の時点ではそのDR−16しかヴィレッジレコードの機材がなかったんですね。 美芽. 2月の時点では、事務所であるVillage-Aのほうでもまだヴィレッジレコードの設立のことははっきりしていないこともあったんじゃないですか?まして機材となると、その時点では当然まだまだ揃ってなかった? 須藤. そうなんですよ。それで別に良くなかったら無理して出すこともないんですけど、聴いてみたらいいテイクだったんで。 美芽. 今回は、もろフュージョン、って世界ですね。8曲で1時間という長めの構成もまったく気にならず聴けて、ヘヴィなようで以外とききやすい。T-スクェアよりも、もっとフュージョンの王道をいくサウンドというか。 須藤. とりあえずメロディに歌詞はのっかりそうもないですよね(笑)。 「実は4拍子」の1曲目 美芽. 1曲目「ON THE TRACK」は、変拍子なんでしょうか? 須藤. あれは、4分の4拍子です(笑)。譜面もそうなってます。 美芽. えっ!? 須藤. 細かく言うとベースとドラムのパターンが8分の7拍子と8分の9拍子の組み合わせになってるんですよ。7拍子と9拍子で足してちょうど16。でも、ドラマーによっては変拍子でとる人もいるんですが、そうするとなんだか合わないんですよ。 美芽. あっそうか、この曲はかなり長い間やってらしたから、いろいろなドラマーと演奏したことがあるんですね。4分の4拍子だよと言っても、感じ方が変拍子になっていると・・・ 須藤. 修正は難しいんですよ。 美芽. 神保さんはどうなんですか。 須藤. 神保さんは4つです。 美芽. そのへんは、相談してどうこうなる問題ではないんでしょうか? 須藤. たとえば、バンドでやっているのであれば「これはドラムのパターン変わってますけど4拍子でのってください」と言えばそれに向けて練習するんでしょうけど、セッションで1日リハやってあとは当日ちょっとやって、という程度では・・・。自分のタイムの取り方をがらっと変えることになりますから、すぐできる人とそうでない人がいますし、逆に僕が4拍子なんですけどっていっても「これは変拍子のほうが面白いよ」って言ってやっている人もいるので、そこはセッションの面白いところですね。合わないなら合わないで、それを楽しんじゃうっていうか。 美芽. 具体的に誰が4拍子派で、誰が変拍子派っていうのは覚えてらっしゃいますか? 須藤. たとえばポンタさんは変拍子派でしたね。あの人はまた、妙なことに8分の7と8分の5と4分の2だ、とか訳のわからないことを言ってましたけど。あとは村石雅行さん、ユーミンのバンドで叩いてる人ですけど、変拍子でとってました。4拍子のつもりで書いちゃったメロディーなんで、変拍子でやるとかなり気持ち悪いことになるんですよ。まあ、だからメロディーをとる人は4拍子にとるんじゃないでしょうか。最終的にはつじつまが合うんで、聴いた感じではそんなに変じゃないと思うんですけどね。変拍子にとっている人とそうでない人では、小節の頭がずれるんですよ。それがね、やってるとわかるんですよね。気持ち悪い・・・、気持ち悪いっていうのでもないな、妙な気持ちになります。 ルーツは「ワンダーランドクラブ」 美芽. 今回は、メンバーの組み合わせが最高にいいなあと思ったんですよね。須藤さん好みの音を全員が出してるというか。 須藤. いや、僕の好みの音ってないんですよ、みんなお任せで。ただ、大橋とか高橋君はセッシションでのつきあいが長いし、大橋なんかとは長電話なんかしたりする仲ですから。神保さんはもうすごくタイトでいらっしゃるし。確かにまとまりはあったと思います。 美芽. 高橋亜土さんとは、おつきあいが長いんですか。 須藤. そうですね、CDの解説にも書いてるあるワンダーランドクラブっていうバンドをやっていた頃からかな。 美芽. 私ははじめて高橋さんを拝見したのは、学芸大にいらしたときなんですよ。 須藤. あはは。デカいなあと思ったでしょう。 美芽. そうですね(笑)。「みなさんのおかげですライブ」でのキーボードって、高橋さんが結構多いんじゃないですか? 須藤. なんか困ると、ちょっと頼むってことが多いかなあ。頻度は確かに高いでしょうね。 美芽. 高橋さんの音も、フュージョンしてらっしゃいますね。 須藤. フュージョンですからねえ、あの男も(笑)。フュージョン男だから、そういう音になりますよ。ワンダーランドクラブの頃からそうだったな。あのバンドのメンバーはみんな好きなんですよ、そういうのが。 美芽. この前、1989年のジャズライフを図書館で探しているうちにワンダーランドクラブの記事を見つけちゃったんですよ。 須藤. みんなものすごいカッコしてるでしょ(笑)。 美芽. なんといっても、則竹さんがキラキラのスパンコール入りのはちまきを頭に巻いて、ジャニーズ系アイドルのようで(笑)。 須藤. 俺は俺で大中の2000円の服を着てるしね(笑)。 美芽. ギターは、どなたでしたっけ。 須藤. 廣田コージっていう、ポンタさんが博多で見つけてきた人なんですよ。僕が学生のころはもうピットインとか出てやっていたりして。上手いなあと思ってたら知人の知人みたいな感じで紹介してもらったんですよ。じゃ、リハーサルバンドでもやるか、って則竹と廣田くん3人でバンドをはじめたのがことの起こりなんです。リハーサルをやっているうちに、廣田くんが「キーボードで入れたい奴いるんだけど」って連れてきたのが高橋亜土だったんですよ。 美芽. ワンダーランドクラブでやっていたのが、そのまま「みなさんのおかげです」につながっている部分というのも大きいんでしょうね。 須藤. そうですね、持ち曲が少ないので当時のものも使わないと足りないっていうのもあったんですけど(笑)。亜土くんとは、ことがあればセッションはしてるんですよ。お互い相手のいうことに聞く耳持ってるんで、話がすごくしやすいんですよ。こういうのはどうなの、っていえば、ああね、って返ってくるし。とりあえずずっとつきあっていきたいなと思ってますね。 美芽. 音楽に関して、話がツーカーでいらっしゃるというか。 須藤. 音楽以外の部分でも、いろいろと。うちで飼ってたウサギくれたのも高橋くんですから。 美芽. 高橋さんは「キーハンター」っていう曲のの名付け親なんですよね。 須藤. そうそう。則竹にこの曲名を見せたら、笑われましたよ。まだそのタイトルでやってるの、って。いいじゃん別にって感じですけど。 美芽. タイトルをみて想像した音より実際のほうがかっこよかった・・・っていうと失礼なんですけど・・・インパクトあるタイトルが続きますよね。 須藤. タイトルはねえ、いいんです(笑)。曲を覚えてもらうためのひとつの手段だから。とくにイメージがあって曲を作ったんだったらそのイメージに固執するでしょうけど、決してそうではないので。とりあえずそこでお客さんつかんどこうかな、という。 美芽. 確かに、カーニバル殺人事件って聞いたら忘れないタイトルですよね。 須藤. いや、忘れる人もいるんです(笑)。でも小難しい名前をつけてもしょうがないし。さらに言うと、こうやってお皿になって残ることは前提にしないでやっていたセッションだから、そのときが楽しければいいや、的なことなんで。お客さんに曲を覚えてもらうに当たって「つかめる」タイトルならいいや、と。 美芽. ライブハウスで曲名を聴いたときに、思わずうけるというか・・・。 須藤. こうやってバン!ときれいな活字にされると結構恥ずかしいものはあるんですけどね。 「これでやってしまってたものはしょうがない!」ってことで。 美芽. 3曲目の「SUCCESS MOON」は大橋さんの曲ですね。 須藤. セッションやるときに、いつも出演者に曲を持ってきてもらうんですよ。これは大橋くんのセッションに行って聴いて「いい曲だなあ」と思って。機会があったらぜひ演奏させてほしいと思ってたんです。そしたら大橋も気を使って、もとは全部ギターでメロディ弾く曲なんだけど最初の部分はベースでメロディをとらせてくれたりして。 美芽. あとはすべて須藤さんがお書きになった曲ばかりですよね。作った時期というと・・・ 須藤. バラバラです。ワンダーランド時代の曲は10年近く前ですし、去年の秋ぐらいにできた曲、4〜5年前にできた曲。 美芽. やっぱりセッションがあるから曲を書こうかな、っていうのはあるんですか。 須藤. あるある。でもできない場合は、T-スクェアでボツになったものがやってくるというシステムになっています(笑)ライナーにはかっこわるいからどの曲がボツ曲とは書きませんけど、去年の10月頃できた曲なんていうと、まさにT-スクェアの曲書いてる時期でしょ。 美芽. 大橋さんとはよく一緒にやってらっしゃるんですよね。 須藤. 大橋は僕のこのセッションを欠席したのは2回ぐらいじゃないですか。 美芽. じゃ、大橋さんのほうでもかなり何度も演奏している曲が多いということですか。 須藤. いや、でもそうなっちゃうと大橋のほうもつまんないだろうから、大橋があまりやってない新しい曲をなにかしら入れようとは思ったんですよ。 美芽. 大橋さんは、美しいロングヘアが印象的ですごく美青年のイメージがあるんですけど、ものすごく男っぽい音色のギターを弾かれますよね。 須藤. あの男のロック魂がそうさせるらしいです。(笑)(注:しかしこの頃すでに、大橋氏は髪を切っていたらしい) 「本気を出した」(?)神保彰のドラミング 美芽. 神保さんと一緒に演奏するのは2回目ということで。今回、勢いがあるというか、ちょっと他の場所とは違ったパワーを感じたんですが。 須藤. 3日目はライブレコーディングってことで、本気を出したんじゃないですか。一緒に演奏してて、前の2日とは違った「来るもの」がありましたから。神保さんのことだから「いや、普段どおりなんですけどねえ、ハハハ」とかおっしゃるかもしれないけど。僕はそう感じました。 美芽. 「カーニバル殺人事件」は、神保さんと高橋さんというラテンの名手の演奏が圧巻ですね。 須藤. 神保さんはねえ、もうお任せという感じですし。高橋亜土も好きなんですよ、ラテンが。ワンダーランドクラブのころも、ラテンになると楽しそうに「はいはい」ってやってたな。 美芽. アルバムができあがって、「やっとできた!!」って感じなんでしょうか。 須藤. あんまり僕のなかではソロアルバムという意識はないんですよ。どっちかというとライブアルバムなんです。ソロだったらやりかたが違うなと思うんです。自分がソロのベーシストとしてできることを考えて曲をかいて構成すると思いますし。今回は、自分の曲を含めてですけど他の人の曲も持ってきてもらって、バンドに若干近いセッションをその日に集まった人でライブをやったのを録ったっていう意識なんですよ。 美芽. 神保さんは最近すごく多忙みたいですけど、発売記念ライブにきっちり出演なさるというのがすごいですね。 須藤. ダメもとで神保さんに電話したら、「たぶんダメだと思うんですけど・・・ちなみに何日ですか?あ、空いて・・・ますね」ってことで。東京ではレコーディング時と同じメンバーでライブをやります。神戸ではT-スクェアがチキンジョージで5日間やるので、大橋くんと神保さんはスケジュールが合わなかったんで、ドラムは則竹くんです(笑)。ギターは昔ノブケインをやっていた福原将宣さん、ビッグホーンズビーとか森高千里さんと一緒にやってる稲場政裕さんの2人にお願いして。メロディもハモりをつけようかな、とかちょこちょこと準備してます。 準備に気合いがはいってしまって・・・ 美芽. 今後もこのライブは続いていくんですよね。 須藤. ええ、間はどれくらい開くかわからないけど続けていきます。当初は春・夏・秋・冬のスケジュールでいくつもりでしたけど、いつの間にか1年に1回になって、気がつくと1年半あいてたりとかね(笑)。そんなに無理に忙しいのにやるもんでもないと思うんで。大橋が月に1回のペースでいろんなメンバーを集めてセッションをやってるんですよ。どうもやり方を見てると根をつめて準備しないのがいいらしくて。僕はリハーサルで集まったときに「これはなんだ」とか言われるのがイヤで、準備に一生懸命になっちゃうんです。みんなに配る音資料とか、譜面をリハーサルの1週間前までに配りたいと思って。リハーサルもそんなに時間がないですから、一応家で見てきてもらえるようにと。自分が呼ばれる立場だったら、そのほうがいいですからね。譜面も弱いし。そうやって準備してるうちに疲れちゃう(笑)。気がむいたときにやりはじめて、最後の1週間ぐらいはほぼ寝ずにやるんですよ。よせばいいのに譜面とか手書きじゃなくて譜面のでるソフトで印刷したいから、やるわけです。でも印刷して見るとだいたいもっと直したい部分が出てくるわけで、それをやっているとどんどん目がしょぼしょぼになっていくという(笑)。時間あっても足りなくてね・・・。ホントはライブが終わってから達成感を味わうものだと思うんですけど、準備が終わったら「終わった!!」って感じになっちゃって。なんとか楽にできる方法を考えないといけないですよね。 美芽. KORENANOSなんかはどうなんでしょう。 須藤. ラクですよ。是方さんが譜面持ってきてくれるし、是方さんの曲がセッション向きにできてる。俺の曲は決してセッション向きとはいえないんですよ。 美芽. 緻密なアレンジ・・・。 須藤. 緻密なアレンジじゃないんですけど、小難しいんですよ(笑)。自主トレしてきてもらわないとできないよううな曲とか結構あって。リハのときに「すみません、お願いします」っていうのは失礼だろうっていう。 美芽. 是方さんみたいに、セッション向きの曲を作ろうという構想はあるんでしょうか。 須藤. ええ、あるんですよ。だけどやってるといろいろ細かいことを入れたくなってきちゃうんですよ。いろいろ妙ちきりんなキメとか。自分の曲の作り方が、そういう風にしないとできないみたいで。メロディラインの音数がやたら多いとか。あと、是方さんのセッションとの大きな違いっていうのは、僕はベースだからメロディを人にとってもらうわけです。僕がメロディをとるうまい方法が見つかって、なおかつ曲として人に聴かせられるような曲がたくさんできたらソロアルバムとかライブの形にしたいとは思ってるんですよ。 美芽. それは、自分がベースでメロディを弾く、という意味ですよね? 須藤. そう、自分がベースでできることはどんなことなの?というのを追求してね。そういうものがどんどんできるとソロになると思うんですけど。今やっているような曲はどっちかっていうとセッション向きなんですよね。あんまり変わらないように思われるかもしれないけれど、自分の中では結構きっちりと線があるんです。 美芽. 今日はT-スクェアの仕事だ、今日は自分のセッションだ、っていうので、仕事に向かうときの車の中の気持ちが変わる部分ってあるんでしょうか? 須藤. いや、あまり違わないですね。もちろん自分のセッションだと自分が仕切らないと先に進まないっていうのはありますけど、向かう気持ちはまったく同じです。 コンビネーションという訳ではないんだけれど・・・ 美芽. KORENANOSのほうの活動も快調ですね。 須藤. あれはセッションというよりバンドみたいなことになってきてますね。 美芽. 毎回、リズム隊2人の絶妙のコンビネーションが素晴らしいのが印象的で・・・。 須藤. コンビネーションとか、そういうのじゃないんですけどね、ホントは(笑)。則竹がこうやったから俺はじゃあこうやろう、逆に俺がこうやったからじゃあ則竹がこうやってついてくる、みたいなね。相方が違う人になったとしても、プレイの仕方が変わるわけじゃないんですよ。長いことやっているぶん手の内がわかるっていうか。こんなことやりだしたぞ、っていうのが他のドラマーより早くわかるんですね。でも、10年長い間一緒にやってるからわかる部分がもちろんあるんですけど、それ以前にプロになる前にやっていた音楽が非常に近いんじゃないかなと思うですよ。その中で学習してきたことが近いんですね。リズムのアプローチでやってきたソロイストに自分はどう反応するとか・・・。 美芽. そのあたり、もう少し詳しくうかがいたいんですが。 須藤. 例えば、ジャズの形態としてビッグバンドのジャズがありますけど、そこでソリストがソロをやっていたとしてもドラマーはバッキングに徹するわけですよ。同じパターンをずっと叩いてる。そのバンドをまとめるっていう気持ちよさがそこにある。じゃ、コンボ形式のジャズバンドになったときには、ソリストのプレイに反応してね、ていうものがあるわけなんですよ。コンボ形式は人数的により少ないバンドですね。コンボ形式だけじゃなくて小さなバンドでも、意図してリズム隊は機械っぽくしてソリストが自由にやるっていうのが、ソリスト対ドラマー、ソリスト対ベーシストにあるわけです。演奏してバッキングしていて、「ここは何もしないほうがいいかな」「ここはソリストについていってみようかな」っていうのが頭の中にあるわけです。そのアプローチの仕方も似たようなところを通って学習してきたと思うんですよ。プロになってからは、則竹は則竹で沢山セッションに出てるし、僕は則竹ほどじゃないですけどセッションに出たりして、得たものをT-スクェアに戻ったり、是方さんのセッションなんかで一緒になったときに「あ、何か知らないことやってるぞ」っていうのがあったりとか。僕が則竹に「今日はベースソロ変わったことやってたね」って言われることもあるし。 美芽. 今日のドラマーは則竹さんだと思うと、安心感があったりすることはあるんでしょうか。 須藤. いや、会場に向かうときの車の中の心境なんかはまったく関係ないです。演奏してるときになると安心感という部分では違いますけど。だけど、安心してる場合じゃないんですよ。安心してると「やられた!」っていうのがあるから。 美芽. やられた!っていうのは、どういうものなんでしょう。 須藤. これはねえ。あるんですよ(笑)。特にこれと言うほどじゃないんですけど。例えばこういう曲がある、ドラムは則竹だ、たぶんこういう風になるんだろうな・・・と想像しながら行くわけですよ。演奏してみると、則竹は違うところで学習してきたものを出してきて、俺の予想とは違ったアプローチで出てきて「あっ、やられた」みたいなのがあるんです。長いことやってるから基本的なタイム感なんかについては気にしなくていい部分があって、そこが安心だっていうのはありますけどね。 美芽. 則竹さんと安心感というのがあるということは、神保さんとやったりするといっぱい新鮮なことがあったりするわけですか。 須藤. そうですね。新鮮というか、神保さんとやってるときは気持ちはほとんど高校時代に戻ってますから(笑)。 美芽. 高校時代に帰るというのは・・・ 須藤. 「神保さんだ〜!!」(嬉しそうに拍手) 美芽. でも、そういう部分はありつつも、ミュージシャンとして相対する部分も当然あるわけですよね。 須藤. もちろん、予想した通り非常に安定したビートを出して下さるし、プレイするにあたっては楽・・・というのは失礼ですけど・・・一緒にやっていて、則竹に感じるのと近い安心感はあります。すごいしっかりしたタイム感に裏打ちされた、安定したプレイ。ですね。 セッションに行った時って、タイム感がリズム的なことでいえば自分のタイム感をもってないと他の人達と合わないんですよ。バンドでいつも練習してれば、「せーの」でやって「はいっ」と合わせる練習もするけれど。そうすればそういうところに気を回さなくても自分の演奏に集中できるんだけれども、セッションでそのとき初めて一緒に演奏する人たちというのは、それぞれのタイム感というのを持ってセッションにやってくる。そこで演奏者として何をすべきかというと、他の人の演奏を聴かなきゃいけないということになる。自分の演奏がどうのこうのっていうよりも、他の人の音をどれだけ聴いて演奏できるかどうかのほうが大事なんですよ。そのときに、自分のタイム感をきちんと持ってないと他の人とタイミングを合わせることにまず神経の半分が行きますよね。あわせにいってるときの演奏というのは間違いなく良くないんです。ドラムがこうなってる、というのを聴きながら、ここ、ここ、ってやってるとね。それよりもドラムのタイム感があって、自分のタイム感があって、それはお互いの演奏を聴いていればそれぞれの取り方がなんとなくわかりますから。ドラムに合わせるんじゃなくて、自分のタイム感を心のよりどころとしてドラマーもそうやって演奏している。そうやってうまくいったときがセッションの楽しいところだと思うんですよ。そうなったときに、神保さんも自分のバンドでやってるときと僕とセッションでやるときは違う部分があるんじゃないかと。演奏内容とかではなくて、気の持ちようというか、頭の中のことだと思うんですけどね。 T-スクェアのライブ選曲係としての苦労話 美芽. 今年の活動をふりかえって印象に残ったことは。 須藤. このアルバムは印象に残りますね。 美芽. ツアーのことなどでは。 須藤. うーん、去年よりいいものにしようとしてきたんですけど、聴く立場になるといろいろあるみたいで。選曲のこととか、いろいろ言われるんですよ。聴いている人全員が満足できるものというのは難しいと思うんですけど、自分たちで今年はこれだ、みたいなのができればいいなという感じですね。すごくT-スクェアを聴き込んできてくれる人と、はじめて来る人といるわけですしね。難しいですよ。もういやですもん。俺がたたき台を作っていく係なんですけど、あちらをたてればこちらがたたずみたいなことが多くて。曲順を考えなければいけないことが山ほどあるんです。そういうのを抜きにして曲順を作ってみたこととかあるんですけど、「お、これ、ちょっといいんじゃない」と思ってよくよく見てみると和泉さんのソロが1個もないとか。サックスがなくて全部EWIだったとか。誰が作曲したかっていうのは考えてないですけどね。メンバー5人がソロアーティストの集まりだと考えてるんです。本田雅人とその仲間たちじゃないので、5人にスポットがあたるようにしたいんですよ。そういう場所がないなっていうのはまずいし。作っていくと「えらくマニアックな曲順だな・・・誰も知らないんじゃないのこれ」みたいなことになったりとか。大変です、とあえて言ってしまいますね、これは。 美芽. 年末ライブも控えてますね。 須藤. うわああ・・・。うう。どうしよう・・・。まあ、頭痛いですね。 ツインベースの構想 美芽. 野音をふりかえっていかがでしたか。 須藤. 楽しかったですよ。ああいうのはいいですね、たまには。自分の構想の中ではベース2人、または2人以上がいっせいのせで弾いて成り立つ曲もあっていいんじゃないかというのがあるんですよ。例えば1人がメロディ、1人がバッキングっていうのもありだし、2人で一緒にバッキングやってそれがひとつに絡み合ってっていうのもいいと思うし。やりたいという構想はあるんですけど。 美芽. 夏のセミナーで「ミストラル」をツインベース用に書いたというお話でしたよね。 須藤. あれはかなり企画倒れでしたけどね(笑)。他の楽器と考えてみて、ツインで一番成り立ちにくいのってベースじゃないですか。打破したいと思いつつ、やってらしゃる人とかいるんですけどね、江川ほーじんさんと水野正敏さんがやってるっていうのとか、渡辺香津美さんの「MOBO」っていうアルバムでグレッグ・リーさんと渡辺健さんが一緒にやってらっしゃるっていうのもあるし。やる方法がないわけじゃないと思うんですけど、なんかもうちょっと一般的になるといいなっていうのがあって、考えてるんですけどね。 美芽. この前カシオペアでは、鳴瀬さんがメロディで櫻井さんがベースパートっていうのをやってました。 須藤. それがベーシックな形ではあるんですけどね。セッションでも、ゲストじゃなくてメンバーとしてもう1人ベーシストを呼ぶっていうのもできたらいいと思うし。 美芽. JIMSAKU100%で櫻井さんが使っているピッコロベースっていうのもありますけど。 須藤. 僕ね、ピッコロベースはあまり好きじゃないんですよ。完全にフロントマンになっちゃうから、ベーシストでもいないといけないんですよ、僕の中では。ブライアン・ブロンバーグみたいなのはあまり・・・。ベーシストは別にいて、自分はピッコロベーシストになってますから。そういうのももちろんあっていいと思うんですけど、あのあり方は自分の理想とは違いますね。 大貫. スタンリー・クラークはどうですか。ピッコロベースも使うんですけど、 須藤. スタンリー・クラークのあり方は僕は好きですね。あの人ぐらいまでいくと、何でもいいというか。あの人はベーシストらしい出かたもするじゃないですか。 大貫. リトナーとかのバンドでは、真面目にベース弾いてますね。例えば、片方がスラップ、片方がフレットレスで・・・フレットレスはメロディもバッキングもできますよね。そういう形というのはどうですか。 須藤. 考えてます。永井さんと一緒になにかできないかな・・・ソロのバトルになったら1時間やるからよそう、とか。それもありですよね。組み合わせとしていろいろ考えられますよね。フレットレスとスラップで同じフレーズを弾いていても、そこには何か楽しいことが起こるかもしれないし。 美芽. UZEBというバンドが最近お気に入りとか。 須藤. UZEBもいいんですけど、そこのベーシストのアラン・キャロンがかっこいいんですよ。僕の好きだった時代のフュージョンのにおいがするというか。なにしろ指がまわるんだ、この人がまた。感心しますよ。めちゃウマですね。ソロとかのフレーズが管楽器っぽいし。小技も持ってるし。 美芽. 他によく聴かれるものは何でしょうか。 須藤. 車の中では矢野顕子さんの新譜のOUIOUIを聴いてます。ここ何年かずっと好きで聴いてるんですよ。学生の頃はあまりいいと思わなかったんですけど、今聴くといいですね。 美芽. 車の中で一緒に歌ったりとかしないんですか。 須藤. いや、歌うのはしないですけど(笑)。 美芽. 機会があったら共演してみたいとかいうのはありますか。 須藤. うーん・・・もうちょっと上手になったら共演したいですけど・・・でも、私ごときじゃ相手にしてもらえないでしょう。やってみたいっていうのはありますけど。 T-スクェアがここまで続いた理由は!? 大貫. 70年代後半から、沢山のフュージョンのバンドが出てきましたけど、現在まで残っているのはT-スクェアとカシオペアぐらいしか思いつかないんですよね。その理由は何だと思われますか? 須藤. うーん・・・なんだろう・・・意地ですかね・・。これはわかんないなあ・・。なんででしょうね。リーダーに続ける意思があるかどうかの違いじゃないですか。うちの安藤さんにしてみるとT-スクェアっていうバンドが唯一のバンドで、曲もそれに向かって作っているじゃないですか。T-スクェアがあるから曲も作るし、安藤さんがそうだからバンドも続く、と。同じメンバーで20年続いているのであればまた違った意義もあると思いますけど、うちらはメンバーがさんざん変わってますからね。でもそれが逆に新鮮で良かったりすることもあるし。安藤さんもT-スクェアっていう名前ではやっているけど、始めた頃とはまったく違う意識でやってるんじゃないかな。それでもCDを買ってライブに通ってくださるお客さんがいるからやっているっていうのもあるだろうし。そういうお客さんがいても「やーめた」ってやめちゃうこともありますけど。 大貫. 70年代から続いているっていうと世界でもスパイロ・ジャイラぐらいしかないんですよね。末永く・・・ 須藤. あ、ありがとうございます。 美芽. 2人目のお子さんが生まれられたとか。 須藤. ええ、男の子が。拓馬といいます。 美芽. じゃ、おうちに帰るとお忙しいですか。 須藤. あー、忙しいです(笑)。上の娘は来年幼稚園なんですよ。港北ニュータウンは幼稚園が足りないので、この前は願書で並んだりしました。あとは、子どもが2人になって風呂の時間が倍に伸びたんで、出てくると暑いです(笑)。 美芽. おうちではお父さんしてるんですね。 須藤. ええ、じいちゃんばあちゃんも一緒に住んでればもっと好き勝手しててもいいんでしょうけど、うちはそうじゃないんで。 美芽. 曲づくりをしてると唯ちゃんが寄ってきたりとか、あるんですか。 須藤. そうですね・・・あまりなくなりましたね。寄ってきても、「ちょっと下にいっててね」っていうと言うこときくようになりましたし。 美芽. ライブなんかにご家族でいらっしゃることはあるんですか。 須藤. 今年は相模大野に来てましたね。 美芽. あそこにお父さんがいる、っていうのはわかるみたいですか? 須藤. うーん、そうですね。このライブをやったものは老後の楽しみのためにビデオに録ってあるんですけど、それをこの前見たんですよ。そこで「パパどこ?」ってきいたら「ここ」っていってたな。 美芽. ライブのテープが、老後の楽しみなんですね(笑)。ソロライブだけですか。 須藤. そうですね。「みなさんのおかげです」ライブは全部。 美芽. お客さんが来たら一緒に見たりするんですか? 須藤. いやいやいや。老後の楽しみなんで(笑)。そういうことはしてないんです。 インタビューを終えて ステージだと元気のいいキャラクターぶりが目立つ須藤さん。今回はそのキャラクターとミュージシャンとしていろいろ考え悩む姿をかいま見ることができたような気がします。「ああ、こうやってCDとかライブっていうのはできていくのね・・・」というものがおぼろげながら見えてきました。聴くほうにとってはたった1枚のCDであって1時間という時間でしかないのも事実ですが、1枚のCDに詰め込まれた須藤さんをはじめとするさまざまな人の思い、それに費やされた年月にしばし思いをはせました。 |