安藤まさひろ「WATER COLORS」発売記念Interview

安藤まさひろ・みくりや裕二の両氏によるギターデュオアルバム「WATER COLORS」がVillage-Recordsより97年12月に発売されました。アルバムづくりの話などを中心に11月のはじめに行われたインタビューの模様をお伝えします。

初のギター・デュオアルバム

美芽.
レコーディングは、10月のF1前夜祭の出演の直後から始められたということですが。
安藤.
2・3週間程度で準備をしておいて、前夜祭の次の日からレコーディングでした。いままで持っている曲の焼き直しが多めで全曲新しく作ったわけではないので、そのぐらいの期間でもできたわけです。そういう意味ではT-スクェアなんかのアルバムづくりとは違いますね。
美芽.
曲選びは、すんなりいったのですか?
安藤.
実は、はじめにクリスマスアルバムを作らないか?っていう話が来たんですよ。クリスマスアルバムっていうと「きよしこの夜」をやったりするものが多いじゃないですか。ちょっと困っていたんですよ。それでもクリスマスアルバムっぽく曲を選んでいたんですけれど「じゃ、具体的にやろう」となったときに、クリスマスにこだわらなくてもいいと方針が変わったので。クリスマスの曲というのは、T-スクェアの「YOUR CHRISTMAS」、とビートルズの「HAPPY CHRISTMAS」の2曲だけなんですよ。クリスマスの曲だけでなくてもいいということになったら、「ああ、じゃ、これもやりたい、あれもやりたい」と出てきたんですね。
美芽.
以前から、ギターデュオで一度やってみたい曲があったのですか。
安藤.
そうでもないんですけど、みくりやとはよくふたりで遊びでやっていたんです。そのときはブルースやったり、暗いというかギターらしいものをやっていたので、こういう曲調のものをふたりでやるというのは初めてでした。
美芽.
それは、いつごろのお話なのですか?
安藤.
アマチュアのころから、2人でブルースやったり、曲を作ってやったりしたんですよ。18か19の頃に知り合って。もう亡くなった方なんですが高柳昌行さんという方に個人教授を受けたくて習いにいったときにみくりや君もいたんです。それからのつきあいですね。
美芽.
教則ビデオでみくりやさんとデュオをなさっていましたが、それがきっかけとなった部分はあるんですか?
安藤.
そうですね。うちのプロデューサーがそれを見たり、スタジオでよくふたりで弾いているのを見て、「じゃ、やってみれば」と言ってくれたんですよ。
美芽.
日頃からそういうものがあったところに、企画が出てきたということですね。
安藤.
そうですね。
美芽.
高柳昌行さんには、何年ぐらい師事されたんですか。
安藤.
2年ぐらいですね。週1回通ってました。高柳さんというのは渡辺貞夫さんとか秋吉敏子さんとか、日本のジャズができはじめた頃の人で、あまり作品というのも残っていなくて、割とアヴァンギャルドというか前衛みたいな音をよくやってらしたようです。実際どういうギターを弾かれるのか、僕もあまりよくわかっていなかった部分もあるんですけど。
僕はギターを独学でやっていたので、基本的なこともわかっていなかったんですよ。出身が名古屋なので、名古屋のジャズ喫茶によく出入りしていました。そのときに和田直さんというギタリストの方に高柳さんを紹介してもらったんですね。和田さんの方のお店「COCO」でよく弾かせてもらっていました。学生の間で、そのころモダンジャズって結構はやってたんですよ。そこには名古屋の愛知大学とか南山大学のジャズ研の人が出入りしていて、結構レベルが高かったです。いま聴いたらどうかわかりませんけど。当時高校生だった僕にとってはレベルの高い人達でした。高3になってそこに出るようになったんですね。いまはお店もなくなってしまいましたけど。
美芽.
高柳さんのところでは、基礎からもう一回という感じで勉強なさったんですか。
安藤.
あんまりアドリブはこうやる、コードはこう押さえるといった「理論はこうです」ということはあまりやらなかったですね。クラシックギターの教材をもとにして、クラシックギターが指で弾くところをピックで弾くようにアレンジしたものをやっていました。僕が行き始めた頃にはもういませんでしたけど、渡辺香津美さんも先輩としてそこに通っていたんですよ。
美芽.
そこで習われて、ずいぶんと音楽的な変化はあったんでしょうか。
安藤.
もうすごく変わりましたね。ちゃんとやるのってなんと難しいんだろうって思いました。僕は人に習うのってあんまり好きじゃなくて。行ったことはすごくよかったと思うんです。実際あんまりこうしなさい、ああしなさいと指導された記憶もないです。やってたことを聴いてもらって、「いいですよ」「そこは良くない」ぐらいのことですから。やっていかなきゃ見てもらえないので、宿題になるわけです。宿題って誰でもきらいでしょ。だから結構休んでたし、あんまりいい生徒じゃありませんでした。でも、すごくためになりましたね。
美芽.
修行したという感じですか。
安藤.
いや、修行までいきませんね。プロの道は険しいぞ、みたいな。その頃からみくりやと仲良くなったんです。好みが似てたんですかね。どっちもA型っていうのもあるかもしれないけれど、僕もみくりやもわりと細かいんですよ。ガーっと弾いてなんぼ、っていうのよりは、音をひとつ弾いて「この音いい音だよね」っていうこだわり、っていうんですか。そのへんが似てるのかな。
美芽.
同じところでこだわれる・・・。
安藤.
そうですね、みくりやに「これいいよ」って言われると自分にとってもそう思えることが多いです。一緒に弾いていて、「このフレーズいいな」という刺激を受ける部分もあるし、「これやろうよ」というとツーカーでできるんですよ。
美芽.
ふたりでよく聞かれたアルバムなんか、あるんでしょうか?
.安藤
ラリー・カールトンとか、ロベン・フォードといったあたりはふたりとも聴きますね。スティーブ・ヴァイやジョー・サトリアーニを聴くのは僕だけど。僕がみくりやに教えてもらって、一番印象的だったのはタワー・オブ・パワーの「BACK TO THE OAKLAND」っていうずいぶん昔のアルバム。カッコよかったですね。当時そこでギターを弾いていたブルース・コンテってひとがいるんですけれど、その人のバッキングとか、たまにソロがあるんですけどそのソロがすごく良くて。「これいいんだよ」と教えてもらったときは本当に「いいな」と思いましたね。18・9の頃かな。
美芽.
ご自分では、今回のアルバムに関して出来上がりの満足度が割合高い状態なんでしょうか?
安藤.
そうですね、ホントにちゃんとできるのか不安だったんけど、すごくいいお手本があったんです。ゴンチチの「デュオ」っていう本当にふたりでやっているアルバムなんですけど。この春から夏頃に出たもので、これを作ることになったので聴いてみたらすごくいいアルバムで。この人たちはずっとふたりでやっているから、ふたり慣れしてるっていうかね。僕らは今回ふたりでやってますけど、どちらかというとふたりともエレキギター奏者で、アコースティックギターって普段そんなにやらないんです。そういう意味でゴンチチのおふたりのアルバムは参考になりました。めちゃめちゃ上手いんですよ。これはこの人たちを目標にするしかない、と。まっとうにいったら勝てないから、シンセサイザーを足したりとか、方向性をちょっとポップにしてみたら予想以上にあったかい感じにできたかなと思います。
いつもT-スクェアでやっているときもそうなんですけど、ミスとか、ちょっとしたズレとか、ギターだとちゃんと弾けなくて「パキン」ってなっちゃったりとか、そういうのって絶対いやで、そういうのは細かくチェックして「ここは直そう」「音程がヘンだな」って気になったりするんですよ。そういうことにすごく頭がいっちゃう。今回ももちろんそれはあったんですけど、割とそうじゃなく、楽しくやれたんです。「楽しかったからいいや」みたいな。音がずれてても、それを聴いてくれた人が感じるものはずれていようがきちっとしていようが関係ないのかなっていう感じだったんです。基本的に音楽できたかなという気がしていて。
あとはやっている人間がふたりなんで、シンプルですよね。この前和泉くんがやったような「ひとり」には負けますけど。(笑)5人いるとやっぱり、すごく重圧があるんですよ。他の4人とのコミュニケーションがあるし、ちゃんと責任を果たさないと他の4人に悪い、とか。このアルバムでは昔からこういうことをやっている仲間なので、そういうことは考えなかったんです。そういう意味でラクに、リラックスしてできたなと。それが聴いたときの肌触りとして出ていると思うんですね。
美芽.
わりと、フュージョンという感じではなく、特にどのジャンルとは言えないような音楽ですよね。
安藤.
そうですね、ゴンチチもレコード屋さんだとフュージョンの売場にあったりしますけど、フュージョンって定義が難しいですよね。もともと僕がT-スクェアをやり始めた頃は「リーリトナーのような音楽」と思っていたから、フュージョンにはなるのかなと思ったけど、でも基本はいわゆるフュージョンとは違うなと思っていて。このアルバムみたいなのは、ギターミュージックといったらいいのかな。
美芽.
アコースティックというと、やはり音量のことを考えるとバンドよりもこうした小さな編成のほうが良さが生きる気もします。
安藤.
エレキギターって、電気的に音を増幅してるから楽器としての成り立ちがピアノとかサックスとかドラムとかとは違うんですよね。他にドラム、ベースがいれば音楽になるんだけれど、エレキギターふたりだけだと・・・・別にできなくはないし、そういうジャズもありますけれど。やっぱりアコースティックギターのほうが息づかいがありますよね。実際に息もマイクに入ったりしますし。エレキギターはアンプの音を拾うから音を拾う場所から離れて弾いてます。でもアコースティックギターはギターを弾いているそばで音を拾いますから、「すうっ」って息を吸うと、実際に息を吸う音は聞こえなくても伝わるんですよ。ホントに速いパッセージを弾いている間は息を止めてるんです。そのあと息を「すうっ」とすると入ったりすることもある。より、感情や気持ちが伝わります。小編成だったらアコースティックギターのほうが、音楽として成り立ちやすいですね。自分としてはエレキもアコースティックも好きですが、どっちか1つだけと言われたらエレキを取ると思うんです。でも、生ギターには生ギターの良さがありますからね。右手の指が使えないから、クラシックとまともに戦ったらやっぱり負けちゃいますけど。
美芽.
クラシックと同じことをしなくてもいいわけですしね。
安藤.
そうなんですよ。

ギターは「オベーション」と「ラリビー」を使用

美芽.
このアルバムはアコースティックギター中心ですよね。安藤モデルという白いギターは使っていないのですか?
安藤.
ええ、使っていないです。
美芽.
F1前夜祭は黒いギターを使ってらっしゃいましたね。
安藤.
あれは安藤モデルと同じメーカーのモリダイラ楽器で作っているエアークラフトっていうギターですね。ソリッドギターで、最近できたものをモニターってわけでもないんですけど、使って下さいってことでいただきまして。白いギターにはない良さがすごくあるんですよ。白いギターはアームがついていて、音程が狂わないようにねじで弦の両側を止めちゃう。だからどんなにアーミングしてもチューニングが狂わないんですけど、ネジで止めちゃうのでギター本来の低い音がなくなっちゃうんです。ちょっと音質を犠牲にして、プレイの幅が出るというギターなんですね。それに対して黒いギターは、弦をネジで止めていないので多少は音程が狂いやすいけれど、昔に較べれば多少は狂わない機械がついているし、プレイの幅もありながら低音が豊かにあるギターなんですよ。
美芽.
F1前夜祭では、全部黒いギターで演奏なさったんですか。
安藤.
そうですね。でも、全部と言ってもあのときは15分ぐらいしか演奏していなかったですけど。
美芽.
今回のアルバムでお使いになったギターは、なんというものなんでしょうか。
安藤.
ナイロン弦のギターで、オベーションの「スーパーシャロウ」というボディがすごく薄いタイプです。あとはラリビーっていうスチール弦のギター。普通のフォークギターですね。僕はほとんどオベーションで、みくりやがラリビー、時々チェンジしたという感じですね。あとは僕のほうがヤマハのアコースティックギター、ナイロン弦のいわゆるクラシックギターを時々使ってます。「WONDERFUL MOON」だけエレキギターを使ってまして、フェンダーの61年、いわゆるオールドというものを使いました。1961年に作られたものだからだいぶ古いものです。
美芽.
エレキの音も、他のアコースティックな音色と違和感なく感じました。
安藤.
人間は僕とみくりやだけで、あとはシンセでやっていますから、エレキに持ち替えてもバックの音がそんなに増えないですから、割とスルッといけますね。バックはシンセサイザーがコンピューターで鳴る、いわゆる打ち込みを作りました。ふたりがメインでうしろはちょっとつける、という感じで。ストリングスとパーカッションぐらいで音数は少ないですから、そんなにやることは多くなかったんです。ただ、音数が少ないぶん1個1個の音がよく聞こえますから、やりがいはありましたね。
美芽.
打ち込みも準備期間の間にすべてなさったんですか?
安藤.
ええ。土日なんかに、みくりやとふたりでスタジオでやりました。

ヨーロッパを旅して 

美芽.
秋になって曲作りのシーズンですが、どんなふうに過ごされているんですか?
安藤.
遊びにいってました(笑)。スイスからベルギーをまわって、イギリスのコッツウォールズ地方、いわゆる田園地帯っていうんですか、そういうところを2週間ぐらい旅行してきました。きのう帰ってきたので、まだ頭が時差ボケ状態(笑)。
美芽.
まあ・・・今の時期のヨーロッパって、すごくいい季節じゃないですか?
安藤
紅葉が良かったですね。もっと寒いかなと思ったけれどそれほどでもなくて、天気にも恵まれて。家族3人で行っていました。息子が5歳なんですけど、静かにしなきゃいけないところは静かにできるし、もう海外に連れていって大丈夫ですね。
美芽.
去年はモロッコに行ったときの曲で、「カスバの少年」ができたそうですけど、今年はいかがですか。
安藤.
  うーん。・・・・田園地帯に行って来たので、なんか「ホワッ」としちゃうかもしれないですね(笑)。僕はスイスがすごく好きになりました。ごく一般的な日本人がよく行くところでグリンデルワルドって街があって、山岳鉄道でアルプスの峰々をのぼっていくというものなんですけど。季節柄ちょっと歩けなかった場所もあったけど、ハイキングができるんです。山なんだけどわりとなだらかに歩いていける道があって、すごくきれいな場所をいっぱい歩いたんですよ。良かったです。
美芽.
オフというと、旅行に行かれるのがお好きなんですか。
安藤.
そうですね。行くこと自体が、僕にとって冒険なんですよ。初めて行く場所に言葉もわからないで行って、地図を見ながら車で走って。けんかになったりするんですけどね。「ちゃんと地図見てろ、ばかやろう」なんて(笑)。でもなんだか、そういう日常を忘れてそういうことをやっているとすごくスッキリしますね。見慣れない風景を見たり文化に出会うと、直接ヨーデルみたいな曲を書くかっていうとそうではないんだけど、リフレッシュするじゃないですか。そういうのは、創作活動にはすごくいいですね。帰ってきて現実に戻るのがつらいですけど。またこの後いろいろ仕事があるみたいで、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうなんです(笑)。
美芽.
いま、注目しているアルバムはありますか?
安藤.
ローリングストーンズの「BRIDGES TO THE BABYRON」ですね。もうね、カッコイイんですよ。「なんてカッコイイんだろう」って。音がすごくいいんですね。今回のアルバムを作ったエンジニアと「安藤さん、このアルバムいいですよ」「あ、僕もこれいいと思ってた」っていうのがこのアルバムで。「この音いいですよね」とふたりで盛り上がってました。チャーリー・ワッツがチャーリー・ワッツじゃないぐらい上手く聞こえるほど。彼らはもう50ぐらいでしょう。カッコイイじゃないですか。でね、キース・リチャードが間違ってるようなギターを弾くんですよ。「ビヨーン」みたいな(笑)。「間違ってるんじゃないの?」と思ってたら何度もそれが出てくるんで、「わざとなんだ・・」って。でも外れた音も出てくるんですよ(笑)。だけど、カッコイイんですね。まあ、今たまたま思いついたのがストーンズで、いいアルバムはいっぱいありますよね。
美芽.
それと、安藤さんは今年、渋く変身なさいましたよね。
安藤.
あっそうそう。アンケートに「ギターの人が、おじいちゃんになっていた」って書いてあってショックを受けてよく見たら「おじちゃん」でまあいいか、と思ったことがあったんです。でもこの間息子の友達におじいちゃんに見えるって言われて。5歳の子にしてみれば、白髪で髭をはやしているとおじいちゃんなのかなと思ってショックでしたけど、まあいいや、と思ってます。僕はずっと髪を染めていたんですよ。こんなに白くないころから。でも「なるべく自然なのがいいな」と思って。前にも一度、染めないでいたこともあったんですけど、「白髪の方が自然でいい」「染めて若く見せた方がいい」っていう二手に分かれて。まあ、なんでもいいんですけど、飽きっぽいんでよく変わるんですよ。「IMPRESSIVE」の頃も髭を生やしていたし。だから変化を求めてるんです。女の人もよく髪型変えたりするじゃないですか。それと同じじゃないかな?

インタビューを終えて

この日安藤さんはヨーロッパから帰ったばかり。「時差ボケで眠くて」とおっしゃりながらニコニコとおだやかにお話をしてくださり、リフレッシュされた気分がこちらまで伝わってきました。アルバム「WATER COLORS」の温かい雰囲気とどこか通じるものがあるような気がしたのは、気のせい? 



Interviewed by Mime
Photography by Wahei Onuki
Special thanks to Village-A 
協力 キャフェ ポーミエ
Copyright 1998 by CyberFusion