SHM-CDでクロスオーバー・パラダイスを聴く



Crossover Paradise
Japanese Edition

最近SHM-CDという高音質使用をうたった新しいタイプのCDがリリースされている。
SHM-CDとは従来のCD素材とは別種の液晶パネル用途のポリカーボネート樹脂を使用することにより、さらに透明性を向上させた新たな高音質CDだという。
それによって正確なビットの形成、優れた信号特性、基板の透明性が実現されて高音質になるとされている。

CD盤の樹脂を変えるだけでデジタル・データ・ディスクであるCDの音質に果たして影響があるのか? また樹脂の透明性を上げるだけで高音質って、まるでケーブルを高純度にするだけで音質が上がるというような半分プラセボでは?との疑念も個人的には持っていたのだが、今回ユニバーサルミュージックのご厚意により同じマスターテープからプレスした通常仕様のCDとSHM-CD盤の両方を入手することができたので、比較レポートをしてみようと思う。

比較試聴するのは7月30日リリースのSHM-CD盤「Crossover Paradise Japanese Edition」で、通常CD盤は今回の試聴の為に特別に準備してもらったものだ。
「Crossover Paradise Japanese Edition」の収録曲は下記を参照してほしいが、70年代から2000年代の作品まで幅広く夏向けの曲を並べたコンピレーション盤で、この手のコンピ盤としてはなかなかマニアックな選曲がされている。目玉は佐藤充彦 & Medical Sugar Bankの初CD化曲が収録されていることだろう。
洋楽編である「Crossover Paradise International Edition」もSHM-CDで同時リリースとなっている。

まずは手始めに車の中のカーステで試聴してみる。CDチェンジャーに2枚の盤を入れて切り替えながら聴いてみた。SHM-CD盤は通常CD盤を比較して若干全体の音の明瞭度が増したように聴こえる。 ただしチェンジャーで切り替えながら聴いたために違いを認識できたレベルで別々に聴いた場合はどちらか言い当てるのは難しいレベルかもしれない。
運転しながらで、雑音の多い車内の環境では仕方ないのかもしれないが。
Crossover Paradise
International Edition

次はCDデッキに直接ヘッドフォンをつないで試聴してみる。
試聴に使用したのはマランツの数年前のSACDプレイヤーSA-8260という機種とオーディオ・テクニカのヘッドフォンATH-M7PROX(こちらはかなりの年代物)という機種だ。

1曲目のJIMSAKUの「Muchacha Bonita」ではイントロの森村献のピアノからかなり違って聴こえる。SHM-CDの方がまろやかな音で、通常CD盤の方がエッジがきつく感じる音だ。

2曲目の松原正樹の「May」では左チャンネルから聴こえてくるアコースティック・ギターのコード・ワークがかなり違う。SHM-CDの方がギターの音の粒立ちがはっきりしていて前に出て聴こえる。

7曲目の山弦の「Joy Ride」では左チャンネルのアコースティック・ギターの低音弦で演奏されているリフがSHM-CDの方が太く力強く聴こえる。

全体に電気楽器よりアコースティック楽器の方がSHM-CD盤と通常CD盤との音質差が顕著にでるように感じる

最後はフロア型のハイエンド・スピーカーを使っての試聴をしてみる。
使用したのはB&Wのダイアモンド・ツィーターを搭載したフロア型スピーカー803Dである。スピーカー1本で重さが45kgもある。再生はパイオニアのユニヴァーサル・プレイヤーDV-AX5Aviからi.LINK接続で同じくパイオニアのAVマルチ・チャンネル・アンプのSC-LX90のD/Aコンヴァーターを通して、バイアンプ駆動で803Dを鳴らしてみた。このシステムではi.LINK接続ではジッターの影響はほとんどなくなるはずである。

この環境では、個々の楽器の音質差もさることながら、響きの違いが感じ取れるようになる。

特に5曲目のCARIOCAの「M Smiles M」のSHM-CD盤でのアコースティック・ピアノの響きは通常CD盤に較べてかなりの美音だ。
ちなみにこの曲でのハイハットの音はSHM-CD盤と通常CD盤ではいい悪いというよりも全く別物に聴こえた。
この曲では家族にブラインド・テストをしてもらったが、ピアノの音の綺麗さの違いは一聴して差が認識できており、その差は音楽、オーディオ・マニアではない一般のリスナーでも充分にわかるレベルと言っていいだろう。

11曲目の佐藤充彦 & Medical Sugar Bankの「Saga Unknown」での清水泰晃のサックスの艶っぽさもSHM-CD盤が勝っているし、パーカッションのチャイム音の透明感はかなりの差を感じる。

この環境でもヘッドフォンでの試聴と同様に電気楽器よりもアコースティックな音により大きな音質差を感じる。
また当たり前のことながら、よりよい再生装置を使った方がその差がはっきりと感じ取れる。

既に円熟しているフォーマットと思っていたCDだが、こうして聴いてみるとまだ技術的に改良の余地はあったようだ。
しかもこの技術はCD盤の素材改良なので、従来と全く同じマスタリングでも高音質化が期待でき、既存の音源が再発される際に簡単にSHM-CD化できるであろうから、今後次々と高音質盤がリリースされることが期待できる。

またSuper Audio CDのように専用のプレイヤーがなくても既存のCDプレイヤーで再生可能なので、どんなリスナーでも楽しめるという敷居の低さもメリットだろう。
ただ筆者のように既にSACDの再生環境を整えてしまったようなリスナーにとっては、悩ましいフォーマットでもあるのだが。(橋 雅人)

Crossover Paradise Japanese Edition収録曲
1.  「Muchacha Bonita」Jimsaku
2.  「May」松原正樹
3.  「Morro Do Corcovado」野呂一生
4.  「A Fair Wind」Char
5.  「M Smiles M」カリオカ
6.  「The Lady Pimp」Chickenshack
7.  「Joy Ride」山弦
8.  「プリシア」是方博邦
9.  「“T”」Nelson Super Project
10. 「Dragon Fanatic」向井滋春
11. 「Saga Unknown」佐藤允彦 & Medical Sugar Bank
12. 「Departure」押尾コータロー
13. 「Jive」渡辺香津美
14. 「Ready To Fly」Sadistics

Crossover Paradise International Edition収録曲
1.  「Smiles And Smiles To Go」 Larry Carlton
2.  「Night Letter」Neil Larsen
3.  「Catalina Kiss」Acoustic Alchemy
4.  「Brazasia」Yutaka
5.  「Tourist In Paradise」Rippingtons
6.  「Freedom at Midnight」David Benoit
7.  「Secret Heart」 The Brecker Brothers
8.  「Brazilia」John Klemmer
9.  「Harlequin」 Lee Ritenour & Dave Grusin
10. 「3 Day Weekend」 Kim Pensyl
11. 「Marcosinho」 Dave Valentin
12. 「Julia」 Ramsey Lewis
13. 「Maui-Waui」 Chuck Mangione


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