Wayne Krantz Interview

ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジのクリストファー・スクェアのすぐ脇にある小さなライブ・スポット、55バーに自己のトリオで木曜の晩のレギュラーとして出演し、同じく55バーの常連出演者マイク・スターン以上の動員力を誇るウェイン・クランツは今ニューヨークで最も注目を集めているギタリストの一人と言ってもよいだろう。
独特のリズム感、ハーモニー感でエッジの効いたサウンドを展開するテンションの高いプレイは他の追随を許さない。

昨今はスティーリー・ダンのツアーに参加したり、ドナルド・フェイゲンの最新作「Morph The Cat」に参加するなど、サイドメンとしての活躍も少ないながらも光っている。

また自分のサイトから55バーでのライブを毎週ノーカットでMP3として販売しているというネット通でもある。

今回は90年のソロ・デビュー作「Signals」が日本で再発されるにあたって話を聞くことができた。

Photo by Stuart Brin

ー あなたのデビューアルバム「Signals」が間もなく日本で再発されます。
1990年の録音ですが、その頃はどんなことをしていたのでしょうか?
レコーディングのきっかけなども教えてください。

Wayne:  ちょうどマンハッタンに引っ越してきて、あちこちで演奏をし、人々に会い、ミュージシャンとして生きていこうとしていた。そのレギュラーのギグのひとつがレニー・スターンのバンドで、彼女はドイツのレーベル、ENJAのためにレコードを制作しているところだった。ある晩、ベルリンで演奏していたときにそのレーベルの社長が来ていたんだ。そこで、僕は彼にソロ・ギターのレコードを一緒に作らないかと持ちかけたんだ。彼は同意してくれたよ。そこで僕は曲を書いて、何人かのサイドメンも含んだようなアイデアまで発展させて「Signals」を制作したんだ。その後ENJAとは「Long To Be Loose」と「2 Drink Minimum」の2枚のレコードを作ることになった。

Signals(VGDWNF0009)VME
ー 「Signals」では3曲をキーボード奏者のジム・ベアードと一緒に演奏してますが、その後のあなたのアルバムではキーボードもホーン奏者もいれずにベースとドラムスだけのトリオにこだわり続けています。トリオに固執して他の楽器を避けているのは何故なのでしょうか?

Wayne: それには多くの理由がある。
キーボードは普通、人工的な感じのサウンドがする。一方僕はもっと有機的なサウンドが自分のバンドに欲しかった。
それに僕はよりフュージョンっぽく聴こえないような方法を求めていた。だからキーボードはなしだった。
そしてジャズのようにも聴こえたくなかった。だからホーンはいれなかった。
ユニークなサウンドを試してみるためにちょっと変わった楽器を組み合わせてみるということもできたが、それはごまかしのように思えたんだ。僕はギター・トリオを発明しなおしたかったんだ。
ギター・トリオは過去30年の間、もっとも退屈で、使い古されて、ありふれた楽器の組合せだった。僕はそれで何か新しいものを試してみるような挑戦がしたかったんだ。

トリオで演奏するということは和声的に演奏するより多くのスペースを得ることができて好きなんだ。それに僕のバンドは多くの、本当に多くのリズムを演奏する。追加のメンバーは時には邪魔になってしまいうるんだ。
僕にとってトリオはいつも充分一杯に聴こえるし、決して空っぽには聴こえない。時には一杯過ぎて聴こえるくらいだ。

でも全ての物事は変化していく。だからある時点で僕はより大編成のグループを作るだろう。でもそれはより小編成なものになるかもしれない。

ー この再発は55BARでのライブを2曲ボーナストラックとして収録していますが、それについて教えてください。

Wayne: それは僕が毎週木曜の晩にニューヨークの55Barでレギュラーでやってるギグの今のものからの2曲なんだ。アンソニー・ジャクソンとクリフ・アーモンドをフィーチャーしている。
今回の日本での再発にあたって2曲選ぶのに、最近の2回分のギグを聴いてみて、気に入った2つの演奏を見つけたものだ。

新しいものをレコードに追加できる機会に恵まれ、古いものと一緒に最近はどのようにしているかを聴いてもらえることができるのは嬉しかったよ。

Photo by Sandra Eisner
ー 「Your Basic Live」(公式サイトからの通販のみ)など最近のあなたの作品を聴くとテーマとインプロビゼーションの区別をつけるのが難しくて、まるで曲のほとんど全てがアドリブのように聴こえます。どのように作曲して、どのような構造の曲になっているのでしょうか?

Wayne: 曲を書くときは他の多くの人と同じようにインスピレーションから作る。ここ何年かは、僕の曲は、自分たちのインプロヴィゼーションをコントロールするために好きなときにキューを出せるような短いテーマとリフがほとんどだった。
ひとつの目標は作曲とインプロヴィゼーションの境界線をぼかしてしまうことだった。基本的に僕達はより作曲的なやりかたでインプロヴィゼーションをしているんだ。
それは現時点ではソロ中心の音楽ではない。作曲は演奏のバランスをとるために存在するんだ。

ー あなたのギターのスタイルは非常にユニークですが、どうやって身につけたのでしょうか?

Wayne: 演奏する誰もが自分自身のスタイルを持っているものだ。多くの人は他の人のスタイルで演奏することに集中してしまうので、それを発展させないだけなんだ。だから自分自身のものがどんなものなのか気付かずにいる。僕は自分自身のものを発見することに没頭して、それをできる限りのところまで持ってきたんだ。全ての人がそうする必要があるというわけじゃない。多くの偉大な音楽はそんなことなしで生まれている。でも僕にとっては他に選択肢がなかったということだ。自分自身のやり方でいくか、それともやめてしまうかということだ。

ー あなたが若いこと好きだったギタリストは誰だったのでしょうか? 誰からもっとも影響を受けましたか?

Wayne: 最初のころはギターは聴いていなかった。聴いていたのはバンドで、ビートルズツェッペリンタル(ジェスロ・タル)や70年代初頭のサンフランシスコのファンクやソウルのバンドだ。僕がジャズに入り始めたころ、ギタリストを聴きだした。ベンソンマクラフリンパスホールなどだ。バークリーに通っていたことは、グッドリックメセニースコフィールドスターンフリゼルなどを聴いた。でも結局ギターを聴くのはやめてしまった。

ジム・ホールパット・メセニーからはしばらくの間、大きな影響を受けた。マイク・スターンもだ。でも結局のところ全てやめてしまった。彼らがそうであったようにね。それが彼らが僕に教えてくれた究極のレッスンだった。彼らのようになるには、彼らの真似をしてはいけないということだ。

ー 他のミュージシャンはどうでしょうか?誰が最近のお気に入りでしょうか?

Photo by Marita Borstelman
Wayne: どんな種類の音楽も真剣には聴かなくなってしまった。デイブ・ビニー、ティム・バーン、クリス・ポッターといったサックス奏者の友人がいるので、時々聴きに行ったりはする。
最近は16ヶ月になる娘のために演奏したりしていて、そのためにまた少し聴きだしている。好きなディランを聴いたりとか、トム・ウェイツとか。イモージェン・ヒープの曲とかもね。ユーライア・ヒープじゃないよ。イモージェン・ヒープだ。
最近聴いた中で一番よかったのはスティーヴィー・ワンダーの2枚組「Musiquarium」だ。これは凄かった。僕が考えられる全てのものを超越していた。本当に感動的だ。そして最高にファンキーだね。

ー あなたはスティーリー・ダン、ドナルド・フェイゲンと一緒に演奏していますが、彼らはあなたのどこが気に入って雇ったのでしょうか?

Wayne: 96年に彼らはギタリストを探していて、僕のレコードの1枚を聴いたんだ。彼はもっと聴いてみたいということで、オーディションされたんだ。そしてその年のギグに雇われた。アメリカ、ヨーロッパ、そして日本で演奏したよ。
それからドナルドが去年電話してきて、彼のレコード「Morph The Cat」で演奏した。今年は彼のバンドでアメリカツアーをやるよ。

ー あなたにとってトリオのような小さなフォーマットで演奏するのと、スティーリー・ダンのような大編成の中で演奏する違いはどんなものでしょうか?

Wayne: 音楽的にはより大編成のバンドでは演奏するスペースがより少ない。
ミュージシャン同士の相互作用というのはほとんどないので、インプロビゼーションはより難しい。
でも最も大きな違いはバック・ミュージシャンとしてのギグは自分自身のバンドで自分自身の音楽を演奏するのとは較べられないということだ。
とは言っても、僕はそんなギグを楽しんでいるし、音楽も素晴らしい。大きなステージで演奏することは大好きだし、稼ぎもよい。 でも、そうしているとどうにかして自分の音楽でそこに立ちたいと思えてくるんだ。自分はそのためにここにいるし、それが一番満足できることなんだ。そしてそれが聴衆にも最も多くのものを与えることになるんだ。

ー あなたは自分のサイトで多くのライブ演奏をMP3ファイルとして販売しています。
プロのミュージシャンとしてはまだ珍しいほうだと思いますが、インターネットを直接の販売やコミュニケーションの手段として使うことをどのように考えていますか?

Wayne: 僕にとってはうまく機能しているよ。
この生活のなかで我々がさらされている派手な宣伝とは対照的に、ウェブサイトは本当にシンプルかつ実用的で興味のある人たちが音楽のために来てくれる場所だ。店も、問屋もレコード会社もコマーシャルもくだらないものも何もない。今のところは僕が音楽を続けることができるくらいのものにはなっている。
マイナス面は孤立してしまうことだ。僕は商業的な仕組みに全く繋がっていないからね。だからツアーを組むのがのが難しいとう問題になってしまう。ツアーは聴衆を拡げていくし、僕はツアーが大好きだからね。これは何とかして解決しなければいけないことなんだ。今のところはウェブを通じての聴衆に感謝しているし、彼らは文字通りずっと来続けてくれる。これは決して当たり前のことじゃないよ。

ー 最後に現在そしてこれからのプロジェクトについて教えてください。

Wayne: 93年の1枚目以来のスタジオ盤のために曲を書いているところだ。ゆっくりだけど形になってきているよ。この10年間ずっとやりたいと思い続けていたプロジェクトで、どうやったらいいかを見出すのにこんなに長くかかってしまった。2-3ヶ月のうちにレコーディングを開始できればいいなと思っている。

その後、いくつかのツアーができる程度にはミュージック・ビジネスの仕組に入っていこうかと思っている。幸運を祈ってくれよ。

ー どうもありがとうございました。

ウェイン・クランツ公式サイト



Interview by Masato Hashi
Thanks to Vega Music Entertainment

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