Paul Taylor Interview

ソプラノサックスを手に軽くポーズを決めるPaul



さて、「絹」のごとくなめらかでセクシーなサウンドのサックス奏者といったら、一体誰を思い浮かべるだろうか。スムースジャズ局の常連に限って言えば、まずは「Paul Taylor」の名前を挙げるに違いない。競争激しいスムースジャズ界で、「Pleasure Seeker」(1997)、「Undercover」(2000)、「Hypnotic」(2001)、「On the Horn」(2002)、「Steppin’ Out」(2003)、「Night Life」(2005)、「Ladies’ Choice」(2007) と安定して新作を発表し、各地の夏のジャズフェスティバルに頻繁に顔を出す彼は、アメリカでは既にかなり知られたアーティストである。ただ、残念なことに、そんな売れっ子サックス奏者も、日本では経歴はもとよりソロ作品でさえもまだまだ認知度は低いようだ。

コロラド州デンバー出身のPaul Taylorは、7歳の時にサックスを初めて手に取った。そして、高校時代にはアマチュアバンドで演奏活動を活発化、さらにネバダ州立大学ラスベガス校で音楽を専攻した。やがてKeiko MatsuiやJeff Lorberといった大御所達と出会った後ソロ・デビューを果たし、Rippingtonsへの参加の傍らソロ活動を本格化させた。そして「絹のごとく」と形容される彼独特のサウンドで幅広い支持を得、安定した人気の現在に至る――そんなPaulの音楽歴を探るべく、南カリフォルニアの澄み切った青空の下Newport Beachへ急行したのが5月のとある週末。恒例のNewport Beach Jazz Festivalに出演中の彼を、30度を超える真夏の様相の屋外会場でキャッチした。さて、彼の音楽への情熱とその独特のスタイルの秘密にどこまで迫れるのか・・・文字通り、かなりホットなインタビューの始まりだ。


“まい”真由美(以下M):  もともと、どんなことからサックスに興味を持ったのですか?

Paul Taylor(以下P):  それが面白い話でね。両親が僕達兄弟をユースバンドに入団させたんだ。それもある日、家に帰ってみたら突然、「何か楽器を演奏してみたいと思わない?」。で、僕も兄も「うん、うん、やってみたい!」なんて、実際には一体何が始まるのかも分からずに勢い込んで答えてね、バンドのディレクターとのミーティングに行くことになったんだ。面白いのが、僕はもともとサックスをやろうなんて考えてなくてね。そのミーティングの時に、ディレクターが、僕の身長をみて「う〜ん、君はサックス。君のお兄さんはクラリネット。」って決めただけなんだ。

M: では、自分でサックスをやろうって決めたわけじゃなくて、どちらかというとサックスを「あてがわれた」って感じだったのですね。

P: そうなんだ。もちろん音楽をやりたいとは思っていたけれど、当時の僕らは楽器のことなんてからきし分からなかったから。そこにディレクターの「じゃ、君はサックス。君はクラリネット。」っていう鶴の一声、それで僕らの楽器が決まったんだ。

M: それでそのままその楽器をやり続けたってことですか!では、どのあたりで「これが僕の人生を変える楽器だ!」って思うようになったのですか?

P: そういうわけじゃなかったんだけど、(アルバムには)ゴスペルっぽいファンキーなヴォ最初はまあこんなものでもいいか、なんて軽い気持ちだった。だって、両親が僕らをユースバンドに託したのも、もともと僕らがデンバーの街中で問題を起こさないようにってことだったから。でも以来僕はずっとサックスを続けていて、そのうちプライベートのレッスンも受けるようになったんだ。もちろん段々と腕も上がってきて・・・で、高校に入学した時だったかな、初めて「僕も結構捨てたもんじゃないんだ。なかなかやるな。」って思ったんだ。中学校の時はただ漠然と続けていた感じだったんだけど、高校時代に何となくと「これをキャリアとして進んでも悪くないかもしれない」って初めて思った。

M: その高校時代にはどんな音楽を演奏していたのですか?

J: コンサートバンドにジャズアンサンブル、とにかくバンドが演奏しなきゃいけないものは何でもって演奏してた。そうそう、フットボールチームのためのマーチも演奏したことがあったかな。僕はとにかくバンドの一員として自分な役目を果たそうってことで演奏してたんだ。

その高校時代に、人生の大きな節目になったことがあるんだけど、それが高校の友人達と学外の連中が集まって組んだバンドだったんだ。ファンクやR&B、それにジャズが混ざったバンドで、本当にいろいろな音楽を演奏したんだ。メンバーも、人種・性別に全く関係ない、まさによりどりみどりのバンドでね。そんなメンバー達と街でライブ活動をするようになって、ようやく自分の中で強く思うようになったんだ。「僕はサックスを吹くのがすごく好きだ。これが僕の運命の道かもしれない」ってね。

M: そこからブレイクするまでに、いろいろパワフルなアーティスト達との出会いがあったようですね。名前を挙げると、Keiko Matsuiのバンドに参加されてますし、Jeff Lorberとも共演されてますし。どちらも素晴らしいキーボード奏者ですが、彼らとの演奏経験がどのようにあなたの音楽に影響を及ぼしたと思いますか?

J: 最初に僕の名前が知られるようになったのはKeikoと演奏してた時だと思うけど、それ以前にも僕はJeffとCatalina Island Jazz Trax Festivalで演奏したことがあるんだ(注:1994年)。当時Jeffは僕の演奏をすごくかってくれていてね。僕をバンドメンバーとして迎えてくれて、大きなチャンスをくれたんだ。当時、ファンは僕のことをすごく気に入ってくれて、やがてそのことを聞きつけたKeikoが僕に連絡をくれて・・・そこから僕とKeikoの音楽関係が生まれたんだ。

スタイル的にいうと、Jeffの音楽はファンキーでジャジーだよね。僕はもともと彼のFusionバンドの大ファンだったし。Keikoの音楽はそれとは対照的なイメージ・・・より親密な音楽っていったような印象かもしれない。だから僕としては、Jeffのところで学んだものを生かしつつ、Keikoのところでも音楽的感受性みたいなものを学んだ気がするんだ。

情熱的に音楽を語るPaul。

M: それから日本のファンにもお馴染みのRippingtonsへの参加となるわけですね?

J: Rippingtonsは僕がソロとして駆け出しの頃から既に影響を与えてくれたと思う。これは随分前の、本当に偶然の話なんだけど、大学時代に妻と僕が初めてHiFiのステレオを買いに行ったときにね、店員さんが売り場のステレオの音を試すのにRippingtonsの「Tourist in Paradise」をかけたんだ。で、それを聴いた僕らは「よし、このステレオを買うぞ。もちろん、中身のCDも一緒にね!」。だから、その頃から僕はRippingtonsをずっと聴いていたんだよ。

でも、本当に人生って分からないものだよね。その数年後には、ステレオ売り場で聴いて感動したバンドのメンバーになって演奏することになるんだから。

M: 実際、Rippingtonsのメンバーになるという話はどのように来たのですか?

P: Keikoのアルバムに数枚参加したあと、Encodedっていう小さなレーベルに移籍して、そこから僕自身のソロアルバムを出すことになってね。

M: 「Pleasure Seeker」ですよね?

P: そう。それからAndi Howardっていうマネージャーに会ったんだ。彼女が、実はRuss (Freeman)の長年のマネージャーで、Peak Recordsの社長でもあったんだ。そこでPeak Recordsと契約を結び「Hypnotic」をリリースして、そのあたりから徐々にRippingtonsの中で演奏するようになっていったんだ。Rippingtonsのアルバムで言うと「Topaz」(注:1999年)あたりだね。

僕としては、本当に夢がかなったって感じだ。もちろん、僕にとって一番大切なのは、僕のソロとしてのキャリアなんだけど、時間が許す限りでRippingtonsのようなパワフルなバンドと演奏できるのは素晴らしいことだと思う。しかも、RippingtonsではEWIを演奏する絶好の機会も得られたしね。Rippingtonsで演奏することで、本当にいろいろなことが学べたと思うんだ。ある意味、メンバーとしてアンサンブルに長けていることが必須であると同時に、ソロ奏者としても確立していなければならないから。

M: 個人的には、「Live Across America」(2002) の中の、“She Likes to Watch”でのあなたのソロが最高に気に入っています。印象的なサウンドとあなたらしいフレーズ、まさに「Paul Taylor節」って感じです。

P: ありがとう!

ステージ上で熱い演奏を見せるPaul。バックに陣取るNorman Brownとのコンビが実にいい。

M: Rippingtonsといえば、本当にいろいろなサックス奏者が起用されてますよね、Kenny Gに始まりBrandon Fields、Jeff KashiwaにEric Marienthal。その意味で、Rippingtonsの過去のアルバムを聴いてみると、一粒で数度おいしい、ってところでしょうか。ところで、そんな中でもあなたのスタイルはまたすごくユニークだと思うのですが、ご自分のサウンドを確立するまでにどのようなサックス奏者の音楽を聴いていたのですか?

P: 子供の頃はダントツでGrover Washington Jr.かな。それにRonnie Laws、それからしばらくしてDavid Sanbornが出てきたよね。僕は彼の音楽にはすごくハマったなあ。

M: Sanbornといえば、とってもメタリック(金属的な)音って印象が強いですよね。

P: メタリック・・・だけどすごく感情豊かでしょう?とても魅力的だと思う。あ、それからBrecker BrothersのMichael Brecker。僕は、この4人から強く影響を受けたと思う。

M: David Sanbornの名前が出たのはすごく面白いと思うんですよね。というのも、音楽評論家の多くが、あなたのサックスを「絹のような」といった表現を付けるくらいセクシーでロマンチックと表現しているのに比べると、Sanbornのサウンドは感情豊かとはいえ正反対の印象を受けます。このあたりはどうお考えですか?

P: 面白い質問だね。確かに、大学時代はSanbornの曲ばっかり練習してたんだ――彼の音作り、彼のフレーズ、本当に何から何まで、ね。だけど、ある程度音楽を勉強していくと、途中まで誰かのコピーばかりに囚われてたのが、徐々に自分自身の音作り、フレーズっていったものを作り出すようになっていくんだ。僕の場合もそうやって少しずつ自分のシルキーな音っていうのを確立していったんだ。でももちろんライブの時には、ファンキーだったりメタリックな音っていうのも時には必要になるよね。その辺を器用に使い分けられるようになっていったんだ。

M: なるほど。そして、そんなふうに出来上がったあなたのスタイルが、ソロアルバムで存分に楽しめるわけですね。さて、そのソロアルバムに話を戻しますが、あなたの最新作「Ladies’ Choice」でまず気が付くのが、魅力的なヴォーカル曲の存在なのですが。

P: 「Ladies’ Choice」に関しては、プロデューサーの一人、Barry Eastmondと一緒にちょうど出来上がった曲の雰囲気を話してて、「なんだかいかにも70年代の“Ladies’ Choice”って感じだね」なんてことから、レコード会社に送った際に「Ladies’ Choice」ってなったんだけど、そこでLaToya (London)やRegina(Belle)といった女性ヴォーカルを起用することになったんだ。

M: Rippingtonsだと、毎回ファンの間で喧々諤々となるのがアルバムの中のヴォーカルの存在なんですが、あなたのファンに関して言うと、ヴォーカルとあなたのシルキーな音作りのコンビネーションは比較的好意的に受け入れられている印象ですね。

P: それは嬉しいな。でも、時々ファンから、「サックスよりヴォーカルが多いじゃないか」なんていうコメントをもらったりするのも事実なんだ。だけど、それに対して僕としては、こう答えたい。新しいアルバム毎に、変化を取り入れるようにしてるんだってね。

M: アルバム毎に全体として変化はある・・・しかし、あなたのシルキーな音作りとセクシーなフレーズは一貫して存在するってことですよね。

P: そのとおり!

M: 最後に、これからの予定をお聞かせください。

P: 今のところはっきりとは決めてないけど、予定としては今年の終わりあたりからスタジオに入って、来年のリリースを目指してアルバム作りをしようか、って考えてる。

M: Barry (Eastmond)やRex(Rideout)といったお馴染みの方々も加わって、でしょうか?

P: BarryもRexも僕の大好きなプロデューサーだからアルバムには顔を出して欲しいと思うけど、そこまでは決まってないんだ。それにね、実はここ最近僕の家のスタジオを本格的に稼動させようとずっと頑張っているから、次のアルバム製作はそこになるかもしれない。そうしたら、僕自身プロデュース――文字通り「テイラーメイド」――の曲を何曲かアルバムに入れられるかもしれないんだ。

M: それは楽しみですね!一ファンとしてぜひ期待しています。今回は本当にありがとうございました!

今回、Norman Brown’s Summer Stormの一員としてNorman Brown、Chante MooreそしてAlex Bugnonと共演したPaul。その出演直前に行われたインタビューで、リラックスし笑顔を絶やさず、そして実に情熱的に音楽について語ってくれた。このインタビューの間、バックにはEuge Grooveのサックスが響き渡り、青空に届きそうな椰子の木の葉がわずかながら涼しげな陰を落とす。スムースジャズ・アーティストのインタビューにはもってこいの環境だ。インタビュー終了後、いそいそと愛器の手入れに向かい演奏準備に入ったPaulは、ステージ上でのNormanとの息もぴったり、生き生きと最新作“Ladies’ Choice”からのお馴染みの曲を演奏していた。もちろん会場の観客達も体全体でリズムをとりながら大歓声をあげる。そんな、観客に情熱的なエネルギーを運ぶ気持ちのいいサウンドとノリが、まさに「Paul Taylor節」と言えるのではないだろうか。

さて、「絹のごとく」と評される独特の音とリズミックでセクシーな曲調が定番のPaul Taylorは、Barry EastmondやRex Rideoutといったベテラン・プロデューサー達の影響を受けつつも、着実に自分らしい音楽を発展させてきている。その第8作目となる次回作は、いよいよPaul Taylorプロデュース作となるのか。そんな期待に胸を膨らませつつ、今年の夏はぜひ「Paul Taylor節」をじっくり楽しんでいただきたいところだ。(Mayumi“Mai”Hoshino)






Interview and photos by Mayumi“Mai”Hoshino

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