T‐スクェア「時間旅行」
安藤正容&河野啓三インタビュー

T-SQUARE

2004年に若手の河野啓三(key)、坂東慧(dr)がメンバーとして加入、ここ最近は4人でバンドとして活動してきたT‐スクェア。2010年の新作「時間旅行」は、若手ふたりが往年のスクェアっぽいナンバーを書き、リーダーの安藤正容(g)、伊東たけし(Sax)は渋い新境地の路線の曲を提供。バンド内で才能がひしめきあい、スクェアらしさと新しさが混じり合って、充実した楽しいアルバムになりました。

でも、スクェアっぽいアルバム最初の1曲目と2曲目を若手に譲っているけれど、本当にいいんですか、安藤さん? そして河野さん、いったいどうやって、スクェアっぽいナンバーをここまで自然に、見事に作ったのですか?という疑問が残ります。そこで、こうした疑問を、メンバーのふたりに取材してきました。


●デモテープに頼らないレコーディング

時間旅行

河野:  今回のアルバムはデモテープを作らずに、みんなで曲を書いてスタジオでリハーサルしながら、アイデアを出し合っていきました。その中からいい曲を選んでいこうということで。

―それは画期的なことなんですか?

河野: これまではデモテープで、かなり完璧なところまで完成形に近い形で選曲会議に提出していたんですよ。音の悪いデモテープは容赦なく落とされる、みたいな。かなりの精度のデモテープをみんなが作る状態になっていたんですが、それをなぜかやらなかったんですね。それだと作曲者のイメージが強くなりすぎちゃって、それよりもバンドで曲を作るぐらいの勢いがあってもいいんじゃないかという意見が、伊東さん、坂東君からもあって。

―緻密なデモテープを作って選曲会議、というスタイルは、すごく長く続いていますよね?

安藤: ずっと前からそうですね。それこそ初期の何枚か以外は。っていうかね、僕が曲選考会がいやだったんですよ。実はね、昔からいやだった(爆笑)。だって曲を書いた人がそこにいて、これがいい、あれがいいって批評するわけでしょう。その状況が嫌だったんです。コンペですよね。なんで自分のバンドなのにコンペ? なんで自分のバンドで曲が落とされるの? というのがずっとあって。もちろんそれはいい曲を書いてくる人がいれば、自然な流れなんですけど。それに対して、いい曲が書けたからどうぞって出せるときもあれば、そうでもないときもあるわけですよ。

河野: 安藤さんはリーダーだから、僕とは立場が違いますけど、いまのメンバーはみんな作曲能力が高い人が揃っているんですよ。たとえば去年のことを考えても、アルバムの候補曲が20曲以上になっていたんです。CDに収録できる倍以上ですよね。せっかく作ったけれど、半分以上は切り捨てられるという・・・。どの曲を選ぶのか、みんなでミーティングしながら決めるんですが、クールにならなきゃいけない部分でもある。そこで、人によって意見って分かれるもので、「この曲は選ばれなかったけれど、自分はこっちがよかった」・・・とか思うことが結構あるんです。

―クラシックのコンクールを取材していても、審査員のコメントをとると「自分は3位の人が一番いいと思ったので結果には納得できない」みたいな話が出るケースは、よくあります。

安藤: 音楽なので、スポーツじゃないですからね。感性のものだから。そこがいいところでもあり、難しいところでもある。

河野: 走るんだったら、誰が見ても結果はわかります。だけど、音楽の場合は、これが絶対いいというのが目に見えてこない。

−プリプロはどのぐらいの期間だったのですか?

安藤: 1−2週間ぐらいかな。いつもと同じぐらいですね。

河野:

ただ、普通だったら選曲はできていて、曲を順番に練習していくところを、今回はできている曲をランダムに練習していき、もうちょっと「つかみ」のある曲がほしいということで新たに作曲して、それも合わせると15曲ぐらいを練習してみて、録ったものを聞きなおしながら進めていきました。その15曲を10曲に絞るのは会議だったんですけど。5人で出している音を聴いているわけですから、どの曲が合っているか、見えやすかった気がしますね。

安藤:

たまたま今回はこういうプロセスになって、いい曲が生まれて、結果的によかったなと思っています。次回のレコーディングでどうするかはまだ、わからないですけど。

―いつものやり方を変えたのは、何か理由があったのでしょうか?

安藤: すごく微妙なんですが・・・。いつもは、社長から「いついつからレコーディングなので、いつまでに曲を書いてください」と発表があるんです。それに対して今年は、発表がなかった。「どうするんだろう、作るのかな?」みたいな。これは僕の勝手な想像なんですが、チーフプロデューサーとしての迷いがあったんじゃないか。「本当に作りたいなら、自分たちから申し出なさい」みたいな。何も決まらないまま「こんな曲いいな」と書いたりしてはいたんですが、突如としてレコーディングをすることになったんです。例年よりも遅い時期にね。若手ふたりはわりとさくさく曲が書けるほうなので、曲も集まったんです。そんなふうな流れでした。

●「つかみの曲、書いてよ」(安藤)

安藤: ここのところ河合マイケルがプロデューサーになって、「今回はロックっぽいものでいこう」とか「フュージョンの原点に戻ろう」とか、方向性を決めて全員が作曲していたんですが、今回はそれがなかったんです。自由に、書き溜めたものや、そのとき旬なものをぱっと書いてみたんですね。そこで集めてみたら、みんないい曲を持ってきた。でも、「トゥルース」や「オーメンズ・オブ・ラブ」みたいな、つかみの曲がない。僕はいまそういう曲を作るような心境じゃなかったので、河野君と坂東君に「つかみの曲、書いてよ」ってお願いして、書いてもらったのが河野君の1曲目だったり、坂東君の2曲目だったりするわけです。

ある意味、大丈夫? っていう流れだったんだけれど、若いふたりが名曲を書いてきたし、伊東さんもがんばっていたし、結果的には明るくていいアルバムができたと思います。河野君とか坂東君は、スクェア路線から外れないで、しかもそれぞれの個性がある曲を書いてくるので、すごく新しいスクェアになれるような気がします。

―「スクェアっぽい」という曲のスタイルは、安藤さんが中心になって作り上げてきたものですよね?

安藤: いやあ、僕だけじゃなくて、和泉君の力も大きかったですし・・・

―そうですね、歴代のメンバーが長い時間をかけて「スクェアらしい」というものを作り上げてきたわけで、簡単には真似できるものではないと思うんですよ。それなのに、なぜ、河野さんは、あんなに自然にスクェアらしい曲をいくつも書けるんですか?

河野: 根本的にスクェアの音楽がすごく好きなんですよね。当然それにかかわっている時間も、聴いている時間も長いですし。スクェアのサポートに入ってからは、もう自然に自分の中に入ってきています。

―安藤さんは、ここまで自然なスクェアらしい曲が若手から出てきて、不思議な気持ちになるということはないんですか?

安藤: 不思議な・・・っていうのはないですね。河野君も坂東君も、すごく才能があっていろんなアイデアを持っているんですよ。スクェアが好きっていうのは大きいと思うんですが、スクェア路線に合わせて、自分が好きな要素をあれこれ持ってこようという技術があるんです。スクェアっぽい曲を作るのって、そんなに難しいことではないと思うんですよ。構成だったりメロディーを大切にすることだったり、ハーモニーの動きであったり。ただ、それをトータルにまとめて、いい曲に仕上げるには、才能が必要ですよね。

―そういった若手の活躍があって、安藤さんも、自分の旬な路線に安心して行けたわけですか。

安藤: 安心はしてないですけど(笑)、自分のなかで個性じゃなくて、「くせ」になっている部分があるんですよ。それがちゃんと人に好かれるような「個性」になって出てくれば問題ないんですが、また似たようなことを・・・って癖のようになると、聴いている人に飽きられちゃうと思うんですよね。そういうものを無理やりひねりだしても、あまりいいことがないと思うし。そこで、フレッシュな状態の若者たちに、まず思い切り活躍してもらってバンドが活性化されればいいなと。ちょっと頼っている部分もありますね。

―坂東さんと河野さんは、もはや、欠かせない存在になっているわけですね。いまのメンバーになったのが2004年からなので、もう6年目ですか。本田さんがいたのが7年間だと思うと、現メンバーでも結構な時間が経ちましたよね。

安藤: あ、そうなの!? 本田君は7年でしたっけ。何か時間の流れが違うような・・・。

河野: うーん、ただライブの本数は本田さんのころの方が多かったですから、バンドとして過ごした時間は、本田さんがいたころの6年にはまだまだ及ばないですよね。

安藤: そういうことかー。

●「もっとかっこいいソロにしてください」(河野)

―T−スクェアのメンバーに取材されたインタビューを読んでいたら、河野さんが作った1曲目の「ファンタスティック・ストーリー」を録っているとき、安藤さんがギターソロを弾いたところ、「もっとかっこいいソロにしてください」ってダメだしが河野さんからあったと書いてあったんですよ。そんなことが言い合えるほど仲がいいというか、遠慮のない雰囲気なんだと、びっくりしたんです。そこで考えてみれば、もうこのメンバーになって6年たったんだな、と。

安藤: いや、仲がいいかどうかはわからないですけど(笑)、だって、言うんだもん。そうやって言えるっていうのはいいですよね。

―河野さんは、そうやって、安藤さんに結構びしばしと言っちゃうんですか。

河野: そうですね。

安藤: そうですねって・・・(笑)

河野: 僕はものすごくたくさんのことを安藤さんに注文していると思います。それは自分の曲に限らず、全体的に。僕自身がギターが大好きで、ギタリストと一緒に仕事をするのが好きで、安藤さんと一緒に仕事ができるのが嬉しいことなんですよ。やっぱり、安藤さんの仕事の精度の高さは、もう別格というか。僕が何をいっても応えてくださる、数少ないギタリストですね。求めている以上の素晴らしいものが返ってくる。スクェアでそういう仕事ができるのは幸せなことですね。ラッキーとしかいいようがない。

安藤: 河野君の場合は曲に対してしっかりした設計図があって、こうしたいというのがはっきりしているから、それになんとしても近づけたいという気持ちの現われだと思うんです。そこはすごいな、と思いますよ。でも、坂東君もそうかな。自分が思い浮かべた設計図のとおりにやりたい、望むべくは、設計図以上のものができあがれば、それにこしたことはないと考えているんでしょうね。こういうバンドをやってると、ある程度時間をかけて、ひとつの曲を仲間と一緒に作ることができる。そういう現場の仕事って、なかなかないと思うんですよ。1日に10曲録らなくちゃいけないとか、やっつけじゃないけれど、時間の中での最大限の努力はするにしても、時間の制約がある。それがスクェアみたいなバンドだと、自分の曲を思ったとおりに作って、それを多くの人に聴いてもらうことができる。これは限られたミュージシャンしかできないことだと思うので、その状況にある自分は頑張ろう、という意識はすごく強いですよ。

僕も若いころ、理想はすごくあって、なかなか到達できずに世に出てしまうことが結構あったんです。いまはちょっと枯れてきたというか、「これもありかな」「ま、いっか」と、理想にあまりこだわらなくなってきましたね。でも坂東君や河野君は、いま若いので、とにかく「こういう曲に作り上げたい」っていう理想に近づけようとしているんでしょうね。だから変なソロをやると、「俺の曲がひきたたない」「安藤さん、もうちょっとかっこいいの弾いてください」って言われちゃう(笑)。まあ、「ファンタスティック・ストーリー」のギターソロは、言われてよかったですね。いや、あれはカッコ悪かったですよ。

河野: 明らかに、レコードになったソロのほうがよかったですね。

安藤: まあ、「もっとカッコいいソロで」って言われたときには面白くないですけど、河野君がうまいことをいうんですよ。ダビングが始まると「安藤さん最高です」とかいって、僕も「お、そうか?」なんて。

―安藤さんから河野さんに細かい注文は、ないんですか?

安藤: あまりないですね。メンバーの間でも、僕と河野君のところだけじゃないかな?

河野: 他のメンバーには、あまり注文してないですね。僕の曲が、ギターが骨格になっている部分があまりに多いので、どうしても安藤さんに注文が多くなってしまうんですよ。コミュニケーションを深くしないと、いい音楽ができないですから。

●アルバムにちりばめられた「隠し味」

―河野さんの頭の中には、これまでのスクェアのアルバムで安藤さんが演奏してきた音の引き出しが全部入っていて、そこからあれこれ引っ張り出してくる感じですか?

河野: いや、それ以上の新境地を引き出したいなと。今回そういう部分がちょこちょこあって、このアルバムには、今までの安藤さんにはないような感じがちりばめられているんですよ。最後に入っている伊東さんの曲「MJ」では、あまりにスクェアらしくない曲を伊東さんが作ったために、スクェアらしいギターでは対応できなかったんですよね、必然的に。そのへん、見ているとすごく面白いですよ。

―他に、この曲のここのギターは注意して聴きましょう、みたいなのはありますか?

河野: 個人的には最後の3曲、もっといえば最後の4曲。「ワールド・スター」っていうのは伊東さんの曲なんですけど、ちょっと面白かったり。「ワイルド・リバー」って曲は、ギターをオーバーダビングするときに、ギターにトレモロをかけよう、と僕が提案したんです。エフェクターでトレモロを弾きながらスピードは変えられないですか? ってきいたら、変えられないというので、「そのスピードは僕が変えます」ってことで、ふたりでレコーディングのブースに入って、安藤さんはギターを弾き、僕が足元のつまみをいじりながら・・・。

―それは、普通は・・・。

安藤: あんまり、やる人は少ないよね。ゴムみたいなのをつまみにかぶせて、足で蹴ったりするんですけど。ボリュームペダルでわんわんわんってトレモロをかける人もいるんだけれど、足が疲れちゃうし。ちょうど音が伸びたところで、僕はトゥルルルっていわゆるトレモロ奏法をしたんですが、河野君も同じ気持ちだったので、トゥルルルルってトレモロのスピードをあげていて。超トゥルルルみたいな。それが、OKテイクになってレコードになったんだよね。

河野: そうなんです。そうしたひとつひとつが、すごく隠し味になっていて。「ワイルド・リバー」は、今までになかったいい感じになりましたね。

安藤: 「ワイルド・リバー」では、伊東さんのサックスの音色が、僕のイメージと違っていたんですよ。「伊東さん、これ、違うマイクでできない?」って聞いたら「できない!」って頑固なんですよ。そこでエンジニアの人と相談して、「こんなマイクはどうだ」とかいわれても「できない」っていっていたのに、しばらくしたら違うマイクが立っていて「どうだ、この音いいだろう」って僕にいばるんですよ。「あ、じゃ、変えてくれたんだ」ってほっとしました。マイクを変えたら、サックスがイメージにぴったりで、ばっちりの音だったんですよね。あれは言ってよかったです。ヴィンテージだったのかな、あまり普通には使わないマイクでした。

―マイクの力ってすごいんですね。

安藤: マイクでものすごく変わりますよ。特にドラムとかサックスは、生の楽器ですから、部屋の大きさとか、マイクの立て方でぜんぜん変わりますね。

―打ち込みについては、どれぐらい使っているんですか?

河野: 今回、シーケンサーは結構使っているんですよ。5人の音がすごく聞こえているので、目立たないかもしれません。使ってないのは、「ビハインド・ラヴェンダー」ぐらいかな?

●「聴き手にとって宝物になるような演奏をしたい」(安藤)

―河野さんはスクェアにかかわって10年ぐらいになりますけれど、実際中に入ってみて「そうなんだ」と思ったことはありますか?

河野: 外から見ていると、スクェアは完璧主義なバンドだったんですよ。ライブの演奏を聴いていても、常に完璧。ラジオとかテレビでも、CDとほとんど差がない。実際にはもちろん差はあったんですけれど、そう聴こえないんです。リーダーは相当な完璧主義に違いないと、思って入ったら、ぜんぜんそんなことはない。非常におだやかで、理想の高さはあるけれど、伊東さんも安藤さんも人に押し付けることがない。自分に対しては厳しいんですけれど、まわりのミュージシャンに対しては優しいし、気持ちがすごく豊か。いわゆるプレイヤータイプの人間にしては珍しいですね。そこがスクェアに入ってびっくりしたところです。もっと細かいことまで言われるんだろうな、と思っていたのに・・・。

―あまり、細かく言われなかった?

河野: あまり言われたことがないですね。伊東さんは、それとは別の意味で、時々難しいことを言ったりするんですが。意外とのんびりしている空気が漂っているというか。リハーサルを長くやらないですね。夕方ぐらいに終わっちゃうことも結構あって。他の現場だと、昼の1時から始まって夜の7時から8時までやって、普通に6時間以上は続きます。もうそろそろ終わりかなと思ったら、そこからもう少し続いて、このリハーサルはいつ終わるんだろう、みたいなのが普通なんです。でもスクェアの場合は「今日はやめようか」と、どこからとなくそういう声が聞こえてきて、リハが終わってしまう(笑)。それは、びっくりしました。いまだに不思議なんですけれど。

―それは、安藤さんのポリシーとか何か、あるんですか? リハーサルはこう進めるべきだ、みたいな。

安藤: いや、何もないですよ(笑)。若いころは細かいことが気になっていたんですが、最近はアバウトなんですよ。いい意味でね。ここ2−3年、すごく変わってきたのが、自分でもわかりますよ。楽になりましたね。自分のなかで、大切にしなきゃいけない部分が少しずつ変わってきているんですね。前はきっちりした演奏、リズムがきっちり合った演奏、かっちりしたのが好きだったんです。それがいい場合もあるんだけれど、きっちりしているだけだと、あとを引かないのかな、と。自分の好きなミュージシャンの演奏は、何度も何度も聴きたくなる。でも、自分は、上手に弾けているだけで終わっているんじゃないかって疑問がわいてきて。そこまで出せるようにしたいというのが今の自分の目標なんです。

たとえば、音程がちょっとずれているけれど、それがOKなのか、音程を直さないことが、後々何度も聴くときに嫌な感じがするのか、その判断が難しいんですが、そうしたことを気にするようになりましたね。でも、判断が合っていたのかどうかは、時間をかけないとわからないんですね。たとえば、僕はジェフ・ベックが大好きなんですが、すごくリズムがコケていたり、ライブ盤だと間違っちゃっているものがある。だけど、それが直っていたらつまらないだろうなと思うんですよ。自分だったら直しちゃうけれど、それが本当に聴き手にとって、いいことなんだろうか。聴き手にとって、宝物になるんだろうか。それがずっと、課題ですね。

やっぱり、ミュージシャンって、聴き手がいなかったら、生きていけないですから。趣味だったらいいんだけれど、聴き手あってこそのミュージシャンです。聴き手にとって、宝物になるような演奏をしたいですね。たとえ間違ったとしても、「安藤さん、キレたように弾いたのが、すごくグッときた」と思ってもらえるライブがいいなと。

―そのへん、すごく難しいというか、深いところですよね。

安藤: ものすごく完璧で、とんでもなく難しい演奏で、しかも後を引く演奏っていうのも、もちろんあるわけだし。一概にこうだって言えない部分が音楽の深いところですね。

● 「僕自身は、めちゃくちゃうまくなりたい」(河野)

河野: 僕もまったく同感ですね。特にピアノって、超うまいことが感動をよぶ典型的な楽器なんですね。まず、自分がそれができていないというのは、どういうことだろうと(笑)。

安藤: そうかな?(笑) でも、セロニアス・モンク(p)とか、どうなの?

河野: かっこいいですね。音が深く入ってきますよね、モンクは。だから、そのへんを探しながら活動しているというか。

ギターの場合は、うまさだけが魅力になりえない部分がピアノ以上にあるような気がして、ギターのほうが抽象的な表現をする楽器だと思うんですね。たとえばチョーキングにしても、自分自身がピアノの調律の勉強をしていたこともあって、音程を聴き比べるのは得意なんですよ。

ピアノの調律って、完全に正確な数値から何点離れているか減点方式がひとつ、それと全体の聴き心地というふたつの観点から採点していくんですね。正確なピッチが必ずしも気持ちよいわけじゃない。どういうときに人が感動するのか、チョーキングのタイミングだったりスピードだったり、それって数字にできるものじゃない。

だからなるべく自分の直感で、頭では音程が定かではないとはわかっていても「今のはいい」と思ったら「いい」というようにしています。なるべく直感を頼りに判断していくようにしています。でも、僕自身は、めちゃくちゃうまくなりたいですよ。

きのうも、ピアニストの小曽根真さんとゲイリーバートン(Vib)のデュオを聴いてきたんですけれど、やっぱりね、圧倒的にうまいですよ。もちろんプラスアルファはあるんですけれど、まず圧倒的なうまさに感動しますね。あれぐらい弾けるようになったらいいな、と正直思いますね。

―そのために河野さんは、何かハノンやチェルニーみたいな指のトレーニングを一生懸命やったりしているんですか?

河野: ハノンは、時間があるときは弾くようにしています。チェルニーはやっていないですけれど、クラシックの曲はいろいろ練習したりしていますね。

―他のミュージシャンのライブはけっこうまめに行くほうですか?

河野: ああ、よく行きますね。ピアニストの演奏はけっこうよく聴いてます。それこそスクェアの前任者の松本圭司さんの演奏もちょこちょこ聴きにいってますね。松本さんはピアノのうまさが圧倒的で、ぜんぜんかなわないなって思います。

―いま、キーボードよりも、ピアノのほうに関心が向いているんですか?

河野: そうですね。キーボードを極めたとかそういうつもりはまったくないんですが、キーボードは新しいものを買うのにお金がかかるけれど、ピアノは自分が練習すれば新しい引き出しができるので、研究の余地があるというか(笑)。ここ1−2年、ピアノで呼ばれる仕事が増えているので、注意深くなっているのかもしれません。

今回のアルバムにも、前よりピアノがたくさん入っている、聴こえてくる感じになっています。ピアノへの興味が今まで以上に強くなっているかもしれないですね。ただ、ピアノはうまくなりたいけれど、あくまでキーボーディストでいたい。シンセを弾いているときに、底抜けに楽しくなれるんです。基本的にハードロックとかヘビメタが好きで、大きな音を出すのが好きなんですよ。それはシンセとかオルガンを使わないとできないですから。

●「スクェアの名曲には隠し味がたくさん入っている」(河野)

安藤: 河野君はギターに詳しいんですよ。さっきのギターのトレモロのアイデアなんかは、河野君ならでは、ですね。

―河野さんは、ギタリストじゃないのに、なぜそんなにギターに詳しいんですか?

河野: 高校時代にギターを練習していて、文化祭で演奏したこともあるんですよ。

―もしかして、スクェアの曲だったとか?

河野: いや、それはジョー・サトリアーニだったんですけど。

安藤: それ、すごくない?

河野: バッキングだけやっていたんです(笑)。もうひとりメロディーとソロを弾く人がいたんですよ。

僕はそうした自分の好きな音楽だったり、研究してきた要素をぶつけて作曲しているし、スクェアの活動にはそれを生かしていきたいんです。

毎年、社長からは「第二のトゥルースをぜひ作ってほしい」といわれるんですけど(笑)、それは無理にしても、いまのスクェアを代表するような、より多くの人に知ってもらえるような曲を書けたらいいなと思っています。

活動していく中で、過去のスクェアの曲で、どういうものが人気があるのか、まのあたりにさせられる部分もあるんですよ。「この曲が好き」っていうファンの方からのリクエストを見ていると、和泉宏隆(p)さんの曲に人気があるのも「なるほどな」と思うし。そこから得たものとして、仮にポップでロックっぽいものを作曲しようとしたとき、ぱっと聴いた感じではスクェアらしい曲とになるけれど、そこに自分が持っているものをプラスアルファの隠し味として加えることで、今までになかった表現ができたらと思うんです。

―隠し味というのが、こだわりなんですね。これまで、スクェアの名曲にも、隠し味というのはあったんでしょうか?

河野: たくさんあると思いますね。たとえば、ブルーイン・レッドに入っている「ナイツ・ソング」のミキシング前のマルチトラックを聞かせてもらう機会があったんです。それは緻密に凝っていること! CDになっていると聴こえてこないもの、想像の1.5倍ぐらいものものがマルチに入っていて。「これはすごいな」とビビりました。

安藤: 何のことか、わからない・・・。

河野: ギターのトラッキングとか、すごかったですよ。ドリルの音とか。

安藤: ああ、MIR.BIGみたいな、「ういーん」ってヤツですね。

河野: ポップで気持ちいい音楽だから、そんな音が入っていることは、注意していないとわからないんですよ。でも、それが何回も何回も入れた形跡がある。10のものをつくるのに、15ぐらいのことをやっているんだな、って感じました。こだわりが形になっていますね。

―やっぱり、隠し味というのが、ポイントなんですね。

河野: 音に対する陰影をいかにつけるか。キーボードにしても、和泉さんはひとつの音に対して、ブラスの音だったらブラス単独では録らなくて、影でサポートする音色を必ず入れてペアで入っていたりするんですよ。パッドの裏のパッドって何なんだ、みたいな。芸が細かいですね。それが実際にはわからないような、無駄なんじゃないかなと思うことが功を奏していて、ひとつひとつの仕上がりに魅力が出る。それだけ時間もかけてレコーディングしていて、音楽に対して追求する執念がすごいなと。

―メンバーになってから、そのあたり、吸収した部分は大きいですか。

河野: 大きいですね。こういう音を出したいんだけれど、何を重ねたらいいのかな、とか。

―安藤さんは、「そうそう、そこがこだわりなんだよ河野君、やっと気づいたか」みたいな部分はあるんですか。

安藤: いや、ぜんぜん(笑)。シンセのこととか、僕にはわからないし。

―さっきのドリルの話とかはどうなんでしょうか。

安藤: あれは単に遊びで入れていたんですよ。でも、「このドリルの音はこの場所じゃない!」とか、どうでもいいことなんだけど、「そこじゃない!」とかみんな言い始めるんだよね。そこが面白い。なんでそう思うのかわからないけれど「いまのいいよ!」とか、みんなが言うわけですよ。おかしいよね。

―そういう部分があるのとないのでは、違うでしょうね。

安藤: 具体的にどういう仕上がりでみんなに伝わるのかわからないけれど、僕がレコーディングをやっていて幸せなのは、いいものができるのがまず第一だけれど、その経過が楽しくなかったらいやですね。

―そのドリルの音も、レコーディングを楽しくする効果がすごかったのかもしれないですよね。

安藤: そのためにやったわけじゃないんですけれどね。結果としてみんなで盛り上がったかもしれない。今回のレコーディングでも、僕と河野君がブースに入ってあれこれやっているのを、他のメンバーが「イェイ」といって喜んでいるのが楽しかったな。

●「夢はワールドツアー」(安藤)「夢はPMGとT‐スクェアの共演」(河野)

―スクェアの活動をしていない日は、何をされているんですか?

安藤: 部屋の掃除とか(笑)。旅行に行きたいんですけど、息子を置いて旅行に出るのもカミさんがうんといわないし、じゃあ僕だけで行っていいかというといい顔をされなくて、なかなか行ってないんです。

河野: 僕は、安達久美のバンド「クラブパンゲア」もやっているので、旅に出ていることがけっこう多いですね。

―ライブに行ったりはしないですか?

安藤: しますよ。でも、自分の仕事と観たいライブが重なっちゃったりして、なかなかタイミングが合わないんですよね。この前、大好きなジェフ・ベックが来たのに行けなかったし。そうだ、ロベン・フォードとラリー・カールトンが来たときはブルーノートに見に行きました。でも期待とは違ってたんですけど。

―今後のスクェアの理想の形ってありますか?

安藤: やっぱりワールドツアーをしたいですね! 僕はそればっかり言っているんですよ。去年は台湾でライブをして、すごく楽しかったですね。初めて行ったんですけど、2000人のホールが満杯でしたから。僕らのアルバムも輸入版で出ているみたいで、ライブの直前にベスト盤も出たらしくて。たいがいのことはやりつくしてきているから、自分のモチベーションを上げるために、知らないところで知らないお客さんに向かって演奏したいですね。

どこでもいいんです。僕には何か、根拠のない自信があるんです。海外で受けるぞ、っていう。マネジメントも大変だし、受け皿も必要だし、いろいろ実現にはハードルがありますけれど。クリアしていけるチャンスがあればね、ぜひ。もちろん日本でも、今年のツアーは東名阪だけなんですが、もっといろいろな場所でやっていきたいですね。

河野: 僕も、ワールドワイドに活動できればと思うのと、あとは、いろいろな人と共演したいですね。パット・メセニー・グループとか。

安藤: なんなんだ(笑)。どういう基準? ギターだけプレッシャーになりそうだなあ。僕はパット・メセニーと同じ年なんですよ。

―最新作の「オーケストリオン」は、どう思われましたか?ライブには行かれましたか?

安藤: いや、今回のライブは行ってないんですよ。

河野: 僕も行っていないんですが、あのシステムは即興演奏ができるらしいんですよね。ギターで弾いたものを、まわりのピアノだったりマリンバで鳴らせるシステムだって聞いて、ああライブ行っておけばよかったかなと。パット・メセニーは、ピアノを弾くことに興味はないけれど、ピアノの音が鳴る仕組みにすごく興味があって、子供のころピアノの下にがさごそ入っていった、そんな子どもだった、って自分で話していて、メカニック的なものが好きなんですよね。それで今回のアルバムなのかなと。すごいなあ、すごすぎるけど、要するにギターソロなのかなと。ひたすらギターを弾くのが好きというのが彼の最大の魅力で、そこに尽きると思うんですよ。ライブに行っても、えんえんとギターを弾いているし、よっぽどギターを弾くのが好きなんだろうなと。

ただ、即興演奏ができるのは知らなかったので、話を聞いて、ライブを見に行きたかったなと思いましたね。一時期あの人はミニマルミュージックのスティーヴ・ライヒの曲を演奏していたし、同じフレーズをループさせる音楽が昔から好きですよね。

安藤: 彼は「オーケストリオン」と出会ってすごく盛り上がってそういう音楽をやろうという機運が高まって、それは素晴らしいと思うんだけれど、僕自身はあまり興味がないかな、それで今回のライブはパスしちゃったんですよ。でも、トリオで来たときのライブは、ほんとうに涙が出そうな感じでしたね。でも2回目に見に行ったら、メセニーが具合悪そうで、弾いていてピックを落としちゃったりとか、調子が悪いときも見ています。河野君とも1回一緒に行ってるよね。あれは、確か・・・

河野: The way upでしたね。

安藤: 凄かった・・・。完璧でしたね。

―えーと、メセニーと共演したいという話でしたけど、他に誰か共演したい人は。

河野: ノラ・ジョーンズとか、アリシア・キーズとか。いろいろ。

―安藤さんは、誰かと共演したいというのはあるんですか?すでに共演しちゃった人も多いですけど。

安藤: 夢はあるんですよ。ポール・マッカートニーをベースに、リンゴ・スターをドラムにして、何かできないかなと。共演したいですね、彼らと。それが夢かな?

―どうもありがとうございました。


隠し味、という言葉を河野さんはしきりに繰り返していました。ポップでロックで歌えて、そこにさまざまな陰影をつける自分なりの隠し味を入れて、良い曲に仕上げる、そうやって素晴らしい「スクェアっぽい曲」を作ったということなのでしょう。そして、デビュー32年目にして、自分が面白いと思うことをやりたいという気持ちを大事にした安藤さんは「ワイルド・リバー」のようにブルースロック路線で、自分の旬なサウンドを追求し、その新しいチャレンジをメンバー全員が楽しんだ様子がわかります。

全員が欠かせない役割を持ち、遠慮しないでどんどん言いたいことを言う。コミュニケ―ションを深くとりつつ、お互いの新しい部分を引き出しながら前に進んでいる、そんなバンドならではの醍醐味を体現しているバンドの様子が伝わってきました。

取材・文―山本美芽(Mime Yamamoto http://homepage1.nifty.com/mimetty)
写真提供―Village Music

T−SQUARE OFFICIAL SITE   

T-SQUARE CONCERT TOUR 2010”時間旅行”

<<公演詳細>>

■7/31(土) ダイヤモンドホール/名古屋 公演
料金:全席指定 ¥6,300
開場/開演:16:30/17:30
お問い合わせ先:
SMCプラザ
052-265-2666

■8/6(金) なんばHatch/大阪 公演
料金:全席指定 ¥6,300
開場/開演:18:30/19:00
お問い合わせ先:
キョードー
インフォメーション
06-7732-8888

■8/7(土) 渋谷C.C.Lemonホール/東京 公演 料金:S席¥6,300
   A席¥5,300
開場/開演:16:30/17:00
お問い合わせ先:
キョードー東京
03-3498-9999






Interview by Mime Yamamoto
Photo courtesy from Village Music

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