自分のひかれる音楽をはぐくんだ街、ロンドンへ
則竹裕之インタビュー(2)
●ずっと外国に憧れていた
「実は、10代のアマチュアの頃には、アメリカに行きたかったんですよ。僕はアマチュアの頃からバンドのメンバーに恵まれていて、うまくお互いを高めあうことができていました。
ちょうどT-スクェアに入ると同じくらいに、ベーシストの友達は、大阪音大を卒業してニューヨークに行ったんですよね。中学のときに一緒にやっていたギターの友達は、クラシックギターをやるためにスペインに渡って、今はロッキー山脈のふもとのデンバーにいるのかな。
僕は運良くT-スクェアに入ったんだけど、どこかに不安を背負っていたんですね。大学を卒業して海外に行った友達に、どこかで憧れていたんでしょう。せっかく自由な音楽に人生を賭けているんだから、自由に行きたいところに行くって、いいじゃないですか。それを実践しているヤツらが、うらやましかった。
もちろん、彼らも僕のことをうらやましがって『いいバンドに入れて、良かったね』って、会うたびに言われていたけれど、僕には僕で、彼らへの憧れがあったんです。みんなすっかり向こうで基盤を築いていて、誰も失敗して帰ってきたやつはいない。彼らに負けないように、僕も頑張らないとね」
−−今後、日本で則竹さんの演奏は聴けなくなるという心配は、しなくていいんですか?
「そんな、飛行機1本なんですから(笑)。10何時間で帰ってこれるわけでしょう? そんなことはない・・・と、思いますよ。いや、ほんとうに半年後に僕は神戸に住んでいるかもしれないしね。
でも、今回いろんな状況が許してくれたから行く、それだけです。誰かが反対したら、行けないですよね。家族だったり、いま一緒にライヴをやっているコア・ゾーンのメンバーとか、是方さんに『困る』って言われたら、僕の性格上、行けないですから。
もちろん、コア・ゾーンだって、是方さんとだって、もちろん自分のプロジェクトの"DREAMS CAN GO"も、やりたいんですよ。でも、それとは別の場所で、ロンドンに行きたいという気持ちが育ちすぎちゃったんでしょうね」
●「DRIVE」ツアー、そして新しいドラムセット
−−これから2月までの活動ですが、9月にはKANKAWAさんと「DRIVE」ツアーがありましたね。
「とっても楽しかった。千秋楽の郡山のライヴ、素晴らしかったですよ」
−−1月にはライヴ・アルバムが出るそうですが、ツアーで叩いてみて、いかがでしたか。
「ドラムって基本的に体力を使う楽器なんですけれど、DRIVEは特に体力を使うバンドで・・・(笑)。ほんとうにスタミナは大事だ、と純粋に思いました」
−−最近ローズウッドのドラムセットを、TAMAに作ってもらったそうですね。この新しいドラムには、どんなこだわりがあるんですか?
「材料に使ったローズウッドというのはとても固い木で、スネアにはよく使われるんです。でも、タムやバスドラムまで含めたドラムセット全部をローズウッドで作るというのは、めったにないことで、今回はそこにトライしてみたわけですね。
ただ、ローズウッドだけで作ると固すぎるので、内側と外側がローズウッドで、その真ん中にバーチという木の層をはさんだ3層構造にしたんですよ。そのローズウッドとバーチの割合も、いろいろ試作品をTAMAに作ってもらって、叩き較べて決めたんです」
−−新しいセットの「音」は、いかがですか?
「もう、すごい。最高ですね。自分が一番欲しかった音のするドラムです。今回のローズウッドのセットでは、この15年ほど僕が使ってきたパール、ソナー、TAMAのそれぞれの"いいとこどり"をしたようなドラムが欲しいという意図があったんですが、そういう音がしています。まさに思惑通りの出来上がりですね」
−−どんな音が欲しかったんですか?
「すべてを持っている音にしたかったんです。固さ、柔らかさ。つやっぽさ、荒々しさ・・・。何も突出していなくて、高い次元でバランスしている楽器が欲しかった。
レスポンスもいいけど、すごくダイナミクスがいい楽器って、結構難しいんですよ。たとえば、薄いシェルだったらピアニッシモの反応はいいんだけど、ものすごい大音量を出そうとしたときに一定のところ以上は出なくなってしまう。逆にシェルが厚すぎると、弱い音が表現しにくくなる。
ところが今度のセットは、非常に硬い木のローズウッドと、それほど硬くない木のバーチが層状になっている。しかも全体的にシェルは厚いんだけど、エッジ(ドラムのヘッドに接している部分)は鋭かったりして。
反応が良くて、なおかつ強い音から弱い音までしっかり鳴る構造になっているんですね。とにかく、いい音。深みのある音がします」
●バンドとは人生を共有するもの
−−15年在籍していたT-スクェアを抜けてから1年たちましたね。
「僕、ほんとうはバンドもやりたいんですよ。自分の人生のなかで15年もやっていたバンドはT-スクェアだけで、これまでメンバーチェンジとかいろいろありましたけど、バンドって素晴らしいんです。
そういう意味で、いまはバンドとしてT-スクェアにかかわれないから、寂しいよね。安藤さんと伊東さんのツーショットの写真なんか見ていると、うらやましいですよ」
−−あそこになんで自分がいないんだろう、とか?
「いや、そういう意味じゃなくて、バンドって音楽を超えて人生を共有するものでしょう、まさにあのふたりってそうだから。そういうパートナーが自分にいるっていうのはすばらしいことですよ。
僕は、好きなミュージシャンはいっぱいいるし、僕を好きだって言ってくれる人もいっぱいいる。でも僕らはアマチュアじゃないから、自分たちがバンドのつもりでも、世間が認めてくれないと、バンドとして活動するのは難しいですよね。
そこまで考えたときに、安藤さんのやってきたことは誰が見てもバンドだったわけで、それは本当にすばらしいことなんですよ。そして、安藤さんと伊東さんは、ほんとうに人生を共有しているパートナーだったんだね。今になって、そう思います」
−−いまのT-スクェアではサポートで叩いていますけれど、それでも寂しいですか?
「いや、僕はどんなセッションでもバンドだと思って−−つまり、ちゃんとトータルで、その面子にしかできない音を出したいと思って演奏するんですよ。
今ではT-スクェアはサポートだけど、気持ちはバンドのときと同じで、みんなとハーモニーしたいと思っていつも演奏してますし、安藤さんと伊東さんが、星の数ほどもいるドラマーの中から僕を使ってくれるのは、そこをわかってくれているからだと思っています。
だからライヴで演奏するときには5人でいたときのT-スクェアと変わらないのに、世の中からはT-スクェアは2人だと見なされるわけだし、アルバムでは僕が叩いていない、それがバンドとしてかかわれないっていうことなんですね。
でも、それは、いいんですよ。僕がロンドンに行ったら、T-スクェアのふたりとか、いろんな人がロンドンまでレコーディングとかライヴに来てくれたらいいんだけどな・・・とか、思ってます(笑)」
Photography courtesy of Village-A
Interview & Text by Mime
Copyright by 2001 Cyberfusion
Special thanks to Village-A NORI'S GARDEN